『1984 フクシマに生まれて』刊行記念 大野更紗と開沼博が選ぶ「生き抜くためのブックレット」

『ヒップホップの詩人たち』(新潮社)

 

AWS Access Key ID: AKIAJSA5SEKND2GVG7TA. You are submitting requests too quickly. Please retry your requests at a slower rate.

 

 

開沼 『ヒップホップの詩人たち』です。著者の都築響一さんは知っている人は知っていると思います。

 

大野 著名な編集者だってことは知っています。編集者だけど、ご自身も文筆家で本を書かれるんですよね?

 

開沼 そうですね。写真家としても有名で、スナック巡りなんかもされています。盛り場って学問の世界で研究されたり、お洒落な雑誌で特集されたりしますけど、それらは盛り場のすべてを書いているようで、実はスナックのようなものはけっこう無視してしまっている。学問的にいえば、「文化」とは別の、風俗や民俗と呼ばれるものですね。こうした権力による記述には残らないものを、ちゃんと拾い上げていく眼差しが、都築さんのスナック研究やヒップホップ研究にはあると思います。

 

大野 「サブカル」?

 

開沼 もちろんヒップホップはサブカルでもあるわけだが、もともとアメリカの貧しい、とくに黒人を中心とした人びとが、自分たちの日常を歴史として、音楽として残す手段、対抗文化として生み出したものです。だがアッパーで英語のできるアメリカ文化に詳しい階層によって日本に輸入されたので、本来の対抗文化的な要素はあまり取り入れられなかったと言われているんですね。

 

それが20年、30年と経つうちに、だんだんカウンターカルチャーになりつつあるんじゃないか。日本で顕在化している格差社会とか地方の衰退とかがヒップホップの中に歌いこまれているんじゃないかといったテーマで、当事者の声を聴きながらまとめた重要な一冊だと思っております。

 

大野 最近『ラップのことば』(P-Vine Books)って本を読んで、これも面白かったですね。全国各地の地方のラッパーたちの話なんだけど、開沼さんの研究テーマのひとつでもある中央と地方の構造的な問題を、彼らは自然に体現している感じがした。

 

開沼 若い人はもう演歌を歌わなくなったけど、演歌で歌われていたような世間の矛盾とか悲しみが、いまはヒップホップにこめられている。そういう意味でも面白いと思いますね。

 

大野 なるほどね。次いってみよう。

 

 

『医者は現場でどう考えるか』(石風社)

 

AWS Access Key ID: AKIAJSA5SEKND2GVG7TA. You are submitting requests too quickly. Please retry your requests at a slower rate.

 

 

開沼 難しそうな本ですね。『医者は現場でどう考えるか』。

 

大野 難しそうにみえるかもしれないけど、医学書ではありません。実はノンフィクションで、すごーく面白いんですよ。ジェローム・グループマンっていうアメリカでは有名なメディカルライターであり、ハーバード大医学部の教授であり、そして第一線の臨床医でもあります。彼が「なぜ医者は誤診をするのか」を、自己探索する。学術的な話と現場の直感が、絶妙な加減でミックスされ言語化されている本です。

 

開沼 「エビデンスベースドメディスン」みたいな話と絡むんですか?

 

大野 彼はエビデンスベースドメディスン(EBM)の有効性を一定程度認めます、研究医ですから。その上で、更に深いところで警鐘を鳴らしている。自分で考えることを放棄し、判定システムやアルゴリズムに、自分の代わりに考えてもらう医師が実に多くなった、と。進歩目覚ましい医科学技術に支えられていても、依然として臨床の現場で重要なこととは何なのか。読み物として刺激的で楽しいものです。

 

 

『地方の論理 フクシマから考える日本の未来』(青土社)

 

AWS Access Key ID: AKIAJSA5SEKND2GVG7TA. You are submitting requests too quickly. Please retry your requests at a slower rate.

 

 

開沼 これは自分の対談本です。『1984 フクシマに生まれて』の次に読みやすい本だと思っているんですけど、全然リアクションがなくて非常に残念。ぼくの本でまず最初に読んで欲しいものなんですが。

 

大野 開沼くんが、佐藤栄作元福島県知事のもとへ地道に通って頑張って作った本だよね。

 

開沼 そうなんですよね。福島のここ30年くらいの歴史の中で、環境問題への取り組みや原発の問い直しなど、いろいろなものが動いていたことを洗い出して行く本です。

 

大野 佐藤元県知事は、直近の福島県政における最大のキーパーソンですからね。私は「郡山の人といわきの人の対談だなあ」って思いながらこの本を読みました。その中間に位置する人間としてはちょっと寂しい感じ。

 

開沼 最近90年代から2000年代にかけて、それまであった街のキラキラが失われていったという話を別のところでしていたんですけど、郡山もそういう現象がありますよね。街の猥雑さみたいなものがなくなっている。

 

大野 そうそう、駅前の再開発や、ビッグパレットふくしまができる前の郡山って、怪しいお店が駅前の裏通りに一歩入るとぶわーっとあった。わたしが女子高生だったころ、高校の帰り道、夜になるとネオンがキラキラの場所も一部残ってました。

 

開沼 残っているところもあるけど、いまはそういう雰囲気はありませんね。

 

1 2 3 4 5 6 7
シノドス国際社会動向研究所

vol.272 

・荒木啓史「遺伝か環境か?――ゲノム科学と社会科学の融合(Sociogenomics)が教育界にもたらすイノベーション」
・神代健彦「道徳を「教える」とはどのようなことか――「押しつけ」と「育つにまかせる」の狭間を往く教育学」
・中里透「財政のことは「世の中にとっての」損得勘定で考えよう!」
・伊藤昌亮「ネット炎上のポリティクス――そのイデオロギー上のスタンスの変化に即して」
・穂鷹知美「マルチカルチュラル社会入門講座――それは「失礼」それとも「人種差別的」? 」
・福原正人「戦争倫理学と民間人保護の再検討――民間人殺害はなぜ兵士殺害より悪いのか」