日本の内部告発が変わる!?――「内部告発.jp」の挑戦

内部告発と自己責任

 

荻上 他にも質問が来ています。

 

「仮に告発者が解析されて不当な扱いを受けてしまった場合、サイト運営側としてはどのようなことができるのでしょうか? 利用者の自己責任ということになると、無責任な開発に思えてなりません。告発内容によっては自分の人生をかけて、勇気を振り絞ってする場合も考えられます」

 

八田 技術的にはできるだけのことをしているつもりです。しかしリスクの最小化はしますが、ゼロにはできません。アメリカのFBIや日本の警察もかなり研究はしているので、僕が気づいていない未知の欠陥があるかもしれない。そこまでは保証できないというのが正直なところです。そこは自己責任だと言わざるをえません。

 

塚越 むしろ元々は自分の倫理と勇気でしかできなかったことが、これだけ参入障壁や告発へのリスクを下げたことがすごいんじゃないのかな、と私は感じます。

 

荻上 今までは、記者とコネクションを作って封筒で渡すとか、匿名で電話をかけていました。でも結局、電話だって何時にかけたとかログが残っているわけですからバレる可能性がある。その手段の一つとして長所も把握し、もしかしたらあるかもしれない短所も把握して選ぶということになるわけですね。

 

 

捏造情報とジャーナリストの責任

 

荻上 こんなメールも来ています。

 

「匿名の内部告発は、一部の人が都合の良い情報だけを出すことに繋がらないでしょうか? 例えば官僚が政府を追窮する議員の悪い情報だけを出して、与党の悪い情報は出さないというような事があるのではないでしょうか。ちゃんと検証できる情報を実名で告発しても、告発した側が守られる社会作りを合わせて進めてほしいです」

 

八田 おっしゃる通りだと思います。バイアスのかかった情報ならまだいいんですけど、完全なガセネタや捏造であるとか、何らかの意図をもって告発する可能性はもちろんあります。

 

ですから、ジャーナリストの方には非常に大きな責任がかかってしまいますね。しかも通常のケースと違って、内部告発者との連絡は取りにくい、取れない可能性があるという状況でやっていただかなければならないので、検証の手法や事実の確認に関しても、考えていかなければいけません。

 

荻上 「匿名通報者から連絡がきた」というぐらいの感覚ですね。でも資料が具体的にある。その資料を読み込み、関連資料を探した上で、ジャーナリストは判断するしかないという、これもまた、ジャーナリストの自己責任、それぞれの企業責任があるわけですね。

 

八田 そう思います。最近ですと、資料のおかしなところや捏造を自動的に検出したり、統計的に検証するという技術の研究が海外で進んでいます。例えばワシントンポストはTruthTellerと言いまして、政治家の演説で、「○○万人の雇用を創出した」という数字が出たら自動的に「それは間違いで実際は~」と表示されるようなシステム作りに取り組んでいるんです。そういったものを応用することもできると思っています。

 

今回のプロジェクトでは、内部告発サイトを作っていますが、それだけではなく、情報技術をジャーナリズムに活用していけないか、そのお手伝いができないかという問題意識でやっています。

 

先日、コロンビア大学で技術とジャーナリズムについてカンファレンスがあったのですが、そこで私自身も見て非常に驚いたのは、ロボットが記事を自動的に書き、それを人間が書いたものと見比べてもらって、どちらが信用出来るか調べるという研究もあって、海外では、ジャーナリズムにどういう風に情報技術を持ち込むのかが議論されていているんです。

 

荻上 初発ですので、これからジャーナリズムも告発した側も含めて、アップデートしていかなければならない展開なんですね。

 

先ほどメールで、「実名で告発しても守られる社会」という話がありましたけど、その部分を進めるのは八田さんだけではありません。

 

こうした社会づくりというのは全体で議論し続けていくことで進んでいくものです。過去にあったリーク事件のように、告発した側のスキャンダルなどを明らかにして、うやむやにしていくようなことがあってはならないわけですね。

 

荻上 受信者側となるジャーナリストのメンバーがこれから増えるということもあるんですか?

 

八田 もちろんそうです。

 

荻上 例えば、自分達の組織に関する怪しい情報を、最初にみて「誤報だ」と潰す側になりたいという人がコミットする可能性もありますよね。

 

八田 ありますね。これは原理的に避けられないので、ある分野に関して何人か受信者にいていただくというのが好ましいと思います。

 

荻上 情報を受けたのに、新聞社が報じない可能性もあるわけですけど、新聞が複数あったら、例えば「あの新聞はこの情報を手に入れていたにも関わらず報じなかった」という取り上げ方をされる可能性があるのでしょうか?

