『グローバル・タックス』が世界を変える!――富の再分配と持続可能な世界の実現に向けて

グローバル・タックスが世界を変える!

 

グローバル・タックスは、大きく三つの柱からなる。第一の柱は、「漏れを防ぐこと」、つまりタックス・ヘイブン対策で、世界の金融情報の透明化と各国の税務当局による情報共有が鍵となる。

 

次に、金融取引税、地球炭素税、武器取引税、タックス・ヘイブン税など実際に税金をかけることである。この場合、グローバル・タックスは「グローバルな資産や国境を超える活動に課税し、グローバルな活動の負の影響を抑制しながら、税収を地球規模課題の解決に充当する税制」と定義される。

 

最後に、課税、徴税、税収の適切な使用のための「システムの透明化」で、説明責任を果たすことのできる民主的な統治の仕組みを創ることである。

 

これが実現すると、まずは巨額の税収が得られる。あらゆるグローバル・タックスが実現すれば、理論上最大で年間300兆円近い税収が得られる。つまり、地球規模課題の解決やSDGs達成のための財源がこれで満たされるのである。

 

次に、負の活動も抑制される。金融取引税が導入されると、取引をすればするほど儲けが少なくなるので、1秒間に1000回以上の取引を行うような投機的取引が減少して、金融市場が安定する。

 

地球炭素税によって電気を使えば使うほど、ガソリンを使えば使うほど、化石燃料を使えば使うほど、税金を多く払わなければならないので、化石燃料の使用が抑えられ、二酸化炭素の排出が削減される。そして、税収を再生可能エネルギーに向ければ、パリ協定の実現に大きく踏み出すことができる。

 

また、武器取引税によって武器を取引するたびに税金がかかれば、武器取引が抑制され、税収を核兵器、化学兵器の廃棄や平和構築に使うことができ、平和に貢献することができる。

 

そして、グローバル・タックスによって、現在の地球社会の運営(グローバル・ガヴァナンス)はより透明で、民主的で、説明責任を果たせるものとなる。象徴的に言うならば、現在の少数の金持ち、強者、強国による「1%のガヴァナンス」から、「99%のガヴァナンス」に変えることもできる。

 

なぜなら、現在の加盟国の拠出金で成り立つ国際機関と異なり、グローバル・タックスを財源とする国際機関は、桁違いに多数で、多様な納税者からの税を財源とするからである。

 

税を取るからには、説明責任を果たさないといけない。そのためには、お金の流れや意思決定の過程を透明にするだけでなく、税収の使途などを民主的に決定するために、意思決定のプロセスに多様なステークホルダー(利害関係者)に直接かかわってもらう必要がある。さらに、加盟国からの拠出金に依存しなくてよくなるということは、国益のくびきから解放されて、純粋に地球益のために活動できることを意味する。

 

金融取引税機関、地球炭素税機関、武器取引税機関など、グローバル・タックスを財源とする国際機関が多数誕生することで、現在の「1%のガヴァナンス」を変える可能性が生まれるのである。

 

 

グローバル・タックスは実現できるのか?

 

そうなってくると、あとはグローバル・タックスが実現できるか否かである。しかし、この問いは実は間違っている。なぜなら、航空券連帯税や「CDM税」という形で、部分的ではあるが、すでにグローバル・タックスが実現しているからである。

 

これらの説明は他に譲ることにして(文末の参考文献参照)、いま一番注目されているグローバル・タックスが、金融取引税である。金融業界の猛烈な反対があるので、このような税はまったく夢物語だと考えられてきた。

 

ところが、2015年12月に、フランス、ドイツ、イタリア、スペインを含む10ヵ国が、金融取引税の導入で大筋合意したのである。詳細については、さらなる議論が必要だということで、本年9月の最終的な合意をめざして、現在も議論が続けられている。

 

この金融取引税は、現在のところ、10ヵ国の金融機関内で取引をすれば税金がかかるというだけでなく、10ヵ国に含まれていない国の金融機関、たとえば日本の銀行がこれらの国々の金融機関と取引をすれば、税が課される制度設計になっている。

 

ということは、一方的に課税されるのは不公平だから、日本でも金融取引税を導入しようという動きに、つまりヨーロッパ10ヵ国で始まった金融取引税が、グローバルに広がる可能性も考えられる。

 

そのように考えると、ヨーロッパ10カ国の金融取引税がどうなるかということは、今後のグローバル・タックスの導入、ひいてはSDGsの実現に向けての重要な試金石になるといえるだろう。そして、もし2016年中に金融取引税の実施で最終合意がなされるようなことになれば、SDGs、パリ協定、パナマ文書に金融取引税の実現が加わることになり、冒頭で述べたとおりのこと、すなわち、2015年、2016年は21世紀の転換点だったと記憶されることになろう。

 

 

<参考文献>

上村雄彦(2009)『グローバル・タックスの可能性―持続可能な福祉社会のガヴァナンスをめざして』ミネルヴァ書房。

上村雄彦編著(2015)『グローバル・タックスの構想と射程』法律文化社。

上村雄彦編著(2016)『世界の富を再分配する30の方法―グローバル・タックスが世界を変える』合同出版。

上村雄彦(2016)「タックス・ヘイブン」『先見経済』第62巻第6号、52頁。

グローバル連帯税推進協議会(2015)「持続可能な開発目標の達成に向けた新しい政策科学―グローバル連帯税が切り拓く未来」『グローバル連帯税推進協議会最終報告書』。

Oxfam International (2016) “AN ECONOMY FOR THE 1 %: How privilege and power in the economy drive extreme inequality and how this can be stopped”, 210 OXFAM BRIEFING PAPER, https://www.oxfam.org/sites/www.oxfam.org/files/file_attachments/bp210-economy-one-percent-tax-havens-180116-en_0.pdf, last visited on 21 June 2016.

Schulmeister, Stephan (2009) “A General Financial Transaction Tax: A Short Cut of the Pros, the Cons and a Proposal”, WIFO Working Papers, No. 344.

Tax Justice Network (2012) “Revealed: global super-rich has at least $21 trillion hidden in secret tax havens”,   http://www.taxjustice.net/cms/upload/pdf/The_Price_of_Offshore_Revisited_Presser_120722.pdf , last visited on 10 November 2013.

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

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