集団的自衛権行使容認を海外メディア・専門家はどう見たか

米紙『ワシントン・ポスト』の報道

 

次に、米紙『ワシントン・ポスト』(7月1日)、中国共産党中央委員会の機関紙『人民日報』傘下の英字新聞『グローバル・タイムズ』(7月2日)、ドイツの国際放送局「ドイチェ・ヴェレ」(7月1日)が今回の安倍政権による集団的自衛権行使容認の閣議決定について、どのように報じているのかについて見てみたい。

 

米紙『ワシントン・ポスト』は、安倍政権の方針転換は驚きではないと報じている。日本はこれまで軍事力を段階的に増強し、様々な分野で米軍との共同訓練を行ってきた。三月には日本政府高官が、米国の海兵隊をモデルにした3,000人編成の水陸作戦部隊を組織して離島の防衛にあたりたいという考えを示唆している。

 

日本の軍備増強の裏には中国の軍備拡張に対する懸念がある。中国は三月、2014年度の軍事予算は12.2%増の1,316億ドルになることを発表している。日本と中国との間では、東シナ海の尖閣諸島の領有権を巡る対立や2013年11月の中国による一方的な防空識別圏の設定、五月に防空識別圏内で両国の戦闘機が異常接近するなどの緊張を高める事態が発生している。

 

米国のヘーゲル国防長官は7月1日(火)に発表した声明の中で、日本の新しい国防政策を歓迎する意向を明らかにし、この方針転換によって、日本はより幅広い軍事行動をとることができるようになり、日米同盟がより効果的なものになると述べている。

 

 

中国紙『グローバル・タイムズ』の報道

 

中国紙『グローバル・タイムズ』は安倍政権の閣議決定に対して批判的であり、アジアにおける日本の軍事的な役割を拡大することを認めたもので、アジアの緊張を高めるファシズム到来の予兆だと報じている。平和憲法の解釈を変更することによって集団的自衛権の行使を可能にする今回の決議は、日本が攻撃を受けていなくても、他国を守るために軍事行動をとることを認めたものであり、戦後日本の安全保障政策の大転換を意味している。

 

そして、世界各国の専門家の批判的なコメントを紹介している。例えば、ベルギーの首都ブリュッセルに本部を置くシンクタンク「Friends of Europe」の政策部門責任者であるシャダ・イスラム氏は、「今回の決議は安全保障の強化につながらないのは確実で、北東アジアの緊張を高めることになりかねない」という見方を示している。

 

ボスニア・ヘルツェゴビナ出身のジャーナリストであるエネス・ベジセヴィッチ氏は、「日本の集団的自衛権行使容認は間違った選択であり、アジアの不安定化につながる」と述べている。

 

また、スペイン(バルセロナ)にあるラモン・リュイ大学エサデ・ビジネススクールのアウグスト・ソト教授は、「今回の日本の憲法解釈変更によって、戦後の東アジアの平和の均衡を維持してきた柱の一つが動くことになり、歴史的に重要な意味を持っているのと同時に、気がかりな面もある。この方針転換はアジア太平洋地域を不安定化する可能性がある」と述べている。

 

さらに、雑誌『フィナンシャル・ワールド』のコラムニストであり、アジア問題の専門家であるアンヘル・マエストロ氏(スペイン人)もまた閣議決定に対して批判的だ。

 

「安倍政権の憲法解釈変更はアジア太平洋地域の安全保障にほとんどプラスにならないかもしれない。日本の近隣諸国は、日本政界にファシズムが台頭する兆候だと懸念を抱くかもしれない。近隣諸国は日本が第二次世界大戦時と同じ拡張政策を選んだ可能性に対する対抗策として軍事力の増強に走りかねない。そういう中で、アジア太平洋地域の緊張は高まり、既に起こっている紛争が激化するだろう」

 

 

ドイツ国際放送局「ドイチェ・ヴェレ」の報道

 

ドイツ国際放送局「ドイチェ・ヴェレ」は、日本の近現代史を専門とするハーバード大学の歴史家であるジェレミー・イエレン氏へのインタビューをサイトに掲載している。このインタビューの中でイエレン氏は、安倍政権の集団的自衛権行使容認に関する閣議決定は米国に対して重要なサインとなるが、おそらく中国と韓国との関係にさらなる打撃を与えることになるだろうという見方を示している。

 

さらにイエレン氏は、安倍政権の安全保障政策の変化は冷戦終結後の二十年間の歴史的文脈を踏まえて考える必要があると述べている。冷戦時代の日本は経済最優先の戦略(「吉田ドクトリン」)をとり、米国の軍事力による保護の下で経済復興に専念してきた。しかし、1990年代前半から日本は自衛隊をカンボジアをはじめとする世界各地に派遣するようになり、今年の四月には武器輸出に関する新たな原則を策定し、既にトルコとの間で武器の共同開発合意書に調印している。

 

