「アノニマス」と正しさをめぐる争い

さまざまな抗議行動を実践する謎の仮面集団「アノニマス」。前回の論考において著者は、アノニマスの歴史とその活動指針について論じた(詳しくは拙論『「アノニマス」の歴史とその思想』を参照してほしい)。本稿では、それを踏まえた上で、アノニマスのかかわる諸問題について論じたい。

 

 

アノニマスの組織形態

 

簡単に確認しよう、アノニマスとは何か? 彼らは「情報の自由を守る」といった大義を掲げ、これに反する団体に抗議するネット上のゆるやかな集合体だ。抗議は合法的なデモから、DDoS攻撃などのいわゆる違法なサイバー攻撃まで多様であるが、彼らの大義と彼らを象徴するガイ・フォークスの「仮面」=「アイコン」によって、アノニマスという組織はひとつであると世界から認識される。

 

ただし、アノニマスは厳密な意味では組織化されていない。拙論で指摘したように、彼らは抗議作戦=オペレーションごとにメンバーが変更されているばかりか、その抗議方法も合法・違法と多様である。それゆえに、アノニマス内でもいくつかの派閥が形成されており、しばしばアノニマスとして発表した宣言の取り消しが行われるなど、混乱も多い。つまり、彼らを繋げる情報の自由という大義と仮面を取り除けばすぐにでも、組織の解体が懸念される団体でもある。

 

 

半人称性と大衆動員

 

アノニマスは、全世界へ向けたプレスリリースや動画などの宣伝をする際に、仮面やスーツ姿のキャラクターを動画に登場させることで、その存在を印象づけることに成功している。アノニマスやウィキリークスといった、ネット以外では人の目を引くことのない組織にとって、大衆の支持を得るための宣伝は非常に重要な意味をもつ。同時に、仮面を使って大衆に訴える方法もユニークであるだけでなく重要な意味をもつ。以下でウィキリークスとアノニマスを、動員の観点から比較をしてみよう。

 

(1)ウィキリークス・・・その影響力は、ジュリアン・アサンジ個人のパーソナリティに拠るところが多い。彼のメディア露出に比例して、賛否両論を含めた議論の喚起、およびウィキリークスの知名度が向上する。ただし、ウィキリークスがアサンジというアイコンに依存すればするほど、アサンジ抜きにはウィキリークスの運営が困難になってしまったことも事実である。現にアサンジのウィキリークス内での独裁的言動の数々は批判の対象となる。ウィキリークスの動員を、「人称的動員」と呼ぼう。

 

(2)アノニマス・・・彼らを代表するのは、人ではなく仮面である。アノニマス内部では前述の通りチャットを通して意見が集約されるが、他方で内部派閥も存在するように、組織としての意見は多様、というより混乱傾向にある。にもかかわらず、仮面を通してアノニマスが語ることで、われわれはアノニマスという主体があたかも実在するかのような錯覚に陥る。アノニマスは匿名集団でありながら、仮面を通してある種の人称性を得ているのも事実だ。これを「半人称的動員」と呼ぼう。あるいは、日本的な文脈で言えば「キャラ的動員」とでも呼べるだろうか。

 

この差異を大衆動員の観点からみれば、個人に依拠せずその力を仮面に託したアノニマスは、ウィキリークスの欠点を補っていると言えるだろう。

 

 

アノニマスと2ちゃんねるの差異

 

考察の対象を拡大しよう。アノニマスはしばしば、日本の2ちゃんねるとの類似点を指摘されることがある。批評家の濱野智史は「2ちゃんねる化する社会」(『新潮45』2011年9月号)において、アノニマスが2ちゃんねらーと同じく「ネット上を徘徊し、その場のノリに乗じて突発的な「炎上」や「祭り」を繰り広げている」と指摘する。その指摘は正しいが、濱野が論考の中で取り上げつつもさほど気にしていないように思われる点がある。それは、アノニマスにあって2ちゃんねるにない大義の存在である。

 

社会学者の北田暁大が『嗤う日本の「ナショナリズム」』(NHKブックス)で指摘したように、2ちゃんねる上のコミュニケーションの本質はネタを通したつながりを希求する「つながりの社会性」である。この理論をアノニマスに転用すれば、彼らの活動も盛り上がりのネタとして、デモやDDoSを実行しているとも捉えることが可能だ。しかし、アノニマスメンバーが実際にサイバー犯罪の罪で逮捕されている点に注意が必要である。ネタや祭りといった一瞬の盛り上がりのために逮捕を覚悟できるだろうか。彼らの活動は、社会運動や大義といった政治性に根ざさねば実行不可能な行為であり、この点は2ちゃんねるとは大きく異なる。

 

大義の有無はなぜ生じているのだろうか。もちろん、4chanにおいても2ちゃんねる的なネタ消費は日常的に行われており、逆に日本においても、その主張内容の是非は別にせよ、2011年夏の「反韓流フジテレビデモ」のような大義を名目にした社会運動は生じている。

 

 

 

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