中国におけるネット世論の勃興と民主主義

削除とコピー&ペーストのいたちごっこ

 

中国をめぐる激震が止まらない。尖閣諸島事件につづいて、劉暁波氏へのノーベル平和賞受賞、さらに五中全会での新指導部決定など、大きな事件が相次いでいる。

 

劉暁波氏の受賞は、つい最近まで、中国国内の既存マスメディアでは報じられていなかった。六四(第二次天安門)事件の際の著名な活動家であった氏が、最近ふたたび注目されたきっかけであり、また逮捕されている理由でもあるのは、2008年にネット上で発表された民主化要求声明「零八憲章」だった。

 

この「零八憲章」も、既存マスメディアではほぼ何も報じられず、またネットで検索できない検閲対象語だった。大多数の中国人がその存在を知ったのは、政府系メディアで受賞後の劉氏に対するネガティヴ・キャンペーンが本格化してからのことだろう。

 

中国のマスメディアは政府の情報機関の統制下にあり、情報の流通は西側諸国などと比べればはるかに制限されている。しかしながら、いかに既存マスメディアを規制しても、またネット上で「金盾」ファイヤーウォールを構築しても、それを飛び越えるかたちで各種の情報が漏れ入ってくるのは避けられない。

 

とくに、インターネットのリテラシーが高い、都市部の若年層にとっては、すでに既存マスメディアよりもインターネットの情報の方が正確であるという意見が多数派になっている。BBSやブログへの書き込みなどのうち「政治的に敏感」なものは、当局の指導による削除と、コピー&ペーストによる増殖が、いたちごっこで繰り返されている。

 

こうした動きを加速させたのがツイッターであることも、だんだん日本で報じられるようになってきた。ツイッターは2009年から、フェイスブックやユーチューブなどとともに、中国国内からは基本的にアクセスできないウェブサービスとなった。

 

 

「VPN租界」としてのツイッター

 

先日、客員研究員をつとめさせて頂いている国際大学GLOCOMにて、とくにツイッターを駆使したネット上のオピニオン・リーダーのひとり、安替(Michael Anti)氏の講演会に参加する機会があった(10月21日)。

 

ツイッターはAPIを開放しており、サードパーティのアプリケーションが多数存在する。公式サイトをブロックされても、リテラシーの高いユーザならば、VPNサービスなどを使って侵入する手段がいくつも存在する。一度ブロックしたサイトは、もうブロックすることはできない。そしてブログや掲示板は削除もできるが、ツイッター上で毎日莫大な数が吐きだされる140文字の「ツイート」をすべて検閲することはできない。

 

安替氏は、こうしたツイッターやネット世論が、汚職や不正逮捕を暴き出し、大衆的抗議運動を呼びこんで改善させた実例を豊富にあげた上で、とくにツイッターを、民国期に自由な言論がおこなわれていた租界になぞらえて「VPN租界」と表現した。

 

 

中国ネット世論への働きかけ

 

報告のなかでとくに重要だったのは、在北京アメリカ大使館が、ブロガーやツイッターユーザのうち著名な人びとを集めた会合を、定期的に行っているという報告だった。そのなかには、北京五輪前後、各国での聖火リレーとチベットでの騒乱に関連し、中国を批判する西側の報道の事実誤認を細かく指摘していた「Anti CNN」という有名なサイトの管理者も含まれている。つまりアメリカに対して批判的なネット論者もそうでない論者も区別なく、大使館がわざわざ招聘し、忌憚のない意見交換をしているという。

 

それだけではなく、改革的な言論を行う論者を集めた討論会を定期的に開催している西単の書店「三味書屋」にアメリカ大使が登壇し、みずから聴衆に語りかけたこともある。

 

安替氏は、中国のネット世論の政治的先鋭性と、中国においてそれがいかによい機能を果たしているかを強調していた。日本もアメリカのように、中国内のこうした新しい世論に注目し、積極的に交流したり語りかけたりすべきだという。それ自体はまったく筆者も同意見である。

 

 

 

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