東アジア国際関係をどう読み解くか

2015年4月に開設された新潟県立大学大学院国際地域学研究科(研究科長・山本吉宣)は、平成26年度に引き続いて、平成27年度もシンポジウム「東アジア国際関係をどう読み解くか」を2016年2月20日に開催した。

 

木村幹(神戸大学大学院国際協力研究科教授)、三浦瑠麗(東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員・当時、現在は同講師)、平岩俊司(関西学院大学国際学部教授)、細谷雄一(慶應義塾大学法学部教授)という4名の第一人者が、「韓国の政治外交」「日本の政治外交」「朝鮮半島をめぐる国際政治」「アジア・ヨーロッパ関係史」という異なる視座を示す。私たちはそこから複数の補助線を引くことで、立体像を切り結ぶことができるはずだ。

 

リソースの新結合(イノベーション)で差がつく時代、新潟県立大学はインフォメーションの追加ではなく、インテリジェンス(読み解き方)のアップデートを追究し、今後も社会に提供していく。(文責 浅羽祐樹・新潟県立大学大学院国際地域学研究科教授 sponsored by 新潟県立大学)

 

 

報告1 「韓国の政治外交」という視座/木村幹

 

写真(報告1)

 

 

神戸大学の木村幹です。私に与えられた課題は「日韓関係」ですが、今日はデータをお見せしながら、大まかに日韓関係、特に韓国の政治がどのように見えてくるのかをお話いたします。

 

ご存知のとおり、この数年、日韓関係は悪い状態がずっと続いてきました。昨年12月28日は日韓の慰安婦合意がありましたが、それをきっかけにしても経済や社会の協力が劇的に進んでいる状況にはありません。

 

先日、自民党本部で講演をしてきました。最近は朝鮮半島の話を政治家の皆さんの前でしても非常に集まりが悪いんですね。しかし中国関係の話になるとたくさんの人が集まる。報告するのが僕だから、という問題はもちろんあるのですが、それ以前に政治家、メディア、財界の中での朝鮮半島への関心がどんどんなくなってきているんです。新潟は韓国・北朝鮮に対して非常に関心がある地域なので今日もたくさんの方がお集まりになっておられますが、東京や僕が住んでいる神戸では、関心がだんだんなくなってきていて、「何をやっても無駄なんじゃないか」という雰囲気が流れています。

 

若い方ですと「日韓はずっと悪い関係なんだから、これからも何も変わらないんじゃないか」と考える方も多いと思います。しかし例えば10年前の2005年頃、小泉総理大臣の時代も日韓関係は悪かったものの、まだ期待はありました。いまみたいに「慰安婦合意が行われても関係は改善しない」という雰囲気はなかったんですね。

 

当時は、大きく二つの期待があったと思います。ひとつは、当時、日本は小泉総理大臣で、韓国は盧武鉉大統領でしたが、どちらも若者用語でいうところの「キャラが立っている」、つまり特異なキャラクターな人物だとみなされていました。「小泉・盧武鉉が変わった政治家だから、こういう状況になっているんだ。政権交代が起これば日韓関係はよくなるんじゃないか」という期待があったわけです。そしてもうひとつの期待は、現在ほぼなくなった議論ですが、「政治的な関係はよくないけれど、社会的な交流は進んでいるのだから、長期的にはよくなっているだろう」というものです。しかしご存知のとおり、結果的にはなにもよくなりませんでした。⇒つづきはこちらから

 

 

報告2 「日本の政治外交」という視座/三浦瑠麗

 

写真(報告2)

 

 

最初に「慰安婦合意は本当に日韓関係改善のきっかけになるのか」というテーマでお話いたします。

 

まず今回の合意の中身をみていきましょう。「慰安婦」の人たちを強制的に連行したと主張している韓国の方々の意見に対して、政権としては「軍の関与の下」という強制性について玉虫色にどうとでもとれる表現を取りました。そして、総理による心からのお詫びと反省の気持ちを表明し、アジア女性基金と額としてはほぼ変わりない10億円を一括して拠出する。つまり、日本が具体的な事業を担うというよりは、単に「お金を一括でお出ししますよ」という話になっていたわけです。また日韓相互が批判合戦をすることはやめようという約束、韓国政府がソウルの日本大使館前に置かれている慰安婦像を撤去する努力を行い、最終的かつ不可逆的に解決しよう、と両政府が合意した、というものです。これは、問題の解決に関しては韓国政府に下駄を預けるかたちになっています。国内ではこの認識はあまり広まっていないようですが、外交戦術的には日本に有利な合意でした。

 

さて、合意は行いました。あとは実行すればいいのですが、ここで気をつけなくてはいけないことは、政府間の合意と国民の理解をごっちゃにしてはいけない、ということです。さきほどお話した「日韓相互による批判をやめる」というのは、政府関係者による批判合戦を指すものであって、何らかの目的をもって活動されている民間の市民や団体の、政府とは関係のない行動を規制するものではありません。

 

