政府には勇気を、マスメディアには冷静さを

13日の夕刻、筆者の携帯メールに、幼なじみからこんなメールが届いた。「原発大丈夫なのか? 東京まで放射能こんか?」

 

彼は愛知県に住んでおり、震災当初の本震以外はテレビモニターを通じて情報を得ていることと思われる。予測される余震ではなく、筆者の居住地から200km以上離れた福島第一原子力発電所の事故を心配しているというのは、いかに原発に関するニュースが流布していて、国民の関心を呼んでいるかを如実に示すものと言えるだろう。

 

今回の震災ではtwitterやfacebookのようなネット媒体が情報伝達に大きな役割を果たしている。原発事故に関しては東京大学の早野龍五教授が冷静かつ科学的に正確なツイートをしていたし(twitter id:hayano)、一般財団法人・サイエンスメディアセンター(http://smc-japan.sakura.ne.jp/)がQ&Aをまとめるなどの情報提供を行っていた。さらに日本原子力学会などプレスリリースを発表して(http://www.aesj.or.jp/info/pressrelease/com_fukushima01_20110316R.pdf)、ベクレルやシーベルトなど専門的な単位を説明するなど、さまざまな情報発信を行い、政府が指示した避難範囲の外側では、人体に対する健康被害が生じない程度のものであることを報じている。

 

しかし、いくつかの新聞やテレビでの報道ぶりを見ていて、非常に気に掛かることがある。政府なり経済産業省原子力安全・保安院なり東京電力なりの発表側とマスメディアの間に、非常に大きな齟齬というか、深い不信感があるように思われるのだ。一部のメディアで明日にも首都圏が有害なレベルの放射能汚染によって覆われるような見出しが躍るのは、その不信感の現れといえるだろう。当初は避難指示に対して「念のための措置」という説明のみを繰り返し、次第に避難範囲を徐々に広げていくということが、報道側に公表されていない「隠蔽情報」や、危険性の存在を疑わせたことは想像に難くない。

 

福島第一原子力発電所で1号機・2号機の冷却機能が停止するというアクシデントが生じた当初は情報が錯綜し、「確認しております」「把握しておりません」が乱発され、その混乱ぶり報じる側に強い疑心暗鬼を生んでいたことは間違いないだろう。東京新聞では14日の18面で、「安全?危険?わからない」「伝える気あるのか」といった見出しで枝野官房長官の会見を批判。最初の会見で、法律的な根拠の読み上げを50秒かけ、具体的な説明を15秒で済ませたことに痛撃を加えている。また、原子力安全・保安院の発表は数値や専門用語の羅列ばかりで一般の人にはわからない、という批判も掲載している。

 

海外にも原発事故の正確な情報が伝わらず、大きな不安を与えているのは事実のようで、民間航空が成田発着便から中部空港へと振り替えたり、フランスが自国民の東京付近からの退避を推奨するなど、諸外国が「過剰反応」を示した。そんな中、在日本イギリス大使館が英政府主席科学顧問をはじめ、数名の原子力に関する専門家が参加する記者会見を行い、今回の事故に対する見解を発表した。

 

この会見では、科学的な見地から「想定される最悪のシナリオ」から説き起こし、現在の日本国政府および東京電力といった当事者がとっている避難政策・事故対応が適切であることを解説した。

 

彼らの言う「最悪のシナリオ」とは、燃料棒の融解に伴う大規模な爆発、それに伴う原子炉1基の完全なメルトダウンが生じた場合であり、その場合は50km以上の退避が必要となる状況を指す(ただしさらに2基ないしそれ以上の原子炉喪失した場合でもほとんど状況は変わらないとしている)。しかし、彼らの見解では、海水注入が継続される限り、最悪のシナリオを取るケースは少ないと考えられること、そして東京は福島原発から遠いことの二点から、東京は十分に安全であり、自国民の退去や学校の閉鎖は必要ないと結論づけている。

 

彼らはチェルノブイリ原子力発電所の事故にも触れ、被覆されていない炉心がメルトダウンを起こして爆発し、何ら制御を成し得ないまま数週間にわたって火災が続いたチェルノブイリの状況は今回の福島とはまったく合致しないこと、さらにこれほどの事故の状況下でも待避範囲50kmで健康被害防止には十分であったことから、現在の避難政策の正当性を説いた。

 

また、チェルノブイリで放射線による被害が広がった理由として、食物の放射能汚染が測定されなかった上、一般社会への注意勧告が行われなかったために内部被曝(体内に放射性物質がとりこまれたこと)が蓄積されたことが原因として挙げ、福島の事故では現在さまざまな公的・私的機関が放射能レベルを測定しているためほぼ正確な現状把握ができているものとして、安全性の根拠としているようだ。

 

 

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