逆オイルショック!? 原油価格急落と産油国の思惑

原油価格の下落はなぜ続いているのか。その背後には産油国の思惑があった!? 価格が決まるメカニズムと、原油価格の下落が日本や世界経済に与える影響に迫る。TBSラジオSession-22「原油価格急落!逆オイルショックも?」より抄録。(構成/伊藤一仁)

 

■ 荻上チキ・Session22とは

TBSラジオほか各局で平日22時〜生放送の番組。様々な形でのリスナーの皆さんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案につなげる「ポジ出し」の精神を大事に、テーマやニュースに合わせて「探究モード」、「バトルモード」、「わいわいモード」などなど柔軟に形式を変化させながら、番組を作って行きます。あなたもぜひこのセッションに参加してください。番組ホームページはこちら → http://www.tbsradio.jp/ss954/

 

 

オイルの供給過剰

 

荻上 ゲストは、国際開発センターエネルギー環境室研究顧問の畑中美樹さんです。畑中さんは、普段はどういった研究をされているのでしょうか。

 

畑中 中東を中心とした産油国、あるいは中東その他の国々の政治経済情勢の分析、それから中東に進出する日本の企業に対する助言やアドバイスをしています。

 

荻上 畑中さんはとても焼けていますよね。畑中さんの名前を入れて検索したら、画像検索の3つ目に松崎しげるさんの顔写真が出てきました(当日)。でも松崎さんよりも黒いですよね。

 

畑中 どうでしょうか(笑)。仕事が中東なものですから、大体年の半分くらい湾岸を中心に向こうに行ってるんですね。

 

お仕事の相手の方にはわりと偉い方も多くて、そういった方は午前中眠っておられます。そうすると、朝ごはんを食べた後、空いてしまうこともあるので、プールで泳いだり日光浴したりしてたんですよ。その結果、顔が黒くなったという事ですかね(笑)。

 

荻上 それだけ現地に行っていると。今日は中東の経済ニュースを伺っていきたいと思います。まずは、原油価格急落はなぜ急落したのでしょうか。

 

畑中 この半年ほどを振り返ってみると、欧州や中国の景気が後退し、世界の原油需要が伸び悩んでいるんです。一方、供給面で見るとアメリカでシェールオイルが引き続き増産されています。需給バランスが崩れて供給過剰になっているのが一番の大きな要因です。

 

それに加えてアメリカの経済が好調で米ドル高ですので、石油の先物市場に投機している人たちが米ドルを買うためにその資金を流出させました。それも一つの要因でしょう。

 

荻上 オイルは「いずれ無くなっていく」と、将来の供給不足がよく強調されますよね。それなのに今は、「供給過剰になっている」と言う。なぜなのでしょうか。

 

畑中 何十年も前、私が中学生の時にも「石油資源はあと30年」って言われていたんですね。今はここの所「あと43年ある」と言われていますね、それも毎年。つまり、石油資源は、もちろん価格との関係もありますけども、実はまだまだあるんだと。

 

恐らくアメリカとかヨーロッパの大手石油メジャーズは、どのくらい埋蔵量あるのか本当はもっと正確に分かっているんだろうと思うんです。ただそれを「これだけある」と言ってしまうと価格は下がりますから、埋蔵量を少な目に公表しているんじゃないかと。

 

荻上 少なくとも、あと数年で無くなる、というレベルのものではないのですね。だから、価格が今回のように短期的に下がる事もあり得ると。価格について、こんな質問が来ています。

 

『原油価格が下落というニュースですが、そもそも原油の値段はどういうメカニズムで決まるのでしょうか。採れた原油の量の多さで、多すぎると安くなり少ないと高くなるという単純な理解でいいんでしょうか。また値段が上がる上で影響力のある国や企業のようなものはありますか。』

 

畑中 昔はアメリカやイギリスフランス大手のいわゆる「石油メジャーズ」が、一手に石油開発をして生産販売していたほか、価格も彼らが一方的に決めていたんです。それはおかしいだろうという事で、資源を持っている国が石油輸出国機構(OPEC)を1960年に結成しました。

 

以降は70年代に石油価格が上がる石油危機を2回経験しましたが、次第に資源国が自分たちで石油の売値・価格を決めるという時代に入ります。

 

しかし、80年台に入るとニューヨークで「原油先物市場」ができ、そこで建値が決まります。今はアメリカのニューヨーク市場、ロンドン市場、それからアジア・中東だとドバイ市場でも、先物市場の価格に引っ張られながら実物取引の価格が決められている状況ですね。

 

 

逆オイルショック!?

