2015.03.21

「基本的価値を共有していない」韓国にどう向き合うか

浅羽祐樹×荻上チキ

国際 #荻上チキ Session-22#日韓関係#日中韓外相会談

3月21日、3年ぶりの日中韓外相会談が行われる。一方、外務省ホームページにおいて、韓国を紹介する記述から「基本的価値を共有」の文言が削除されたことが確認されるなど、日韓関係は膠着状態だ。今回の会談を機に関係性はどう変わっていくのか。いま、日本がとるべき戦略とは。TBSラジオ荻上チキ・Session- 22 「国交正常化50年の日韓関係」より抄録。

■ 荻上チキ・Session22とは

TBSラジオほか各局で平日22時〜生放送の番組。様々な形でのリスナーの皆さんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案につなげる「ポジ出し」の精神を大事に、テーマやニュースに合わせて「探究モード」、「バトルモード」、「わいわいモード」などなど柔軟に形式を変化させながら、番組を作って行きます。あなたもぜひこのセッションに参加してください。番組ホームページはこちら → http://www.tbsradio.jp/ss954/

『韓国化する日本、日本化する韓国』

荻上 今夜のゲストは新潟県立大学政策研究センター准教授の浅羽祐樹さんです。よろしくお願い致します。

浅羽 チキさん、南部さん、リスナーのみなさん、お久しぶりです。赤坂のスタジオはやっぱりいいですね。

荻上 浅羽さんは新たに『韓国化する日本、日本化する韓国 』という本をお出しになりました。非常に気になるタイトルですが、どのような意味があるのでしょうか?

浅羽 韓国で「日本は軍国化した」と針小棒大にとらえたり、「日本なんてとるに足らない」と夜郎自大になったりすることに、「あ~あ」という感じを持つ人が少なくないと思うんですよね。

ところが最近日本でも、韓国も中国と同じようによく分からず手に負えないので、そもそも理解しようとすることを投げ出す傾向が見られるようになっていませんか。しかし、実際は、日韓は少子高齢化や持続可能な社会保障のあり方など課題を共有していて、相手に照らし合わせることで自らのあり方を振り返ることができる「合わせ鏡」のような関係でもあります。

荻上 日本と韓国がお互いに相手の断片の情報を手にし、それを全体化して、別々のイメージを抱きあっていると本の中でもお書きになっていますよね。

浅羽 まもなく新年度ですけど、よく分からない世界に出向こうとするときは、広く見渡せる地図と、あとさきの見通しが大切ですよね。

たとえば1000ピースのジグソーパズルに取り組むんだと最初から分かっていて、完成予想図が手元にあると、一つひとつ位置を確かめながら埋めていくことができるじゃないですか。足りなければ自分で探すこともできる。でも、そのことを知らないと、たった2つのピースしかないのに、あたかも全体を手にしたような感覚に陥ってしまいます。

いまの日韓関係はまさにそういう状況ですね。カーナビの「ナビ(ゲーション)」は「方向を定める」という意味ですが、何事も最初が肝心。そういう道案内になれば嬉しいですね。

首脳同士が会えない異常な事態

荻上 韓国の話を分析的に書き下ろした本になるわけですね。そもそも、日韓首脳会議が行われていないのですが、この現状を浅羽さんはどうお考えですか?

浅羽 お互いに相手国の存在意義や利用価値がどんどん低下しているからだと思います。日本にとっての韓国、韓国にとっての日本の価値は、かつては自明視されていました。相手に協力する方が自ら得になるということが誰にも当たり前だった時代があったんです。

ところが、現在は、なぜ協力しなければいけないのか、いちいち確認する必要が出てきました。それなのに、そうした確認作業を怠っているため、首脳同士が会えないという異常な事態が続いています。

荻上 隣国のトップ同士が会わないことが長期化すると、どういったリスクがあるのでしょうか?

浅羽 安倍総理も韓国の朴槿恵大統領も、「地球儀を俯瞰する外交」よろしく、世界各国を飛び回っています。安倍総理は中国の習近平国家主席ともようやく昨年11月の北京APECの際に会っていますので、残すは朴大統領だけです。朴大統領も安倍総理だけです。

