2014.08.11

北朝鮮によるミサイル発射と日朝交渉の矛盾をどう解くか?

宮本悟 朝鮮半島研究

国際 #北朝鮮#ミサイル

2014年5月26日から28日にストックホルムで日朝局長級協議が開催され、5月29日には日朝双方から合意文が発表された。それは、北朝鮮側が日本人の包括的調査のために特別調査委員会を立ち上げ、調査を開始するとともに日本側が独自に北朝鮮に課している経済制裁を一部解除するというものであった。

7月1日にも日朝局長級協議が開催され、北朝鮮側が特別調査委員会の機能や構成などを日本側に伝えてきた。特別調査委員会は、30名程度の人員で構成され、地方にも支部を置き、調査対象ごとに分科会を設けるとのことであった。それを受けて、日本政府は、7月4日に一部の経済制裁を解除することを閣議決定した。それは、人的往来の規制措置、送金報告及び携帯輸出届出の金額に関して北朝鮮に対して講じている特別な規制措置、人道目的の北朝鮮籍船舶による日本への入港禁止措置の解除である。ストックホルムでの日朝合意は、実際に行動に移されたといえよう。

北朝鮮を一つのアクターと考えた場合

日朝局長級協議が開催された7月1日の前後に、北朝鮮の日朝交渉への意図を疑わせる出来事があった。それが北朝鮮によるミサイル発射である。

北朝鮮は、6月27日に戦術ミサイルを試験発射したことを発表した。前日の26日には、韓国で北朝鮮がミサイルを発射したことを確認していた。さらに、6月29日、7月9日、7月13日、7月26日にも北朝鮮がミサイルを発射したことが確認された。また、7月2日、7月14日には多連装ロケット砲を発射したことが確認されている。まるで7月1日の日朝局長級協議に冷や水を浴びせるかのように、その前後で北朝鮮はミサイルや多連装ロケット砲を連続で発射したのである。

実際に、日本政府では北朝鮮によるミサイル発射について否定的な見解が強かった。北朝鮮のミサイル発射を受けて、官房長官である菅義偉は北朝鮮側に抗議したことを明らかにした。すなわち、北朝鮮は日本と交渉しながら、ミサイルを発射して日本を刺激していたことになる。しかも、北朝鮮のミサイル発射は、日本ばかりでなく、米国や韓国、国連安保理などにも影響を与えるものである。国連安保理は7月17日に北朝鮮のミサイル発射を安保理決議違反として非難する報道機関向けの談話を発表した。日本政府としては、国連安保理に配慮しなくてはならないので、北朝鮮のミサイル発射によって日本の行動にも影響が出てくるであろう。

この北朝鮮の行動について、理解に苦しむと感じた向きは多かったであろう。防衛大臣である小野寺五典も7月9日(日本時間)に、米国で記者会見して、北朝鮮との対話の窓口が開きつつある中で全く理解に苦しむと北朝鮮のミサイル発射を批判した。

日朝交渉とミサイル発射を同時に行う北朝鮮の行動について、日本では様々な見解が見られた。たとえば、米国との対話を求めるメッセージとしてミサイルを発射しているという解説者がいた。また、習近平・中国国家主席が北朝鮮よりも先に訪韓(7月3-4日)することに対する抗議として北朝鮮がミサイルを発射したという解説者もいた。いずれも北朝鮮が日朝協議よりもミサイル発射を重要と考えているという前提に立ったものである。しかし、ミサイル発射は、軍事力強化の路線は変更しない中で日朝交渉に臨みたいという北朝鮮側から日本へのメッセージであるという解説者もいた。

いずれにせよ、一見、2つの矛盾する行動をとる北朝鮮の行動を説明するために多くの論者が解説を試みてきたが、たいていそれらの結論は、北朝鮮は明確な一つの目的を持った合理的なアクターであり、巧みな戦術を展開する国であるということになる。北朝鮮を一つのアクターとして考える以上、一つの目的を持った合理的な北朝鮮の行動として解説すると分かり易いからである。

