機密費問題で問われたジャーナリズムの倫理  

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2010年4月。自民党の元幹事長である野中広務氏が、講演やテレビ番組などの取材を受け、官房機密費の実態について語った。領収書が不要で、使途も非公開の機密費。それが、国会対策などに限らず、メディア、ジャーナリスト、評論家などにもばらまかれていたという、きわめて衝撃的な内容である。

 

 

機密費問題をめぐる温度差

 

この証言に対して、民放各局や各新聞の反応は鈍かった。記者質問で機密費に言及するメディアは現れず、「だれそれがこのように発言した」というコメント紹介報道にとどまった。「大メディアにとって、探られたくない腹があるからではないか」という疑念が払拭されないままでは、報道への信頼性は獲得出来ないにも関わらず、だ。

 

一方、この問題を積極的に取り上げていったのはフリーのジャーナリストたちだった。

 

彼らは、従来のメディア体系においてはマージナル(周辺的)な存在であったが故に、既存メディアとは別のインセンティブ(動機)をもち、しがらみが薄いが故に、「既存メディアの問題点」といったテーマに親和性・優位性を発揮する。そのため彼らは、ブログ、ツイッター、民放ラジオ、ネット放送、週刊誌、一部バラエティ番組などを活用し、積極的に発言を行っていた。

 

フリーランスの記者たちは、これまで記者クラブやクロスオーナーシップなど、マスメディアが「より優れた報道」を遂行するというインセンティブを削ぐようなシステム、歴史を重ねる中で凝り固まってきてしまった構造そのものを激しく追究してきた。彼らにとっては機密費問題もまた、「より優れた報道」にとっての大きな阻害要因である。

 

 

政治の透明性ではなく、メディアの信頼性

 

テレビ番組やラジオ番組、ネット放送の多くはyoutubeやニコニコ動画などの動画共有サイトにてシェアされ、一部は有志によって文字おこしされている。

 

ウェブ上では元々、「マスメディアの問題点」を指摘する記事が人気になりやすい。裏取りや検証能力の点で弱く、「マスメディアの汚れた実態」的な内容の流言や陰謀論なども拡散してしまいがちな一方で、大メディアが取り上げない論点で瞬間的に盛り上がれるという強みがある。

 

こうした「在野ならではの戦い方」で確認されたのは、現状のメディア構造に欠陥があるがゆえに、自制としての倫理性が育まれにくいということだった。そう、ここでまず問うべきは、政治の透明性ではなく、政治を報道するメディア自体の信頼性である。後者抜きにして前者は成立しないからだ。

 

 

新興メディアの脆弱性

 

もちろん、新興メディアがその存在感を高めていくなかで、「新しいメディアにこそ可能性がある」などと楽観視するのは短絡だ。

 

先に述べたように、新興メディアはこれまで様々なカスケード現象(情報の雪崩現象)に右往左往し、そのことは同時にスピン(情報操作)に対する脆弱性の修正を課題として抱えている。

 

野中氏がこのタイミングで発言したことが、各メディアや民主党などへの「牽制」である可能性や、その行為自体が「疑惑」を特定対象に向けさせる情報操作であるという可能性は、当然ながら捨てさられるべきではない。そうした可能性の束から、丁寧に議論を作り上げていくためには、ネット上での「運動」だけではまだ心もとない。

 

 

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