首脳外交の不在は、主要国、しかも隣国同士としては極めて稀なケースで、日韓国交正常化50周年の今年、「首脳会談なき正常化」さえ囁かれるのはどう考えても異常です。

荻上 緊急事態でリーダーが動かなくてはならないケースが発生した場合、連携できるのかという疑問も出てきますね。

浅羽 この地域だと、何と言っても、北朝鮮による核実験やミサイル発射といった突発事態ですね。韓国軍と在韓米軍は、戦時作戦統制権が在韓米軍司令官にありますし、在韓米軍と在日米軍はそもそも一体です。これに集団的自衛権の解釈変更で自衛隊が連動すると、この4者は共同でオペレーションすることが期待されています。本来機能的な協力であっても、首脳間、国民間に不信感があると、うまくいきません。

有事にならないことを望みますが、安全保障は万が一に備えるのが役目です。今の日韓の状態だと、いざという時にきちんと機能するのか疑問です。

荻上 一方で、事務方、現場レベルでの交流はどうなっていますか。

浅羽 外務省の局長級会談は重ねていますし、外務次官の戦略対話はずっと途絶えていましたが、再開し、昨年末第2回目が行われました。あとは外相会談、首脳会談に格上げできるかが課題です。

荻上 なぜ、首脳レベルの会談までたどりつけないのでしょうか。

浅羽 慰安婦問題をいつ、どのように「決着」させるのかをめぐって双方原理原則的な対立が続いていますが、最後は政治リーダーしか決断できないからです。

また、最近めっきり注目されなくなりましたが、徴用工の問題も残っています。わたしは、これこそが今年最大の「爆弾」だと思っています。まもなく韓国最高裁の確定判決が出ますが、結果によっては日本ですでに蔓延している韓国に対する「違和感」や「うんざり感」が決定的になるでしょう。

荻上 徴用工の訴訟問題ですね。

浅羽 ええ。戦時中に韓国人を働かせていたことに対して不法行為があったと複数の日本企業が訴えられています。日本の立場は、日韓が国交正常化する際の請求権協定で完全かつ最終的に解決されたというものです。

慰安婦問題とは異なって、この問題では、韓国政府も実は日本と同じ立場だったんですが、個人請求権は残っているという判断が司法で下されました。韓国最高裁で日本企業による賠償が確定することは確実視されています。

そうなると、やはり韓国は我々とは違った法体系で、自由や民主主義などの基本的価値を共有していない、という見方が確信に変わります。日韓関係を「ふつう」にビジネスできるように戻すのがさらに厳しくなります(「日韓2つの『ふつう』:『不通』から『普通』へ 」)。

相手のゲームのルールを理解し「傾向と対策」を

荻上 そうした中で、浅羽さんは、こちらの対応を考える上でも、相手を分析し理解することが重要なのだと書かれていますね。

浅羽 産経新聞前ソウル支局長の起訴や、朴裕河さんの『帝国の慰安婦』という本の発売禁止処分、憲法裁判所による左派政党の解散といった例が続くと、我々と同じ自由で民主的な国なのかという疑いの念を持つのは自然だと思います。

ただ、その時に、理解しがたいからといって、「やはり韓国はこの程度の国だ」と切り捨てるのではなく、彼らにも憲法というゲームのルールがあり、その中ではどういうプレイが行われる傾向があるのかをよくよく考えてみる必要があります。

よく分からないからといって関係を断ったり感情的に反発したりするのではなく、むしろだからこそなおさら相手をよく観察し、まずはその世界のそのゲームのルールを理解しようとすることが肝心です。そうするとプレイの傾向が見えてきますし、それに応じて対策を立てることもできるようになるはずです。

違うゲームをプレイしているとそもそもかみ合いませんが、相手のプレイがヘンだと思うなら、なおさら、それぞれがプレイしているゲームを一歩引いて先に把握すれば、それだけ有利になりますよ。

「いざ鎌倉」の前に

荻上 この本の中で『独島イン・ザ・ハーグ』という本が韓国でベストセラーになったという話が紹介されていますが、これはどういった小説なんでしょうか。

浅羽 韓国は「独島」をめぐる領有権紛争が存在しないので日本と外交交渉をする必要もなければ、オランダのハーグにある国際司法裁判所に判断を委ねる必要もないという立場です。尖閣諸島に関する日本の立場とパラレルですね。

その存在すら否定している領有権紛争が国際司法裁判所で争われることになったという架空のシナリオを立てて、法廷論争で火花を散らすというのがこの本の核心です。

私と同年代の裁判官が書いたのですが、彼はその後韓国外交部にスカウトされ、あえて日本側に立ち、韓国の主張を否定することを使命として課されました。つまり、あらかじめ自らの論理や証拠の弱い部分を徹底的に洗い出しておくことで、万が一にもこの問題が国際司法裁判所で争われた時に備えて、史上最強の弁護士チーム、最強の訴状を準備することができるというわけです。「いざ鎌倉」の前に武器や防具の点検、戦友集めというわけです。

