新たな成長パターンを模索する中国――新型都市化からシルクロード経済圏まで

中国経済が現在、曲がり角にさしかかっている。このことは多くの人が認識しているだろう。「影の銀行」による信用膨張、急速な高齢化の進行、深刻化する格差問題や環境問題、バブル崩壊の危険性など、さまざまな問題やリスクの存在が指摘されている。もちろん、経済格差などの問題はこれまでにも存在してきた。しかし、長期間にわたって継続してきた年間10%前後の経済成長が、さまざまな矛盾が顕在化するのを先送りにしていたといえよう。それが、経済の減速が明らかになったため、上記のような問題に対する懸念も一気に吹き出してきたのである。

 

そんな中、2015年の経済運営方針を決定する中央経済工作会議が、2014年の年末、12月9日から11日にかけて北京で開催された。その主な内容は新華社通信によりリリースされたが、中国経済が「新しい常態」と表現される安定的成長段階に入ったことが強調され、市場メカニズムを重視した改革の継続や、投資に依存した粗放的な成長路線からの転換を説くものだった。

 

これに呼応するように、年明けの1月20日に政府は、2014年のGDP成長率が目標の7.5%に満たない7.4%になる見込みだと発表した。そして3月に予定される全人代(全国人民代表大会)では、経済成長の目標が7%に引き下げられるのではないか、という見方が有力になっている。

 

同会議では、「積極的な財政政策と穏健な金融政策」というこれまでのマクロ経済政策の堅持や、金融面を始めとする一層の規制緩和・経済改革の推進が打ち出された。その一方で、「一帯一路」、「京津冀協同発展(北京・天津・河北省エリアの一体化を通じた発展)」、「長江経済ベルト(沿海部から内陸部にいたる長江流域の主要経済都市相互の連携を深める)」などといった、今後の新たな成長のエンジンになると目されるいくつかの地域発展戦略が提起された。

 

このうち、とくに国内外で注目を集めているのが、「一帯一路」というキーワードで示される経済発展戦略である。これは、中国から中央アジアのカザフスタン、ウズベキスタンを経由してオランダまで伸びる「シルクロード経済ベルト(一帯)」および、インドネシアから、インド、スリランカ、ケニア、ギリシャを経てオランダにいたる「21世紀海のシルクロード(一路)」という、中国を中心とした新たな経済圏建設の方針を総称したものである。

 

2014年11月に開催されたAPECの席上で、習近平国家主席自身により「シルクロード経済圏」の構想が提起され、注目を集めたのは記憶に新しい。とくに中国政府が重点を置いているのが、インフラ建設の遅れた「シルクロード経済ベルト」を縦断する高速鉄道の建設である。おりしも12月30日、国有の大手車両メーカーである「中国北車」と「中国南車」が合併し、世界最大規模の車両会社「中国中車股份有限公司」が誕生するという方針が正式発表された。この巨大な車両会社は、海外メーカーに比べ半分近くという価格を武器に、これまでも積極的に新興国に売り込みをかけてきた。

 

この「一路一帯」構想を資金面で支えるのが「中国版マーシャルプラン」である。言うまでもなく「マーシャルプラン」とは、第二次大戦後戦争で深刻な被害を受けた欧州各国が経済崩壊の危機に瀕したとき、復興とソ連の共産主義勢力の欧州への浸透を防ぐために米国が実施した欧州復興計画のことだ。「シルクロード経済圏」を支える中国版マーシャルプランも、中央アジアにおける石油利権の確保や国内のイスラム系少数民族への抑え込み、さらにはインド洋諸国で港湾インフラを支援することによってインドを牽制し(「真珠の首飾り」戦略)、海洋への勢力を拡大する、といった政治的目的が見え隠れする。

 

中国が中心となって設立されるアジアインフラ投資銀行構想や、400億ドル規模の新たな「シルクロード基金」を設立したというニュースと合わせ、21世紀の超大国を目指す中国の野心を示したもの、というのが一般的な見方かもしれない。12月20日の大メコン川流域(GMS)経済開発サミットの席上で李克強首相は、ベトナム、カンボジア、ミヤンマー、ラオス、タイの5カ国に対して、メコン川流域の道路や鉄道などのインフラ整備に30億米ドルの借款と援助を行うことを表明したが、これもそのようなアジアの経済秩序を中国資本によって打ち立てる試みとして理解できるだろう。

 

