原発を再稼働させる必要はない

今月5日に国内の原発全50基の発電が停止し、再稼働をめぐって慎重な議論が続いている。日本のエネルギー政策が抱える問題とは何なのか。東日本大震災以降、日本の復興と発展のため自然エネルギー推進に取り組んでいる、自然エネルギー財団理事長のトーマス・コーベリエル氏に伺った。(聞き手/環境エネルギー政策研究所研究員・古屋将太)

 

 

太陽光発電3ヶ月導入で原発10基分相当

 

―― 今日は具体的な政策の話というよりは、あなたのエネルギー政策に対する考え方についてお聞きしたいと思っています。まず、現在の日本のエネルギー政策の状況についてどういった見解をお持ちですか。特に原発再稼働問題について、枝野経済産業大臣の発言など、政策プロセスに対する信頼がほとんど失われています。

 

少なくとも、彼はいまのところ1基の原子力発電所も再稼働させてはいません。彼は震災後の政治システムの中で福島原発問題に直接関与した人物なので、その経験を政策の実行に活かす機会をもっています。そういった人物がいるというのは大事なことだと思います。

 

ただし、政策決定としては、既存の電力会社による地域独占を解体し、新規のエネルギー設備、特に自然エネルギーに投資が流れるように市場を開くことを早急におこなうことが重要だと思います。

 

また、もし原発の再稼働が許可されるのであれば、「電力会社が原発事故のコストを自らすべて支払うことができること」を条件とする法律を制定することが重要です。

 

もっというと、実際には原発を再稼働させる必要はありません。日本は原発なしでも大丈夫だと私は理解しています。平年並の夏であればもちろんのこと、追加の発電設備が必要になる猛暑になったとしても、電力需要は自然エネルギー、特に太陽光発電の急速な普及によって満たすことができます。

 

猛暑によって10基の原発を再稼働させることが必要になったとしても、ドイツが昨年12月の1ヶ月間で達成した導入量と同じペースで太陽光発電を導入すれば、3ヶ月で原発10基分を達成できます。

 

ドイツは1ヶ月(4週間)で3GWの太陽光発電を導入しました。日本でも同じペースで3ヶ月導入すると9GWの導入が可能で、これは原発約10基分に相当し、またピーク時の電力需要に対応します。

 

そのため、太陽光発電で同量の電力供給を達成できるので原発を再稼働する必要はなく、もし再稼働するのであれば、電力会社は想定される原発事故の経済的リスクをすべて引き受けることが条件にならなければなりません。

 

 

「競争力」という優れた指標

 

―― あなたはいつも「競争力(Competitiveness)」という言葉を使います。一般的には価格が安く品質の高い製品・サービスを提供する「経済的な競争力」がイメージされますが、この言葉には「技術的な競争力」や「経営的な競争力」など、他にも広い意味があると思います。また、3.11後は、世界の中でも原子力や放射能のリスクを心配する必要のない地域は、ある種の「地域競争力(Regional competitiveness)」をもつのではないかと思う部分もあるのですが、あなたは「競争力」という言葉をどのような意味で考えていますか。

 

例としてあげてもらったように、原子力や放射能のリスクを心配しなくても済むということは非常に重要なことだと思います。

 

そして、前述のように、もし原発の再稼働を許可するのであれば、電力会社は原発事故の被害者すべてに賠償金を支払わなければなりません。それはつまり、原発事故で影響を受けたすべての人々のすべての被害が電力会社によって補償されることを意味します。

 

福島原発事故によって明らかになったことは、東京電力には被害にあった人々を補償する能力がなかったということです。そのため、増大するリスクやさまざまなストレスに曝されることを、僅かな補償で受け入れざるをえない状況にあります。また、日本政府はそういった放射能のリスクに曝されている人たちを退避させることもできませんでした。

 

そのため、もし原発の再稼働を許可するのであれば、同じような大惨事が再び起こったときは、人々は同じような被害に遭い、リスクに曝されなければならないことは明らかです。そこには人々が心配するのに十分な理由があると同時に、彼らがそういったリスクを引き受けなければならない理由はありません。

 

経済的には、原因者がコストを負担するということが重要です。そして、私たちがそういった原子力のコストの分析を算入すると、誰一人として「原子力に競争力がある」などということは期待できないのです。そして、他のエネルギー源についても、環境負荷のコストを原因者が負担するという面で同じことが当てはまります。

 

そういった前提が満たされたときにはじめて「経済的競争力」は、どのエネルギー源が利用するに値するのか、また、どのエネルギー源が利用するに値しないのかを判断する上での優れた「指標」となるのです。

 

そして、原子力の事故コストや石炭の大気汚染コストを算入して、建設・運営コストを比較すれば、今日、太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーのコストは下がってきており、競争力をもちはじめています。

 

新規参入者に対して市場を開き、投資家が風力や太陽光の発電事業に投資できるようにして、それら自然エネルギーが既存の発電設備と競争することは、環境の側面からだけでなく、経済的な面でも多大なメリットが生まれます。もし現在の古く、非効率な大規模集中型の発電設備による地域独占を続けるのであれば、電力消費者は今後も高い電力価格を支払い続けることになりますが、健全な競争がなされることで、より効率的で競争力のある開発がおこなわれ、その結果として、消費者、特に産業界が公平で安い価格を享受することができるのです。

 

 

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