本のタイトルは正確には『独島イン・ザ・ハーグi』で、この「i」はインテリジェンスのことです。

荻上 この小説は、最後どうなっていくんですか。

浅羽 ネタバレになりますが、残すは判決のみというギリギリのところまで法廷論争をして、最後は政治妥結をするんです。今、島根県の人たちの不満は、日韓漁業協定が結ばれているにもかかわらず、事実上締め出しをくらっているという点にあります。なので、漁業をするという実利の部分は分け合いつつも、領有権に関しては、双方とも「現状」を認めるということで決着をつけます。

荻上 これは韓国側にとって「気持ちよくなる」シナリオというわけではない?

浅羽 どちらにとってもスカッとするというのは100%全部取るということですよね。たとえば北方領土を例にとると、択捉・国後・歯舞・色丹の4つだと日本としては万々歳ですが、現状は「0対4」ですので、「4対0」だとロシアがそもそも動こうとせず、いつまでも現状のままです。

そうではなくて、「4でも0でも、2でもなく」という副題の付いた が物議を醸したことがありますが、両極の間で双方が折り合いをつけられる幅を探っていくアプローチです。

荻上 公式な政治声明とは別に、国民レベルではいろいろなシミュレーションをしながら、政治的解決や法廷での争いなどのいろいろなシナリオに備えようとしているのでしょうか。

浅羽 漁業資源をどう分配するかという実利の部分だけでなく、シンボリックな意味が竹島にはいろいろ託されています。

日本からすると「不法占領」(内閣官房領土・主権対策企画調整室「我が国の領土問題について」)されていて、写真一枚ろくにとることができない。私たちが普段テレビで見ている様子は、AP通信など外国メディアから提供されたということになっていますが、韓国側から撮ったものです。

韓国からすると、「独島」が最初に奪われて日本の植民地になったという物語ができています。双方、実利の部分とナショナル・シンボルになっているところと法的な立場が複合的に重なり合って、解きほぐすが難しくなっています。

たとえば、領有権に限って議論をしても、竹島に関して強い立論ができたとして、もう一つ別の領有権紛争である北方領土にはどう影響するのか、さらに日本政府は領有権紛争と認めていない尖閣諸島で同じ議論が適用されることになったとしたら、そこでは場合によっては不利になるかもしれないわけです。

つまり、ある特定の領域で有利になることが同時に別の領域では不利になるかもしれない場合、全体を見て総合的に判断して選択しなければいけません。【次のページに続く】

「戦後」・「敗戦」・「戦勝」

荻上 そうした中で、日本では戦後70年ですが、今韓国側はどのような議論のフェーズだと考えているのでしょうか?

浅羽 「戦後70年」「終戦70年」が年初から様々なかたちでクローズアップされていますが、「敗戦70年」という認識を我々が一度きちんと持てるかが問われています。「戦後70年」とは第2次世界大戦の終結から数えていて、日本はサンフランシスコ講和条約で「戦後処理」することでようやく主権を回復し、その後は国際社会の平和と繁栄に貢献してきたわけです。

韓国はその敗戦国の日本から分離・独立したわけですから、決して戦勝国ではありませんが、中国は韓国に対して「抗日戦勝70年」を一緒に祝おうと盛んに誘っています。一口に「70年」といっても、「戦後」なのか「敗戦」なのか「戦勝」なのかで意味合いが全く変わってきますし、今まさに意味付けをめぐる熾烈な争いがなされているわけです。

さらに、今年は、植民地支配から独立した国々が集まって、1955年に開かれたバンドン会議から60周年でもあります。2005年、戦後60年の小泉談話を出す前に、小泉総理はバンドン会議50周年に参加し、「植民地支配と侵略」に対して「痛切なる反省と心からのお詫びの気持ち」を表明しています(外務省「アジア・アフリカ首脳会議における小泉総理大臣スピーチ」2005年4月22日)。

今年はそれからも10年経ちました。様々な意味合いが折り重なっているわけです。まさにこうした戦後の国際秩序の中で日本がどういった歩みをしてきたか、今後どういう役割を果たそうとするのかが問われていくと思います。

荻上 談話が対韓国だけでなく様々な国において意味を持っていると。

浅羽 談話というと、韓国や中国の専門家が呼ばれてコメントすることになりがちですが、安倍談話はむしろアメリカに対して、アメリカがリードしてきた国際的な戦後レジームを維持・強化する側につくのか、それとも安倍総理が常日頃から批判しているように、一方的に現状を変更しようとするのか、どちらの立場をとるのかを明確にするいい試金石になります。

