2014.08.08

ASEAN会議最大課題の南シナ海領有権問題――連携形成とアメリカ・中国の思惑

寺田貴 アジア太平洋地域主義・統合論

国際 #ASEAN#南シナ海領有権

夏はアジア地域安保の季節である。この週末には、ASEAN外相会議(AMM)、同拡大外相会議(PMC)、ASEAN地域フォーラム(ARF)と、外相が集う3つの多国間対話が、今年のASEAN議長国ミャンマーの首都ネピドーにて開催される。

最も注目を集めるARFに関しては、拉致問題解決に向けての一つの重要なステップとなる日朝外相会談が10年ぶりに開催されることから、日本でも同問題を中心に関心が高まっている。しかしながら全参加国最大の関心事項は、南シナ海での領有権問題にある。係争当事国である中国や一部ASEAN加盟国に加え、近年米国も強い態度でもって中国に接するなど、この問題は現在、東アジアの安全を脅かす最重要課題の一つとなっている。

地域の安全を維持するためにどのような手段が最も有効であるかについては、国際政治学者の間でも意見が分かれる。例えば日本が位置する東アジアの秩序形成について、「力」の概念の重要性を唱える現実主義者がいる。彼らは、米国を中心とした2国間同盟網である「ハブ・アンド・スポークス」体制の有効性を唱える。他方、自由主義者たちは、成長著しい東アジア経済の相互依存関係の進化に、紛争の蓋然性を低下させる抑止効果を見出す。

あるいは、アジアにおいて地域多国間制度を利用しようとする意志が、特に米中など大国の間で高まっていることを鑑みてみよう。すると、多国間協議が提供する会合の習慣化と、メンバーによる規範への従順により地域間協力が進み、地域秩序の安定につながるとする、構成主義者の説に説得力があるように思えるかもしれない。

しかし多国間制度は、地域全体で安保協力を進めようとする動きにはつながっていないという現実がある。米中ともに自国の主張を優位に展開させるため、多数派工作活動拠点として同制度を位置づけているに過ぎない。

これらの地域制度は元来、各国の軍事や防衛政策の協調、調整を推進するものでも、ましてや共同軍事演習を提供するものでもない。対話を通じて閣僚や政府高官の交流を促進し、参加国間の防衛整備や安保政策の方向性に関する透明性を高めるといった信頼醸成装置の役割を担ってきたものである。つまり東アジアの地域安保制度は、米国が国連などの多国間制度に伝統的に求めてきた「結果志向」に基づくものではないということだ。現にブッシュ政権期のライス国務長官は2005年からの在任の4年間、2度もARFを欠席し、東南アジアの外交筋を落胆させている。

しかし米国は、軍事予算の削減を強いられる中で、軍事的、経済的に超大国化する中国との軍事衝突につながるあらゆる可能性を避けつつ、海洋領域に関する紛争に対し、国際法に基づいた平和的解決を中国に促し、紛争の火種を消すためのあらゆる手段を講じる必要性に駆られた。

また、世界の商品貿易の約9割を占める海上貿易中、重量ベースで約半分が南シナ海を通過しているため、この海域の安定や航行の自由は自らの通商にも影響を受けることからも、米国は東アジア安保制度に強い関心を示すようになった。

ルールに法的強制力がない東アジア安保制度のような多国間主義では、自らの意向を実現させるための連携形成(coalition-building)が主要な機能になる。つまり参加国間で争点が鋭敏化すればするほど、その争点を巡って対立する国同士の力関係が拮抗すればするほど、仲間作りのための多国間主義の利用価値は高まる。

そこで米国は従来の方針を転換、アジア地域安保制度にも関与するようになる。これがオバマ政権が唱えるアジアに外交の軸足を移す「リバランス政策」の本質である。

本論はこのように米国の安保多国間地域制度への関与が強まる中、安保多国間地域制度は中国の行動に影響を与えたのかどうか、もしそうならどのような変化が現在みられるのか、来週にARFなど一連のASEAN会議が開催されるのを前に、少し整理をしてみたい。

