テロの連鎖を断ち切るには――現代テロリズムの傾向と対策

セキュリティとケア

 

荻上 過激思想の伝播そのものを抑止することについてはどのようにお考えでしょうか。

 

黒井 ある程度やらなければいけないと思います。一番良くないのは、「イスラムフォビア」(イスラム恐怖症)の差別です。欧米社会でそれが一般化してしまうと、イスラム過激派の裾野を広げてしまいますから、まずはそれを止めるのが大前提です。イスラム過激派のコアな部分に関して言うと、徹底した治安取り締まりで対処していくというのが現実的な対応だと思います。

 

福田 これは今まさに問題になっているヘイトの問題に繋がってくると思います。なぜテロリズムが起きるのか、そこに存在する宗教の対立や、民族の問題に対する理解が日本人には難しいのではないでしょうか。日本国内に限って言えば、社会教育をどんどん広めていって理解を深めていくしかないと思います。

 

荻上 格差を減らし、福祉を拡充するような政策には、過激思想が伝播しにくい社会をつくる効果があるのでしょうか。

 

福田 テロ対策には、さまざまな側面があります。1つ目は国内の監視や、警備を強化していくようなホームラウンドセキュリティ。2つ目には、対テロ戦争という過激派を壊滅させるようなアメリカ的なアプローチもあります。3つ目は貧困問題、教育の格差、差別の問題を国際的にどう解決していくのかを考えるもの、コミュニティの中でどうやって実践していくかという根本的な解決方法がないと、究極的にテロの連鎖は止まらないと思います。

 

荻上 テロの可能性に備えたセキュリティの議論も行いつつ、不満を持っているひとたちに対するケアを積極的に行う。この両輪が少なくともどの国にも求められるということですね。

 

 

テロリズムとメディアの関係

 

荻上 ISILが犯行声明を出したりしますよね。「自分たちの同士だ、仲間だ、戦士だ」と言うのと同時に、ネット上で自分たちのアピールをしている。ISILの意図はどこにあるのでしょうか。

 

黒井 テロには勢いが必要です。ISILのひとたちが海外のテロを宣伝として利用することで、「世界中でまだこの熱が続いているんだ」と他のひとが感化されやすくなる効果があると思います。

 

福田 平等で同質的なコミュニティのなかこそ、集団極性化しやすいという条件を持っているというのがインターネットであったり、ソーシャルメディアの特性ですが、ISILはその特性を知っているからか、それを上手く活用して世界中のひとを動員していく構造があると思います。

 

荻上 テロ組織のリクルーティングもネット上で行われているといます。テロ組織、ジハード主義者たちはこうしたSNSの特徴というのを適切に理解した上でフル活用しているように思えるのですが。

 

黒井 ISILに関して言うと、リクルート活動にそれほどネットは使われていません。だれでもウェルカムでは組織として問題もありますよね。ただ、SNSなどを利用し、映像を出したり、宣伝に使っていくことで、ISILに入るひとの裾野を広げてる作用はあります。

 

荻上 それらの情報をネット上で削除する動きはあるのでしょうか?

 

黒井 もちろん出ています。大手のツイッターではどんどん削除をしていますが、追いついていません。なんでもかんでも削除というわけでもなく、ある程度は透明化されているものもあります。

 

荻上 そうした書き込みがテレビで取り上げられることによって、プロパガンダに活用されている点を、警戒しなくてはいけませんね。

 

海外では、報道する際のガイドラインや注意事項はあるのでしょうか。テロを報じる際に、メディアの報道の仕方で注意するべき点はありますか。

 

黒井 ガイドラインは特にないと思います。欧米のメディアでは、ある程度のものは報道されていますが、日本のそうしたものが少ないと思います。

 

テロの報道に関わる際に感じる点が2点あります。1つ目は危険が正等に評価されていなことです。「ここは危ない」と、過剰反応をして簡単に話が終わっています。もう1つは、テロ事件が起こったときに日本人が「いかにすれば巻き込まれないか」という話だけに終始してしまうことです。

 

福田 日本人が巻き込まれていないテロは世界中で毎日起こっています。

 

日本人が死ななければ報道されない、逆に日本人が巻き込まれれば集団的に過熱するのではなく、日本人であろうと何人であろうとひとの命が失われていくテロリズムという現象をどうやって解決していくか、グローバルな視点で考えていく必要があるのではないでしょうか。

 

ブライアン・ジェンキンスという研究者が1970年代に「テロリズムは劇場だ」と言っています。テロリズムが起きた瞬間に人々はそれを話題にして盛り上がって観客になってしまう。ぼくたち自身も加担しているし、消費している。実はメディアもそれを商売にしている部分があるのではないかと感じています。

 

荻上 そうした劇場を提供することによって、そこでまたテロが繰り返しやすいような条件をメディアそのものが作るということに慎重でなくてはいけないということですね。

 

 

ss20160718main-2-600x400

黒井氏

 

 

アジア圏でのテロについて

 

荻上 こんな質問がきています。

 

「日本は島国だからテロリストが入国しにくいとよく聞きますが、私もそう思います。実際どうなのでしょうか。」

 

アジア圏でのテロについてどう考えればよいのでしょうか。

 

黒井 アジア圏のテロにおいても、ISILにレスポンスとしてテロをする形が流行しています。中でも、インドネシアやマレーシア、フィリピンといったイスラム系の社会ではすでに戦闘員がシリアやイラクなどに入ってきています。そういった国で、テロは起こりやすいと言えるでしょう。また、「ホームグローン」のような、国内在住者が起こすテロは、日本のイスラム移民社会の中では起こりにくいでしょう。

