「基本的価値を共有していない」韓国にどう向き合うか

3月21日、3年ぶりの日中韓外相会談が行われる。一方、外務省ホームページにおいて、韓国を紹介する記述から「基本的価値を共有」の文言が削除されたことが確認されるなど、日韓関係は膠着状態だ。今回の会談を機に関係性はどう変わっていくのか。いま、日本がとるべき戦略とは。TBSラジオ荻上チキ・Session- 22 「国交正常化50年の日韓関係」より抄録。(構成/保田幸子)

 

■ 荻上チキ・Session22とは

TBSラジオほか各局で平日22時〜生放送の番組。様々な形でのリスナーの皆さんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案につなげる「ポジ出し」の精神を大事に、テーマやニュースに合わせて「探究モード」、「バトルモード」、「わいわいモード」などなど柔軟に形式を変化させながら、番組を作って行きます。あなたもぜひこのセッションに参加してください。番組ホームページはこちら → http://www.tbsradio.jp/ss954/

 

 

『韓国化する日本、日本化する韓国』

 

荻上 今夜のゲストは新潟県立大学政策研究センター准教授の浅羽祐樹さんです。よろしくお願い致します。

 

浅羽 チキさん、南部さん、リスナーのみなさん、お久しぶりです。赤坂のスタジオはやっぱりいいですね。

 

荻上 浅羽さんは新たに『韓国化する日本、日本化する韓国 』という本をお出しになりました。非常に気になるタイトルですが、どのような意味があるのでしょうか?

 

浅羽 韓国で「日本は軍国化した」と針小棒大にとらえたり、「日本なんてとるに足らない」と夜郎自大になったりすることに、「あ~あ」という感じを持つ人が少なくないと思うんですよね。

 

ところが最近日本でも、韓国も中国と同じようによく分からず手に負えないので、そもそも理解しようとすることを投げ出す傾向が見られるようになっていませんか。しかし、実際は、日韓は少子高齢化や持続可能な社会保障のあり方など課題を共有していて、相手に照らし合わせることで自らのあり方を振り返ることができる「合わせ鏡」のような関係でもあります。

 

荻上 日本と韓国がお互いに相手の断片の情報を手にし、それを全体化して、別々のイメージを抱きあっていると本の中でもお書きになっていますよね。

 

浅羽 まもなく新年度ですけど、よく分からない世界に出向こうとするときは、広く見渡せる地図と、あとさきの見通しが大切ですよね。

 

たとえば1000ピースのジグソーパズルに取り組むんだと最初から分かっていて、完成予想図が手元にあると、一つひとつ位置を確かめながら埋めていくことができるじゃないですか。足りなければ自分で探すこともできる。でも、そのことを知らないと、たった2つのピースしかないのに、あたかも全体を手にしたような感覚に陥ってしまいます。

 

いまの日韓関係はまさにそういう状況ですね。カーナビの「ナビ(ゲーション)」は「方向を定める」という意味ですが、何事も最初が肝心。そういう道案内になれば嬉しいですね。

 

 

首脳同士が会えない異常な事態

 

荻上 韓国の話を分析的に書き下ろした本になるわけですね。そもそも、日韓首脳会議が行われていないのですが、この現状を浅羽さんはどうお考えですか?

 

浅羽 お互いに相手国の存在意義や利用価値がどんどん低下しているからだと思います。日本にとっての韓国、韓国にとっての日本の価値は、かつては自明視されていました。相手に協力する方が自ら得になるということが誰にも当たり前だった時代があったんです。

 

ところが、現在は、なぜ協力しなければいけないのか、いちいち確認する必要が出てきました。それなのに、そうした確認作業を怠っているため、首脳同士が会えないという異常な事態が続いています。

 

荻上 隣国のトップ同士が会わないことが長期化すると、どういったリスクがあるのでしょうか?

