2017.12.26

デフレビジネスを脱却せよ!――人手不足経済時代の生き抜き方

飯田泰之氏インタビュー /α-Synodos vol.234+235

情報 #αシノドス

はじめに

今回は、2017年最後のαシノドスです。

第1稿目は、飯田泰之氏によるインタビューです。今年の経済ニュースの中から、注目すべきテーマをお選びいただき、ご解説いただきました。2018年へ続く、今年最も注目すべき経済ニュースとは、果たして…!?

第2稿目は、設立からちょうど2年がたつ、中国主導の国際銀行、AIIBについてのQ&Aです。世界にはすでに数多くの国際開発金融機関が存在し、アジアには日本主導のADBもある中で、今中国が新たな国際銀行を設立する意味とは何なのでしょうか。ジェトロ・アジア研究所の浜中慎太郎氏に伺いました。

続いては、富永京子氏による「今月のポジ出し!」です。「正しくあること」に対し疲労感を感じつつある社会の中で、無理せず「正しさ」を生活に根付かせていく方法を考えます。

第4稿は、「学び直し」年末スペシャル版です。シノドス執筆陣の先生方に、各分野で今注目すべき「今年の1冊」をご紹介いただきました。どのような本が挙げられているのか乞うご期待です!

最後は皆さまお待ちかね、「Yeah!めっちゃ平日」です。第10回のテーマは、「Yeah!めっちゃ正月」です。

以下は巻頭インタビューの部分転載です。

ぜひご覧ください。

飯田泰之氏インタビュー デフレビジネスを脱却せよ!――人手不足経済時代の生き抜き方

株の高値更新、過去最高水準の新卒内定率、企業の不祥事など、今年も多くの経済ニュースが世間を騒がせた。数々のニュースの中、今年もっとも注目すべき経済ニュースとは。2017年の締めくくり、飯田泰之先生に伺った。(聞き手・構成/増田穂)

◇今年のポイントは「人手不足経済への転換」

――今年もさまざまな経済ニュースがありましたが、飯田先生はどのようなニュースに注目されていますか。

一つ単体のニュースというわけではありませんが、さまざまなニュースから、いよいよ本格に人手不足経済への転換が起きつつあると感じ、注目しています。

 

――人手不足経済への転換、ですか。

はい。現在の経済政策といえばアベノミクス3本の矢ですね。3本の矢は、金融政策、財政政策、規制改革よる構造改革の3つから成り立ちますが、実質的には金融政策の1本足打法と言っていいでしょう。というのも、財政支出については2014年の消費税増税時期に、その対策として出したものを除くと、安倍政権登場以来、GDPに占める公的支出の割合は下がり続けていますし、政府のプライマリ赤字のGDP比も改善しています。こうした点を考えると、財政出動はほとんどやっていないと言っていいでしょう。構造改革は、実施したところですぐに目に見えて結果がでるものではありません。地味にひとつひとつ進めていくものなので、事前の予想通り一歩一歩改善が進むよう方法を探っている、という程度です。

そうした中で金融政策という1本の矢が、急速に影響を与えているのが労働市場です。これに関しては大学教員としても隔世の感があります。今年、新卒の内定率は過去最高水準を記録しました。しかし、こうした目覚ましい変化にもかかわらず、これまで賃上げは起こらず、インフレ率も停滞したままでした。

――定説で言えば労働市場が改善され人手不足になれば、賃金が上がるはずですよね。

ええ。民主党政権下、当時の雇用者数は大体5500万人といわれており、その数が100~200万人増えれば、人手不足になり賃上げが起こるだろうと予想されていました。賃金が上がれば消費にも効いてくるし、経済全体が回復してくるだろうと思われていたんです。

予想通りに事が進まなかったのには2つのポイントがあります。一つ目は、60代男性の労働者数が、当初エコノミストが見積もっていたほど減らなかったという点です。今年は老年学会の「高齢者」の再定義なども話題になりましたが、今の65歳って20年前の55歳より健康なくらいなんですよね。では20年前、55歳の人たちは何をしていたかというと、普通に働いていました。今の65歳はそのくらい元気で、働く意思もあり、労働市場から引退しなかったのです。

二つ目のポイントは、女性の雇用です。男女雇用機会均等法が施行された年に労働市場に参入した人たちが、今年50代になりつつあります。男女雇用機会均等法により、女性=一般職で働き、結婚・出産で退社し、復帰の際には補助業務、という時代は終わりました。今の40代では、しっかりとキャリアを積んでいる、それが故にあまり離職しない女性が増えています。この割合も、当初少々少なく見積もりすぎていたきらいがあります。

この2つの誤算で、労働市場が改善しても、なかなか思うように賃上げや物価の上昇につながらないということが起きました。言い換えれば、人手不足の壁が予想よりもワンランク上にあったということです。

――しかし今年、ついに人手不足が起こってきたと。

そうです。今年の前半については、まだ雇用改善の一方で賃上げが進まないことを指摘する声が主流でした。しかし、今年の後半になってから、いよいよ給料をあげないとだめだという話になってきています。本格的な人手不足が到来しつつある。今はまだ人手不足も比較的業界に限定されていますが、来年以降この状況が、多くの業界に広がっていくと考えられます。同時に、日本経済も正念場を迎えるでしょう。

◇ついに需要が供給を上回る

――雇用改善、賃上げ、経済回復、というといいことづくめの感じがしますが……。

変化していく経済環境に適応できるかですね。今指摘したように、これまでも業界によっては人手不足が起こっていました。例えば土木建設業のようにある程度できる人が限られている業種や、外食産業のように、景気が良くなるといつも苦しくなる業種です。しかし今年に入って、なによりもまず宅配事業の人手不足が深刻な問題になり、一般企業にもその影響が広がっています。

ここから何が言えるかというと、デフレに過剰適応したビジネスモデルが、そろそろ限界を迎えいてる、ということです。

――デフレ過剰適応ビジネスとは?