 

荻上 現在、OPEC側は主にどういった論点で議論を進めているんでしょうか。

 

畑中 OPECは、最後の生産の調整者として、世界の需給バランスを見ながら自分たちが生産しすぎていれば下げ、少なければ増産して価格があまり変動しないようにしてきたんです。

 

11月27日に開かれた年2回あるOPEC総会では、世界全体で供給過剰だという事で、一日あたり150万バレルほどベネズエラ側を中心に減産しましょうという提案がありました。合計8カ国がこれに賛成したのですが、反対した国もいくつかあり、その中心国がサウジアラビアだったんです。

 

サウジの主張というのは、要するに今なんで供給過剰かというと、アメリカのシェールオイルを始めとするOPEC以外の国々がどんどん生産を増やしてきているからですよね、というものです。

 

今ここで仮にOPECが減産しても非OPECが増産します。するとまたOPECは減産しないといけません。そうすると自分たちOPECの市場販売占有率が落ちるのでは、と。

 

荻上 自分たちがやせ細るだけじゃないかと。

 

畑中 それだったら、むしろここは我慢して原油価格をどっと下げる事でシェールオイルを始めとするOPEC以外が生産出来なくなる所まで追い込もう。自分たちの生産シェアを回復出来るような状況を作ろう、と決めたため、2014年末くらいで価格が急に下がり始めたという所です。

 

荻上 短期的には自分たちも厳しかったとしても、それによってアメリカなどに支障が現れたら長期的には泰平になるじゃないかという事ですね。

 

畑中 それがサウジアラビアの主張で、それに同じ湾岸のクウェート、アラブ首長国連邦、カタールの3カ国が賛同しました。比較的財政に余裕もある事から耐えられるだろうと見込んだのです。

 

OPECは全員一致しないと物事を決められないんですよね。OPECの団結を保つ事の方が外に対しては重要なので、他の国もサウジの意見に従うという事で生産の枠を変えなかった。したがって供給過剰が残ってしまった。OPECがシェールオイルを叩くぞと言っているのでこれは相当頑張るんだな、となるとしばらく供給過剰が続くぞ、という事で原油価格がどんどん下がっているという状況です。

 

荻上 OPECの8カ国側は、サウジを含む4カ国に対して反論はしなかったんですか。

 

畑中 反論はしたいんですが、相手が反対している以上、全会一致にならないので決まりませんよね。それから自分たちで減産しようとしても反対している国々が下げない以上、今度はOPECの中で自分たちだけが損を丸かぶりしてしまう事になってしまいますよ。それならば皆で痛みを分け合った方がいいなという事で妥協したのでしょうね。

 

荻上 となると、この供給過多の状況がしばらく続く。どのくらいまで続くと見られているんですか。

 

畑中 非OPEC、いわゆるアメリカのシェールオイルへの投資が減って、生産が減る。それを見極めるまでは続くでしょう。逆に言うとシェールオイル側の損益分岐点、いくら以下であれば儲からなくなるから投資・生産を辞めると判断する点が決め手になると思うんですよね。

 

たぶん、60ドル弱くらいが分かれ目の価格になるんじゃないかと思いますので、60ドルで半年~9ヶ月続いて、本当に相手が音を上げて投資量・生産量減ってきたぞ、というのが見える所まで続くと思われます。

 

荻上 アメリカが音を上げるまでという事ですよね。時間掛かりそうなイメージもありますけど。

 

畑中 多分1年弱くらい掛かるんじゃないかと思いますね。

 

荻上 その間はオイルの供給過多が続くと。

 

畑中 もしかすると次第に減っていくかもしれません。ですが、需給バランスは回復しないだろうと思います。

 

荻上 だから「逆オイルショック」と呼ばれている。

 

畑中 「オイルショック」というのは油価が急上昇した事によって消費国が痛みを負うことになるので、ショックになっているわけですよね。今回の場合は、油価が下がった事によって資源国側の収入が少なくなりますから「逆オイルショック」と言っているわけです。

 

 

サウジ、イラン、アメリカ、ロシア……

 

荻上 このOPECの各国の主張は、もちろん経済的な理由が主だと思いますが、他の政治的パワーバランスも関係しているのでしょうか。

 

畑中 サウジアラビアの今回の主張は、「シェールオイルが生産を伸ばしている。その生産を抑えない限りOPECの将来は無いです」という理屈だったわけですよね。ですが過去の発言を振り返ってみると、2013年までサウジアラビアは「シェールオイルは脅威じゃない」って言ってたんです。

 

むしろシェールオイルがある事によって世界のエネルギー供給への不安がなくなるので、プラスであると評価していました。それが1年で脅威だと言い始めたので、この1年の間に考え方を変えたのかもしれない。もう一つは、もしかしたらシェールオイルを口実に使って他の理由でもって油価を下げている可能性も考えられます。

 

荻上 他の理由というのは、国際政治的なパワーバランス、あるいは駆け引きという事ですか。

 