「シルクロード経済圏」あるいは「中国版マーシャルプラン」という用語が真っ先に呼び起こすのは、そういった地政学的な関心であろう。しかし、以下ではあくまで、それが中国の今後の経済成長パターンにとってどのような意味を持っているのか、という点に絞って考えたい。

 

 

「投資過剰経済」からの脱却

 

たとえば、中国の大国意識を体現したかのような「一帯一路」構想が、それまでの拡張路線を改め「新常態」への適応を説いた中央経済工作会議において提起されたのはなぜだろうか? この疑問に答えるために重要なのが、ここしばらくの中国経済を特徴づけてきた、国内の「投資過剰」問題への視点である(丸川=梶谷、2015)。

 

さて、中国経済が減速し始めたことのひとつの象徴が、昨年夏以来の不動産市場の低迷である。2014年に入って、それまで右肩上がりがつづいてきた不動産市場の価格に低迷が生じていることはよく知られている。国家統計局は毎月、全国70都市の住宅価格の統計を発表しているが、4月にはまだ過半の都市で値上がりがつづいていたのが、5月になると一転して36都市で前月に比べて値が下がった。それが6月には55都市、9月、10月はともに69都市となり、ほとんどの都市の住宅価格が下落傾向を示している。12月の全国70都市の新築住宅価格の平均値は前月のマイナス0.4%、前年同月比ではマイナス4.3%となった。

 

中国経済はこれまで、成長を固定資産投資に依存する「投資過剰」ともいうべき状況を呈してきた。たとえば、リーマンショック前までの第一段階では、労働者への賃金支払いを圧縮して旺盛な設備投資を行ってきた。中国では戸籍制度による自由な労働力移動の制限を背景に、とくに農村から都市に出稼ぎに来ている非熟練労働者(農民工)の賃金水準が工業部門の限界労働生産性を大きく下回る状況が持続していた。

 

安価な労働力の利用により、都市の工業部門では資本蓄積や技術進歩が生じ生産性が向上するが、このことにより国有部門などの正規労働者と農民工との賃金ギャップはますます拡大する。同時に、マクロの労働分配率が低下し、社会保障制度の不備を背景に家計の貯蓄率が上昇する。膨れあがった家計の貯蓄は、資本市場への政府の介入により、一部の国有部門における固定資産投資へと「動員」される。このようなメカニズムによって、近年の中国では、部門間の格差拡大と過剰な投資が並行して進んだ。

 

ただし、上記のようなロジックは、「民工荒(農民工の不足)」といわれる非熟練労働不足の結果、各地で最低賃金が上昇し、労働分配率が改善したリーマンショック後の状況下では成り立たない。労働分配率の上昇は資本分配率の低下を意味するので、資本係数(資本ストックとGDPの比率)が大きく変化しないという前提では資本収益率の低下をもたらす。通常であればこれは、投資を減少させるはずである。しかし、現実には2009年以降はむしろGDPに占める総資本形成の比率が大幅に伸び、ほぼ50%近くと驚異的な数字を記録している。

 

このような第二段階の「投資過剰経済」の主役は、リーマンショック後の大規模な景気刺激策、ならびにそれを受けて活性化した地方政府主体の投資行動だった。景気を刺激するための投資事業は、その大半が地方政府に丸投げされたが、地方債の発行が自由に出来ず、銀行からの政府の借入れは厳しく制限されているため、「融資プラットフォーム」と呼ばれるダミー会社を通じて資金を調達し、都市のインフラやマンションなどの建設を大々的に行った。

 

同時に中国人民銀行は、大胆な金融緩和によって地方政府の資金調達をサポートし、それによって生じる土地や不動産価格の上昇期待がさらなる投資の呼び水となった。収益性が低下しているにもかかわらず、民間資本も含めた高投資が持続したのは、それがキャピタルゲインへの期待に支えられていた、すなわち資産バブルの発生と切り離せないものだったからだ。

 

このような背景を踏まえれば、「投資過剰経済」からの脱却を説いているはずの中央経済工作会議で、「一帯一路」が提起されたことの意味も自ら明らかになるだろう。「一帯一路」構想およびそれを資金面で支える「中国版マーシャルプラン」は、過剰な国内資本や外貨準備をいってみれば「海外に逃がし」、従来の投資依存型の経済成長パターンの中で顕在化した供給能力の過剰を緩和するという側面も持っている。だからこそこの構想が今回の中央経済工作会議において、国内投資依存型に替わる新たな成長モデルとして強調されているのだ。【次ページにつづく】

 

 

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