キューバ革命思想の行方――「帝国主義」アメリカとの国交正常化の背景

国交正常化交渉開始の背景――国際情勢

 

東西対立がなくなった冷戦後は、米国の対キューバ政策は国際的に支持を得にくくなっている。対キューバ経済制裁の解除を求める決議は、毎年国連で採択されている。米国やイスラエルはつねに反対の立場であるが、近年は日本を含む圧倒的多数が解除賛成の立場である。とくに冷戦後の1990年代に、米国は新たに、対キューバ経済封鎖法であるヘルムズ・バートン法、トリセリ法を相次いで制定したが、これは第3国がキューバとの通商を行うことへの制限を含んでおり、行き過ぎた内容であるとして国際的にも非難されている。

 

先に述べたように、冷戦時は反共産主義政策から、近隣諸国の多くもキューバとの国交を持たなかった。しかし、現在は米国を除く米州諸国が、キューバの米州機構への復帰や米州首脳会議への参加を求め、メキシコやチリ、アルゼンチンといった地域大国を始めとするラテンアメリカの国々は、両国の関係正常化を求めていた。今回、仲介役となったローマ法王フランシスコも、ラテンアメリカからの初の法王であり、アルゼンチン出身である。こうした情勢の変化の中、キューバに対して経済制裁や排除を継続しようとする米国の姿勢は、じつは地域においても国際社会においても少数派となってきていたのだ。

 

 

米国の事情

 

米国内においても、今やとくに民主党議員や支持者には、キューバ経済封鎖という長年の政策は失敗だったのではないかという認識、経済制裁解除への支持が少なくない。第一に、現在の関係は両国民に利益をもたらしていない。第二に、米国の政策が半世紀以上に渡って続いているにも拘わらず、結局カストロ兄弟の革命政権は存続しており、反米が政権の基盤を強固にする一因となっている、すなわち米国の政策がむしろ現政権存続に貢献してしまったのではないか。こうした理由からである。

 

現在、上述のようにラウル・カストロ政権では、規制緩和などの経済、政治改革が進められている。こうした状況もまた、キューバが米国流“民主主義”への道へ進む好機なのではないかと考えられている。加えて、キューバ経済がより開かれていく場合に、米国がその利益に乗り遅れてしまうとして、米国企業はキューバとのビジネスの機会を求めていた。

 

政治、経済両面において、関係は閉ざすよりも改善した方が米国の利益になるという理解が進んでいたのである。さらには、議会で民主党が少数派となり、残りの任期が2年となった現状で、オバマ大統領が歴史的成果を得ようとしたという背景も当然、指摘できよう。

 

もちろん、キューバ革命政権に対して妥協や譲歩をするべきではないというタカ派も、米国内には少なくない。フロリダに集中する革命後の移民とその子孫から成るキューバ系米国人らの多くは、政治に無関心な2世、3世が増加しているとはいえ反カストロであり、彼らの支持、すなわち票は、米国の対キューバ政策に少なからず影響を与えてきた。今後、米国内で対キューバ政策の変更がスムーズに進むのかどうか、見通しは不透明である。

 

 

キューバの事情

 

最後にキューバ側の背景を見てみたい。キューバは、対等な立場で、内政干渉をしないという前提で、米国との対話をこれまでも求めてきた。冷戦終結以降のキューバ経済はきわめて深刻な危機に陥り、「平和時の非常時」、つまり戦時ではないがそれに匹敵する非常時であることを宣言したほどである。

 

米国の経済制裁による損失は大きく、当然ながらその解除はキューバにとって望ましいことであった。既述の通り、観光やバイテクノロジーという新たな成長分野の一定の成功、および産油国ベネズエラとの関係で持ち直しているものの、それも安泰とは言えない。

 

チャベス亡き後、ベネズエラではチャベス派のマドゥーロ大統領が前政権の路線を引き継いでおり、米国との関係も悪化したままだ。つまり、2国はラテンアメリカにおける反米同盟となっている。しかし、じつはベネズエラは原油価格の下落や、それ以前からの石油による収入を上回る過度な支出等から経済不振にある。またカリスマ性のないマドゥーロが大統領になり、反政府抗議運動が活発化するなど、チャベス後のベネズエラの政情は安定しているとはいえない。ベネズエラとの同盟関係に経済的に大きく依存していたキューバが、代わりを探す必要に迫られているとの見方もある。

 

少なくとも経済という点では、米国との関係改善はキューバにとって好ましい変化だろう。キューバ国内では、国交正常化交渉のニュースは好意的に、国にとっての喜びとして報道されている。たとえばキューバの主要紙である共産党機関紙グランマは、「我ら人民にとっての重大な一歩」「米国政府の歴史的決断」と報じ、「英雄たちの帰還と大統領のメッセージは、クリスマスの、そして革命の新たな勝利を祝うための最高のプレゼントだ」(Granma、2014年12月17および18日)と、人民権力全国議会(国会にあたる)議員のコメントを紹介するなどしている。

 

だが、これが手放しで歓迎できるかは、少々疑問も残る。これまで述べてきた通り、革命政権は米国を“帝国主義”であるとして、経済制裁などの敵対政策を非難し、物資や賃金の不足といった経済不振に由来する国民の不満や怒りの矛先を逸らしてきた。そして、反米思想によって、政権が国民に訴えるナショナリズムを強化してきたことは、多くの研究者が指摘するところである。

 

米国との関係が改善しても、国民の生活水準を十分に上げることができなかった場合、これまで政権を支えてきた革命思想から国民が離れていく可能性も否定できないだろう。

 

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

 

 

シノドスのコンテンツ

 

●ファンクラブ「SYNODOS SOCIAL」

⇒ https://camp-fire.jp/projects/view/14015

 

●電子メールマガジン「αシノドス」

⇒ https://synodos.jp/a-synodos

 

●少人数制セミナー「シノドス・サークル」

⇒ https://synodos.jp/article/20937

 

 

 

 

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.2019.4.15 

・打浪文子「知的障害のある人たちと「ことば」」

・照山絢子「発達障害を文化人類学する」
・野口晃菜「こうすれば「インクルーシブ教育」はもっとよくなる」
・戸谷洋志「トランスヒューマニズムと責任ある想像力」
・濵田江里子「「社会への投資」から考える日本の雇用と社会保障制度」
・山本章子「学びなおしの5冊 「沖縄」とは何か――空間と時間から問いなおす」
・鈴木崇弘「自民党シンクタンク史(6)――設立準備期、郵政民営化選挙後」