アジアで影響力を拡大するイスラム国――海外報道から考える

米国のオバマ大統領が9月10日(水)の夜、国民向けのテレビ演説を通して、イスラム教スンニー派の過激派組織「イスラム国」打倒に向けた戦略を発表した。米国はイスラム国を弱体化・壊滅させるための軍事行動を主導する考えであり、空軍を主力としてシリア国内の標的への、初の空爆を行う考えも明らかにしている。

 

オバマ大統領はテロの脅威を減らすため、有志連合の協力による対テロ戦略を発表。ケリー国務長官に対して、イスラム国と戦っているイラク政府とクルディスタン地域政府の訓練、教育、軍事支援に必要な資金提供の指示も出している。

 

このような状況の中で、イスラム国のアジアへの影響も懸念されている。本稿では、アジアにおけるイスラム国の影響に注目する。

 

 

インドネシアにおけるイスラム国の影響

 

まず最初に、アジア太平洋地域情勢を中心に報道を行っている雑誌『The Diplomat』8月23日付の記事(リズヴィ・シハブ氏=建国財団研究員)を見てみよう。そこでは、インドネシアにおけるイスラム国(IS)の影響について論じられている。

 

記事冒頭でシハブ氏は、国境を越えてインドネシアにISが入ってきたことについて、インドネシア全土に警戒感が広がっていると指摘する。特に、コーランの教えを厳格に守るISの信仰を危険視している。自分たちの信仰に従わないだけで殺人の正当な理由になる、という彼らの考え方に注目し、残忍な処刑シーンを映した映像が、世界中に衝撃を与えていることを伝えている。

 

「しかし、なぜこのような過激な組織が簡単にインドネシアに触手を伸ばし、支持者を獲得しているのだろうか?」。こうした問題提起とともに、シハブ氏は以下のように述べている。

 

 

「安全保障面での失策、ソーシャル・メディアによる情報操作、地方の教育不足が原因だろうか? これらは全て原因の説明としては正しいが、ISのインドネシア浸透の根本にある問題を見逃しているかもしれない。その根本にある問題とは、貧困と、インドネシアが経済成長しているという幻想だ」

 

 

このように述べた上で、インドネシア経済の実情について、次のように説明している。

 

 

「複数の基準に照らし合わせて見た時、今日のインドネシア経済は購買力平価[注1]では世界の上位10位以内に入っている。しかし、問題は、国内総生産(GDP)が高ければ必ずバランスのとれた経済を実現することができ、エリートだけではなく、大部分の市民にも利益をもたらすことができるのかどうかということだ。貧困レベルは過去数年間に悪化し、約11.5%に達している。このようなアンバランスな状況を生んでいる主な理由は、インドネシアの天然資源の多くが米シェブロン(石油・ガス)や米フリーポート・マクモラン(鉱山)といった外資系企業に握られているからだ」

 

[執筆者注1]:ある国においてある価格で買える商品が他国ではいくらで買えるかを示す交換レート。例えば、ある商品が日本では400円、米国では4ドルで買えるとすると、1ドル=100円が購買力平価ということになる。

 

 

続けてシハブ氏は、統計数値と経済の実態とのこのような乖離が引き金となり、市民の不満や不信、無関心を招くことになると論じている。過激派がそこにつけ込み、改革やデモ、宗派間の暴力によって現状を変えようと支持者に訴える格好の口実になると言うのだ。

 

 

「実際、インドネシアでは国民の50%以上が一日の収入が2ドル以下という状況であり、低開発問題を抱えている。そのような中で、経済的な分配が十分でないために、識字率の低さ、失業、社会の主流からの脱落といった問題が引き起こされている」

 

 

シハブ氏は人間開発指数(HDI)という経済社会指標についても言及している。これは一国のGDP、平均寿命、教育水準の三つの側面から、人間開発の達成度を示す指数だ。記事によると、インドネシアのHDIは世界第121位という無残な結果となっており、GDPで見た場合の経済の世界水準からは大きく後れをとっているという。

 

