週刊誌との付き合い方 ―― 放射能の人体への影響を読む

【シノドスに参加しよう!】

▶メールマガジン「αシノドス」

 https://synodos.jp/a-synodos

▶セミナー「シノドス・サークル」

 https://synodos.jp/article/20937

▶ファンクラブ「シノドス・ソーシャル」

 https://camp-fire.jp/projects/view/14015

週刊誌は20mSV問題をどう伝えたか

 

少し具体的な内容について考えてみたい。

 

福島の学校での許容線量について、文部科学省が被曝線量が年間20mSv以内となるようにするという方針を発表したのは4月19日だった(「福島県内の学校の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方について」)。それを涙ながらに批判した小佐古内閣官房参与(当時)の4月30日の辞任会見も含め、多くの批判が沸き起こったことで記憶に新しい。この問題について、各誌はどのように扱ったのだろうか。すべての週刊誌が、子供にまで20mSvを強要するのはけしからんと激しい文面で批判的な記事を掲載したのは間違いない。

 

多くの人の批判を受け、5月27日には、政府は「なるべく早く除染をして年間1mSv以下を目指す」という方針に修正した。

 

では、そもそも年間20mSvとは何だったのか?

 

国際放射線防護委員会(ICRP)は、放射線を扱う職業に従事する人などを別として、放射線をこれ以上浴びるべきではないという年間許容量を1mSvと定めている。これには、医療放射線(日本人の場合1.5mSv程度が平均と言われる)と自然放射線(日本では1mSv程度)による被曝を除くという注釈がつくので、実際には1年間に3.5mSv程度が許容限界となる。ただし、被曝による発ガンリスクは被曝の累計で決まるとされており、年間の許容限界を超えたからといって顕著な健康影響が現れるというわけではない。事実、自然放射線強度は土地によって違い、世界には自然放射線だけで年間10mSvを超えるような地域もある。とはいえ、国際的に定められた基準が、いきなり20mSvに引き上げられた理由は何だろうか。

 

平時の基準が年間1mSv以下であることは既に述べたが、これは事故以前から決められていた値だ。福島の事故を受けて、ICRPが3月21日に日本政府に提案した値には2種類ある。『週刊新潮』6月30日に掲載された山下俊一氏のコメントの中でそれが紹介されている。それは、ICRPの2007年勧告に基づく「事故後緊急時が続く間は、20~100mSvの積算線量の範囲内で基準を策定し、事故が収束したら1~20mSvの範囲内でできるだけ低減化を図る」というものだ。

 

文部科学省の発表では、後者の1~20mSvの範囲を目安として、年間被曝量がその上限である20mSvを超えそうな場合は屋外活動を制限するなどとされた。実際にはこれは「夏休み後までの暫定的な」ものであると文部科学省発表は明言している。つまり、もともと20mSvという値は実際に20mSvの被曝を許容するという意味ではなく、当面許容する放射線の「強度」は1年間浴び続ければ20mSvになる量という意味だった。この点をきちんと説明した週刊誌はなかったと言っていいだろう。

 

ところが、小佐古参与の辞任を受けて4月30日に高木文部科学大臣菅総理(当時)が行った衆議院予算委員会での答弁では、この20mSvは緊急時の値である20~100mSvの最も厳しい値であり、そこを出発点として1~20mSvを目標に線量を下げるとされた。数値こそ同じ20mSvであるが、かなり技巧的な説明である。ICRPは収束後の基準(実は参考レベルというものであり、基準という表現は正しくないが)を1~20mSvの間で低めに設定するとしており、この範囲の上限に設定する積極的な根拠はないことから、現状を緊急時として「緊急時の最も厳しい値から出発する」という論理にしたのではないかと思われる。

 

では、この説明を週刊誌はどう伝えたか。緊急時か収束後かを問題にした週刊誌は見当たらない。たとえば、6月16日の『週刊新潮』では、放射線生物学の専門家である松本義久氏も[ICRPが事故後の復旧段階においては“年1~20mSvの範囲で考えることも可能”としているため、文部科学省は当初、最大20mSvを基準にしたのです]と述べ、緊急時の基準には触れていない。

 

しかし、『サンデー毎日』6月12日号は、原口一博元総務省の言葉として、[20mSvを巡って、安全委(原子力安全委員会)と文科省の担当者が口論になった]と記し、決定の経緯について責任のなすりあいをしたと伝えている。また、これを裏付けるものとして、『週刊現代』の6月4日号には、この件について国会でも鋭い質問した森ゆうこ衆議院議員へのインタビュー記事が掲載されている。それによると、原口氏と森氏の2人が先の安全委と文科省の担当者を呼んで話を聞いたようである。「安全委の助言を受けて決めた」という文科省に対し、「20mSvでもいいと言った覚えはない」とする安全委。随分ずさんな決定経緯だったことが伺える。この時点では、関係者の多くが、ICRP勧告の意味を正しく理解していなかったのではないかとさえ推測される。

 

