経済が減速する中、言論弾圧を強化!?――経済と思想から「中国」の今を読み解く

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「右派」と「左派」のねじれ

 

荻上 いま、中国の国内の言論状況はどうなっているのですか。

 

梶谷 中国の言論状況はまず「右派」と「左派」という大きな枠組みでくくれます。ただそこでややこしいのは、中国における右派と左派は、日本における左翼と右翼とかなり違うという点です。

 

たとえば、「人権派」は日本だとどっちかというと左派とリベラルですよね。対照的にナショナリズムを全面的に押し出す立場が右派、保守派と言われます。しかし、中国だといわゆる「人権派」は右派に分類されます。

 

 

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表:中国の右派と左派・対立の構図
出所:「図解:中国政治における左派VS右派」(徐友漁・遠藤乾・川島真・石井知章・鈴木賢『文化大革命の遺制と闘う-徐友漁と中国のリベラリズム』社会評論社、2013年)を参考に筆者作成。

 

 

荻上 これは、共産主義体制だからねじれているのでしょうか?

 

梶谷 たとえば人権について考えると、大事なものの中に財産権がありますよね。人権を守ることと財産権を守ることと不可分です。個人の財産権の不可侵性を主張することは、資本主義を擁護することにつながります。ですので、資本主義に反対する左派からはむしろ、人権の大切さを強調する人物は批判され警戒されるのです。

 

荻上 つまり左派は共産主義的かつ、愛国主義になってしまって、右派の方は西洋とは違って愛国をむしろ批判するスタンスになっている。

 

梶谷 国際協調や普遍的な価値を大事にするのが「リベラル」な立場ですが、中国の文脈だと右派になってしまいます。

 

荻上 つまり、左派の方が歴史修正を行うことに肯定的になってしまう状況が生まれている。共産主義体制だと右派が在野で民主化を促そうとしている点が日本とは違いますね。

 

 

中国の憲法と日本の憲法は似ている!?

 

荻上 中国の憲法はどのようになっているのですか。

 

梶谷 中華人民共和国憲法は、中国の建国後、1954年に最初の形ができあがりました。当初は、その条文の中に「人権」のような文言は一切ありませんでした。なぜなら人権はブルジョア民主主義の産物であり非常に警戒されていた。憲法の前文には、中国国民はマルクス主義、毛沢東思想、鄧小平理論などに導かれるべきことが記されています。しかし、経済の自由化が進む中で、中国の憲法も少しずつ人権思想など西側の概念を取り入れて改正されています。

 

荻上 ですが、憲法が守られているとは言いがたい社会状況でもありますよね。

 

梶谷 社会運動をする側も、これまでは民主化の主張や、共産党一党主義を批判するのはリスクが高いので、「立憲主義」を前面に出して政府を批判してきた経緯があります。でも、お話したように、今はそれすらも政府による警戒の対象になっています。

 

荻上 2010年にノーベル平和賞を受賞した劉暁波さんは、新しい憲法の形を構想しようとした矢先に弾圧されましたよね。それくらい憲法に対して敏感になっているのでしょうか。

 

梶谷 これまで、とくに人権派弁護士と呼ばれる人たちは法の専門家なので、法に触れないぎりぎりのところでやってきたのですが、そういう人たちが拘束されたり有罪判決を受けたりするようになってきています。

 

荻上 「あなたはこのラインを超えてしまいました」と説明なく、いきなり逮捕になるのでしょうか。

 

梶谷 説明はないですね。なにがアウトなのか、市民の側で推し量らなければいけない。

 

荻上 自民党の憲法改正案と中国憲法が似ているという指摘もありますが、どうお考えになりますか。

 

梶谷 もともとの成り立ちが違うので単純に比較することには慎重であるべきですが、自民党の憲法草案のいくつかの条文は、確かに中国の社会主義憲法と発想が良く似ている点があると思います。

 

一つは、自民党の憲法草案の家族観です。たとえば、前文で「和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する」とあり、24条には「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない」とあります。家族の助け合いを国民の「義務」として明記する発想は現行憲法にはないものです。

 

それとそっくりな条文が中華人民共和国憲法の第49条にあります。「父母は、未成年の子女を扶養・教育する義務を負い、成年の子女は、父母を扶養・援助する義務を負う。」と書いてある。要するに家族で助け合いなさいということですね。

 

荻上 共産主義の理念とは反していると感じるのですが、現在の中国の憲法になっているのですね。

 

梶谷 伝統的な儒教による統治の概念を反映しています。中国共産党は社会主義政党であると同時に、ナショナリズムに支えられた政党でもあります。ですから、中国固有の価値観が憲法にも盛り込まれているのでしょう。

 

また、現行の日本国憲法では、人権を制限するのは「公共の福祉」だとされています。でも、自民党の憲法草案では、「公益及び法の秩序」に反してはならないとされています。現行憲法だと、人権同士が矛盾する場合には制限が加えられる、という含みを持って「公共の福祉」という言葉が用いられていますが、「公益及び法の秩序」だと政府のやることに反してはいけないのか、と解釈の余地が広がってしまう。

 

荻上 自衛隊の救助の部分でも、自衛隊は公益のために活動できると書かれているので、自衛隊の活動と一般の権利を比較すると、自衛隊の活動の方が優先されるという解釈もできるかもしれない。

 

梶谷 解釈の可能性はあるでしょうね。一方中国の憲法51条では、「中国公民は、その自由及び権利を行使するに当たって、国家、社会及び集団の利益、並びに他の公民の適法な自由及び権利を損なってはならない。」となっています。重要なのは、「国と社会及び集団の利益」と書かれている点です。

 

荻上 「国と社会及び集団の利益」は一言で言うと、「国益」ですよね。たしかに言われてみれば似ていますね。このような類似はどうして起こると思いますか。

 

梶谷 端的に言うと社会を上から望ましい方向に統治していこうという中国共産党の発想が、日本の憲法草案をつくった人たちと似ているのでしょうね。

 

荻上 新たに社会を設計するための強大な力が必要だという設計主義的な発想を権力者はどうしても欲しがってしまう。

 

梶谷 自立的な市民社会に信頼を置くよりは、エリートからなる官僚組織が社会を動かした方がいい、という発想が両者に共通しているように思います。

 

荻上 今後の中国の社会的な動きの注目ポイントはどこでしょうか。

 

梶谷 外国からの干渉・批判によって中国を変えていこうとする動きには将来性がないと思っています。天安門事件の後に知識人が海外に亡命して現在でも中国の体制と社会を批判するような言論活動を積極的にやっていますが、やはり海外に出てしまうと影響力がない。

 

もし、社会を変えていく動きがあるとすれば、一般の人々が住む地域や暮らしに直結した問題を解決するための、草の根レベルの住民運動が成熟して力を持つことでしょう。

 

荻上 経済の面でひずみが出てくると、より不満が高まって、市民運動が加速する可能性がありますよね。だからこそ、いま言論弾圧が強まっているのですか。

 

梶谷 いま、政権が一番恐れているのは、そういった運動が大衆を巻き込んで制御できなくなることです。運動とは違いますが、2012年の尖閣問題によっておこった反日デモ・暴動も政権はうまく制御できませんでした。同じようなことを繰り返したくないのでしょう。

 

荻上 今後も中国の動きをみていくことが必要ですね。今日はありがとうございました。

 

 

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