北朝鮮に限らず、国家を一つのアクターとして考えると、その国家はある一つの目的に向かって合理的な行動を取るアクターであるという解説になりやすい。その解説を組み立てるには、まずその国家の目的を解説者が設定し、目的を設定したらそれを達成するための手段として、ある出来事を位置づけるのである。今回のケースでは、目的さえ設定すれば、それを達成するための手段として日朝交渉とミサイル発射を結びつければ良いことになる。

要は、解説者が北朝鮮の目的をどのように設定するかによって、日朝交渉とミサイル発射に対する解説は変わるわけではある。もちろん、北朝鮮側が本当にそのような目的をもって行動しているかは別の話である。現在のところ、北朝鮮側から日朝交渉とミサイル発射について詳しい解説が公表されたわけではないので、北朝鮮側の目的について明確に理解できるようなものが日本にあるわけではない。

北朝鮮は様々な政府組織の集合体であって、一つのアクターとは限らない

北朝鮮という国家を一つのアクターとして考えなければ、解説もまた変わってくる。国家には様々な政府組織が存在する。政府の各組織はそれぞれの目的に沿ってルーティン化された行動を繰り返しているだけであるかもしれない。それは、北朝鮮だけではなく、様々な国家でよく見られることである。たとえば、日本でも外務省と防衛省では、組織の目的が異なる。外務省と防衛省がそれぞれの組織の目的に沿ってルーティン化された行動を取っていれば、外部からは日本が矛盾した行動を取っているように見られることがあるであろう。

そうなると、そもそも日朝交渉とミサイル発射を結びつけて考えて良いのだろうか。北朝鮮では、日朝交渉は外務省が主導しており、ミサイル発射は軍隊が主導している。

北朝鮮の外務省が日本と交渉を始めたのは、安倍政権になってからではない。福田政権の時にも、野田政権の時にも、交渉は行われた。北朝鮮の外務省としては、日本と交渉するのはルーティン化された行動であって、組織の目的の一つであるといえる。

一方、北朝鮮の軍隊は、北朝鮮の防衛に責務を負っている。そのために日頃から訓練を重ねて、国家の防衛力を高めていかなくてはならない。それは組織の目的であり、ルーティン化された行動であるといえる。ミサイル発射もその一つであって、日朝交渉とは関係なく、軍隊が自らの目的に沿って行動した結果かもしれない。すなわち、北朝鮮の外務省も軍隊も、自らの目的に沿って行動しているだけであるが、それが外部から見れば、矛盾した行動に見えるだけであったとも考えられるのである。もちろん、政府の各組織がそれぞれの目的に沿って行動しているだけであれば、国家の全体の政策としては、外部からは理解しがたいほど矛盾したものになりかねない。そのために政府の各組織の行動は、各組織間や行政の最高機関で調整される。北朝鮮の場合、最高指導者である金正恩や彼を支える指導層によって調整されることになるであろう。

ただし、北朝鮮の最高指導者には独裁者というイメージがつきまとう。最高指導者が自らの独断で日朝交渉やミサイル発射を命令しており、最高指導者自身が矛盾した行動を取っていると考えられる傾向があることは否めないであろう。しかし、北朝鮮の最高指導者が実際にそのようなトップダウン型の独裁者であるかは、正直なところ、分かっていないのである。もちろん、政策によっては最高指導者が独断的に命令したものもあるかも知れない。反対に、政府組織から上げられてきた報告書に署名しただけの政策もあるかも知れないのである。

外務省と軍隊のルーティン化された行動

北朝鮮の最高指導者は、制度上、軍隊も外務省も指導する立場にある。まして、北朝鮮は自由民主主義に基づいた国家ではない。政府組織の独自の目的に沿った行動が許容されるはずはないと考える向きもあるであろう。

