北朝鮮によるミサイル発射と日朝交渉の矛盾をどう解くか?

2014年5月26日から28日にストックホルムで日朝局長級協議が開催され、5月29日には日朝双方から合意文が発表された。それは、北朝鮮側が日本人の包括的調査のために特別調査委員会を立ち上げ、調査を開始するとともに日本側が独自に北朝鮮に課している経済制裁を一部解除するというものであった。

 

7月1日にも日朝局長級協議が開催され、北朝鮮側が特別調査委員会の機能や構成などを日本側に伝えてきた。特別調査委員会は、30名程度の人員で構成され、地方にも支部を置き、調査対象ごとに分科会を設けるとのことであった。それを受けて、日本政府は、7月4日に一部の経済制裁を解除することを閣議決定した。それは、人的往来の規制措置、送金報告及び携帯輸出届出の金額に関して北朝鮮に対して講じている特別な規制措置、人道目的の北朝鮮籍船舶による日本への入港禁止措置の解除である。ストックホルムでの日朝合意は、実際に行動に移されたといえよう。

 

 

北朝鮮を一つのアクターと考えた場合

 

日朝局長級協議が開催された7月1日の前後に、北朝鮮の日朝交渉への意図を疑わせる出来事があった。それが北朝鮮によるミサイル発射である。

 

北朝鮮は、6月27日に戦術ミサイルを試験発射したことを発表した。前日の26日には、韓国で北朝鮮がミサイルを発射したことを確認していた。さらに、6月29日、7月9日、7月13日、7月26日にも北朝鮮がミサイルを発射したことが確認された。また、7月2日、7月14日には多連装ロケット砲を発射したことが確認されている。まるで7月1日の日朝局長級協議に冷や水を浴びせるかのように、その前後で北朝鮮はミサイルや多連装ロケット砲を連続で発射したのである。

 

実際に、日本政府では北朝鮮によるミサイル発射について否定的な見解が強かった。北朝鮮のミサイル発射を受けて、官房長官である菅義偉は北朝鮮側に抗議したことを明らかにした。すなわち、北朝鮮は日本と交渉しながら、ミサイルを発射して日本を刺激していたことになる。しかも、北朝鮮のミサイル発射は、日本ばかりでなく、米国や韓国、国連安保理などにも影響を与えるものである。国連安保理は7月17日に北朝鮮のミサイル発射を安保理決議違反として非難する報道機関向けの談話を発表した。日本政府としては、国連安保理に配慮しなくてはならないので、北朝鮮のミサイル発射によって日本の行動にも影響が出てくるであろう。

 

この北朝鮮の行動について、理解に苦しむと感じた向きは多かったであろう。防衛大臣である小野寺五典も7月9日(日本時間)に、米国で記者会見して、北朝鮮との対話の窓口が開きつつある中で全く理解に苦しむと北朝鮮のミサイル発射を批判した。

 

日朝交渉とミサイル発射を同時に行う北朝鮮の行動について、日本では様々な見解が見られた。たとえば、米国との対話を求めるメッセージとしてミサイルを発射しているという解説者がいた。また、習近平・中国国家主席が北朝鮮よりも先に訪韓(7月3-4日)することに対する抗議として北朝鮮がミサイルを発射したという解説者もいた。いずれも北朝鮮が日朝協議よりもミサイル発射を重要と考えているという前提に立ったものである。しかし、ミサイル発射は、軍事力強化の路線は変更しない中で日朝交渉に臨みたいという北朝鮮側から日本へのメッセージであるという解説者もいた。

 

いずれにせよ、一見、2つの矛盾する行動をとる北朝鮮の行動を説明するために多くの論者が解説を試みてきたが、たいていそれらの結論は、北朝鮮は明確な一つの目的を持った合理的なアクターであり、巧みな戦術を展開する国であるということになる。北朝鮮を一つのアクターとして考える以上、一つの目的を持った合理的な北朝鮮の行動として解説すると分かり易いからである。

 