 

浅羽 安倍総理も韓国の朴槿恵大統領も、「地球儀を俯瞰する外交」よろしく、世界各国を飛び回っています。安倍総理は中国の習近平国家主席ともようやく昨年11月の北京APECの際に会っていますので、残すは朴大統領だけです。朴大統領も安倍総理だけです。

 

首脳外交の不在は、主要国、しかも隣国同士としては極めて稀なケースで、日韓国交正常化50周年の今年、「首脳会談なき正常化」さえ囁かれるのはどう考えても異常です。

 

荻上 緊急事態でリーダーが動かなくてはならないケースが発生した場合、連携できるのかという疑問も出てきますね。

 

浅羽 この地域だと、何と言っても、北朝鮮による核実験やミサイル発射といった突発事態ですね。韓国軍と在韓米軍は、戦時作戦統制権が在韓米軍司令官にありますし、在韓米軍と在日米軍はそもそも一体です。これに集団的自衛権の解釈変更で自衛隊が連動すると、この4者は共同でオペレーションすることが期待されています。本来機能的な協力であっても、首脳間、国民間に不信感があると、うまくいきません。

 

有事にならないことを望みますが、安全保障は万が一に備えるのが役目です。今の日韓の状態だと、いざという時にきちんと機能するのか疑問です。

 

荻上 一方で、事務方、現場レベルでの交流はどうなっていますか。

 

浅羽 外務省の局長級会談は重ねていますし、外務次官の戦略対話はずっと途絶えていましたが、再開し、昨年末第2回目が行われました。あとは外相会談、首脳会談に格上げできるかが課題です。

 

荻上 なぜ、首脳レベルの会談までたどりつけないのでしょうか。

 

浅羽 慰安婦問題をいつ、どのように「決着」させるのかをめぐって双方原理原則的な対立が続いていますが、最後は政治リーダーしか決断できないからです。

 

また、最近めっきり注目されなくなりましたが、徴用工の問題も残っています。わたしは、これこそが今年最大の「爆弾」だと思っています。まもなく韓国最高裁の確定判決が出ますが、結果によっては日本ですでに蔓延している韓国に対する「違和感」や「うんざり感」が決定的になるでしょう。

 

荻上 徴用工の訴訟問題ですね。

 

浅羽 ええ。戦時中に韓国人を働かせていたことに対して不法行為があったと複数の日本企業が訴えられています。日本の立場は、日韓が国交正常化する際の請求権協定で完全かつ最終的に解決されたというものです。

 

慰安婦問題とは異なって、この問題では、韓国政府も実は日本と同じ立場だったんですが、個人請求権は残っているという判断が司法で下されました。韓国最高裁で日本企業による賠償が確定することは確実視されています。

 

そうなると、やはり韓国は我々とは違った法体系で、自由や民主主義などの基本的価値を共有していない、という見方が確信に変わります。日韓関係を「ふつう」にビジネスできるように戻すのがさらに厳しくなります(「日韓2つの『ふつう』:『不通』から『普通』へ 」)。

 

 

相手のゲームのルールを理解し「傾向と対策」を

 

荻上 そうした中で、浅羽さんは、こちらの対応を考える上でも、相手を分析し理解することが重要なのだと書かれていますね。

 

浅羽 産経新聞前ソウル支局長の起訴や、朴裕河さんの『帝国の慰安婦』という本の発売禁止処分、憲法裁判所による左派政党の解散といった例が続くと、我々と同じ自由で民主的な国なのかという疑いの念を持つのは自然だと思います。

 

ただ、その時に、理解しがたいからといって、「やはり韓国はこの程度の国だ」と切り捨てるのではなく、彼らにも憲法というゲームのルールがあり、その中ではどういうプレイが行われる傾向があるのかをよくよく考えてみる必要があります。

 

よく分からないからといって関係を断ったり感情的に反発したりするのではなく、むしろだからこそなおさら相手をよく観察し、まずはその世界のそのゲームのルールを理解しようとすることが肝心です。そうするとプレイの傾向が見えてきますし、それに応じて対策を立てることもできるようになるはずです。