畑中 よく言われているのは、やはりアメリカとロシアの対立があって、ロシアに対してウクライナ問題で制裁をしていると。しかしそのロシアは中東ではシリアのアサド政権、あるいはイランを支援していて、アメリカやサウジアラビアから見ると必ずしも好ましくない行動をしている。

 

中東の政治で言うとサウジとイランが対立していますよね。サウジアラビアはアラビア半島の真ん中に位置しています。東岸から橋でつながれたバハレーン、東側のアラビア湾(ペルシャ湾、湾岸)を隔ててイランが、北側にはイラク、シリア、レバノンが、南にはイエメンがあります。そこにいるそれぞれのシーア派勢力をイランが支援していて、ちょうどサウジアラビアから見るとシーア派の包囲網で囲まれているような感じになってきているんです。

 

このまま行くと中東でイランの政治力はかなり強くなる。しかも、核の開発もしている。サウジとしてはこれは脅威だ、抑えなきゃいけないという思いがある。そのためにはイランの経済を痛めたい。

 

イランにとっては石油収入が大きな収入源です。ですからそこを細くするために、ロシアを叩きたいと考えているアメリカと、イランを叩きたいと考えているサウジアラビアが油価を下げればどちらも困るという事で、考えが一致した、という風に考える事もできるかなと。

 

荻上 今の話ですと、地図上では二重の層の戦いが描かれている事になるわけですよね。一方ではサウジの対アメリカの市場競争。もう一つは、イランなどに対する資金の供給源を止める事による、地政学的なせめぎあい。この場合においては、実はアメリカとは手を組めるという話にもなっていますね。

 

畑中 アメリカのシェールは民間企業がやっている事です。それも大手の石油会社じゃなくてどちらかというと中小の石油企業です。したがってアメリカ政府がこうしろああしろと生産量を増減しているわけではなく、政府とは直接関係ない所でやっています。

 

荻上 アメリカと一口に言っても、政府と企業は別のプレイヤーだということですね。

 

畑中 しかも油価が下がるとシェールは困るかもしれませんが、アメリカ経済全体として見ると、実はガソリン価格は安くなって4年ぶりに1ガロン3ドルを割る状況ですから消費者としてはプラスになります。

 

シェールの部分ではマイナスかもしれないけれませんが、アメリカ経済全体としてはプラスです。そう考えれば、シェールガスに目を瞑ったアメリカとサウジアラビアが手を組んだという事も言えるかもしれませんね。

 

荻上 メールを紹介します。

 

『この件についてアラブ諸国の再生エネルギー潰し・シェールガス潰し・ロシア潰し・イスラム国潰し・あるいは中国などの景気の良かった国々の発展減速、色々な説を耳にしました。全て絡んでいるんでしょうが割合はどんなものでしょうか教えてください。』

 

中国という話はどうですか。

 

畑中 もちろん原油価格が安くなる事によって、色々な資源を持っている中国の経済から見れば、外から入るお金が少なくなるわけですから効果があるとは思います。ですが、サウジアラビアなりその他の産油国側がそこまで考えて今回の政策を考えたとは思いません。

 

シェール潰し、ロシア叩き、イラン叩き、どのくらいの比率かというのはサウジの当局者に聞いてみないと分からないと思うんですけど(笑)、30年ほど中東を見てきた個人的な感触から言うと、サウジはやはりイランを第一に意識している。アメリカはやはりロシアを意識していたかなと。その副次効果としてシェールの生産が抑えられるのでサウジにとってはプラスだな、という感じではないかと思います。

 

 

何ドルまでなら耐えられる!?

 

荻上 エネルギー事情の話も伺っていきたいですね。シェールガスの市場が伸びているっていう話も聞きますけれども、今それぞれのエネルギーの市場バランスというのはここ十数年で大きく変化はしているんでしょうか。

 

畑中 世界全体で言うと石油と天然ガス、炭化水素資源と言うんですけれども、これのシェアは少しずつ下がってきています。ただ大きくは下がっていない。やや環境に優しいというので、石油から天然ガスにシフトするという動きがこの十年間くらいでは顕著になってきています。

 

荻上 「シェール革命」という風に言われたりしましたが、大転換と言えるほどにはパワーバランスは変わっていないという事でしょうか。

 

畑中 アメリカにおいてシェールの貢献は大きいと思います。シェール革命が起こったのは2010年ごろです。2009年までシェールのオイルは1日あたり40万バレルぐらいしか生産量がありませんでした。ですが今は500万ほど生産できるのではと言われています。

 

同時に、シェールが伸びた事がベースになってアメリカの原油生産量が非常に伸びています。アメリカの原油生産量が一番多かった1971年は、1日あたり960万バレル生産していました。ですがシェール革命が起きる前の2008年ごろは500万まで落ちてていたんですよ。それが2014年の10月には大体900万までは戻ってきました。