週刊誌の多くが1~20mSvの上限と書き、そう決めた理由をほとんど問わない中、この値の意味に疑問をもったのは『AERA』だけだった。『AERA』8月1日号では、文部科学省に問い合わせた結果として、[「緊急時ですので」「緊急時を脱していませんので」文科省に話を聞くと「緊急時」に力点を置いた説明がかえってくる]とある。そのことから、ICRPの勧告にある緊急時の20~100mSvのことを指している可能性を述べている。しかし、文科省の主張はあくまでも1~20mSvなので、その関係をもっと追求するべきだった。最近の9月5日号には、ICRPの勧告が2007年に作られたものであることや、100mSv以下の健康影響がはっきりわかっていないことなどから100mSv以上のデータをもとに基準を決めている旨が丁寧に説明されている。ICRP勧告との関係をある程度きちんと書いている週刊誌は、この『AERA』9月5日号くらいである。

 

もちろん、筆者も、放射線に対して感受性の高い子供にまで20mSvを容認するのは間違いであると判断しているが、少なくとも20mSvという値の意味は正しく伝えられるべきだったと考えている。週刊誌上でも、この数値の意味はなんとなく曖昧にされたままだが、これはジャーナリズムが追求するべき問題だったはずである。また、ICRPの勧告は単に数値を挙げるだけではなく、参考レベルの決定には住民が関与することなど民主的な手続きの必要性を述べている。残念なことにこれを表立って問題視した週刊誌も見当たらない。総じて、ICRPの勧告が週刊誌の記者にもよく理解されていなかったように思える。

 

 

週刊誌の対立構造

 

週刊誌は、発売日や想定読者がほぼ同じである『週刊朝日』と『サンデー毎日』、『週刊文春』と『週刊新潮』、『週刊ポスト』と『週刊現代』が、いわゆるライバル誌と呼ばれる関係にある。また、『週刊ポスト』と『女性セブン』のように、出版元が同じ雑誌で相互に記事をリンクしているケースもある。『AERA』と『週刊朝日』も同じような関係にあるはずだが、立ち位置は微妙に違う。

 

これらの雑誌の記事内容を通読し、現時点での傾向を主観的に「煽り雑誌/煽らない雑誌」に区分けしてみると、煽り雑誌の筆頭は『週刊現代』、それから『週刊文春』と続き、煽らない記事も載せる『サンデー毎日』『週刊朝日』、中庸の『AERA』を挟んで、煽らない雑誌の筆頭が『週刊ポスト』と『週刊新潮』である。以前も述べたが、週刊誌はいずれも政府の「安全である」という言葉を疑う立場なので、これはよく言われる「安全派」「危険派」という分けかたではない。記事の内容を分析してみると、危険を強く訴える雑誌のほうが科学的には怪しい説を掲載していることがはっきりしているので、過度に不安を煽っているという判断をし、敢えて「煽り雑誌」「煽らない雑誌」とした。

 

こうしてみると、雑誌としてのライバル関係がそのまま原発や放射能問題に対する立場の違いになっている例が目につく。ライバル誌との差別化を図って、相手と違う立場で記事をまとめようとしているのかもしれないが、そうだとすると、事実を伝えるという観点からすればかなり奇妙と言わざるを得ない。その最たる例が前回も検討した『週刊ポスト』と『週刊現代』の対立だ。この両誌は、当初から対立関係を明確にしており、お互いが自誌の中で相手を批判するということを繰り返して来た。

 

例えば、『週刊現代』7月16日/23日合併号では、[20年後のニッポン がん 奇形 奇病 知能低下]というタイトルで、子供、そして子供の子供にまで影響が及ぶという内容で危険を煽っているが、翌週発行の『週刊ポスト』7月22日/29日合併号では、[「恐怖の放射能」の嘘を暴く]として、冒頭から『週刊現代』の特集を批判している。

週刊誌同士の対立構造が、放射能汚染による健康問題のように、正確な情報が求められるテーマにまで反映するとすれば問題である。

 

いったん煽り雑誌のレッテルが貼られると、そこから抜け出すのは難しいのではないだろうか。少なくとも科学者は、自分の意見が間違って掲載されたような雑誌に、二度とコメントを寄せてくれない。まともな研究者ならなおさらそうだろう。時系列を追って週刊誌をみていくと、煽り雑誌に分類されるものでは、徐々に取材対象が狭まり登場する専門家の名前が固定化していくのがわかる。登場する専門家の固定は、読者が雑誌の信頼度を判断する重要なファクターとなるかもしれない。

 

 

1 2 3
シノドス国際社会動向研究所

vol.266 

・山本昭宏「平和意識の現在地――〈静けさ〉と〈無地〉の囲い込み」
・田畑真一「【知の巨人たち】ユルゲン・ハーバーマス」
・吉田徹×西山隆行×石神圭子×河村真実「「みんながマイノリティ」の時代に民主主義は可能か」
・松尾秀哉「【学び直しの5冊】〈現代ヨーロッパ〉」
・木村拓磨「【今月のポジだし】活動を広げよう――不登校支援」
・鈴木崇弘「自民党シンクタンク史(10)――「シンクタンク2005年・日本」自民党政権喪失後」