また、米国は過去何十年間にもわたって、日本が安全保障に関して役割を拡大しようとしないことに対して不満を抱いてきた。安倍首相にとっては、集団的自衛権を行使する軍事的な意味合いよりも、米国と行動を共にする積極的な姿勢を示す政治的な意味合いの方がずっと大きいのかもしれない、という見方をイエレン氏は示している。

 

「安倍首相は憲法九条の解釈変更の正当性をどのように説明しているのか?」という質問に対して、イエレン氏は次のように答えている。

 

「安倍首相は一貫して憲法九条に対する自らの解釈変更の正当性を示しており、それには二つの面がある。

 

一つ目として、安倍首相は憲法解釈変更を米国との同盟関係という文脈に位置づけている。安倍首相は集団的自衛権の行使を認めることによって、自衛隊が米国艦艇を守り、ペルシャ湾での掃海作業を支援することができるようになるという見方を示している。安倍政権は、日本が米国のために戦うより積極的な姿勢を見せなければ、米国は(日本と中国との間で対立が続いている)尖閣諸島を守るという確約を放棄し、東シナ海で中国の思い通りに事を進められるのではないか、という懸念を抱いている」

 

「二つ目として、憲法九条の解釈変更の正当性について安倍首相は、中国の海洋進出を挙げている。安倍首相は中国が貪欲な野心を抱いている証拠として、南シナ海における中国、ベトナム、フィリピンの三国間の衝突を挙げている。中国をはじめとする強欲な国家の脅威によって危機的な事態が発生した場合、集団的自衛権の適用範囲は韓国、オーストラリア、フィリピン、ベトナム、インドにまで拡大される可能性がある、と安倍首相は示唆している。これは全て『積極的平和主義』の名目の下で展開されるものだ」

 

また、「安倍首相の憲法解釈変更において、日本はいかなる状況下で軍隊を出動させることができるのか?」という質問に対して、イエレン氏は次のように答えている。

 

「その点については、はっきりしていない。日本政府の閣議決定によると、日本が自衛隊を派遣できる条件として、次の三つが挙げられている。(1)同盟国または友好国が攻撃を受けた場合。(2)その攻撃が日本の生存にとって明らかな脅威となる場合。(3)その脅威が生命、自由および幸福を追求する国民の権利を侵害する恐れがある場合。

 

しかし、友好国への攻撃が日本に対する『明らかな脅威』と言えるのかどうか誰が判断するのだろうか? この問題は、憲法九条自体と同様に解釈に余地を残している。安倍首相は海外での軍事作戦への関与に対して『限界』を約束しているが、この『限界』の定義が曖昧なままだ。このような曖昧な要素が残っているために、保守派の国粋主義者たちが安全保障の偽名の下で集団的自衛権を自由に行使できる権限を持つことになるのではないかという懸念がある」

 

さらに、「今回の安倍首相の憲法解釈変更の動きに対して、近隣諸国はどのような反応を示すと考えられるか?」という質問に対して、イエレン氏は次のように答えている。

 

「今回の日本政府の閣議決定は、東アジア諸国との関係にさらなる打撃を与えることになるだろう。中国と韓国は日本との間で領土問題を巡って激しく対立しており、この対立は、安倍首相の国粋主義的な考え、靖国神社参拝、および第二次世界大戦中の帝国日本の蛮行の歴史を否定・無視する傾向があることによって、さらに悪化したのだった」

 

「そういう中で、中国外務省は日本の国防政策のいかなる変更に対しても、警戒・注視していることを繰り返し伝えてきた。中国と韓国の世論は、憲法九条のいかなる解釈変更に対しても強く反発している。短期的に見ると、韓国の朴槿恵大統領は日本の憲法の解釈変更を日本との関係を悪化させる原因がまた浮上したという正当化に利用するだろう。また、中国も日本がアジア地域の緊張を高めるという理由で日本を批判する機会と捉えるだろう」

 

「しかし、一方で米国は日本の憲法解釈変更の閣議決定を支持するだろう。米国は何十年間にもわたって、日本に対して日米同盟におけるさらなる対等な関係を求めてきた。また、フィリピンとベトナムも日本の閣議決定を支持する可能性が高い。この二国は現在、中国との間で領土を巡って対立または行き詰まりの状態にある」

 

最後に、「日本の国民は今回の閣議決定に対してどんな反応を見せると考えられるか?」という質問に対して、イエレン氏は次のように答えている。

 

「集団的自衛権を巡る解釈改憲の問題は日本人の間では支持する声が極めて小さい問題だ。憲法九条を支持する国民の声は依然として非常に強い。日本経済新聞が最近行った世論調査によると、回答者の50%が集団的自衛権の行使に反対しており、支持すると答えた34%を大きく引き離す結果となった。さらに、憲法の解釈変更(完全な憲法改正ではなく)を支持すると答えた人はわずか29%しかおらず、逆に反対だと答えた人は54%だった」

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

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