原発を再稼働させる必要はない

意思決定と政策運営を明確にわける

 

―― あなたは3月9・10日におこなわれた自然エネルギー財団の国際会議で、「自分はまだ日本の政治運営のメカニズムに慣れていない」ということを発言されていました。日本の政治運営のメカニズムに関して、どういったところがよくわからないと感じますか。

 

政治プロセスを理解する上でもっとも重要なことは、政治家の発言の中にある「細部(Fine details)」を理解することです。そのため、日本語を話さない私が日本の政治の細部まで理解することはなかなか難しいところがあります。

 

もうひとつ、スウェーデンと比較すると、日本では官僚と大臣のやりとりが多く、政府の政治的存在があまりクリアではないということが見えてきました。スウェーデンでは政治的意思決定と行政による政策運営の間に明確なボーダーラインがあります。

 

私がスウェーデン・エネルギー庁長官を務めていたときには、私には強力な権限が付与され、政治の意思決定に対して高潔であることを求められました。

 

政府が私に影響力を行使できるのは、予算と共に1年に1度出される「年次指令」のみであり、与えられた指令を遂行する上で、もし政府が違った方向に干渉するようであれば、私はそれに反対することさえ命じられていました。

 

そして、私が政府に対して政策提言をおこなう場合には、公式な文書を送付するによってのみ実行され、その文書は送付され次第、直ちに公表されます。そのため、国民の誰もが、私が政府に送ったレポートの内容を見ることができ、また、誰もが政府と長官の間でどのようなコミュニケーションがおこなわれたのかを見ることができます。これは、政府と長官および行政がどのように政策運営をおこなっているのかを理解できる明確で透明な良い方法だと思っています。

 

そういったスウェーデンでの経験を踏まえると、日本の政治的意思決定のプロセスはスウェーデンほど透明ではないように感じます。そして、行政が政治の意思決定プロセスに多大な影響を行使している様子は、政治のリーダーシップにネガティブな影響を与えていると感じます。

 

また同様に、大臣が省庁の行政運営プロセスのあまりに詳細にまで影響力を行使するのも良くないと感じます。それは、本来は国会での立法で決定されるべきことです。

 

さらに、民主的におこなわれた政治的意思決定に行政官僚が従わない場合は、政府が一般市民と明確にコミュニケーションすることが重要です。そうすることで一般市民が起こっていることを理解できます。日本では、そういった政府と行政のコミュニケーションがあまり明確に伝えられていないように思いますし、はっきりと見えません。

 

 

―― 透明性ということに関連して、日本ではメディアにも課題があります。インターネットや独立メディアの成長によって、電力会社によるメディアへの影響力が少しずつ一般にも知られるようになってきました。

 

この半年間、日本で新聞を読み、電力会社が記者クラブなどを通じてジャーナリストたちに影響力をおよぼしていたことを知りました。そして、いまではそういったことが一般にも知れ渡るようになり、電力会社がメディアを通じて政治的な影響を行使する力は大幅に減少しているように思います。

 

 

すべての世代に与えられた課題

 

―― 最後に、私はエネルギー政策や事業に関わる会議に出席すると、いつも若者の視点が欠けていることに気がつきます。若者へのメッセージはありますか。

 

エネルギー問題について、若者だけに当てはまる議論というのは立てにくいように思います。なぜなら、ほぼすべての議論が上の世代にも当てはまるのであり、彼らもこの先数十年にわたって起こるであろうことを相応の責任をもって考えるべきであるからです。

 

以前、論文で読んだ記憶があるのですが、民主的な意思決定をおこなっている国々で、原子力を利用している国は、高齢世代が過半数を占める人口構成となっている傾向があるとのことです。この説に同意しない人もいますが、一般市民への世論調査を見ると、原子力利用をはじめた高齢世代がもっとも原子力推進の意見を示すことがよくあります。また、反原発の運動を展開してきた世代はいまでも強く反対していて、意見は変わっていないという結果もよくあります。

 

若者の方がこの問題に対する感受性が高く、彼ら・彼女らがこの問題に取り組む動機付けは強いと思います。ただ、若者にとって重要というよりは、すべての世代にとって重要な課題であると考えています。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.272 

・荒木啓史「遺伝か環境か?――ゲノム科学と社会科学の融合(Sociogenomics)が教育界にもたらすイノベーション」
・神代健彦「道徳を「教える」とはどのようなことか――「押しつけ」と「育つにまかせる」の狭間を往く教育学」
・中里透「財政のことは「世の中にとっての」損得勘定で考えよう!」
・伊藤昌亮「ネット炎上のポリティクス――そのイデオロギー上のスタンスの変化に即して」
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