米中の主張の相違

南シナ海では、中国、フィリピン、ベトナム、台湾、マレーシア、ブルネイが、各々の領有権を主張している。特に中国は、各国の主張する領海や排他的経済水域(EEZ)と大きく重なっている「9点線」と称される同海の約9割を占める広範な領有権を歴史的根拠によって繰り返し主張している。そして、主権に関する同問題は他国と交渉の余地はないと宣言、領海を基線から12カイリ、接続水域を24カイリに設定できるとする国連海洋法条約(UNCLOS)に従う意思を示していない。

中国の国際法を無視した要求には、中国の対外原油依存度が2009年にすでに50%を超えており、持続的な経済発展に不可欠である資源を自力で確保することを重視せざるを得ないという背景がある。中国国土資源省によれば、南シナ海の石油埋蔵量は推定230億から300億トンで、中国国内の埋蔵量の3分の1に相当すると言われており、近海で輸送工スト等も極めて低く抑えられることからも、のどから手が出るほど望む海であろう。

本年5月、同国を代表する国営企業の石油天然気集団(CNPC)が巨大石油掘削装置をベトナムの排他的経済水域(EEZ)内にあるパラセル諸島付近に派遣したことで、中国の野心が突如具現化されることとなった。後述のように、この動きと中国船によるベトナム船への体当たり攻撃とが相まって、ベトナムでは1万人規模の反中デモにつながり、中国籍の労働者に死者が出るなど、中越関係は険悪な状態に陥っている。

米国の立場は、UNCLOSの遵守と航行の自由の確保、そして地域の安定維持であり、中国以外の当事国の主張もこれに沿っている。例えばフィリピンは、中国が2009年5月に南シナ海ほぼ全域の領有を主張する文書を国連に提出したことに対して、2011年4月に「国連海洋法条約上の根拠がない」とする抗議文書を国連に提出している。これは米国の立場と同じくするものである。また、2013年1月には、南シナ海問題を、UNCLOSに基づき仲裁裁判所で解決することという米国の立場に基づいた提案をもしている。

しかし中国は当事国同士の折衝を通じて解決するというのが重要な共通認識だとして、このアプローチに与する動きは一切示していない。加えて2002年に合意した南シナ海に関する「行動宣言」に代えて、法的拘束力を持つ「南シナ海行動規範」の策定というASEANの要求に応じる姿勢も示していない。

中国と米国の見解にある深い溝は、2010年のARFにおけるあるエピソードからも見て取れる。クリントン国務長官(当時)は、南シナ海における航行の自由に国益を有すること、アジアの公海においては開かれたアクセスが確証されるべきであること、領有権の主張は国際法に基づくべきであることを中国に突き付けた。ARFにおいて南シナ海問題が初めて取り扱われた瞬間である。それに対し、中国の楊潔篪外相(当時)が強く反発、一時は退室までする事態となった。楊外相はこの時、中国はARFに参加するどの国よりも巨大であると述べるなどの高圧的な発言が目立ったため、これを機に米国を含む参加国の外相が中国の南シナ海での行動を注視始めるに至っている。

翌年、首脳が集う東アジアサミット(EAS)への米国の正式参加が決まったことと、EASの性格がより結果志向の強い組織へと変化したこととは無関係ではない。

従来、EASの具体的な協力分野として、2005年の第1回EASの議長声明ではエネルギー、金融、教育、鳥インフルエンザ/感染症対策、防災などの経済、社会文化領域及び非伝統的安全保障問題が優先協力分野とされていた。しかし、2011年からは既存の16カ国に加えてロシアとともに米国が正式参加したことで、伝統的な安全保障問題、特に中国が議題として扱うことに猛烈に反対してきた南シナ海問題が重要議題として取り上げられるようになり、EASの性格に大きな変化がもたらされている。これは米国が事前に南シナ海問題について触れるように参加国に打診していた成果であった。米国のアジア安保への強力な影響力を物語る事例である。

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中国によるASEAN分断策:2012年の例

東アジアの多国間安保協議の場で勃発した米中の南シナ海問題における相克は、両国が同会合等で自らの意向を実現するために多数派工作を展開、ASEANを一時分断することになった。特に「親中派」の国であるカンボジアが議長国であった2012年は、中国の「ASEAN分断策」が奏功し、今度は中国がその影響力を誇示することとなった。

