グルジア紛争から3年 交錯するグルジアとロシアの内政・外交事情 

グルジア紛争から3

 

2008年8月8日、グルジアが南オセチアに侵攻したことに対してロシアが過剰ともいうべき攻撃をおこなった「グルジア紛争」(本来、これは国家間のれっきとした戦争であるが、日本では「グルジア紛争」と呼ばれることが多いので、本稿でも便宜的に「グルジア紛争」と呼ぶことにする)から3年が経った。

 

同紛争は、当時のEU議長国フランスのサルコジ大統領の仲介によって、5日で停戦を迎えた。だが、アブハジア、南オセチアの独立をロシアが承認し(その他、両国をベネズエラ、ニカラグア、ナウルが、アブハジアをバヌアツが国家承認している)、両地域の「未承認国家」的状況が強まり、グルジアとロシアの関係はむしろ緊張を強め、現在も「冷戦」がつづいている。

 

今年の8月8日、南オセチアの「首都」ツヒンバリには市民数千人が集まり、最初の迫撃砲攻撃がはじまったとされる7日午後11時半すぎに蝋燭を掲げて黙祷をささげた。

 

ロシアのメドヴェージェフ大統領は8日、スペツナズ(特殊任務部隊)を訪問しその労をねぎらうとともに、南オセチアとアブハジアにロシアの軍事基地を設置する条約の批准を下院に要請、両地域への影響力強化の姿勢を鮮明にした。その内容は、リース料なしにロシアが重装備の3800人規模の軍隊を設置するというものだ。期限は49年間とされているが、合意は自動的に延長されるため、無期限となる可能性も高い。

 

メドヴェージェフの批准要請は政治的パフォーマンスの色合いがきわめて濃い。現在、ロシア議会は9月まで休会中であり、それまで批准のプロセスは進まないからだ。グルジア紛争が開始された3年後のその日に、そのような行為を行ったことに意義があるのだ。そして、メドヴェージェフの動きを受けて、南オセチアのココイトィ「大統領」は同日、基地協定の批准要請を歓迎するとともに、グルジアのサアカシュヴィリ大統領がハーグの国際刑事裁判所で「人道に対する罪」で裁かれるべきだと主張した。

 

 

国内政治にグルジア紛争を利用する両国?

 

グルジア紛争から3年が経ったいま、両国の戦争は、再発してもおかしくないとつねづねいわれてきたが、結局紛争の再燃は少なくとも現状では起きていない。その一方で、グルジア、ロシア両国は同紛争を国内政治に利用しようとしているようにみえる。

 

グルジアでは7月にロシアに情報をリークしていたとされるカメラマン4人が逮捕された。これで、この3年間に、スパイとして逮捕された人数は約50人となった。逮捕の背景にはグルジアで論争となっている法律がある。保安機関が、スパイ行為の詳細を明らかにすることなく、「自白」にもとづき有罪判決を導くことができるという法律だ。

 

法律の撤廃を求める声は少なくなく、今回の逮捕に際しても、逮捕事由の詳細が明らかにされなかったため、グルジアの人権活動家のみならず、国際的な批判が多く寄せられた。そのため4人のカメラマンに対しては3~4年の執行猶予が言い渡されている。グルジアでは、同様のニュアンスで、反体制派が逮捕されている例も多々あり、グルジア政府がロシアとの対立を根拠に、国内の締め付けを強化している様子もうかがえる。

 

しかし、同紛争の国内政治への利用は、大統領選挙を2012年3月に控えたロシア側に、より顕著だ。そこからは、大統領選挙を控えたメドヴェージェフと、大統領への返り咲きの可能性が強く示唆されているプーチン首相との対立関係もみてとれる。

 

すなわち、グルジア紛争勃発の背景としては、米国との対抗関係がとくに強くみられるものの(ただし、この背景は単純ではなく、国内レベル、二国間レベル、地域レベル、米ロ関係を中心とした国際レベルという、4つのレベルからの分析が必要である。詳細は、文末に記した拙著を参照されたい)、現在においては、グルジア紛争はロシアの国内政治において強い意味合いをもつようになってきたといえそうだ。具体的に内容をみていこう。

 

 

 

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vol.2019.4.15 

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