「建設的ジャーナリズム」とは何か?――現状打開を目指すオルタナティブ・ジャーナリズム 

ドイツの建設的ジャーナリズム

 

ハーゲルップの著作は2015年にドイツ語にも翻訳されており、ドイツでも「建設的ジャーナリズム」への関心が強くみられます(Meier, 2018)。

 

実際に、建設的ジャーナリズムを掲げる雑誌『パースペクティブ・デイリー』がクラウドファンディングで立ち上げられ、2016年6月からスタートしたり、ドイツを代表する週刊誌『デア・シュピーゲルDer Spiegel』や『ディー・ ツァイトDie Zeit』が「建設的ジャーナリズム」の要素をとりいれた記事を作成するようになりました。2017年からは公共放送局でも、テレビ番組ルポ・シリーズの「プランB」(ZDF)やラジオ番組「パースペクティブ」(NDR Info)など、建設的ジャーナリズムの番組をスタートさせています。

 

ただし、ドイツ語圏では、メディア関係者や専門家の間で熱い視線を浴び、期待されているのに比べると、実際に、既存のメディアでこの手法を直接とりいれている事例は、むしろ少ないといえるかもしれません。いまだに、ジャーナリストの間では、慎重な立場や、批判的なスタンスが強いのも確かです。

 

ポジティブな面を重視することで、ネガティブな問題のインパクトがうすれ、読者を楽しませる甘いお菓子のような単調な報道となり、社会の深刻な問題をしっかり伝えることができなくなるのではないだろうか。ジャーナリストが社会問題の解決策をさぐるために、社会活動家のように振る舞うことが、はたしてジャーナリストとして正しいのか。解決の糸口を短絡的に求めようとすると、引用・言及するものが、メジャーなもの、大手のものに偏ってしまい、報道上の新たな不公平を生じさせてしまうのではないか、といった声がよくきかれます。

 

ただし、ジャーナリズムの新手法として注目されていることは確かで、批判的、慎重な立場を貫く人がいても、建設的ジャーナリズムをまったく知らぬ人はもはやいないと言ってもいいでしょう。その意味では、自分の報道の在り方を客観的に映し出す鏡のような存在として、報道の在り方(視点から、分析、文章のまとめかたまで)に刺激を受け、中・長期的には、さまざまな側面で、静かに影響を与えていくのではないかと思われます。

 

 

ネガティブな報道に疲弊する人々

 

さてここまでは、おもにジャーナリスト側の視点から、新しい時代にふさわしいジャーナリズムの構想についてみてみましたが、それらの受け手、つまり読者や視聴者たちは、実際に近年の報道をどのように受け止めているのでしょうか。これに関してとても興味深い調査がありますので、ご紹介してみます。

 

2015年にドイツで名高い社会調査研究所Forsaがドイツ民間放送局 RTL Aktuellの依頼で行った調査結果(Hein, 2015)によると、アンケート回答者の45%が、テレビのニュースは自分に問題を背負わされていると感じており、35%は不安な気持ちにさせられ、33%テレビのニュースのあとに気分(機嫌)が悪くなるとしています。

 

22%の人は、フラストレーションがたまるため、ニュースの報道をみるのがとくに好きではないといい、34%の人はポジティブなニュースが放送されるなら、もっと頻繁にみるだろうと回答しています。ちなみに若い世代(14歳から29歳)では、このような回答の割合がさらに高く42%にまで及んでいます。

 

80%の人々が問題だけの報道を望まず、解決への糸口が提示される建設的な報道をみたいとします(若い世代でそう答えた人の割合はさらに多く、87%です)。また、73%は勇気をもらえるニュースがみたいとし、68%はもっとユーモアのある報道がほしいといっています。

 

一方、47%の人は死者や苦しみや貧困の画像、31%は戦争や危機、災害についてのニュースを減らしてほしいと思っていることもわかりました。

 

ちなみに、人々がニュースをみることに疲れたり、無力さ(むなしさ)を感じることは、すでに40年も前から、メディア専門家の間では指摘されていました(Meier, 2018, S.9)。それでもなお、ニュースの報道の仕方はほとんど疑われることなく、同じような一本調子でありつづけ、センセーショナルな報道をさらにエスカレートさせる傾向が今日まで続いていたということになります。

 

 

 

 

建設的ジャーナリズムに対する人々の反応

 

従来型の報道を倦厭する傾向が強くなってきた人々にとって、建設的ジャーナリズムはどう映るのでしょうか。ジャーナリズムの手法として導入されてからまだ数年しかたっておらず、検証する調査や研究は多くありませんが、これまでわかっていることをまとめると以下のようになります(Meier, 2018, Berichte,2018.)。

 

・建設的ジャーナリズムの報道は、ほかの報道に比べて、読む(あるいは視聴する)価値があったと受け手に評価されることが多く、とくにローカルな内容の報道においてそのような評価が高い。

 

・建設的な報道を読んだり視聴すると、解決の糸口や希望をもつことでき、問題による精神的な負担がなり、気持ちがよくなる

 

・メディア事業体にとっても好ましい状況をつくりだす可能性がある。新聞の検証例では、読まれる時間が長くなり、読者層も広がり(とくにジャーナリズム離れが目立っていた若者を引きつけ)、メディア全般に対してもポジティブで役に立つという印象が強まった

 

