福島の甲状腺検査の不利益はどう説明されているか?

東京電力福島第一原子力発電所の事故後に、福島県では、事故当時18歳以下だった県民を対象に超音波による甲状腺がんスクリーニング(無症状の集団に対して甲状腺がんの可能性の有無をふるい分けること。以下「甲状腺検査」)が行われています。2019年10月7日に開かれた県民健康調査検討委員会では、検査の対象者に送られる「お知らせ文」の改訂案が出されました。これまで説明が不十分だった、受診者の被る不利益についての説明が加えられることになりました。

 

検査の対象者には、福島県庁から「受診の手引き」が送られます。その中には、「甲状腺検査のお知らせ」と呼ばれるお知らせ文が含まれています。検査の目的を「一人一人の甲状腺の健康を長期にわたり観察し、健康な生活を送るための支援につなげたり、将来的な健康影響についての調査に役立てる」と書かれています。デメリットに関しては「治療の必要のない変化も数多く認めることになり、ご心配をおかけすることもあります」と、簡単な記述にとどまっていました。

 

甲状腺検査には、一生涯健康や生命を害することのない無害な甲状腺がんを発見(過剰診断)し、その結果、本来不要だったはずの治療に結びつくリスクがあります。ところが、従来のお知らせ文では、受診者が検査のリスクがあることを理解できる内容になっていないとして、検討委員会の下部組織である甲状腺検査評価部会が改訂に向けた議論を続けてきました。

 

2019年10月7日の検討委員会では、事務局を務める県の職員が、お知らせ文の改訂案を公表しました。デメリットについては、「一生気づかずに過ごすかもしれない無害の甲状腺がんを診断・治療する可能性や、治療に伴う合併症が発生する可能性、結節やのう胞が発見されることにより不安につながることなどが考えられます」と記載されました。

 

また、メリットについては「検査の結果、問題がなければ、放射線の健康影響を心配されている方の安心につながることや、問題があれば(治療を必要とするような変化が発見されれば)、早期診断早期治療につながる可能性があります」とされました。

 

その上で、「がん検診として甲状腺超音波検査による甲状腺がんの集団スクリーニングを行うことは、メリットよりデメリットが上回るため推奨されておりません」と明記し、甲状腺検査が一般的に行われていない理由も説明しています。お知らせ文には別紙が添えられ、メリットとデメリットについてそれぞれ箇条書きで説明されています。

 

委員会では、メンバーから様々な意見が出ました。稲葉俊哉委員(広島大学教授)からは、「お知らせ文がまとまらないことから、『そもそもこの検査はなんなんだろうか』と思う。検査の本体のところに踏み込まざるを得ない。やり方はこのままでいいのかどうか、『今見直せ』と言っているのではなく、『立ち止まってみて少し考えるべきではないだろうか』とこのお知らせ文を読んで感じます」とコメントしました。

 

星北斗座長(福島県医師会副会長)は「いただいた意見を踏まえ、基本スタイルはこれでやらせていたきたい」と理解を求め、了承されました。今後、座長と事務局が文言修正をした上で、正式改訂されます。

 

 

参考

・第36回「県民健康調査」検討委員会(2019年10月7日)
https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/kenkocyosa-kentoiinkai-36.html
・過剰診断とは何か?――福島の甲状腺検査の問題点
https://synodos.jp/fukushima_report/22627
・福島の甲状腺検査のリスクとベネフィットの認知度はどのくらい?
https://synodos.jp/fukushima_report/22520
・「甲状腺スクリーニング検査を実施しないことを推奨する」――IARCの勧告
https://synodos.jp/fukushima_report/22298
・公正で倫理的な「天秤」を持つ――がんのスクリーニング検査のメリットとデメリット/津金昌一郎氏インタビュー / 服部美咲
https://synodos.jp/fukushima_report/21788

 

 

 

 

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