カンボジアはASEAN諸国の中でも中国との領有権問題を有しない発展途上国である。2012年から中国は同国へ「望むものを即決して援助する」とのアプローチをとる。具体的には1900万ドルの軍事支援、中国製旅客機を2機供与、55万ドル規模の病院建設、200万ドル規模の情報通信プロジェクト等が展開されている。さらにカンボジアは、中国から軍用ヘリコプター12機を購入する方針を2013年1月に発表しているが、購入資金には、前年12月に中国から提供を受けた総額2億ドルの融資から拠出するなど、中国はその影響力の行使のため、拡大する経済力を躊躇なく利用した。

このように中国は、議長国であるカンボジアと友好的な関係を築くことで、ベトナムやフィリピンに対し、自身の意向を反映しやすい環境を作り上げていた。その思惑通り、2012年7月、プノンペンで開催された第45回ASEAN外相会合において、議長国カンボジアは、南シナ海問題について一切の言及を許さなかった。

カンボジアの言い分は国家間の問題は当時国である2国間で解決すべきであるとし、当事国ではない国が過半数を占めるASEANが扱うべき問題ではないとする中国の見解と軌を一にしていた。中国は後にこのカンボジアの行動に対して謝辞を述べるほど、その議長ぶりは極めて中国寄りだった。フィリピンはそのようなカンボジアを「中国の同盟国」とまで称して強く非難している。

こうして加盟国の意見は分断され、同会議は共同声明の発表なく終了するに至っている。ASEANの共同声明発表は、ASEANという組織の重要性を参加国全てが認識する象徴的なイベントと位置付けられるものである。共同声明を出さずに会議が終了することは、45年のASEANの歴史において初めてのことであった。

その結果もたらされたのがASEANの危機説である。つまりASEANの重要性を示すキーワードの一つである「加盟国間の連帯性(ASEAN Solidarity)」は絵に描いた餅に過ぎず、ASEAN Wayという非法律的、非覇権的な統治規範を後生大事に従順している限り、中国のような超大国がもつ経済・軍事力によって、その運営はたやすく操られてしまうとする現実主義の見方が東南アジアの国際政治では蔓延るようになった。

その後、ASEANは米国の後押しを得て、ASEANの会議における「宣言」をASEAN Wayの主義には反する、法的拘束力のある「行動規範」へと発展させるべきだとこれまで以上に強く主張し始める。しかし、これはASEANが長く保持してきたASEAN Wayで中国を律することの難しさを悟ったことを意味する。

今年の夏は違うのか

今回のARFで注目されるのは、中国が5月よりパラセル諸島に展開していた掘削機を7月中旬に撤退させたことで対中批判がどれほど緩和されるかにある。掘削機の撤退は、ARFで中国に向けた批判を和らげるための戦術であろう。中国のこうした方向転換は、2014年、自らの強引な行動が引き起こしたASEAN各国からの批判や脅威認識の高まりが、それ以前のものとは異なっていると認識したからだと考える。特にベトナムで起きた中国系企業への暴動は、死者までもを出し、中国首脳をも驚かせるこれまでにない規模であった。

さらにこれまで南シナ海において中国と真っ向から対立してきながらも、必ずしも歩調をあわせてこなかった比越両国が協調したことも影響しているだろう。2013年1月にフィリピンが提案した、南シナ海問題の国際海洋法条約に基づいた常設仲裁裁判所で解決にベトナムが協調する。両国が共同で中国を提訴する動きを示していることは、中国の予想を超えるものであった。さらに、この動きにマレーシアも加わってきており、本年2月同問題に関する3国間の政府高官会議が初めて開催されるなど、まだ本格的ではないものの、これまで見られなかった対中包囲網をASEAN加盟国同士で形成しようとしている。

また、興味深いことに、南シナ海の係争国ではないタイが、フィリピンが国際司法機関へ訴えることへの権利を支持する声明を7月に発表している。同国の主要紙『バンコクポスト』(2014年7月21日)も、予算がひっ迫する米国へ依存するばかりではなく、「勢力争いでアジアの支配者にのし上がった国に対し、結束して声を上げなくてはならない」と主張するなど、ARFを前に南シナ海においてASEAN結束を望む声が域内で高まっている。