 

黒井 幸いにも今の日本では移民社会の中に過激なグループが出てきて、大きな話になるということはありません。自分探しみたいなところで、ISILに興味持つひとはいますが、今のところ自発的にホームグローンに育つというような可能性はほとんどないと思います。

 

荻上 これから、オリンピック、パラリンピックなどの国際イベントが行われれますが、そのリスクについてはどう考えることができるでしょうか。

 

黒井 日本はセキュリティが厳しいですし、島国ですので潜伏できる場所もない、言葉も通じない。ハードルが高いことは事実ですね。なので、わざわざ日本にまで行って、テロは起こさないでしょう。動機付けとしても、日本でテロが起こる可能性は非常に少ないと考えられます。

 

荻上 逆に言えば、これから強い動機付けが生まれないような外交や、国内情勢の維持を続けていくことも必要になっていくわけですよね。

 

黒井 テロの話になると、いつも「グローバルなテロ対策をやらないで良いのか」という話になり、対策をやるべきか否かの両極端な意見ばっかり出てきてしまいます。ですので、今後はもう少し具体的な議論をする必要があるのではないかと思います。

 

荻上 経済的支援と人道的支援、シリア難民ですと留学生を受け入れるという話がありますよね。ここからさらに進めるべき議論についてどうお感じになりますか。

 

黒井 海外の標準と比べると、日本では話にならないくらい、難民受け入れや経済支援が少ないです。関わらなければいいという話ではなく、どういう関り方をするのかを今後考える必要があるのではないでしょうか。

 

 

対話の必要性

 

荻上 日本の安全保障の観点から、ISIL問題に関り方についてどうお感じになりますか。

 

福田 日本人の一般市民よりも、国際政治の中でなにをするのかを焦って考えて一生懸命頑張ろうとしているのが、今の安倍政権の状況なのだと思います。世界でどのように平和を構築していくのか、日本はどのように積極的に貢献していくのか、これまで日本人は議論してこなかったし、教育も進んでいません。日本人が、今の安倍政権の議論についていけないのは、そのギャップがあるからでしょうね。

 

荻上 そうしたギャップを、今後どういった議論で埋めていく必要がありますか。

 

福田 大学でも教育していく必要がありますし、テレビやラジオ、新聞といったメディアの中で、国民を巻き込んで議論をしていくことが大事でしょうね。残念ながら、安全保障やテロ対策について、国民が国際的な感覚で議論するプラットホームが提供できているとは思いません。安全保障法制について、「戦争法」と言える側面はあるかもしれませんが、そこで思考停止してしまうと異なる立場のひとたちが全く議論できない状況になります。メディアや研究者、ジャーリストの役割が求められていくでしょう。

 

荻上 ご指摘の通り、昨年の安全保障関連法案に関しては、政府も含めて、国民と対話をする機会がつくれなかったと感じられます。そうした中で、情報収集をし、情報発信をすることが必要になっていくとは思いますが、これからもっと注目してほしい議論はありますでしょうか。

 

福田 これからは、出入国管理がとても重要になってくると思います。法務省が出入国管理インテリジェンス・センター、外務省も国際テロ情報収集ユニットというものを作りました。そこで国際的な情報機関と、どれくらいきちんと情報共有ができているか、その結果どうやってテロ事件を抑止できたのか。このような効果の検証も非常に重要になっていきます。

 

荻上  黒井さんは今後どんな議論が必要だとお感じになりますか。

 

黒井 2点あります。1点目は、日本が世界のインテリジェンスコミュニティの外にいる点です。たとえば、日本人の人質案件が出た時に、海外の情報機関と連携して、チャンネルがあれば交渉ができるのですが、いまのところそういったものが全くない。

 

それと、テロ対策の90パーセント以上が盗聴ハッキングです。それを日本の中でやるべきか否か、賛否が分かれていますので、現実的な議論が今後は必要でしょう。

 

 

Session-22banner

 

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

メディアとテロリズム (新潮新書)

メディアとテロリズム (新潮新書)書籍

作者福田 充

発行新潮社

発売日2009-08

カテゴリー新書

ページ数219

ISBN4106103249

Supported by amazon Product Advertising API

 

イスラム国「世界同時テロ」 (ベスト新書)

イスラム国「世界同時テロ」 (ベスト新書)書籍

作者黒井 文太郎

発行ベストセラーズ

発売日2016年3月9日

カテゴリー新書

ページ数216

ISBN4584125007

Supported by amazon Product Advertising API

 

 

シノドスをサポートしてくれませんか?

 

●シノドスはみなさまのサポートを必要としています。ぜひファンクラブ「SYNODOS SOCIAL」へのご参加をご検討ください。

⇒ https://camp-fire.jp/projects/view/14015

 

●シノドスがお届けする電子メールマガジン「αシノドス」

⇒ https://synodos.jp/a-synodos

 

 

 

 

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.252 日本政治の行方

・橋本努「なぜリベラルは嫌われるのか?(1)」
・鈴木崇弘「こうすれば日本の政治はもっとよくなる! 政治の政策能力向上のために「変える」べきこと」
・中野雅至「日本の官僚はエリートなのか?」
・大槻奈巳「職業のあり方を、ジェンダーの視点から考える」