荻上 朴政権に関して、リスナーの方からメールが来ています。

「韓国は大統領が歩み寄れば世論に叩かれて、日本との友好関係が築けないのではないですか」

「韓国の朴大統領は国内外ともに何がしたいのか分かりません、日韓関係にしても、未来志向の信頼関係構築というより、先の産経新聞ソウル支局長への対応にも見られるように日本のイメージを悪くするようにしている。つまり、支持率のことで精一杯にしか思えません。それにしても韓国は歴史問題を対話と絡めるのでしょうか、私は当分対話する必要はないと思います」

2つとも司法と政府の関係が重要になってくるメールだと思いますが、浅羽さんいかがですか?

浅羽 日韓首脳会談について、朴大統領は慰安婦問題で日本が誠意ある措置をとらないと応じないという前提条件を付けています。安倍総理は問題があるからこそ首脳同士が会って共に解決に向けて努力していこうという立場で、真っ向から食い違っています。

まして、朴大統領は支持率が30%台に落ちていますが、任期が3年残っています。なので、好き嫌いを抜きにして、朴大統領を取り巻く状況をよく見極めて付き合っていく必要がありますよね。

「竹島の日」をめぐって

荻上 竹島がある島根県、松江市の方からいただいたメールを紹介します。

「2月22日は竹島の日というより猫の日。島根県民でも知らない人が多く、松江市内がうるさく渋滞していることで気づく人も多いです。在日韓国人や観光客もいるので気まずくなります」

浅羽 私自身も2年前に竹島の日記念祝典に参加したことがあります。そのときが安倍政権になってから初めてで、今年で3回目、毎回政務官を派遣しています。リスナーのみなさん、ちょっとしたクイズですが、「島根県の竹島」ということをどれくらいの人が知っていると思いますか?

実は6割の人しか知らないんですね(内閣府政府広報室「『竹島に関する世論調査』の概要 」2014年12月25日)。「島根県の竹島」どころか、場合によっては島根県と鳥取県の位置関係すら危ういというのが現状です。枕詞のように繰り返し報道されても、これだけの認知度しかない。「沖縄県の尖閣諸島」にいたってはなんと5割台です(内閣府政府広報室「『尖閣諸島に関する世論調査』の概要 」2014年12月25日)。

島根の人たちからすると、日本にとって同じ領有権紛争である北方領土に関しては政府が毎年式典を行い、首相も参加しているのに、竹島はほったらかしだという不満というか悲哀があります。

自民党は2012年の衆院選の公約では、政府主催で式典を行い、大臣も参加、場合によっては首相も参加することを掲げていました。ところが、政権に就いて13年の参院選、14年の衆院選になると、「検討する」にトーンダウンし、実際は島根県主催の行事に政務官を派遣するだけという状況です。

他方、国際社会に対する発信を強化するとか、領土教育を行うとか勇ましいことを言っている。島根からすると、せめて北方領土と同じように扱ってほしい。その思いが竹島の日制定の大きなきっかけになりました。

荻上 自治体レベルではそうでも、住民には「あれ今日だっけ?」という意識もあり、グラデーションが様々にある可能性がありますよね。

浅羽 実利的な部分は漁業で、昔はアシカを捕りに行っていたという人がまだご存命で、学校教育などの場でそうした記憶が継承されています(たとえば「杉原由美子氏による絵本『メチのいた島』読み聞かせ」)。ただ、そうはいっても、切実なのは漁業関係者だけですので、シンボルに反応する層とは温度差があるのは当然です(「国境地域に生きる生活者の視点」を全面的に打ち出した地方紙同士のコラボ企画、琉球新報・山陰中央新報『環りの海  竹島と尖閣 国境地域からの問い』がオススメです)。

果敢にシュートを

荻上 日中韓外相会談が行われ、岸田外務大臣が韓国の尹炳世外相と会談を進めていくということですが、この会談はどうなると思われますか。

浅羽 日中韓外相会談は首脳会談に格上げすることを探る会談ですね。ですので、外相が会うこと自体よりも、首脳会談を実現させることができるのかが鍵です。

ポジティブな面は、3カ国の外相会談の脇で、日韓・日中が個別にも会うということです。日中首脳会談も、北京で開かれたAPECというマルチ(多国間)の会合の時に、ホストの習近平国家主席がその脇でバイ(二国間)の首脳会談を行うというかたちをとりました。

首脳同士がバイでは会えないのは異常な事態です。とりわけアメリカからすると、同盟国同士の対立が続くということになるわけで、関係改善に向けたプレッシャーを双方にずっとかけています。

それとの兼ね合いの中で、朴大統領としては、日中韓首脳会談に格上げされた時に、その脇で安倍総理と個別の会談をするのが一番応じやすいかたちなのは間違いありません。

荻上 朴大統領が安倍首相と会った場合、彼女の国内での立ち位置は変化するのでしょうか?

