法制度からオープン・データを考える

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共同規制の具体的な方法論

 

共同規制には具体的な方法論がいくつかあります。

 

一番典型的なやり方としては、政府が民間の業界団体に「ルールをつくりなさい」と指示する方法です。ボトムアップを上から指定するというかたちに近いですね。この場合、指示を受けてその団体はルールをつくるわけですが、そのルールが破られた場合の最終的な罰則権限は政府がもつことになります。どうして業界団体がこのようなしくみに従うかというと、政府に強い規制をされてしまうよりは、自分たちで実情に即した柔軟なルールをつくった方が自分たちのビジネスにとって望ましいという産業界の思惑があるわけです。

 

このように、「あくまでルールは民間につくらせるけれど、その柔軟性を活かして、政府側があとから面倒を見る」という方法論が、いまインターネットのルールづくりでは中心になっています。

 

 

共同規制の典型的構造①

 

 

また、ほかの方法論として、「政府の側で緩やかな原則をいくつか定める」という場合もあります。プライバシー保護などの領域ですと、最終的に求められるものが、提供するサービスの性質などによりケースバイケースでおおきく異なってきます。その場合、国がひとつの業界団体にひとつのルールをつくれと命令をするのはむずかしい。だから、一定の緩やかな原則を定めて、これだけはしっかりと守ってねということにするわけです。この原則にもとづいて、業界団体がルールをつくり、さらに個別企業がそのルールを具体化して、各社のプライバシーポリシーに落とし込んでいく。この場合も、彼らが自分でつくったルールを破った場合には、政府が違反への罰則をおこないます。

 

 

共同規制の典型的構造②

 

 

共同規制のルールづくりのときに一番重要なのは、「ボトムアップで業界側にルールをつくらせようとすると、消費者側の価値観や利益と相反してしまうことが多い」ということです。したがって、ルールづくりの際に消費者の参加経路もしっかりと求めていくということが、政府にとっての非常に重要な配慮事項になってくる。つくられたルールが消費者にとって過度に不利益をもたらすものであった場合には、しっかりと政府が是正し、適正性を担保していかなければならないわけですね。

 

このような共同規制の方法論については、拙著『情報社会と共同規制』(勁草書房、2011年)に著作権やプライバシー保護などを中心にさまざまな実例を紹介していますので、機会があればご覧いただくことができればと思います。

 

 

世界におけるオープン・データの利用

 

もうひとつ、まさに建築と関連しているところですが、オープン・データやオープン・ガバメントの文脈における地理空間情報に関してお話しさせていただこうと思います。

 

そもそも、ぼくたちクリエイティブ・コモンズ・ジャパンが取り扱っているクリエイティブ・コモンズ・ライセンスとは、「情報をできるだけオープンに、かつ、著者の意向を尊重した上で使っていただく」ということを目的にしたツールです。WikipediaやCGMなど、さまざまなものに使われているのですが、最近はオープン・ガバメントの文脈のなかで、「世界各国の政府が保有している情報をどのように公開していくか」というときのツールとして適用されることが多くなってきている。たとえば、Data.gov(http://www.data.gov/)のような公共データの共有サイトが世界中で立ち上げられていますし、オーストラリアやニュージーランドなどは政府のもっている多くの情報をクリエイティブ・コモンズ・ライセンスで共有していこうという取り組みをスタートさせています。

 

また欧州では、2003年に公共セクター情報の再利用支援を目的とする法制度がつくられ、できるだけ欧州各国政府の保有している情報をオープンライセンスで公開していこうということになっている。さらにアメリカでは、そもそも連邦政府のつくった著作物に著作権が存在しないので自由に使うことができますし、州政府や民間の情報を政府が買い上げ、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスで公開していくという取り組みもあるんですね。

 

 

地理空間情報がオープンになることの有用性

 

地理情報を利用したサービスの可能性

 

 

このように各国政府がオープン・データとして公開している情報というのは、写真や地理空間に関わる情報、統計情報と非常に多岐にわたります。そのなかでも、オープンライセンスの有用性が非常に期待されているのが、地理空間情報にかんする領域です。

 

公共の地理空間情報がオープンになることで、さまざまなことが可能になります。政府や各企業がもつ公共交通の関連情報を集約し、アプリケーションをつくれば、もっとも効率の良い移動方法をすぐに知ることができるわけですね。たとえばイギリスでは、公共交通の運行データを交通局がリアルタイムに出している。そして、民間側がその情報を使って渋滞情報や最適な移動方法を把握できるアプリケーションをつくったりしています。

 

それから、いま需要が増えてきているのが地質データ。地質データを共通APIで公開・編集し、マップなどに整理していけば、災害のハザードマップや都市計画をつくる際に役に立ちます。そのほかにも気象情報やハザードマップ、汚染に関するデータなどをオープンにしていくことで、さまざまな活用ができると思います。たとえば、修繕の必要な公共交通施設の情報を市民が提供すれば、行政や企業が迅速に対応できるようになりますよね。そのほかにも、マイクロソフトは各国政府と民間の両方から公害情報を収集・公開し、それを公共政策への提言につなげていこうという試みをやっていたりします。

 

いまお話ししたのはごく一部の例ですが、このように地理空間情報をオープン・データとして利用すると非常に有用なんですね。

 

しかし、日本では地理空間情報データのオープン化がまだあまり進んでいません。たとえば、航空写真は多くの場合、閲覧以外の目的で使用することができませんし、利用する際にはいちいち問い合わせる必要があります。また、そもそも利用方法に関する記載がなかったり、利用条件が一律に定まっていない情報もたくさんあるんですね。

 

 

利用情報統一の必要性

 

 

こういった情報の利用規約をどのように統一し、オープンにしていくかということが日本の今後の課題ではないでしょうか。最近、経済産業省がOpen DATA METI(http://datameti.go.jp/)という、白書や経済関連データなどをクリエイティブ・コモンズ・ライセンスで公表するという取り組みをスタートさせました。こういったような取り組みをもっと日本でも進めていき、将来的にはその情報をさまざまな都市計画や建築計画の利用に役立てられるような取り組みを進めていくことができればいいなと考えています。

 

(2013年2月3日 CCサロン「建築・都市におけるソーシャルデザインの可能性」より)

 

 

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