北朝鮮に限らず、国家を一つのアクターとして考えると、その国家はある一つの目的に向かって合理的な行動を取るアクターであるという解説になりやすい。その解説を組み立てるには、まずその国家の目的を解説者が設定し、目的を設定したらそれを達成するための手段として、ある出来事を位置づけるのである。今回のケースでは、目的さえ設定すれば、それを達成するための手段として日朝交渉とミサイル発射を結びつければ良いことになる。

 

要は、解説者が北朝鮮の目的をどのように設定するかによって、日朝交渉とミサイル発射に対する解説は変わるわけではある。もちろん、北朝鮮側が本当にそのような目的をもって行動しているかは別の話である。現在のところ、北朝鮮側から日朝交渉とミサイル発射について詳しい解説が公表されたわけではないので、北朝鮮側の目的について明確に理解できるようなものが日本にあるわけではない。

 

 

北朝鮮は様々な政府組織の集合体であって、一つのアクターとは限らない

 

北朝鮮という国家を一つのアクターとして考えなければ、解説もまた変わってくる。国家には様々な政府組織が存在する。政府の各組織はそれぞれの目的に沿ってルーティン化された行動を繰り返しているだけであるかもしれない。それは、北朝鮮だけではなく、様々な国家でよく見られることである。たとえば、日本でも外務省と防衛省では、組織の目的が異なる。外務省と防衛省がそれぞれの組織の目的に沿ってルーティン化された行動を取っていれば、外部からは日本が矛盾した行動を取っているように見られることがあるであろう。

 

そうなると、そもそも日朝交渉とミサイル発射を結びつけて考えて良いのだろうか。北朝鮮では、日朝交渉は外務省が主導しており、ミサイル発射は軍隊が主導している。

 

北朝鮮の外務省が日本と交渉を始めたのは、安倍政権になってからではない。福田政権の時にも、野田政権の時にも、交渉は行われた。北朝鮮の外務省としては、日本と交渉するのはルーティン化された行動であって、組織の目的の一つであるといえる。

 

一方、北朝鮮の軍隊は、北朝鮮の防衛に責務を負っている。そのために日頃から訓練を重ねて、国家の防衛力を高めていかなくてはならない。それは組織の目的であり、ルーティン化された行動であるといえる。ミサイル発射もその一つであって、日朝交渉とは関係なく、軍隊が自らの目的に沿って行動した結果かもしれない。すなわち、北朝鮮の外務省も軍隊も、自らの目的に沿って行動しているだけであるが、それが外部から見れば、矛盾した行動に見えるだけであったとも考えられるのである。もちろん、政府の各組織がそれぞれの目的に沿って行動しているだけであれば、国家の全体の政策としては、外部からは理解しがたいほど矛盾したものになりかねない。そのために政府の各組織の行動は、各組織間や行政の最高機関で調整される。北朝鮮の場合、最高指導者である金正恩や彼を支える指導層によって調整されることになるであろう。

 

ただし、北朝鮮の最高指導者には独裁者というイメージがつきまとう。最高指導者が自らの独断で日朝交渉やミサイル発射を命令しており、最高指導者自身が矛盾した行動を取っていると考えられる傾向があることは否めないであろう。しかし、北朝鮮の最高指導者が実際にそのようなトップダウン型の独裁者であるかは、正直なところ、分かっていないのである。もちろん、政策によっては最高指導者が独断的に命令したものもあるかも知れない。反対に、政府組織から上げられてきた報告書に署名しただけの政策もあるかも知れないのである。

 

 

 

シノドスをサポートしてくれませんか?

 

●シノドスはみなさまのサポートを必要としています。ぜひファンクラブ「SYNODOS SOCIAL」へのご参加をご検討ください。

⇒ https://camp-fire.jp/projects/view/14015

 

●シノドスがお届けする電子メールマガジン「αシノドス」

⇒ https://synodos.jp/a-synodos

 

●少人数制セミナー&Facebookグループ交流「シノドス・サークル」

⇒ https://synodos.jp/article/20937

 

 

 

 

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.254 公共性と社会

1.長谷川陽子「知の巨人たち――ハンナ・アーレント」
2.岸本聡子「公共サービスを取り戻す」
3.斉藤賢爾「ブロックチェーンってなあに?」
4.山岸倫子「貪欲なまでに豊かさを追いかける」