『グローバル・タックス』が世界を変える!――富の再分配と持続可能な世界の実現に向けて

歴史的な転換点?

 

2015年、2016年は、21世紀の転換点の一つだったと記憶されるかもしれない。

 

2015年9月に、国連ミレニアム開発目標(MDGs)に代わる持続可能な開発目標(SDGs)が国連で採択された。2030年までに貧困ゼロなど、持続可能な世界の実現に向けて、グローバル社会が共通して取り組んでいく大胆な目標が定められたのだ。

 

2015年12月には、パリで第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)が開催された。気候変動から人類が生き残るために、その原因である温室効果ガス、とりわけ二酸化炭素排出を今世紀後半にはゼロにするという目標を含むパリ協定が締結された。これは、今後人類が石油や石炭など化石燃料を使わないということを意味しており、まさに歴史的かつ革命的な変化といえよう。

 

そして、2016年4月に公表された「パナマ文書」である。これは、パナマの法律事務所の顧客情報が漏洩したもので、ロシアのプーチン大統領の側近、中国の習近平国家主席の親族、俳優のジャーキー・チェンなど著名な政治家や経営者、セレブが資産隠しや税金逃れをしている実態が明るみとなり、アイスランドの首相に至っては、その座を追われることとなった。

 

実はこの3つの出来事は互いに関係している。その共通点については後ほど述べるとして、まずは「パナマ文書」の実態とその問題点について見ていきたい。

 

 

パナマ文書は「史上最大のリーク」

 

パナマ文書が明らかにしたのは、タックス・ヘイブンの問題である(「タックス・ヘイブン問題の本質と『グローバル・タックス』の可能性とは」上村雄彦×荻上チキ)。租税回避地のことを指すこの言葉は、「そこにお金を持っていけば、どこにも税金を払わずに済み、名前なども公開されずに、好き勝手にお金の出し入れできる国や地域のこと」をいう。

 

タックス・ヘイブンの利用によって、富裕層や大企業は本国や操業国で税金を払わないため、各国の税収は落ち込み、タックス・ヘイブンを通じて巨額の資金が貧しい途上国から豊かな先進国へ流れている事態も明らかになっている。さらに、タックス・ヘイブンに流れた資金はマネーゲームに回され、それに参加できる富裕層や大企業をますます富ませ、参加できない庶民との格差が際限なく拡大している。

 

タックス・ヘイブンのポイントは、いったい誰がどのくらいのお金をそこに保持しているのかなどの情報が一切秘匿されていることである。なぜなら、それが明らかになれば、あちこちから非難を受けるばかりではなく、マネーロンダリングの実態が明るみになる、実際に課税をされるなど、富裕層や大企業といったタックス・ヘイブンの利用者にとって大きな痛手となるからである。パナマ文書により、表に出るはずのない情報が公になったからこそ、あれほどまでにセンセーショナルに取り上げられたのだ。

 

もちろん、これまでタックス・ヘイブンについての情報は大なり小なり公になり、その度問題にされてきた。しかし、パナマ文書ほど大量の、かつ誰もが知っている有名人の名が連ねられた生の情報が、タックス・ヘイブンの当事者から出てきたことはなかった。

 

だから、アメリカの国家安全保障局(NSA)の元局員であり、NSAで行われていた違法・違憲な情報収集行為(とりわけ個人情報)を世間に知らしめたエドワード・スノーデンをして、パナマ文書を「史上最大のリークだ」と言わしめたのである。

 

 

3つの共通点

 

持続可能な開発目標(SDGs)、パリ協定、パナマ文書には共通点がある。まず、SDGsとパリ協定を達成するためには、巨額の資金が必要という点だ。極度の貧困の解消や保健、教育の整備などには年間38兆円、途上国の気候変動対策には年間96兆円、これだけで年間130兆円以上が必要となる。

 

これに、先進国の気候変動対策費用も加えると、さらに60兆円以上の資金が追加されるので、SDGsとパリ協定で定められた目標を達成するためには、最低でも年間200兆円の資金が要ることになる。

 

他方、世界の政府開発援助(ODA)の総額は2014年で18兆円であり、気候変動向け民間資金は同年で23兆1600億円であったので、合計しても41兆1600億円にしかならない。これらのことから、グローバル社会は明らかに巨額の資金不足に陥っていることがわかるだろう。

 

次に、パナマ文書が炙り出したタックス・ヘイブンの実態である。タックス・ヘイブンに秘匿されている個人資産は、実に2310兆円~3520兆円である。これに課税をすれば、年間21兆円~31兆円の税収が上がると試算されている。

 

個人資産でこの数字なので、企業の資産も加えれば、もっと巨額の資金がタックス・ヘイブンに秘匿されているであろうし、これに適切に課税できれば、さらに大きな税収を得ることができるということになる。

 

つまり、3つの共通点は「巨額の資金」であり、前者二つはその必要性、後者は適切な課税により、その資金が生み出される可能性を示している。

 

 

キーワードは税

 

さて、SDGsやパリ協定の実現に向けて必要となる資金は、自動的に降ってくるわけではない。年間200兆円ともなると、ODAの増額によって満たすことも非現実的である。民間資金も「儲け」がなければ投資は行われないが、地球規模課題の解決という公共財の供給で直接儲けることは、基本的にむずかしい。それでは、どうすればよいのか? 先に、「適切な課税により、その資金が生み出される」と書いたように、キーワードは「税」である。

 

なぜ、税なのか? これを考えるにあたって、たとえば、税のない日本を想像してみればよい。一見、多くの人々が喜びそうな話だが、税がないということは政府に収入が入らないということである。

 

政府に収入がなければ、医療、教育、福祉など、国民に必要な基本的サービスが提供されなくなる。また、再分配機能も働かないので、お金持ちはとことん金持ちになり、貧しい人々は命を落とすまで貧しくなる。

 

実はこれが今のグローバル社会の実態なのである。8億人が飢餓や栄養失調に苦しむ一方、0.14%の富裕層が世界の金融資産の81.3%を持ち、たった62人が世界の下位36億人分の富を所有している。また、貧困や気候変動以外にも、地球規模問題は山積しているが、上述のとおり、その解決に必要な資金は完全に不足している。

 

日本には税制があって、不十分とはいえ富の再分配機能が働き、また税収によって医療、教育、福祉のサービスが提供されている。これと同じことをグローバル社会でもできないのか? つまり、これだけグローバル化した国際社会と一つの「国」とみなし、地球規模で税制を敷くことができれば、多くの地球規模課題は解決するのではないか。このような構想と政策を「グローバル・タックス」と呼ぶ。【次ページにつづく】

 

 

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