この合意については、すでに強制性をめぐる同床異夢が早くも露呈し、さらに韓国の内政上、実際に履行できるのかも怪しくなってきています。さらには、ご健在の慰安婦の方々の処遇だけでなく、慰安婦問題をめぐる批判、検証、記憶をどのように行い、歴史上記録していくのか。人々の考えが異なる中で、その点は詰められることはありません。

 

もう一点指摘したいのは、韓国側の努力義務にすぎなかった慰安婦像の撤去について、韓国側が義務履行できないのではないか、という批判が1月あたりから出てきました。実は、努力義務であったこの合意が、「慰安婦像を撤去してから10億円をお支払いしますよ」という順番論になった。その順番論は、日韓両政府の間で、どこまで詰められていたのか明らかでない。産経新聞はじめ保守派の一部では「だから韓国は信用ならない」という論調につながっていますが、私は日本政府の戦術ミスだと思っています。というのも、安倍総理が「慰安婦像を撤去するまでは10億円は……」というご発言をされていますが、日本政府にとっては「日本は合意を履行したのに、韓国はしていない」と見せるほうが、内政上も、外交上も賢いですよね。こうした順番論によって、日本政府も批判を受けうるかたちになっているんです。⇒つづきはこちらから 

 

 

報告3 「朝鮮半島をめぐる国際政治」という視座/平岩俊司

 

写真(報告3)

 

 

私に与えられたテーマは、北朝鮮情勢を中心に、東アジアの状況について、だと理解しています。

 

時間が限られておりますので、簡潔に3点ほどお話したいと思います。1点目は、核実験、そしてミサイル発射を行った北朝鮮をどのように受け止めたらいいのか。2点目が、北朝鮮に対する国際社会の対応、とりわけ鍵となる中国の対応について。そして最後に、こうした状況の中で日本はどのように北朝鮮に向き合うのか、という点です。

 

1点目についてですが、今回の核実験やミサイル発射については様々な分析がなされており、複合的な要素があるのだと思われます。

 

北朝鮮は今年5月に36年ぶりの党大会を開催します。党大会は金正日時代には一切開催されなかったのですが、それは前体制が危機的な状況に追い込まれていたのだろうと考えられます。金正日が権力を継承したのが1994年です。冷戦が終わり社会主義陣営そのものが崩壊し、朝鮮半島を取り巻く環境は、北朝鮮にとって不利な状況となりました。その中で、体制を維持するために金正日総書記は軍と一体化し、先軍政治というかたちをとってきた。おそらくこれが彼らの説明になるのだと思います。

 

現在は、そうした状況にようやく区切りがついて、従来の姿に戻そうとしている。それが三代目最高指導者の位置づけになるでしょう。金正恩政権はすでに発足から4年が経っています。成果が求められていく中で、アメリカに対する打撃力を手に入れたということを証明する方法として、核実験やミサイル発射が行われた。この行動が、交渉のカードとして行われたのか、それとも核ミサイルが目的なのか、という議論があります。しかしわれわれは、アメリカと北朝鮮が交渉する際に、「核を放棄させる」という選択肢があるように思いがちですが、北朝鮮からすれば、自らを核保有国であることをアメリカに受け入れさせることが交渉です。交渉すること、そしてミサイル能力の向上は、彼らの中では矛盾しないものなのでしょう。

 

南北関係がうまくいかなかったから、あるいは中国と北朝鮮の関係がうまくいっていないから核実験を強行したという分析があります。それは間違いではないと思いますが、核実験やミサイル発射は「やれ」と言われてすぐに準備できるようなものではありません。恒常的に核実験、ミサイル発射の準備は進められていたと考えるべきなのだろうと思います。それが明示的に行われるタイミングというのは、北朝鮮国内の情勢や国際環境に左右されるのでしょう。

 

残念ながら、国際社会の働きかけがあったにもかかわらず、北朝鮮は常に核ミサイルの能力を向上させようと思っている。これを後戻りさせるのはなかなか難しいでしょう。もちろん放棄させることを諦めてはいけませんが、北朝鮮は憲法の中に核保有国であることを書き込んでいるくらいですから、やはり相当難しいのだろうと思われます。⇒つづきはこちらから

 

 

報告4 「アジア・ヨーロッパ関係史」という視座/細谷雄一

 

写真(報告4)

 

 

慶應義塾大学の細谷です。今日は、他の先生方とは違った視点で東アジアの国際関係を考えたいと思います。

 

新潟県立大学が新しく大学院を作られたということで、新潟県という場所で国際関係を考える方が増えるのはたいへん嬉しいことです。いま世界は流動化しています。また、これまでわれわれ日本人は、国際政治をある意味ではあまり真剣に考えなくてもよい時代におりましたが、それが変わりつつあります。

 

冷戦時代、国際政治は非常に静的で固定的なものでした。つまり世界は東西対立の中で分断されており、日本が何かしても、あるいは何もしなくても、この状況に大きな変化が起きる可能性は少なかったんですね。しかし現在、毎年のように情勢が変わっています。「イスラム国」の問題をめぐってシリアは大変な状況になっています。そして多くの難民が国外に出ており、ヨーロッパでは大きな問題になっています。