しかし、北朝鮮では、独自の行動を取ったとして、粛清されることがありうる。去年に金正恩の叔父である張成澤が粛清されたことは、まだ記憶に新しいであろう。実際には、張成澤だけではなく、彼と行動を共にしていた部下たちも粛清されたのであった。これは、張成澤とその部下たちが、最終的には最高指導者の許容範囲を超えたために粛清されたとはいえ、最高指導者の知らないところで独自の行動を取っていたことを示している。

日朝交渉やミサイル発射は、最高指導者から許容された行動であることは間違いないであろう。日朝合意もミサイル発射も、北朝鮮の公的報道機関で発表された。これは、最高指導者が認めていることを示している。ミサイル発射に関しては、金正恩自らが現地で指導していたことが発表されている。すなわち、日朝交渉やミサイル発射は、最高指導者が認めているものであり、許容された政府組織の行動であることが明確である。

その政府組織の行動が、最高指導者からトップダウンで命令されたものなのか、最高指導者が政府組織からの報告書に署名しただけであるのか、というのは分からない。ここでは、いったん仮説として、最高指導者は政府組織からの報告書に署名しただけと考えてみよう。

すると、北朝鮮の外務省は軍隊のスケジュールを知らないまま日朝交渉を進めており、北朝鮮の軍隊は外務省のスケジュールを知らないままミサイル発射の計画を以前から進めてきた可能性がある。知っていたとしても、自己の組織の目的を達成するためには、考慮に入れる必要はなかったかもしれない。北朝鮮の外務省と軍隊は、お互いに干渉しないまま最高指導者に報告書を上奏し、承認をもらったと考えれば、北朝鮮のこの矛盾した行動を理解するための新たな解説を加えることができる。

まず、日朝交渉やミサイル発射が外務省や軍隊のルーティン化された行動であることを理解しなくてはならないであろう。日朝交渉は、安倍政権のみならず、福田政権や野田政権でも行われていた。このことからも、北朝鮮の外務省が以前から日本にアプローチをしており、今になって急にアプローチしてきたわけではないことが理解できる。

よく北朝鮮が日本にアプローチしてきた理由を、去年末から中朝関係が悪化したからだとか、直近の出来事に結び付ける解説があるが、それでは福田政権や野田政権における日朝交渉について説明することはできなくなる。むしろ北朝鮮の外務省は、今年に入って急に方向転換して日本にアプローチしてきたわけではなく、以前から変わらず日本にアプローチし続けてきたと考えた方が自然である。

また、ミサイル発射も6月に入って急に始まったわけではない。今年の2月から3月にかけても北朝鮮はミサイルを連射していた。2月27日と3月3日には短距離弾道ミサイルを発射しており、2月21日と3月4日には多連装ロケット砲を発射した。3月16日と3月22日にはロケット弾を連射しており、3月26日には中距離弾道ミサイルを発射した。これが日朝交渉と関係していると考える向きは少ないであろう。これらのミサイル発射は、北朝鮮の軍隊による軍事演習や、米韓軍事演習に対する対抗措置であったと考える向きが多い。ならば、6月からのミサイル発射についても、これまでの通り、軍事演習や、7月16日から始まった米韓合同軍事演習に対する対抗措置と考えるのが自然ではないか。

試される日本の力量

さて、最高指導者である金正恩や彼を支える指導層は、外務省と軍隊の報告書が上がってきてどのように処理したのであろうか。結果から推測するしかないが、日朝交渉とミサイル発射が行われた以上、両方の報告書を承認したと考えられる。それぞれ報告書を上げてきた政府組織が異なり、その目的も異なるので、どちらかに優先順位をつける必要もなかったかもしれない。それぞれの組織の報告を承認し、同時に実行させたと考えられよう。その結果、日朝交渉とミサイル発射が同時に行われ、日本から見れば、理解し難い矛盾した行動を取っているように見えるのかも知れない。