 

八田 あると思います。またはガセネタを掴んでしまう新聞が出てくるという可能性もあります。これは非常に大きな問題ではあるけれど、僕としてはいかんともしがたいというのが正直なところです。ただ、そうならないようにするためのお手伝いは色々としようと思っています。

 

 

特別秘密保護法と内部告発

 

荻上 特別秘密保護法がさんざん議論になりましたから非常に多くの方がこの法律に絡めて質問を送っていただいております。

 

「もし内部告発された内容が特定秘密保護法に抵触する場合、警察などは内部告発サイト を取り締まったり、捜査したりするんでしょうか?」

 

「内部告発サイトは、あってしかるべきだとは思うんですが、先日施行された特定秘密保護法との絡みは大丈夫なんでしょうか? 告発したけど特定秘密保護法に引っかかって、結局告発者が訴えられたりすることはないでしょうか?」

 

「情報の真偽を確かめることが必要だと思いますが、確かめようにも特定秘密保護法は障害にはなりませんか?」

 

八田さんはこの法律をどう見ていますか?

 

八田 色々な問題があることは承知しています。特定秘密の指定に関してあいまいという印象もありますが、一応、第22条で知る権利や取材の自由に関して配慮するということが書かれていますので、その特定秘密に指定された情報が出たら、自動的に逮捕されるということではないと私は理解しています。

 

本当に軍事機密が送られてきて、そのまま公開してしまうのとは話が別でしょうけれど、何らかの不正の告発に伴う情報がたまたま特定秘密だったというだけで、行動を規制されることはないと、僕は希望的に考えてますが、そう思わない方もいらっしゃると思います。

 

荻上 それは今後、法律でどう判断するのかは実際そうなった時に、裁判になるわけですよね。あるいはその法律自体の文章がどうなのか、例えば違憲訴訟などがあれば、また明らかになる可能性がありますね。今の段階ではなんとも言えないけれど、書かれている文章を読む限りでは大丈夫そうだと。

 

 

小さな公益を積み重ねていく

 

荻上 通報しやすい制度というと、大学だとセクハラ講習があって、入学した生徒に対して「もしセクハラがあったらこの先生がセクハラ担当だから、その人に駆け込みなさい」と言われたりするじゃないですか。ただ、仕事に就いた際に「違法行為があったらここに行け」と最初にアナウンスする企業は少ないですよね。

 

そういうベタな自浄作用としてのアナウンスなどを義務づける、そういう制度を公的にも作るというのを同時にやらなければいけないというのが、八田さんの試みをきっかけとして「これもできるんじゃないの?」と湧いてくる気がしました。八田さん、今後の告発文化についてはどうなってほしいという考えはありますか?

 

八田 「告発文化」というのはなかなか面白いですけれど、アメリカですとウォーターゲート事件や、ペンタゴンペーパー事件など、割と有名な内部告発の成功事例というものがあって、内部告発による社会的利益というのが完全に理解されていると思うんです。ですが、日本の場合はあまりそういう成功事例がない。ぼくは、「内部告発は健康診断のようなものだ」と言っています。

 

風通しがなく告発もない組織というのは、問題がこじれて、大ごとになってしまうと思うんです。問題が小さいうちに誰かが声をあげていれば、そんなことにはならなかった。小さな事でもいいので、公益が得られた事例を重ねて行くことが、今後は重要だと考えています。

 

荻上 例えばある会社がトラブルを500件隠していて、5件くらいの段階で誰かが内部からリークして外側から追求していれば、後の495件は起こらなくて済んだかもしれないわけですよね。

 

八田 内部告発の色んな事例を読んでみたんですが、だいたい最初の方で気づいている人がいるんですよね。何かおかしな事になっているぞと思っている人はいる。でも黙っているわけです。そういう人が早く声を上げられるような仕組みや社会にしていけばいいのではないかと思います。

 

荻上 日本のこれからの課題はいかがですか?

 

塚越 リークというと大きな話を想定してしまうと思うんですけど、おそらく始まった段階でものすごく大きな「日本の闇」は出て来ないと思うんです。例えばどこかの市長が愛人に何百万円も貢いでいるとか、そういう話から入ってくるんじゃないかと思うので、そんなニュースから少しずつ自浄作用を働かせることが必要です。

 

それと同時にジャーナリストの側は、ツールを使って情報を守るようなトレーニングをしないといけない。ジャーナリストの方々にもITがそこまで得意ではない人もいますが、今後はIT技術が益々必要になってくるので、危機管理能力の向上はジャーナリストの方々に頑張っていただきたいと思います。

 

荻上 リーク情報への記者の対応によって、告発された側に対策を取られてしまうとか、そういったヒューマンエラーがなぜ起こるのか、記者側からの検証も必要になってきますよね。

 

塚越 一番多いのはヒューマンエラーなので、それを防ぐ意識が重要だと思います。

 

荻上 なるほど。僕もリークしたいなあと思ったりしたので(笑)、こうしたリーク文化が日本をどう動かしていくのか注目したいですね。

 

 

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vol.273 

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