 

その主な要因はシェールの部分です。ですから、シェールはアメリカのエネルギー復権にとって非常に大きな意味を持ってはいるんです。

 

荻上 技術開発が進む事によって、それぞれの国のエネルギー事情も色々変化をした、そんな十数年間だったんですね。一方で、先ほどサウジアラビアを中心としたOPEC産油国とアメリカとのチキンレースが始まるとのことでしたが、しかしアメリカは本当に負けるのでしょうか。

 

畑中 シェールは大手ではない中小企業者がやっていますので、銀行からの借り入れを多く含んだ投資・資金繰りをして小さな井戸を掘っているという企業が多いんです。しかも井戸の規模も小さいので、1~2年で大体掘り尽くしてしまい、また次の井戸を掘らなきゃいけない。言うなれば自転車操業的にお金を注ぎ込んでいかなきゃいけない。

 

荻上 次の設備投資も必要なんですね。

 

畑中 多分そのbreak-even point(損益分岐点)というのが井戸によって幅があって、40~90ドルぐらいで平均60ドルぐらいだろうと言われていますから、これを下回ると諦める所もかなり出てくると思うので、生産量が減ってくるかなと。

 

荻上 つまり潰れる企業も出てくるという事ですか。

 

畑中 そうですね。最近アメリカではエネルギー関連企業の株価が下がったりしていますよね。これはシェール関係のエネルギー関連企業が立ち行かなくなる事を見越しているのでしょう。

 

荻上 実売も減って株価も下がって長期的な見通しもなくて、というのは結構な打撃になりそうな気がしますね。アメリカ全体から見て短期的にはオイル価格下落により生活が潤うという点でいいだろうと。ただそれによって中小企業のいくつかが潰れると、アメリカの中長期的なエネルギービジョンが一つ失われるようなデメリットは発生しないのでしょうか。

 

畑中 恐らく今一日当たり500万バレルぐらいまで増えてきているシェールの中の一部は、確かにこれから生産できなくなり減ると思います。ですが、その間に新しい油田の探査・開発技術も出てきています。

 

それにより大手の石油企業が開発する既存の油田、特に深海など深い所にある油田の生産量がこれからまた復活してくる可能性も出てきますし、一度生産量が下がっても下がった事によって需要が伸びてまた価格が戻ってくると思うんです。

 

多分1~3年の間にOPECが一定程度のシェアを回復した所で、またシェールも復活してくるでしょう。したがって最終的にシェールの生産量が壊滅的になり、アメリカの生産量が衰退するという事にはならないだろうと思います。【次ページにつづく】

 

 

シノドスの運営について

 

シノドスは日本の言論をよりよくすることを目指し、共感してくださるみなさまのご支援で運営されています。コンテンツをより充実させるために、みなさまのご協力が必要です。ぜひシノドスのサポーターをご検討ください。

⇒ https://camp-fire.jp/projects/view/14015

98_main_pc (1)

 

 セミナー参加者募集中!「対話/ダイアローグから見た精神医学」植村太郎(12月16日16時~18時)

 

 

無題

 

vol.233 公正な社会を切り開く 

 

・ジェームズ・ミニー氏、鈴木啓美氏インタビュー「もっと楽しいお買い物を目指して――フェアトレードの魅力」

・【「民主」と「自由」――リベラルの再生へ向けて――】古川江里子「大正デモクラシーと吉野作造 ―大日本帝国憲法下での民主主義的政治の試みが現代に問うもの」

・【知の巨人たち】重田園江「ミシェル・フーコー――なぜ『絶望系』なのに読んでしまうのか」

・阪井裕一郎「学びなおしの5冊 <家族>」

 

vol.232 芸術にいざなう 

 

・吉澤弥生氏インタビュー「人をつなぐ芸術――その社会的評価を再考する」

・【現代演劇 Q&A】長瀬千雅(解説)「時代を捕まえるダイナミクス――現代演劇事始め」

・【今月のポジ出し!】橋本努「タックス・ヘイブン改革 香港やシンガポールにも圧力を」

・増田穂「『知見』が有効活用されるために」

 

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.233 特集:公正な社会を切り開く

・ジェームズ・ミニー氏、鈴木啓美氏インタビュー「もっと楽しいお買い物を目指して――フェアトレードの魅力」

・【「民主」と「自由」――リベラルの再生へ向けて――】古川江里子「大正デモクラシーと吉野作造 ―大日本帝国憲法下での民主主義的政治の試みが現代に問うもの」

・【知の巨人たち】重田園江「ミシェル・フーコー――なぜ『絶望系』なのに読んでしまうのか」

・阪井裕一郎「学びなおしの5冊 <家族>」