加えて今回のASEAN外相による共同声明の草稿には係争中の海洋において新たな建設物や活動の禁止を訴える文言が入ると言われている。今年の議長国はミャンマーである。かつては東南アジアでも突出した親中国派だったが、最近ではそうではない。1990-2000年に中国から87%も供給されていた兵器は、2001-2010年には、30%に大幅減少、現在は約五割の兵器をロシアから調達している。

さらにミャンマーはここ数年で、欧米諸国との関係が一挙に改善している。2011年8月以降、ミャンマー政府はアウン・サン・スーチー氏の地方遊説やテイン・セイン大統領との対話を認め、同年9月には多くの政治犯を解放する。そして何より、中国との共同事業でありながら発電された電力のほとんどが中国に送られることになっていた水力発電のミッソンダムの建設中止を発表するなど、国際的孤立から脱却し、成長への足掛かりをつかむためにミャンマーの一連の民主化改革を進めている。これによって、欧米による経済制裁の大幅緩和につながり、対中依存度が下がったことで、同国における中国の影響力には陰りが見えるようになった。もはや中国は、2年前、カンボジアに自らの意向を汲ませ、議長国運営に影響を与えたようなことはできない。

ここまでくると、中国もいままでとは違うASEANの動きを感じたのであろう。前述の通り、対中批判を緩和させるために、急遽石油掘削機のパラセル諸島からの撤退を行った。

こうしたASEAN各国の一連の行動を後押ししたのは、中国を声高に批判し始めた米国である。本年6月、ラッセル東アジア・太平洋担当国務次官補はパラセル諸島に中国が建設した石油掘削施設を撤去すべきと初めて明言した。同次官補は本年2月に中国の南シナ海での9点線に基づく要求は国際法上不法であると初めて明言した米国高官でもあった。

また同年4月オバマ大統領がフィリピンを訪問したことに合わせ、米比軍事協定が調印された。これは、1992年にクラーク空軍基地、スービック海軍基地から米国を撤収させたことが、中国の南シナ海への進出を引き起こしたと原因の一つであると考えたフィリピンが、ローティションとは言え、再び米軍の駐留を許す決断をしたことを意味する。このように米国は、多国間安保制度のみならず、伝統的な2国間同盟網である「ハブ・アンド・スポーク」の強化にも乗り出すことで、中国に力で劣る係争国の対中抑止力を高めようともしている。

これらの動きを受け、習近平国家主席は6月21日、アジア信頼醸成措置会議(CICA)の上海首脳会議での基調演説にて「アジアの安全はアジアの人々が守る」と述べ、米国の影響力の排除を目指す構えを示した。海洋の権益では妥協の姿勢を見せない中国だが、内陸国家間で信頼醸成や多国間安全保障の枠組みを構築し、米国のプレゼンスの外で対米均衡策を進めていると言える。アジアインフラ投資銀行の設立、さらにはブラジル、ロシア、インド、南アフリカとのBRICSなどの枠組みは、米国や日本を含まない形で発展を続けており、CICAと合わせて対中包囲網形成への対抗策と見なせよう。

ASEANが主催権を持たないCICAがアジア多国間安保制度の主要プレイヤーに発展するのか、中国の今後の動向が注目されるが、いずれにせよ、米中両国が安保多国間制度を使って多数派工作を展開し、互いに圧力をかけようとしているのは、これまでになく顕著である。

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日本とアジア多国間安保

集団的自衛権の行使に向けて安全保障の分野でイニシアティブをとる安倍政権の日本も、この多数派工作のトレンドに関与してきている。日本発の地域秩序発表の場所として安倍首相が選んだのは、シンガポールで毎年5月末に開かれる「アジア安全保障会議」であった。同国の最高級ホテルの一つであるシャングリラホテルで開催されることから『シャングリラ・ダイアログ』との別称を持つ同会合は、国防・防衛大臣や軍幹部、安全保障専門家が集い、地域安全保障問題などを議論する「トラック1.5」の制度である。今年は日本の首相が初めて参加することもあり、安倍首相の基調講演は開催以前から注目されていた。