しかし、北朝鮮の軍隊は、内部では自分たちの行動は首尾一貫しており、その目的に沿ってスケジュール通りに行動していると考えているであろう。北朝鮮の軍隊からすれば、日朝交渉がどうなるかは組織の目的に関係ない。日朝交渉を前進させるためにミサイル発射を止める理由は、北朝鮮の軍隊にはないのである。むしろ、日朝交渉を理由にミサイル発射を止めれば、北朝鮮の軍隊は自らの組織の目的を放棄したことになる。

また、北朝鮮の外務省もミサイル発射を止めることはしないと思われる。北朝鮮の外務省にミサイル発射について抗議しても、彼らがミサイル発射を止める権限があるわけではない。実際に、日本政府が抗議した後も、北朝鮮の軍隊は続けてミサイルを発射し続けている。ただし、北朝鮮の外務省にとって、ミサイル発射が望ましいものとは考えにくい。北朝鮮がミサイルを打ち上げて、外交交渉を潰してしまったことは過去にあった。2012年2月に発表された米朝合意は、4月に北朝鮮が人工衛星を発射したことで破たんした。2012年11月に始まった日朝局長級協議は、12月の北朝鮮による人工衛星発射で2回目の協議が延期された。北朝鮮の外務省は、せっかく手に入れた外交成果をミサイルによって潰されてきたといえる。

このように見ると、北朝鮮という国家が、一つのアクターとして一つの目的をもって合理的に行動しているわけではなさそうである。むしろ、各政府組織がそれぞれの目的をもってルーティン化された行動を繰り返していることが伺えるのである。これからの北朝鮮の行動についても、同じことがいえる。北朝鮮の外務省は、日朝交渉を推し進めて、日朝間の懸念事項を解決するように努力し、日朝国交正常化を実現したいと考えているであろう。同時に、北朝鮮の軍隊は、これからも国防力を高めるために軍事演習やミサイル発射などを続けていくであろう。これらに対して、どう対処するかは、日本の力量にかかっているのである。

サムネイル「North Korea — Pyongyang, Arirang (Mass Games)」(stephan)

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プロフィール

宮本悟朝鮮半島研究

1970年生まれ。同志社大学法学部卒。ソウル大学政治学科修士課程修了〔政治学修士号〕。神戸大学法学研究科博士後期課程修了〔博士号(政治学)〕。日本国際問題研究所研究員,聖学院大学総合研究所准教授を経て,現在,聖学院大学政治経済学部教授。専攻は国際政治学、政軍関係論,安全保障論,朝鮮半島研究。〔著書〕『北朝鮮ではなぜ軍事クーデターが起きないのか?:政軍関係論で読み解く軍隊統制と対外軍事支援』(潮書房光人社,2013年10月)。〔共著〕「国連安保理制裁と独自制裁」『国際制裁と朝鮮社会主義経済』(アジア経済研究所,2017年8月)pp.9-35,「北朝鮮流の戦争方法-軍事思想と軍事力、テロ方針」川上高史編著『「新しい戦争」とは何か-方法と戦略-』(ミネルヴァ書房,2016年1月)pp.190-209,「北朝鮮の軍事・国防政策」木宮正史編著『朝鮮半島と東アジア』(岩波書店,2015年6月)pp.153-177。〔論文〕「「戦略的忍耐」後と北朝鮮」『海外事情』第65巻第7・8号(2017年7月)pp.60-71,「ストックホルム合意はどうやって可能だったのか?―多元主義モデルから見た対朝政策決定―」『日本空間』第19集(2016年6月)pp.136-170,「千里馬作業班運動と千里馬運動の目的―生産性の向上と外貨不足―」『現代韓国朝鮮研究』13号(2013年11月)pp.3-13,「朴槿恵政権による南北交流政策」『アジ研ワールド・トレンド』第19巻6号(2013年6月)pp.9-13,「中朝関係が朝鮮人民軍創設過程に与えた影響」『韓国現代史研究』第1巻第1号(2013年3月)pp.7-29など。

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