ウィキリークス「未編集公電公開事件」とリーク社会の今後

昨年からウィキリークスが段階的に公開を開始している25万1287件の「米外交公電」。しかし2011年9月1日、ウィキリークスは段階的公開をとりやめ、一挙にすべての公電を公開した。量が多い分には問題ないが、じつはこの公電、ウィキリークスがジャーナリズムとしてその活動をアピールするために必要な、ある「加工」が欠如した状態で公開されてしまった。その加工とは、公表されることで生命の危険が及ぶと思われる人物等の氏名削除という編集作業である。

 

それまでのウィキリークスが慎重に加工という名の編集作業を施してきたにもかかわらず、一体なぜ今回のような事態になってしまったのか。本稿は事件の経緯とその問題点を提起した上で、今後のリーク社会化の未来を考察したい。

 

 

事件の経緯

 

事件を簡単に追ってみよう。

 

事の起こりは2010年末~2011年のはじめにかけてのことだ。ウィキリークスは、「米外交公電」以前に自らが公開した膨大な量のリーク情報をすべてネット上に公開した。具体的にいえば、P2P(peer to peer)を用いたファイル共有ソフト「Bit Torrent」を用いて世界中に拡散したのである。しかしその過程で手違いがあり、なんと未編集の「米外交公電」すべてのデータも一緒に拡散されてしまっていた。ただし人びとはこの自体に誰も気づかなかった。

 

しかし2011年8月25日、ドイツの新聞社「フライターク」紙が突如として未編集公電がネット上に公開されていることを報じた。29日には同じくドイツの新聞社「シュピーゲル」紙も報道。これを受けてネット上では未編集公電の探索が開始され、その日のうちにあっという間に発見された。ただしこの未編集公電にはパスワードがかけられており、データを入手してもパスワードなしには公電を見ることができない。

 

だが、スコットランド出身で在米ジャーナリストのナイジェル・パリー氏は、パスワードに関してあることを思い出した(彼はTwitterの匿名ユーザーたちと連絡を取り最初に公電を発見した人物の一人である)。それは、外交公電事件でウィキリークスのメディアパートナーとして協力関係にあった英新聞社「ガーディアン」が2011年2月に出版した、『Wikileaks: Inside Julian Assange’s War on Secrecy』(邦訳は『ウィキリークス WikiLeaks  アサンジの戦争』)である。その本の中にはガーディアン編集部がアサンジから公電のパスワードを譲り受けるシーンがあるのだが、その箇所に暗号解読のためのパスワードが全文記入されていた(なおパスワードは邦訳版でも確認可能)。

 

パリー氏が試しにそのパスワードを打ち込むと暗号化は解除され、彼は未編集の公電すべてを手にした。彼がTwitterでこの出来事をtweetすると、ほどなくして情報が世界中に知れ渡った。1996年から活動しており、ウィキリークスとは対立関係にある老舗リークサイト「クリプトーム」が即座に未編集公電をHPにアップするなど、29日~31日のわずかの期間で多くの人びとが未編集公電を目にした。

 

事態を重く見たウィキリークスは9月1日、未編集公電をすべて自らのHPに公開した。ウィキリークスは「45年分のアメリカ「外交」に光を当てる」と全公電の公開に関してTwitterで高らかに宣言してはいるものの、実情はやむにやまれずといったところだろう。自分たちが入手した情報を他で公開されては示しがつかないからだ。ただし、ウィキリークスは未編集公電を公開するにあたって事前に米国務省に連絡を取り、未編集公電によって生命に危険が及ぶと思われる情報源には注意を喚起して欲しい、警告している。彼らも情報源の生命についての危険は認識してのことだろう。

 

細かく言えばキリがないが、以上が今回の事件の簡単な経緯である。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.279 

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・神代健彦「道徳、この教育し難きもの」
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