まずは、人材は最低レベル給料を出せばいつでも誰かは集まってくれる、というものですね。もう一つは、人間食べていく上で働かざるを得ませんから、多少無理をさせても働いてくれるだろう、というものです。この人件費の安さに甘えたビジネス拡張のモデルが、転換の必要性に迫られています。

――人手不足になったことで、給与面も含め、被雇用者を大切に扱わないといけなくなってきた。

ええ。給与の面では、年末のヤマト宅急便のバイトの時給が2000円というニュースも注目されていますね。給与の上昇自体は大変めでたい変化だと思います。

人手不足を計るには、NAIRUという指標があります。「Non-Accelerating Inflation Rate of Unemployment」の略で、経済が持続可能なうえで最も良い状況においての失業率のことで、このNAIRUを実際の失業率が下回ると、いよいよインフレが起こると言われています。このNAIRUの基準はエコノミストにより見解が異なりますが、大体2.3~2.5%と言われています。現在の失業率が2.8%なので、いよいよNAIRUに近づいていると言えるでしょう。

NAIRUを迎えると、これ以上経済は政策により改善しないと言われています。つまり、経済には需要と供給の作用があり、この小さい方で決まってしまうのですが、NAIRUに到達した経済というのは、需要が供給を上回っている状況にあり、財政政策や金融政策でのばせるのはここまでということです。

――その後は、需要に合わせて供給がどう上昇していけるかということですね。

そうです。伝統的な経済学では、ここからは後は構造改革が経済成長の鍵になってくると主張してきました。しかし、近年注目されている新しい動きに高圧経済(ハイプレッシャーエコノミー)という考え方がります。これは人手不足の状態が続くと、企業の側が省力化投資を行う、社会が人手不足に対応するために構造が自律的に変化する可能性を重視します。

つまり、いかに人手を使わないで、ビジネスを回すのか。その工夫が経済成長のタネになる。

わかりやすい例だと、外食産業であれば食券機を導入するとか、高性能の食器洗浄機を入れるとか、店内清掃に性能のいい掃除機を使うとかです。こうやって省力化に向けた投資が進むことで、むしろ人手不足によって、供給の能力が上がっていくのです。言い換えれば、需要が大きいと、その需要に引き上げられるかたちで、供給能力も上がっていく。経済にはそうした傾向があると言われるようになりました。

この作用が典型的に表れたのが、リーマンショック後のアメリカです。この場合は逆パターンで、需要に引きずられて供給能力が下がったものですが、リーマンショック後、アメリカでは、景気悪化による需要の減少に伴い、生産性が急激に下がりました。かつてほど、供給能力が外在的な存在ではなくなってきているのです。

現在の与党の税制改正についても、賃上げと同時にAIやIoTなどの省力化投資に法人減税をする案が出ています。企業によっては賃上げによる支出をできる限り避けたいので、賃上げする代わりに雇用を増やさないとか、むしろ抑えていこうという流れが出て、省力化投資が進むことが考えれられるからです。ハイプレッシャーエコノミー型の経済に適応するように政策が準備されていると言えます。

これが、伝統的な経済学の理解から、近年の経済学でのメインストリームでの見解です。ただ、私はこの先の方よほど重要だと思っています。……つづきはα-Synodos vol.234+235で!

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2017.12.25 vol.234+235 特集:2017年を振り返る

1.飯田泰之氏インタビュー「デフレビジネスを脱却せよ!――人手不足経済時代の生き抜き方」

2.【アジア・インフラ投資銀行 Q&A】浜中慎太郎(解説)「中国、威信をかけた国際金融政策」

3.【今月のポジ出し!】富永京子「政治と生活を結びつけながら、『正しさ』を無理なく追求しよう」

4.シノドス編集部「今年の1冊10選」

5.齋藤直子(絵)×岸政彦(文)「『Yeah! めっちゃ平日』第十回」

プロフィール

シノドス編集部

シノドスは、ニュースサイトの運営、電子マガジンの配信、各種イベントの開催、出版活動や取材・研究活動、メディア・コンテンツ制作などを通じ、専門知に裏打ちされた言論を発信しています。気鋭の論者たちによる寄稿。研究者たちによる対話。第一線で活躍する起業家・活動家とのコラボレーション。政策を打ち出した政治家へのインタビュー。さまざまな当事者への取材。理性と信念のささやき声を拡大し、社会に届けるのがわたしたちの使命です。専門性と倫理に裏づけられた提案あふれるこの場に、そしていっときの遭遇から多くの触発を得られるこの場に、ぜひご参加ください。

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