キューバ革命思想の行方――「帝国主義」アメリカとの国交正常化の背景

キューバと米国の関係は周知の通り、1959年のカストロ兄弟らによる民族主義革命をきかっけとして急激に悪化し、国交断絶に至っている。当時の革命指導者の一人が依然政権を担う中、先月、オバマ米大統領が両国の国交正常化のための交渉を開始すると発表した。このニュースは世界中を驚かせることとなったが、こうした動向の背景には何があるのか、キューバの歴史を振り返りながら概観したい。

 

 

キューバと米国の歴史的関係

 

そもそも米国とキューバの関係は、革命前から必ずしも良好だったわけではない。スペイン植民地時代に、米国はキューバの独立戦争に介入した。独立後はさらに、米国が内政に干渉する権利を持つという条項がキューバ新憲法に加えられ、キューバは実質的には米国の保護国となった。

 

かくしてキューバは、経済的にも政治的にも米国の大きな影響下におかれた。それゆえ、「完全独立を米国の介入で阻まれ、主権を侵害されている」という恨みと、同時に、豊かで強い米国への憧れや、より近づきたいというアンビバレントな感情が、キューバの人々には存在したのである。つまり、革命政権の反米思想は、決して1959年の革命期に急に出現したものではなかった。

 

そして革命勝利後、カストロ革命政権が、「貧しいキューバ人民の利益のため」として米国企業の資産を接収したこと、そうした状況の中で米国と対立していたソ連に接近し、2年後には社会主義宣言を行ったことなどから、両国の関係は急激に悪化した。

 

加えて、ラテンアメリカ諸国の大部分もキューバとの国交を断絶した。冷戦期は同地域においても、共産主義が “民主主義”に対する脅威であるとする反共政策がとられていたのである。とくに1960年代半ばから80年代前半頃に、ラテンアメリカの多くの国々に見られた、チリのピノチェト政権に代表される軍事政権は、“共産主義からの民主主義の防衛”を軍政正当化の根拠のひとつとしていた。

 

キューバは政治、経済両面でもっとも深い関係にあった米国や、近隣諸国との関係を失った。だが、冷戦構造の中で、キューバ革命政権の存在がソ連にとって好都合であったため、ソ連東欧社会主義圏との結びつきや援助によって、政権の基盤を固めることが可能となった。

 

 

冷戦後のキューバ

 

それゆえに、冷戦後のキューバはソ連東欧社会主義圏の支えを失い、とくに経済に大きな打撃を受けることとなった。もはや体制を維持できないであろうという予測も少なくはなかった。だが、革命政権は、その後も配給制度の導入、観光やバイオテクノロジーといった新たな成長分野の一定の成功によって持ちこたえ、社会主義路線も堅持してきた。そして、ソ連にかわりキューバの新たなパートナーとなったのが、ベネズエラや中国であった。

 

2013年に病死したベネズエラのチャベス大統領は、キューバのフィデル・カストロ元国家評議会議長を師と尊敬し、社会主義国家建設を宣言して急進的な政策を行っていた。ベネズエラとキューバを中心としたラテンアメリカ8カ国の相互扶助同盟がALBA(米州ボリバル同盟)だが、この同盟を基盤として、産油国であるベネズエラからはキューバへ石油が供給され、キューバからベネズエラへは医師や看護師の余剰人員が派遣された。こうした相互関係が、キューバ経済を支える大きな柱のひとつとなっている。

 

それでもなお、経済や国民生活は冷戦末期の水準には回復しておらず、観光やバイオテクノロジーといった新成長分野も頭打ちとなっており、国民は厳しい生活を強いられている。

 

たとえば、国営部門で働く大多数の国民は、医師や教師といった高学歴者の職に従事する人々を含めて、生活に必要なだけの十分な賃金を得られていない。こうした人々は、合法非合法の副業、海外在住の親族からの送金、横流し、あるいは非国営部門や自営業で働く家族の収入などで、不足分を補っているのが現実である。こうした手段を持たずに生活に困窮する家庭も当然ながら存在し、国民間の格差は拡大しつつある。

 

思想に関していえば、反米、反帝国主義思想は大きく変わってはいない。冷戦時の東西対立という構造はなくなったが、革命政権は米国を“帝国主義”として“反帝国主義の国際連帯”を訴え、ラテンアメリカ、アジア、アフリカなど様々な地域の国々との関係強化を試みている。

 

とくに近年は、スパイ容疑で米国に拘留されていた5人のキューバ人が、米国帝国主義の犠牲者の象徴として「5人のキューバ人反帝国主義者」「反テロリスト」と呼ばれ、英雄視されている。街中に彼らのポスターや看板が見られ、5人の存在は米国に対する批判で真っ先に挙げられるもののひとつであった。(5人のうち2人は2011年と昨年2月に、残りの3人は国交正常化交渉開始が発表された先月解放され、キューバに帰国している)

 

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ハバナ市にある米国利益代表部。2008年に筆者が撮影。当時は、正面にキューバがたくさんの黒い旗を立てていた。(現在はキューバ国旗に変えられている)

 

 

ラウル・カストロ政権

 

近年、物資や賃金の不足、賃金構造の歪みなどに対して、国民の不満は高まっていた。2006年に病に倒れたフィデル・カストロが国家評議会議長の座を退き、2008年に実弟のラウル・カストロが正式に跡を継いで以降は、これら国民の不満解消や、経済再建のための大きな改革が進められている。

 

とくに2011年4月に行われた第6回共産党大会では、経済運営や貿易、外国投資、雇用、文化など、およそ300項目もの多岐に渡る改革指針が示された。この改革指針の大部分、それも多すぎる国営部門の雇用を減らす、二重通貨制度の解消など、大きな変革につながるであろう項目は、実際には遅々として進んではいないものの、いくつかの改革は実施され、キューバ社会に変化をもたらしている。

 

たとえば、自営業の規制緩和による小規模な店やサービスの増加、携帯電話の所持、住宅や車の売買解禁、外国への渡航の自由化、外国投資の規制緩和などが、これまでに実施されている。とくに経済面では、改革は自由化路線であると理解されている。

 

以上を前提として、今回の米国・キューバの国交正常化交渉開始の背景を、国際情勢、米国側、そしてキューバ側の観点から探ってみたい。【次ページにつづく】

 

 

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