・ただし、それが中・長期的にどのような効果はもたらすのか、また社会に実際にどんなインパクトを与えるのか(例えば問題解決の機運を高めたり、情報が拡散されたり、市民運動が活発化させるなどにつながる)などは、まだ不明

 

・深刻な社会問題については、建設的なレポートでは、受け手のネガティブな印象が弱まり、実際の問題の解決に、むしろ役に立たないことも考えられる。

 

 

おわりに

 

ハーゲルップは、今年2月のドイツの会議で「ジャーナリズムとは、現実と現実の認識との間のフィルターである」、と表現していました(”Constructive Journalism Day”, 2018)。

 

この比喩を使ってさらに考えてみると、これまで長い間、わたしたちは、フィルターの選択肢をほとんどもたなかっただけでなく、なんの疑いも持たずに同じフィルターだけを使いこんできたと言えるでしょう。「現実」の方に向ける関心に比べると、そのフィルターがどのくらいうまく機能しているかについての関心は高くありませんでした。

 

しかし、「フィルター」いかんで現実の見え方、感じ方が大きく異なること、またフィルターを変えてもジャーナリズムが可能であることに、少しずつジャーナリスト自身の間で自覚が強まり、その一端が建設的ジャーナリズムという動きにつながったのだといえるのではないかと思います。

 

今後は、フィルターにどんなバラエティーがあり、年齢層や特定のテーマなどでフィルターを変えることで情報伝達をどう最適化できるのか、といった問題について、ジャーナリストだけでなく、受け手側の読者や視聴者自身ももっと関心をもって関わり、ともに考えていくことが、良質のジャーナリズムが存続していくためには大きな課題だといえるでしょう。

 

 

参考文献およびサイト

 

・Beck, Klaus, MEDIA Lab Wächterrolle statt Er-Löser, Der Tagesspielgel, 12.1.2018

https://www.tagesspiegel.de/medien/media-lab-waechterrolle-statt-er-loeser/20871508.html

・Berichte, die die Welt verbessern. Konstruktiver Journalismus, taz, 30.3.2018.

http://www.taz.de/!5492962/

・”Constructive Journalism Day” (Teil 2) , NDR Info – Aktuell – 15.02.2018 16:30 Uhr

https://www.ndr.de/info/Constructive-Journalism-Day-Teil-2,livestream916.html

・Constructive Institute, Journalism for tomorrow

https://constructiveinstitute.org/

 ・«Das Unerwartete macht uns schlauer», Mit Ulrik Haagerup sprach Jean-Martin Büttner, Tagesanzeiger, 5.9.2015.

http://www.tagesanzeiger.ch/leben/gesellschaft/Das-Unerwartete-macht-uns-schlauer/story/14094642

・Haagerup, Ulrik, Constructive News. Warum “bad news” die Medien zerstören und wie Journalisten mit einem völlig neuen Ansatz wieder Menschen berühren, 1. Deutsche Ausgabe, Salzburg 2015.

・Hartmann, Kathrin, “Konstruktiver Journalismus””Wer sagt denn, was eine Lösung ist?”, Deutschlndfunk,  Kathrin Hartmann im Gespräch mit Brigitte Baetz, 2.4.2018.

http://www.deutschlandfunk.de/konstruktiver-journalismus-wer-sagt-denn-was-eine-loesung.2907.de.html?dram:article_id=414553

・Hein David, TL-Umfrage Zuschauer wünschen sich mehr “Constructive News”, Donnerstag, Horizont, 10. September 2015

http://www.horizont.net/medien/nachrichten/RTL-Umfrage-Zuschauer-wuenschen-sich-mehr-Constructive-News–136308

・Horn, Charlotte, Konstruktiver Journalismus steht im Fokus, NDR Info, Stand: 16.02.2018 11:48 Uhr

https://www.ndr.de/nachrichten/Constructive-Journalism-Day-Die-Ergebnisse,constructivejournalism126.html

・Meier, Klaus, Wie wirkt Konstruktiver Journalismus? Ein neues Berichterstattungsmuster auf dem Prüfstand. In: Journalistik. Zeitschrift für Journalismusforschung, Ausgabe 01/2018, S.4-25.

http://journalistik.online/wp-content/uploads/2018/01/Meier-Konstruktiver-Journalismus_Journalistik_1-2018_de.pdf

・Matthias Horx über Netzkommunikation”Die Erregungskultur, die wir erzeugt haben, ist toxisch” (Moderation: Andre Zantow), Deutschlandradio Kultur, 2.4.2016.

http://www.deutschlandradiokultur.de/matthias-horx-ueber-netzkommunikation-die-erregungskultur.990.de.html?dram:article_id=349986

・Perspective daily

https://perspective-daily.de/

・Sander, Mathhias, Der Journalist, dein Freund und Helfer, NZZ, 7.7.2015.

http://www.nzz.ch/feuilleton/medien/der-journalist-dein-freund-und-helfer-1.18575396

・1000 Freunde bei Facebook sind die neue Einsamkeit, Zukunftsforscher Matthias Horx prophezeit Medien, die Sinn stiften, eine grosse Zukunft- und sieht Anzeichen für eine neue Offline-Kultur als Gegengewicht zur allgemeinen „Verschitstormung“ In:  Handelsblatt, Wochenende 6./7./8.5. 2016, Nr.87.

 

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