米国ユダヤ社会で強まるイスラエル批判――新時代のロビイング組織

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実際、今年3月の選挙を含め1990年代以降のほとんどの国政選挙で、リクードを筆頭とする右派政党が全議席の3分の1以上を確保し、連立政権の中枢を担ってきた。一方、かつてイスラエル政治の中核だった労働党に代表される左派や中道左派政党の議席数は低迷を続けている。

 

右傾化や偏狭な民族主義の台頭を促しているのは、テロやロケット攻撃などの脅威に絶えず曝されていること、占領や入植活動、過剰な軍事力の行使などが常態化し、占領地での人権問題も「安全のために仕方がない」といった風潮が強まっていることが指摘できる。さらに過激な宗教ナショナリストが増大していることも要因となっている。

 

イスラエルの「ユダヤ性」を重視する偏狭な民族主義の拡大と、リベラルな民主主義の擁護という基本的な価値観の対立が端的に示されたのが、「基本法:ユダヤ民族国家」という法案の取り扱いだった。(注)

 

(注)イスラエルは憲法を持っておらず、その代わりとして通常の憲法の各章に当たる個別の基本法を制定・適用している。

 

この法案はイスラエルをユダヤ人の民族国家であると規定しようとするものだ。法案をめぐっては、民主主義や平等の原則を法案に盛り込むか否か、盛り込むとすればどのような規定にするかなどについて連立与党内でも意見が対立し、2014年12月の国会解散の直接の契機となった。

 

同法案は米国ユダヤ社会にも大きな波紋を引き起こし、反誹謗同盟(ADL)や米国ユダヤ委員会(AJC)など主流のユダヤ団体は、イスラエルの民主主義原則を危うくすると批判した。一方、右派組織は法案を支持し、伝統的な米国ユダヤ団体の間にも立場の相違があることを明確にした。ただ全体的に見れば、米国ユダヤ社会では法案に批判的な意見の方がずっと多かったといってよい。

 

ニューヨークのユダヤ教神学校の校長が2014年11月に出した「イスラエルはアラブ人や他のマイノリティを二級市民に追い落すべきではなく、民主的なユダヤ国家としての性格を維持すべきだ」との声明は代表的な批判の声だった。

 

 

イスラエル批判と若者

 

米国ユダヤ社会で顕在化しつつあるイスラエルへの批判は、若者たちの間でいっそう強い。例えば2014年夏のガザとの間の軍事衝突の際のイスラエルの軍事行動に対し、80%とほとんどの米国ユダヤ人は支持を表明した。ただ世代別にみると「支持しない」との回答は、40歳未満では29パーセントと、40歳以上の18パーセントをかなり上回っていた。

 

米国ユダヤ人で自らをシオニストと位置付けながら、イスラエルの占領政策と、その占領政策を批判しない米国ユダヤ社会の伝統的な主流派を痛烈に批判し続けているのが若手ジャーナリストのピーター・ベイナートだ。

 

彼によれば、旧い世代が強調するユダヤ人迫害の物語を若い世代は共有していない。むしろ若い世代の目には、「ユダヤ人は犠牲者だ」という旧世代の言説と、イスラエルによる占領の継続や人権侵害という現実とは明らかに矛盾していると映る。その結果、若者はイスラエルにより批判的になっているという。

 

若者を中心にイスラエルに批判的な見方が広がっていることに関し、米国ユダヤ社会の動向を調査している社会学者セオドア・サッソンは近著『新しいアメリカのシオニズム』で、インターネットの普及などでイスラエルに関する情報量が米国内で大幅に増えたことを指摘している。

 

彼によれば情報が多くなった結果、イスラエルでの政治腐敗や兵士の戦争犯罪、社会的格差の増大、非ユダヤ人や非正統派ユダヤ教徒に対する差別など、イスラエルの負の側面が米国でもより知られるようになった。そのため米国ユダヤ社会内でイスラエルを見る目に違いが生じ、特に若い世代で批判が増しているという。

 

 

アイデンティティをめぐる対立

 

米誌『アトランティック』は今年5月、オバマの長文のインタビュー記事を掲載した。インタビューでオバマは、イラン核問題の外交的な解決とパレスチナ問題の二国家解決案による解決こそが、イスラエルの安全を確保すると強調した。

 

さらにオバマは、イスラエル政府の政策を批判するとすぐに「反イスラエル的」、さらに「反ユダヤ的」というレッテルを貼られてしまう風潮を、イスラエルが掲げる民主主義の原則に反すると強く批判している。ネタニヤフ政権やAIPACなどの米国イスラエル・ロビー主流派、さらに共和党が繰り返しているオバマ非難に、これほど率直にオバマが反論していることも珍しい。

 

かつて多くの米国ユダヤ人は、「ユダヤ国家」と民主主義の両立は自明のことと受け止めていたか、あるいはそう信じていた。しかし、イスラエル社会の右傾化が顕著になるにつれて、米国ユダヤ社会ではこの見方に揺らぎが生じている。もっといえば、イスラエルと米国の2つのユダヤ人社会の間に、根本的な価値観やアイデンティティをめぐる対立が生じている。

 

それに拍車をかけたのが、共和党と手を組んでイラン核問題で強硬姿勢を貫こうとするネタニヤフの政治手法だった。米国ユダヤ社会の多数派から見ると、ネタニヤフの強硬姿勢は自分たちが支持しているオバマ政権、さらに民主党に対する攻撃と映っている。

 

今年3月の選挙戦最終盤でネタニヤフは「アラブ人が大挙して投票する」と述べ、アラブ系有権者の選挙参加を危険視するユダヤ系有権者の危機意識を煽るような発言をした。思わず本音が出たということだろう。

 

これに対し米国ユダヤ社会内からも「反民主的」という批判が上がった。社会学者でニューヨーク市立大学教授のサム・ハイルマンはイスラエル紙『ハアレツ』に、選挙でリクードなど右派が勝利した結果を受けて、リベラルな米国ユダヤ人の多数は「ますますイスラエル政治に違和感を覚えるだろう」と述べている。

 

(本稿は拙論「米国ユダヤ人の対イスラエル観の変化と新しいロビー組織J Streetの活動」『中東レビュー』2014-2015年Vol.2をもとにしている。)

 

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