また、インドネシアには、富の分配を妨げ、国家運営に関わるエリート層と一般市民との断絶を生んでいる政府高官の汚職問題もある。さらに、国民の意思を無視する前政権の下で過激派を生む土壌ができたという点も見逃せないという。政府は経済成長を自画自賛しているが、国民の大部分は家計のやりくりに苦慮しているのが実態だ。

 

7月22日(火)の選挙結果発表を受けてジョコ・ウィドド大統領の新政権が誕生し、インドネシア政府のISへの今後の対応が注目される。これについて、シハブ氏は次のように結論づけている。

 

 

「穏健派のイスラム組織は過激派の問題への対応に協力すべきだ。また、外務省の課題は過激派の流入を抑えるための防止措置を講じることだ。国全体がまとまって協力し合わない限り、インドネシアにおけるISの動きを抑え込むことはできない。しかし、類似のイデオロギーを持った社会の病根をさらに生まないようにするためには、問題の根本的な原因を最初に取り除く必要がある」

 

 

以上が、『The Diplomat』の記事(リズヴィ・シハブ氏)のまとめだ。

 

 

イスラム国対策におけるインドネシア、マレーシア、ブルネイの協調の必要性

 

『The Diplomat』は9月4日付の記事(ルーク・ハント氏=同誌東南アジア特派員)でも、インドネシアに関連した内容を伝えている。この記事では、インドネシア、マレーシア、ブルネイの三国によるイスラム国対策について論じられているので、以下に詳しく見てみよう。

 

ハント氏は冒頭で、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国の中で、国内にイスラム教徒を多く抱えているインドネシア、マレーシア、ブルネイの三国に対して、イスラム国(IS)対策への協力を求める圧力が強まっているという直近の状況を伝えている。

 

 

「その中で、インドネシアとマレーシアはISから距離を置いている。というのも、ISのアブバクル・バグダディ指導者と共に訓練を受けた両国出身者たちがテロの戦術を身につけて国内に戻り、東南アジアにおけるカリフ制(イスラム教の最高権威者)の復活を要求する事態になりかねないという懸念を抱いているからだ。また、今年の五月にシャリア(イスラム法=イスラム教徒が守るべき儀礼的・日常的生活規範)を導入したブルネイは、ハサナル・ボルキア国王がニューヨークを代表するプラザホテルを買収しようとしているという報道が流れる中で、予想されていた通り沈黙を保っている」

 

 

またハント氏は、オーストラリアのコラムニストたちがトニー・アボット首相に対して、マレーシアのナジブ・ラザク首相とインドネシアのジョコ・ウィドド大統領に、イラクへの資金と武器の提供、場合によっては軍の派遣を要求するように訴えていることを伝えている。

 

これを受けて、インドネシアとマレーシアの事情について、次のように説明されている。

 

 

「インドネシアについては、東南アジアで最大の支援国となりえる可能性がある。イスラム過激派組織ジュマ・イスラミーヤ(JI)の強硬派聖職者であるアブ・バカール・バッシールが、独房からISへの忠誠を誓ったのを受けて、インドネシア政府はJIを復活させる動きを厳しく取り締まる措置を打ち出している。JIは、二百人以上の死者を出した2002年のバリでの爆弾テロを含めた一連の爆破事件を引き起こしている」

 

「マレーシアでは、東南アジア本土の広い領域に対して支配を要求する、四つのテロ組織が現われたという報道が伝えられる中で、テロリストの逮捕劇が繰り広げられている。警察は、大捜索網を潜り抜けて逃げた民兵を捕まえている。彼らはイスラム過激派テロ組織アブ・サヤフ・グループ(ASG)と共にフィリピンに潜伏していると考えられている」

 

 

そして、次のように結論づける。

 

 

「フィリピンとタイも国内でのイスラム教テロ組織との戦いを継続している。しかし、ASEANは外交政策に対する対応がバラバラになるという悪評がある。インドネシア、マレーシア、ブルネイというイスラム教国が立ち上がってIS対策の問題を主導する姿勢を見せない限り、バラバラな外交政策はこのまま変わらないだろう」

 

 

以上が、『The Diplomat』の記事(ルーク・ハント氏)のまとめだ。

 

 

 

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