ソレは突然やってくる――『父と息子の大闘病日記』(他)

『未承認国家と覇権なき世界』(NHKブックス)/廣瀬陽子

 

スコットランドの住民投票、イスラエルとパレスチナ自治区ガザの地上戦、はたまた香港の民主化デモ、ウクライナ東部の波乱、そしてそれに影響を受けて世界各地で起きる分離化への希求……。

 

いままさに世界のいたるところで起きている、これまでの「国家」という枠組みを揺るがす出来事。それらを紐解くのに有効なひとつの考え方がある。それが「未承認国家」だ。

 

「未承認国家」と聞いても漠然とした印象しか持てないかもしれない。最もわかりやすい例は、ソ連解体後の東欧・中東で起きた各地の内戦、紛争、あるいはわれわれに身近な台湾があげられるだろう。つまり、「未承認国家」とは、著者の廣瀬氏がもっとも適切と考えるニーナ・カスパーセンの定義を要約すれば下記の5つの定義によるものである。

 

・権利を主張する少なくとも3分の2の領土とおよび主要な都市とカギとなる地域を含む領域を含合しつつ、事実上の独立を達成している。

・指導部はさらなる国家制度の樹立と自らの正統性の論証を目指す。

・エンティティ(政治的な構成体)は公式に独立を宣言している。ないし、たとえば、独立を問う住民投票、独自通貨の採用、明らかに分離した国家であることを示すような同様の行為を通じて、独立に対する明確な熱望を表明している。

・エンティティは国際的な承認を得ていない、ないし、せいぜいその保護国およびその他のあまり重要でない数カ国の承認を植えているにすぎない、

・少なくとも2年間存続しつづけている。

 

これをみればわかるとおり、いま私たちが生きる現在は、既存の「未承認国家」によって引き起こされている問題や、新たな「未承認国家」が現出しつつあるということである。

 

本書の冒頭では「(主権)国家」という枠組みが、あまりに茫漠で、大国の思惑に左右された、頼りないものということがわかる。そして読みすすめていけばいくほどに、現出しつつある「未承認国家」が今後辿ることになるであろう道のりの、困難さを感じることができる。

 

それは「領土保全」「民族自決」「アイデンティティ」といった既存の概念では割り切ることのできない複雑な様相を呈しており、これからさらに長引く混沌を感じさせる。日本に、アジアに生きる我々が、「未承認」の国家を覗くとき、おそらくわれわれは、当然のものとしている「国家」という概念に見つめられている。いま必読の一冊といえるだろう。(評者/金子昂)

 

 

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