 

日本は今年、伊勢志摩サミットを主催します。議長国として難民問題にどのように取り組むのか。また7月は国連安保理の議長を務める議長月でもあります。その際に北朝鮮が今回のような核実験やミサイル発射実験のような挑発的な行動を取ったとき、日本はどのような態度を取るのか。抑制的であるべきか。強い制裁を行うべきか。日本人であるわれわれ自らが世界秩序の変化を理解し、主体的に何らかの見解を示す必要があるわけですね。日本は民主主義国です。指導者や政府が出す意見に対して、われわれ一人ひとりが、選挙などで賛否を表明することになる。このように現代は、われわれ一人ひとりが国際政治を考えなくてはいけない、難しい時代になってきているのです。

 

なぜ難しい時代になっているのでしょう。そして時代の変化の性質はどのようなものなのでしょうか。

 

過去200~300年にかけて国際政治の中心は大西洋、ヨーロッパが中心でした。ヨーロッパの大国がどのような行動を取るかが、そのまま世界全体の国際政治に影響を及ぼしていたんですね。冷静時代においては、アメリカとソ連という超大国が大西洋をまたいで向き合っており、弾道ミサイル、核ミサイルの抑止のもとで、安定的な体制を維持してきたわけです。

 

かつて大西洋、ヨーロッパは国際政治の中心でした。しかし現代は、太平洋、アジアが中心となっている。そして意図せず、好まずして、日本がその最前線に立っている。米軍の基地が日本にあります。アメリカと中国が向き合う中で、日本は緊張の一番前にいます。たとえ日米同盟を破棄したとしても、中国の活発な海洋活動のもとで日本は緊張の中に日々晒されることになります。北朝鮮も同様です。分断が続いている中で、目と鼻の先で緊張状態が続く中、日本政府は何らかのかたちでこの地域の安定を作る努力をしなくてはいけません。

 

つまり、日本は否応なく現代の国際政治の最前線に立たされ、主体的に問題の本質を考えなくてはいけなくなっているんです。 ⇒つづきはこちらから

 

 

パネルディスカッション 「東アジア国際関係をどう読み解くか」

 

写真(パネルディスカッション2)

 

 

浅羽 これより、本日ご講演いただいた先生方によるパネルディスカッションを行います。司会を務めさせていただくのは新潟県立大学大学院国際研究科の浅羽祐樹です。よろしくお願いいたします。

 

会場の皆さまは、先生方のご講演を聞かれて、「東アジアの国際情勢はいよいよ難しい」と思われたのか、あるいは雲がパッと晴れて見通し、見晴らしがよくなったのか、どちらでしょうか。このシンポジウムを企画した趣旨は、先生方にそれぞれ異なる視座を提示していただくことで、会場の皆さまお一人おひとりがその4つの補助線を引くことによって、複雑怪奇な東アジア国際関係について立体像として結んでいく契機にしたいというものでした。

 

私は、昨年末の日韓の慰安婦合意について、日韓関係だけでみていると、狐につままれたような、唐突な印象を持っていました。しかし今日最初に木村先生から韓国の事情を伺い、次に三浦先生から日本の事情を伺ったことで、視線をクロスさせ、慰安婦問題に関する合意がなぜ行われたのか、日韓それぞれだけをみているときよりも理解を深めることができました。その後に平岩先生から北朝鮮をめぐる朝鮮半島の話を伺って、日韓関係だけでなく、日朝、日米韓、韓米中、米中など異なる枠組みを重ね合わせてみることで国際関係がさらに立体感のあるものとして浮き上がっていくことを感じました。そして最後に細谷先生にヨーロッパとの比較、あるいはルイ16世の時代からの国際秩序の変容についてお話いただいたことで、「東アジア国際関係、2016年」のイマココの独異性が明確になったのではないか、と思っています。4人の先生方、企画趣旨にキレイに沿っていただき、お礼申し上げます。

 

さて会場からご質問をいただいております。細谷先生のご発表の中で、力の均衡が崩れている、とりわけ中国との間で軍事バランスが崩れているというお話がありました。それに加えて、通常兵力では韓国が優位に立っているという木村先生のお話もありましたが、北朝鮮が核ミサイルを開発していることで核をめぐる均衡が崩れてしまっているのではないか。それが故に、韓国の中では独自に核を持とうとする議論が生じていますし、あるいは90年代に一度撤退したアメリカの戦術核を再導入しようとする議論も出てきています。他方、日本ではそうした議論が今のところ出ていません。日韓それぞれに対するアメリカの安全保障のコミットについて、日韓両国の認識にギャップがあるからではないか、というご指摘をいただいています。

 

アメリカのコミットメントという問題について、先生方はどのようにお考えなのか、ご登壇の順にお伺いいただけますでしょうか。⇒つづきはこちらから

 

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