残す責任 ―― 電子書籍と図書館に関する一読者からのささやかで壮大なお願い  

法や制度、契約や組織、その他社会的な慣習や常識は、それが成立した時点の技術水準や社会状況、人々の好みなどを前提としてつくられる。それは考えてみれば当然の話で、社会のなかで何らかの機能を果たすことを目的とするなら、その社会がおかれた環境の下できちんと機能してもらわねば意味がないからだ。

 

したがって、その後技術や社会、人が移り変われば、当然、それらとのあいだに齟齬や摩擦が生じてくるから、調整が必要になるのはいうまでもない。微調整をしながらだましだまし使っていく場合もあれば、抜本的な変化や消滅を余儀なくされる場合もあろう。そうした調整を行うこと自体にもコストがかかるし、それが新たな齟齬や摩擦を生む素にもなるから、必ず正解があるというものでもない。より「まし」な方向を絶えずめざしていくことになるのだろう。

 

 

電子書籍「元年」の憂鬱

 

2010年は、日本でも電子書籍元年というか、少なくとも、電子書籍に対する関心が大きく高まった年として記憶されることになりそうだ。もちろん「元年」というのはある意味不適切であって、電子書籍にはずっと以前から何度も市場に投入されては失敗に終わってきたという歴史があるわけだし、ここ数年でいうなら、少なくとも携帯電話で読むもの、とくにマンガやいわゆるケータイ小説といった分野では、すでにそれなりに大きな市場が形成されていた。

 

とはいえ、海外市場において、アマゾンのKindleやアップルのiPadなどのような実用的な性能を備えた端末が、幅広い書籍の品ぞろえと魅力的な流通システムを伴って導入され、本格的な普及をはじめたこと、および、そうした動きに対応して、国内でも機器メーカーだけでなく、複数の権利者や流通事業者が本格的に動きはじめたことは、やはりこれまでとは一線を画す大きな変化といえる。

 

書籍を大量に保管しかつ持ち歩きたいという動機で、電子書籍にかねてより大きな期待を抱いていた典型的(?)な一読者であるわたしにとっては、長らく待ちかねた「元年」というわけだが、懸念材料も顕在化してきた。当面、一番気になっているのは、プラットフォームの氾濫だ。

 

当然の話だが、電子書籍は、読むためのデバイスがなければ利用できない。現在わたしが電子書籍を読むために使っているのは、アップルのiPod TouchとアマゾンのKindleDX、あとはPC で、iPadを買うべきか思案中。Kindleは洋書とPDFファイルのリーダーとして使っていて、これらは同期されたものをPCやiPodでも読むことがある。

 

iPod Touchのなかには、電子書籍リーダーのアプリが30弱入っている。いろいろな会社からそれぞれ独自のリーダーアプリが出るたびに、その会社の扱っている本を買うかもしれないと思って入れてきただけなのだが、少なくとも現状では、iPodに入っている電子書籍の数より多い。各アプリは、会員登録機能や本棚機能を備えていて、その上で本を買い、整理しておけるようになっている。

 

すべて確かめたわけではないが、デバイスを買い換えても、アカウント上の記録を参照して、買った電子書籍を移し替えることができるようになっているものもある。ともあれ、数十種類もあったら、そもそもどの本がどのアプリに入っているのか、思い出すだけでもたいへんだ。これらの他、個々の本が単体でアプリになっているものも、十といくつか持っている。

 

要するに、デバイスの面でも、アプリのレベルでも、プラットフォームが多くなりすぎて、正直不便だし、このまま本格的に電子書籍主体に移行したら早晩収拾つかなくなるのは明白な状態というわけだ。現時点で同じような境遇の方がどのくらいいらっしゃるかわからないが、本好きなら早晩経験することになる事態だと思う。

 

もう少し長いスパンで考えると、悩みはさらに深くなる。これらの企業が、購入した電子書籍をずっと永続的に利用可能な状況に保っていてくれるのかどうか、という懸念だ。本を読み捨てるタイプの方にはあまり気にならないだろうが、読んだ本をとっておきたいタイプの人間にとって、これは非常に重要なポイントのはず。

 

とくに、単体のアプリになっている電子書籍は、たんにテキストを読ませるだけではない機能を組み込んでいたりすることもあるので、OSのアップデートやデバイスのモデルチェンジにどこまで対応してもらえるのか、正直不安がある。また今後、市況の変化で会社が事業から撤退したりすることもありうるだろうから、そうなった場合、その会社から買って、専用のリーダーに登録された書籍がどうなるのかも、いまの段階ではよくわからない。

 

 

 

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