 

違うゲームをプレイしているとそもそもかみ合いませんが、相手のプレイがヘンだと思うなら、なおさら、それぞれがプレイしているゲームを一歩引いて先に把握すれば、それだけ有利になりますよ。

 

 

「いざ鎌倉」の前に

 

荻上 この本の中で『独島イン・ザ・ハーグ』という本が韓国でベストセラーになったという話が紹介されていますが、これはどういった小説なんでしょうか。

 

浅羽 韓国は「独島」をめぐる領有権紛争が存在しないので日本と外交交渉をする必要もなければ、オランダのハーグにある国際司法裁判所に判断を委ねる必要もないという立場です。尖閣諸島に関する日本の立場とパラレルですね。

 

その存在すら否定している領有権紛争が国際司法裁判所で争われることになったという架空のシナリオを立てて、法廷論争で火花を散らすというのがこの本の核心です。

 

私と同年代の裁判官が書いたのですが、彼はその後韓国外交部にスカウトされ、あえて日本側に立ち、韓国の主張を否定することを使命として課されました。つまり、あらかじめ自らの論理や証拠の弱い部分を徹底的に洗い出しておくことで、万が一にもこの問題が国際司法裁判所で争われた時に備えて、史上最強の弁護士チーム、最強の訴状を準備することができるというわけです。「いざ鎌倉」の前に武器や防具の点検、戦友集めというわけです。

 

本のタイトルは正確には『独島イン・ザ・ハーグi』で、この「i」はインテリジェンスのことです。

 

荻上 この小説は、最後どうなっていくんですか。

 

浅羽 ネタバレになりますが、残すは判決のみというギリギリのところまで法廷論争をして、最後は政治妥結をするんです。今、島根県の人たちの不満は、日韓漁業協定が結ばれているにもかかわらず、事実上締め出しをくらっているという点にあります。なので、漁業をするという実利の部分は分け合いつつも、領有権に関しては、双方とも「現状」を認めるということで決着をつけます。

 

荻上 これは韓国側にとって「気持ちよくなる」シナリオというわけではない?

 

浅羽 どちらにとってもスカッとするというのは100%全部取るということですよね。たとえば北方領土を例にとると、択捉・国後・歯舞・色丹の4つだと日本としては万々歳ですが、現状は「0対4」ですので、「4対0」だとロシアがそもそも動こうとせず、いつまでも現状のままです。

 

そうではなくて、「4でも0でも、2でもなく」という副題の付いた が物議を醸したことがありますが、両極の間で双方が折り合いをつけられる幅を探っていくアプローチです。

 

荻上 公式な政治声明とは別に、国民レベルではいろいろなシミュレーションをしながら、政治的解決や法廷での争いなどのいろいろなシナリオに備えようとしているのでしょうか。

 

浅羽 漁業資源をどう分配するかという実利の部分だけでなく、シンボリックな意味が竹島にはいろいろ託されています。

 

日本からすると「不法占領」(内閣官房領土・主権対策企画調整室「我が国の領土問題について」)されていて、写真一枚ろくにとることができない。私たちが普段テレビで見ている様子は、AP通信など外国メディアから提供されたということになっていますが、韓国側から撮ったものです。

 

韓国からすると、「独島」が最初に奪われて日本の植民地になったという物語ができています。双方、実利の部分とナショナル・シンボルになっているところと法的な立場が複合的に重なり合って、解きほぐすが難しくなっています。

 

たとえば、領有権に限って議論をしても、竹島に関して強い立論ができたとして、もう一つ別の領有権紛争である北方領土にはどう影響するのか、さらに日本政府は領有権紛争と認めていない尖閣諸島で同じ議論が適用されることになったとしたら、そこでは場合によっては不利になるかもしれないわけです。

 

つまり、ある特定の領域で有利になることが同時に別の領域では不利になるかもしれない場合、全体を見て総合的に判断して選択しなければいけません。【次のページに続く】

 

 

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