紛争地の人々へ、生きる選択肢を

―― 若者への啓発・職業訓練にも力を入れていますね。

 

ケニアの暴動で、最も被害を受けた地域はスラム街でした。貧困層が住んでいるので、それだけ社会的不満は大きくなります。教育を受けてない人が多く、新聞などから複数の情報を精査できないので、政治家や権力者がきて「君たちが貧しいのはあの民族のせいだ、彼らを倒せば君たちは幸せになれる」といわれると、その情報源のみを信じてしまうんですね。結果、民族は違えど友達同士だった人たちも争いあい、約一ヶ月の間に1000人が亡くなり、30万人以上が避難民となる事態になりました。今年ケニアで選挙が行われますが、また同じような暴動が起きるのではないかと危惧しています。

 

私たちは、ケニアのスラム街に住む若者のグループを、この3年間訓練してきました。彼らは元々、ボランティアでスラム街のごみ拾いをやっていました。コミュニティのために何かをやろうとしても、学校に行けるわけでもなく、スキルをもっていない彼らができることは、唯一ゴミ拾いだけでした。私たちは、彼らに住民たちに対して心のケアができるようになるための研修を行いました。専門的スキルを提供し、ボランティアで住民からの相談を受けてもらうようにしました。

 

最初は給料がほしいといわれましたが、「あくまでこれはあなたたちのコミュニティの問題であって、最終的にはあなたたちが自分でどうにかしなければならない問題。だから、私たちは必要なスキルを提供するだけです」ということを根気強く説得しました。「コミュニティのために」という気持ちがないところに、外部の人が給与まで与えてしまったら、私たちがいなくなれば活動は終わってしまいます。

 

最終的に彼らは、この3年間で、基本的な心のケアから薬物中毒のカウンセリングまでできるようになりました。住民から頼られる存在になったこと誇りに思うようになってきています。彼ら自身も自尊心が回復され、NGOを立ち上げたり、専門家として他の団体で活躍したりしています。

 

 

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スーダンの現地警察と

 

 

海外で広がるビジネスチャンス

 

―― これからのJCCPの活動ビジョンを教えてください。

 

アフリカでは今後も内戦は続くと思いますが、テロや住民間の暴動が発生しているアジア地域においても、コミュニティ主導で治安を改善する取り組みはまだほとんど行われていません。ソマリアで私たちが国連と共同で行った取り組みは、世界でも初めて包括的に行われたものです。住民主導で自分たちの安全を確保するというアプローチを確立させ、アジアの国においても実践していきたいと思っています。

 

中長期的なビジョンとしては、紛争解決・平和構築といったものをビジネスにつなげることです。途上国の開発分野で企業と連携して、最貧困層の人たちを対象にしたBOPビジネスの展開を考えています。紛争地関係のものになると、武器を売るなど暴力に向かうことがビジネスになりがちで、平和に向かう活動は主に税金でまかなわれてきました。これから、特にアフリカ地域はどんどん発展していきます。日本のビジネスセクターで、アフリカの可能性を模索しているところと連携しながら、日本の教育産業や外食産業のノウハウを現地につなげるしくみをつくりたいと思います。

 

中国や韓国は、今ものすごい勢いでアフリカに資本投下していますが、日本はなかなかそこに参入してきません。近場のアジアにビジネスチャンスがありますし、地理的に遠いなど様々な企業の考え方があると思います。ただそこをつなげることができれば、現地にとってメリットがあるだけでなく、日本の企業や若者にとってもチャンスになります。海外にはまだ日本が進出できるところがあり、可能性は広がっています。その際に必要な、現地の慣習・文化・情勢などの情報や人材育成のノウハウを私たちは提供できます。

 

 

「できること」と「できないこと」を見極める

 

―― 紛争地での問題解決の方法は、東北被災地の復興にもいかせられるヒントがあるように思います。

 

日本の被災地と、紛争地で求められる復興のプロセスは似ていますね。まず住民が一番に求めることは安全の確保。紛争地の場合は、民兵に襲われないか、ロケット弾が落ちてこないかというレベルですが、日本の場合は原発です。それから住民間の対立などが起こってきます。実際に、東北被災地の支援をしている日本の民間企業から、住民間の対立をどう解決すればいいかと相談を受けました。

 

「援助慣れ」という言葉は私たちの業界でよく使います。あまりにも外部が与えすぎると、自分たちで立ち上がる力を奪ってしまいます。そのバランスの見極めが難しい。被災地でも同じことがいえると思います。人が自発的に動く上でもう一つ大事なのは、「できること」と「できないこと」の見極めをつけることです。日本の震災の場合は、どこまで政府がやって、どこまでNPOがやって、どこまで住民がやるのかという区切りがないので、その不安が今も続いているのだろうと思います。

 

「やらない言い訳をしない」というのは私のポリシーです。「やらないこと」と「できないこと」は違います。やれるかやれないかは自分たちの意志の問題です。

 

震災直後に、私たちは現地入りをしないと決めました。JCCPは基本的に国内における支援活動のノウハウをもっていないからです。寄付の申し出については、災害活動に特化した別の団体を紹介して対応しました。ただ、海外のNGOや国連から「支援をしたいけど窓口がわからない」といった問い合わせが多くあり、それは震災直後に政府機関などと連絡をとりながら対応しました。東北に車で支援に向かう際に必要な支援ナンバー取得の手順など、情報を翻訳して海外と共有していました。

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.272 

・荒木啓史「遺伝か環境か?――ゲノム科学と社会科学の融合(Sociogenomics)が教育界にもたらすイノベーション」
・神代健彦「道徳を「教える」とはどのようなことか――「押しつけ」と「育つにまかせる」の狭間を往く教育学」
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