週刊誌との付き合い方 ―― 放射能の人体への影響を読む

東日本大震災、およびそれに伴って発生した福島第一原子力発電所の事故発生から半年が過ぎた。先日放送された、NHKの「サイエンスゼロ」という番組内で、1号機核燃料のメルトダウンからメルトスルーまでが、ほんの数時間のうちに進行していたという東京電力のシミュレーション結果に基づくCG映像が公表された。

 

核燃料のほとんどが溶けて格納容器内に落下しているとする東電の予想には、否定的な意見を述べる専門家もいるが、いずれにしても、事故の詳細が検証されるにつれ、この事故は、シビアアクシデントを予見すらしていなかった当事者たちの『安全神話』への妄信が招いた人災であったという思いが強くなる。

 

官公庁からの放射能測定データは毎日更新されるが、そのデータの解釈は市民の側に求められている。数値が高いのか低いのか、健康に影響があるのかないのか。データの解釈に必要な科学的な知識を、市民一人一人が持たなくてはいけない事態になっている。そのための知識や情報を伝える大きな役割を担っていると思われるのがメディアだ。メディアがどのような情報発信をしているのかは、充分に検証する必要がある。

 

筆者は、科学コミュニケーションの観点から、週刊誌の情報発信の仕方を半年間リサーチしつづけている。初期の段階の週刊誌の報道比較については、以前の記事 http://synodos.livedoor.biz/archives/1764205.html で報告した。本稿では、その後の週刊誌ごとのテーマ変化を追うとともに、論調の変化をも考える。

 

原発内で何が起こっているのかを報じていた初期の頃の内容から、現在は、放射線の人体への影響や放射性物質による食品汚染の問題へと記事内容そのものが変化してきている。なお、当時の報道にもとづいて記事を比較検討しているため、いま現在の状況とは多少異なっている場合があるのでご注意いただきたい。

 

 

週刊誌の記事内容の変遷

 

まずはじめに、8月末現在、週刊誌がどのような記事を取りあげているのかを見てみよう。容易に想像できることだが、原発や放射能汚染を取り上げた記事はだいぶ数を減らしている。

 

ちょうど、首相交代の時期と重なったこともあり、8月以降、『週刊新潮』『週刊文春』から原発関連の記事は姿を消している。また、科学的によく検証された記事で冷静な情報提供をしてきた『週刊ポスト』も、7月22日/29日合併号以降は、まとまった記事として取り上げていない。『週刊朝日』からも、8月以降急速に記事数が減っている。

 

一方、『週刊現代』『サンデー毎日』は、8月いっぱいまで変わらずに主に食品等の放射能汚染問題、健康問題を中心に記事を掲載し続けていた。

 

特に力を入れて健康への影響を記事にしているのが『AERA』で、5月16日号以降、子を持つ母親からのコメントを積極的に掲載するようになった。他の週刊誌と違い、母親の気持ちに合わせた記事を掲載するのは評価できるが、個人的な体験に即しすぎた記事は、記事の客観性を保てなくなる恐れもある。決して、個人の不安に向き合うことが悪いと言っているわけではない。『AERA』の記事の大半は、念入りに取材して書かれた正しい情報ではあるが、個人の体験に根ざして書かれた部分は、掲載する側も読む側も慎重になっていただきたいと思っている。特に健康問題については客観的で正確な情報が求められるので、個人的体験とは適度な距離を置かないと危険ではないだろうか。現状はいささかバランス感覚に欠くきらいがある。

 

以下では、この半年間、週刊誌がどのような記事を扱ってきたのかを、さらに具体的に紹介したい。記事内容を大まかに分類して述べていくが、あくまでも筆者の主観的なもので、記事の大小ではなくその文面から判断したものである。

 

原発そのものの記事が減った5月頃から、各地の放射線量が掲載されるようになった。身近な地域の放射能レベルを知りたいという市民の欲求に応える形であり、また、市民が個人で線量を測る流れを作ったとも考えられる。それに伴い、各地の放射線量を実際に測定したデータが出始める。一部の都市の放射線量はかなり早い時期から測定されていたが、東京都内を網羅的に測定した初めてのデータは、『AERA』6月20日号に掲載された共産党都議団のデータだった。これは比較的信頼度の高いデータである。

 

しかし、週刊誌の編集部が独自に計測したデータの中には、安物の測定器をもちいたものや明らかに測定器の使い方が不適切なものも見られた。これらはおうおうにして放射線量を高めに見積もってしまう傾向にあり、本来の値の数倍になっていると考えられるものも少なくない。測定器のスイッチを押して目盛を読めばいいのだろうという甘い考えで測定したのだろうが、これは社会に大きな混乱をもたらしたと思う。専門家のアドバイスを受ければ防げたはずの単純ミスばかりなので、その程度の手間を惜しんだことは非難されるべきである(ガイガーカウンターを使う際の注意は、6月11日に秋葉原で行われたガイガーカウンターミーティングの公式サイトなどをごらんいただきたい http://g-c-m.org/)。この問題でも、『週刊ポスト』が正しい測定法についての記事を掲載していたことは評価できる。

 

食品の汚染については、牛乳や牛肉からセシウムが検出された時期に記事として取り上げられる数が増え、健康問題についての記事は6月に多いものの、これまでのところ常にコンスタントに掲載されているように見える。

 

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.2019.4.15 

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