浅羽 日韓首脳会談の実現には、慰安婦問題における日本による誠意ある措置という前提条件を自ら付けていますので、何も進捗がないのであれば、朴大統領としては動きづらい状況です。

日本だけではなく、北朝鮮に対しても、自ら掲げた原理原則から一歩も動かないというのが彼女の一貫したスタンスで、それが国内で評価されているという面もあります。

それとは別に、日中韓の3カ国で会った場合、中国とは個別に会談するわけですから、日本だけ会わないというわけにはいけません。首脳外交の国際慣行に反します。

ですから、条件が満たされなくても、会わざるをえなかったのだと国内向けに説明する余地を残してあげる、そういうかたちで条件を付けさせずに会談を実現し、関係がそれなりに正常化したようにすることを日本としては狙えるのです。

荻上 今後、政治的な決着がつくのか、つかずに数十年経ってうやむやになってしまうのか。現実的に、どのような落としどころになるのでしょうか。

浅羽 相手の存在の重要度が互いに落ちていて、一般の人々は特に関心がないわけです。マイクを向けられた場合は、「独島は韓国領である」とか「慰安婦問題はけしからん」と答えますが、普段こうした問題はほとんど意識しない。そうなると、強い意志をもって解決に向けて行動を起こす人が出ないと、現状が続きます。

しかし、現状維持は日本にも、韓国にも、国際社会全体にも、望ましくない。近江商人ではありませんが、「三方良し」のビジネスになるように、どのように現状を打開できるのか。1人だけではとてもできません。日本だけがゴールを設定して、そこにシュートを決めるというのは無理なプレイです。

そうではなく、日韓が一緒にサッカーをして、審判も観客もいる中で、ルールを遵守しフェアプレイを競おうと呼びかけるのが効果的ではないでしょうか。

荻上 フェアプレイを続けてきたという実績を示しながら、フィールドを見ている周りにもアピールをして、呼びかけていくという様々な多方面の外交が問われてくるというわけですね。

浅羽 ルール破り、ラフプレイをする側が批判されるわけです。フェアプレイをして、果敢にゴールに向けてシュートを打つというのが評価されるわけだから、我々もそうしたプレイヤーでありたいですね。

日韓ともに問題の解決に向けて行動する。ゴールポストの枠の中に入るかどうかはともかく、果敢にシュートをするチームの方が観客には望ましく映るのではないでしょうか。

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プロフィール

浅羽祐樹比較政治学

新潟県立大学国際地域学部教授。北韓大学院大学校(韓国)招聘教授。早稲田大学韓国学研究所招聘研究員。専門は、比較政治学、韓国政治、国際関係論、日韓関係。1976年大阪府生まれ。立命館大学国際関係学部卒業。ソウル大学校社会科学大学政治学科博士課程修了。Ph. D(政治学)。九州大学韓国研究センター講師(研究機関研究員)、山口県立大学国際文化学部准教授などを経て現職。著書に、『戦後日韓関係史』(有斐閣、2017年、共著)、『だまされないための「韓国」』(講談社、2017年、共著)、『日韓政治制度比較』(慶應義塾大学出版会、2015年、共編著)、Japanese and Korean Politics: Alone and Apart from Each Other(Palgrave Macmillan, 2015, 共著)などがある。

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荻上チキ評論家

「ブラック校則をなくそう! プロジェクト」スーパーバイザー。著書に『ウェブ炎上』(ちくま新書)、『未来をつくる権利』(NHKブックス)、『災害支援手帖』(木楽舎)、『日本の大問題』(ダイヤモンド社)、『彼女たちの売春(ワリキリ)』(新潮文庫)、『ネットいじめ』『いじめを生む教室』(以上、PHP新書)ほか、共著に『いじめの直し方』(朝日新聞出版)、『夜の経済学』(扶桑社)ほか多数。TBSラジオ「荻上チキ Session-22」メインパーソナリティ。同番組にて2015年ギャラクシー賞(ラジオ部門DJ賞)、2016年にギャラクシー賞(ラジオ部門大賞)を受賞。

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