『1984 フクシマに生まれて』刊行記念 大野更紗と開沼博が選ぶ「生き抜くためのブックレット」

『こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち』(文春文庫)

 

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大野 次は『こんな夜更けにバナナかよ』。さっき気付いてドキドキしちゃったんですけど、会場の後ろの方に著者の渡辺一史さんらしき人がいませんか?

 

開沼 いや、気のせいじゃないですか?(笑)

 

大野 そうよね、開沼くんが言うんだから、気のせいよね。緊張する……。

 

えっと、まずこれは北海道が舞台の本です。進行性筋ジストロフィーという、全身の筋力が低下していく難病を患っている鹿野靖明さんが主人公。気管切開型の人工呼吸器ユーザーで、24時間、痰の吸引が必要な状態です。吸引をせず放置したり、呼吸器を外したら、鹿野さんは死にます。彼と、24時間介助が必要な彼の生命をボランティアで支える介助者たちを描いた、ノンフィクションです。

 

「ボランティアで、可哀相な鹿野さんを救おう」みたいな話じゃないです。とにかく介助者を確保するのが大変で、ボランティアの介助者が、別の時間帯に入る介助者を確保するために鹿野さんの代わりに電話をかけ続ける。結構テキトウな人もいるし、ドタキャンもあるし、学生の気まぐれだってある。介助のスケジュールがなかなか立たないと、ついに憤った鹿野さんは動けないので「タンツボ!」って叫ぶ。そうすると介助者が代わりに、洗浄用の容器を床に叩き付けるわけ。

 

人の助けを24時間借りながら生きる彼を「ワガママ」だと、著者は一旦、拭いがたく感じる。でも、なぜだかわからないけど、著者も含めて若者が鹿野さんに魅かれて、その不可思議な営みに関わっていく。

 

2003年に出版された本ですので、制度などの状況は激変していますが、今日なおノンフィクションの金字塔です。「ボランティア」の普遍性に触れている。

 

開沼 初めて読んだのはいつごろですか?

 

大野 2008年に発病して、読んだ最初の本のひとつですね。

 

開沼 講談社ノンフィクション賞と大宅壮一ノンフィクション賞のダブル受賞はあまりないんじゃないかな。誰もが納得される本だということですよね。次にでた『北の無人駅から』も面白いですよね。ドラマ「北の国から」になぞられたタイトルで、分厚いんですけど、あの、やっぱり著者の前だと話しにくいなあ……(笑)。

 

大野 でしょ! 開沼くんでもそうだよね!

 

開沼 読み始めると止まらなくなる本ですよね。どちらもオススメです。

 

 

『職業、ブックライター。 毎月1冊10万字書く私の方法』(講談社)

 

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開沼 次は『職業、ブックライター。』ですね。本屋に平積みされていたので手に取ってみたら面白かったんですけど。これはノウハウ本と言ってもいいかもしれない。

 

大野 「ブックライター」ってなんですか?

 

開沼 ゴーストライターと言われているなにか、と著者の方は書いています。

 

最近なにかと話題のゴーストライターですけど、やっぱりスポーツ選手や経営者の方が書く本は実際のところ大方はライターさんが入っているわけですよね。それが文化を生み出す営みとしてどれだけ重要かといった話や、文章をどのように書くとよいかといったことが丁寧にまとめられている一冊です。

 

誰もが文章を書ける時代になっている中で、構造的に長文を書くことがもっと問い直されてもいいと思うんですよね。わかりやすい部分しか書かないとか、オピニオンだけでファクトが追われないといった事態に陥るのはもったいない。研究者ではない一般の方も長文を書くために必要なことを学べる面白い本だと思った次第です。

 

大野 わたしは、実務者向けの本は沢山読みます。人文社会科学系なので、抽象的で難解な哲学書のような本ばかり読んでいると思われがちですが。世間で話題のノウハウ本は一通りチェックします。普通に、「ジョブズのプレゼン」とか読んで「ふむふむ」って参考にしますよ。どんなことでも、わかりやすく伝えることは人間として基本的に重要なことですし。

 

開沼 重要ですよね、情報を処理する方法とかよく読みます。

 

 

『逝かない身体 ALS的日常を生きる』(医学書院 シリーズケアをひらく)

 

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大野 お次は『1984 フクシマに生まれて』でもお話を伺った川口有美子さんの『逝かない身体』。川口さんは、ロンドン郊外でガーデニングをたしなむ「普通のハイソな専業主婦」でした。テムズ川の南側で暮らす、駐在員夫人。

 

ところが、ある日突然、彼女の人生は激変する。

 

日本にいるお母さんから「どうも調子がおかしい」と川口さんに電話がかかってくるんですね。次第に、お母さんは筋萎縮性側索硬化症(ALS)という難病にかかっていることがわかる。

 

ALSは最近、ドラマ『僕がいた時間』や漫画『宇宙兄弟』で取り扱われているので、知っている方も多いかもしれません。神経変性疾患で、徐々に全身が動かなくなります。川口さんのお母さんはかなり進行が速いタイプのALSで、最後は眼球すら動かせなくなる。閉じ込め症候群、TLS(Totally Locked-in syndrome)と呼ばれる状態に入りました。ご本人は「ごく、正気」のまま、意思伝達する術を完全に奪われていくわけです。

 

川口さんは当初、そんなお母さんを早く安楽死させてあげようと必死だった。

 

「どうして、うちのママを死なせてあげられないのか」「どうして、殺せないのか」と、川口さんは学者にメールを送りまくる。ところが、この本に描かれている様々なことを契機に、彼女の視野は180度転回します。

 

この本は、ALSを患ったお母さんが亡くなられるまでの壮絶な12年間の記録です。闘病記というより、社会とか地球とか、そういうものとの闘い。川口さんのお母さんが発症された頃はまだ、ALSを在宅で支える制度というのはほとんどなかったのです。人間の生のあり方を描いた、すごい本です。

 

開沼 この本も大宅壮一ノンフィクション賞を受賞してますね。難病モノって定期的に受賞しますけど、その中でも異色の本だと思いますね、この本は。

 

大野 この「シリーズ:ケアをひらく」は医学書院という出版社の白石さんという編集者の方が作っているんですが、ほかにもオモシロイものが多くておすすめです。未知の領域に踏み出せます。

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.272 

・荒木啓史「遺伝か環境か?――ゲノム科学と社会科学の融合(Sociogenomics)が教育界にもたらすイノベーション」
・神代健彦「道徳を「教える」とはどのようなことか――「押しつけ」と「育つにまかせる」の狭間を往く教育学」
・中里透「財政のことは「世の中にとっての」損得勘定で考えよう!」
・伊藤昌亮「ネット炎上のポリティクス――そのイデオロギー上のスタンスの変化に即して」
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