その演説も中国を強く意識した多数派工作的な意味合いが強い。特に「法の支配」や「国際法」に頻繁に言及しているのが大きな特徴で、海洋における法の支配を1)国際法に基づく主張の作成・明白化、2)主張を推進する試みとして武力の行使や威圧を自粛、3)紛争の平和的手段による解決を追求、という3つの原則から強調した。そして、既成事実を積み重ねることで現状変更を固めることは上記三原則に反し、強く非難されるべきだとし、中国を強く意識した論調となっている。

また、国際法について、特定の国や集団によって作られたのではなく人類の叡智の産物であるとの認識を示し、国際法が米欧のイニシアティブによって構築され、新興国の意向が反映されていないとする中国などの反論に対して楔を打っている。これはこれまで示してきたように米国やベトナム、フィリピンの意向と軌を一にする。

さらに安倍首相はアジア太平洋の平和、安全、繁栄のために努力を惜しまないとする積極的平和主義を強調、地域の安定への貢献として第一に米国との協力、次いで豪印やASEANとの協力関係、特に後者においてはフィリピン、ベトナム、インドネシアへの軍備提供に言及している。ここには中国と係争を抱えないカンボジア、ミャンマー、ラオス、タイそして韓国については全く言及されていないなど、安倍アジア外交の多数派工作、仲間作りの意識がみられる。現に言及された国々からは集団的自衛権行使に向けた動きを支持する声が相次ぐなど、日本にとって「仲間意識」形成外交の効果は早速に表れた。

安倍首相はさらに「地域の政治・安全保障を扱うプレミア・フォーラム」として、EASの充実を提案している。その具体策として「パーマネントな委員会」を発足させて、EASの活性化に加え、ARF、ADMM+との重層的機能強化のため、ロードマップの策定を示唆している。

来年10周年を迎え、日本がその設立に最も貢献したEASを特に発展させ、中国に他の国々と圧力をより強固にかつ効果的にかける組織にしたい考えだが、この提案が受け入れられるかどうかは、圧力の対象である中国が受け入れるかどうかによる。その意味でEASが安保のプレミアム・フォーラムとして機能する上で中国にとってもメリットがある点を日本は示す必要があるであろう。つまり大国による多数派工作機能を超えて、中国がその対話を通じてより多国間協力に関与する意思を持てるような機能を、EASに付与させることができるか、が重要なカギとなる。

終わりに

アジアの安保制度で新たな火種となりかねないのが、中国が東シナ海に加え、南シナ海においても防空識別圏を設定するかどうかの問題である。

中国は自らが実効支配するパラセル諸島を囲む空域を軸に、南シナ海のほぼ全域を覆う空域近くまで防空圏を拡大することを検討していると報じられている。この動きは北東アジアと東南アジアにおける安保議題の更なるオーバーラップ化をもたらし、ますます大国の関与を強め、多数派工作活動の激化をもたらす。アジア多国間制度が中小国の草刈り場となるのかどうか、8月10日のARF、秋に同じくミャンマーで開催されるEASでの中国の自制の度合いに注目が集まる。

サムネイル「File:ASEAN Flags.jpg」Gunawan Kartapranata

http://commons.wikimedia.org/wiki/File:ASEAN_Flags.jpg

プロフィール

寺田貴アジア太平洋地域主義・統合論

同志社大学法学部政治学科教授。専門は、国際政治経済学、アジア太平洋地域主義・統合論。オーストラリア国立大学院で博士号取得。シンガポール国立大学人文社会科学部助教授、早稲田大学アジア研究機構准教授、教授を経て2012年4月より現職。その間、英ウォーリック大学客員教授(2011年と2012年)、米ウッドロー・ウィルソン国際学術センター研究員(2012年)。著書に『東アジアとアジア太平洋:競合する地域統合』(東京大学出版会2013年)、編著にCritical Perspectives in World Economy: Asia Pacific Economic Cooperation(全5巻 Routledge 2007)、『アジア学のすすめ:政治経済編』(弘文堂2010年)などがある。2005年ジョン・クロフォード賞 (J.G. Crawford Award)受賞。

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