福島レポート

2019.12.31

福島第一原発の処理水放出による被ばく影響はあるのか?

基礎知識

東京電力福島第一原子力発電所で出る汚染水を処理した水には、トリチウムなどの放射性物質が含まれています。トリチウムは放射性セシウムなどに比べて、人体への影響がとても小さいといわれています。

では、もしこの処理水を実際に環境中に放出した場合、周辺住民への健康影響はあるのでしょうか?

経済産業省は、福島第一原発の処理水を、海洋あるいは大気で放出した場合の、周辺住民の被ばく線量の推計結果を公表しました。(第15回「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」)

2016年、処理水の処分について技術的な検討をする「トリチウム水タスクフォース」が、5つの処分方法を提案しました。このうち、「海洋放出」と「水蒸気放出」は、過去に国内外で実績があります。他の3手法については、実績がなく、比較するための適切なモデルがないなどの理由で、影響を計算することが難しく、推計は行われていません。

海洋放出と水蒸気放出についての推計は、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の評価モデルに基づいて行われました。海洋放出は、砂浜で受ける外部被ばくと、海洋生物を食べた際の内部被ばくを合計しました。水蒸気放出は、大気・土壌から受ける外部被ばくと、呼吸や陸生生物を食べた際の内部被ばくを合計しました。

福島第一原発の処理水に含まれるトリチウム総量は、約860兆ベクレルと推計されています。処理水にはトリチウム以外の放射性物質も含まれています。これについて、実際に原発構内のあるエリア(「K4エリア」と呼ばれます)のタンク内の実測値から計算しました。

その結果、1年間ですべての処理水を放出した場合、海洋放出による影響は、年間約0.052~0.62マイクロシーベルトでした。また、1年間ですべての処理水を水蒸気放出した場合、年間約1.3マイクロシーベルトでした。

これらの数値は、原発事故と関係なく自然界に存在している放射性物質による被ばく(年間約2100マイクロシーベルト=2.1ミリシーベルト)と比べて、非常に小さい値であるといえます。また、実際に、福島第一原発の処理水を環境中へ放出するとしても、1年間で全てを放出することはないと考えられています。その場合、被ばく線量はさらに小さくなります。

福島第一原発の処理水を海洋放出あるいは水蒸気放出した場合、原発周辺に住む人々などへの健康影響が出ることは考えられないと言えるでしょう。

参考リンク

・多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会(第15回)(経済産業省)

https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/osensuitaisaku/committtee/takakusyu/015_haifu.html

・トリチウム水タスクフォース報告書(経済産業省)

https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/osensuitaisaku/committtee/tritium_tusk/20160603_01.html