地球で生きる宇宙飛行士――『宇宙兄弟』はなぜALSを描いたのか?

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ALS患者は宇宙飛行士

 

川口 『宇宙兄弟』を読む前から、ALS患者と宇宙飛行士ってすごく似ているなってずっと思っていたんです。だから『宇宙兄弟』でALSがでてきたとき「やっぱり!」って。本当にぴったりな病気を選ばれたと思います(笑)。

 

ALSの人って宇宙空間に投げ出された状態と一緒なんですよね。呼吸器に24時間繋がれていないといけなくて外れたら死んじゃうでしょ。息する機械に対して120パーセントの信頼がもてないと生きていけない。。

 

日々人が月面を探索中にクレーターに落ちてしまって、真っ暗闇の中で絶望に陥りかけるシーンがありますよね。ALSの患者さんはみんなそれを体験しているんです。しかもね、日々人がそうだったように負けないんです。究極の孤独の中にいるのに明るい気持ちを保とうとしている。

 

 

クレーターに落ちた日々人

クレーターに落ちた日々人

 

 

佐渡島 ALSになったシャロンは宇宙兄弟の気持ちを誰よりもわかるということかもしれませんね。

 

川口 そう思いますよ。

 

私は人間と機械の友好的な関係が好きなんです。医療専門職の中には患者さんの人間性を医療機械が奪ってしまう場面をいっぱい見ているから機械に対して批判的な人が多いんです。だから呼吸器をつけないと生きていけないようになってしまったときに、呼吸器をつけさせたがらないことがあるの。でも私はALS患者さんと20年間も一緒に活動してきたから、死ぬくらいならむしろ機械をつけても生きるほうが自然に思えてる。

 

佐渡島 宇宙飛行士にとって宇宙服が仲間なのと一緒。

 

川口 そうそう! 人類の科学の粋を集めた機械に対する一体感をALSの患者さんは持っている。それにね、いま自分がどんなに辛くても、頑張って生きていれば、いつか科学が追いついてくれる。自分は治らなくても、人類がALSに勝つ日がやってくると信じている。一人ひとりが主人公なんですよ。身体が動かなくても呼吸器をつけて、ただ息をしているだけの状況で、20年、30年生き続けてALSに負けないでいるの。

 

 

みんなに守られている

 

佐渡島 ALSの患者さんって、呼吸器をつけるという選択をした後に、瞼を開いたままにするか、閉じたまま真っ暗闇の中で生きるかって選択肢がありますよね。『逝かない身体』を読むと、川口さんのお母さんは目を閉じることを選ばれていました。

 

川口 私の母は「開けておくと目が乾いて痛くなるから閉じておいて」って言ったんです。悲しかったけど、「わかった、閉じておくね。でもときどきこっちで開けるからね」って。

 

佐渡島 急に強い光をみても目が痛くなりますよね。

 

川口 だからカーテンを締めて、部屋を薄暗くして。

 

朝が来るとホッとするみたいです。夜が怖いんですよね。動かないから体力を使っていなくて3時くらいには目が覚めちゃう。だいたい2時間半くらいしか寝てないんじゃないかなって。不安だから寝てもすぐに起きちゃうんだけど、家族を起こすのもかわいそうだから、身体が痛くても朝まで我慢している。

 

佐渡島 家族を起こすときは、ナースコールを押すんですか?

 

川口 ちょっとでも動くと反応するナースコールを身体の動くところに張り付けておくんです。うちの母も朝まで我慢していました。父が5時に起きて、枕元にあるラジオのスイッチをいれて「おはよう」って。私も「おはよう、朝が来たよ、今日も生き延びたね」って瞼を開いてあげて、テレビのスイッチをいれたり、朝ごはんを胃ろうに流し込んであげたり。

 

家族が起きてがちゃがちゃした生活音の中に入った途端に安心して眠りだすんですよね。それってわかる気がしません? 耳慣れた生活音に囲まれていると生きているって安心できるらしいんですよ。身体を動かすことはほとんどできないけれど、自宅で生活している。親しいみんながいることで自分の存在が確認できる。

 

だから絶対に病室に一人で隔離するようなことはしちゃいけない。よっぽど心の強い人じゃないと不動と孤独になんて耐えられません。いつも誰かがそばにいて守られているって思えるから、生きていけるんです。

 

佐渡島 宇宙だって、実際はひとりでも、みんなに守られているって感じたときに安心できるような気がします。

 

川口 でしょう。ALSの患者さんって医療関係者、看護師さん、ヘルパーの方、家族、地域の人たち、みんな足したら最低でも100人くらいの人に支えられて生きているんです。

 

佐渡島 いまシャロンは入院していますが、もしかしたら家に帰って、昔のムッタみたいな大学生が集まる賑やかな中で暮らして行くかもしれませんね。

 

川口 そういう患者さんもいますよ。健康だった時は自宅で塾を開かれていた女性患者さんは、若い子の信頼を集めていたので学生がボランティアに入って介護していました。シャロンも家に帰って、地域の人に支えられて生き続けるのがいいんじゃないかな。

 

 

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川口氏

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

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