政府試算から考えるTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の是非

産業連関表分析とGTAPモデルの特徴

 

では、産業連関表分析とGTAPモデルの特徴・相違点は何だろうか。効果として折り込まれる要素の違いに着目しつつみていこう。

 

産業連関表分析は数量分析と価格分析に分かれる。価格分析はある財(産業)の価格変化が他産業へ及ぼす影響を分析するものだが、試算で行われているのは数量分析である。

 

そして数量分析とは、ある産業の需要が変化した場合に、その需要をまかなうために必要な生産の波及を推計するというものである。各産業は原材料や半製品を購入し、さらに資本や労働を投入して生産を行う。ある産業の需要が変化すれば対応する生産が変化するため、その影響は原材料や半製品の生産にも影響する。原材料や半製品の生産が変化すると、それを作るために必要な製品の生産も変化する。「波及」とはこうした変化を全て折り込むということである。

 

なお数量分析では需要が変化することで生じる需給の不均衡は、供給(生産)が変化することで調整される。価格が変化しないため、相対的に安くなった財の需要が進み、相対的に高くなった財の需要が減るという代替効果や、実質所得変化を通じた所得効果が考慮されていないことにも留意しておく必要があるだろう。

 

一方、GTAPモデルは一般均衡理論を計算可能なかたちに応用した応用一般均衡モデルの一種であり、GATTウルグアイ・ラウンド交渉や各国間の貿易政策のインパクトを数量的に把握するためにGTAP(https://www.gtap.agecon.purdue.edu/)が作成・公表しているモデルである。

 

モデルのデータベースは、最大57産業、113ヶ国・地域についての世界各国の産業連関表、国別産業別の貿易データ、内国税・関税といった障壁データから構成され、2004年を基準としたデータベース(Version7 Database)が最新である。

 

産業連関表の数量分析との相違という意味では、GTAPモデルでは価格が変化することで需要および供給が変化し、生産・投資・消費に影響することが特徴である。

 

そして、自由貿易協定を締結し、貿易障壁を撤廃した場合の効果として、締結国・地域間の貿易を促進することで生じる効果(貿易創造効果)、非締結国・地域の貿易を減少させることで生じる効果(貿易転換効果)といった短期的な効果に加えて、投資の蓄積が資本ストックの蓄積につながり生産能力を向上させるという中長期的影響(資本蓄積効果)の3つを考慮している点も特徴だ。

 

図表3は各試算について、以上のモデルの特徴をまとめたものだ。

 

まず各試算に含まれる効果についてみると、内閣府試算では、日本が各国と自由貿易協定を締結することで生じる貿易創造効果、貿易転換効果、資本蓄積効果がすべて考慮されている。そして、農水省試算では貿易創造効果が加味され、経産省試算は貿易転換効果が加味されている。

 

図表3では、各試算に含まれる効果に加えて、経済効果の把握方法として産業連関表とGTAPモデルの違いをまとめている。経産省および農水省の試算では、輸出および国内生産の影響は当該財(産業)の価格変化を伴わず、対応する財(産業)の生産波及を経由することで生じる生産・GDP・雇用変化が自由貿易協定の経済効果となる。

 

一方で内閣府試算は、貿易障壁の変化は価格変化として折り込まれ、それが所得効果や国内財、国内財と海外財、海外諸国間における代替効果を伴いながら、すべての国および地域の産業の需要と供給が一意に決まるかたちで新たな生産や消費・投資・輸出入が決まり、貿易障壁撤廃前後の変化が自由貿易協定の経済効果となる。

 

 

図表3 各試算に含まれる効果と経済効果の把握方法

図表3 各試算に含まれる効果と経済効果の把握方法

 

 

図表1から図表3の整理に即していえば、内閣府試算は自由貿易協定によって影響を受けるすべての財を対象とし、自由貿易協定によって生じる効果を多く含む。さらに自由貿易協定によって生じる価格および数量の変化を加味している。以上の意味で農水省および経産省試算と比較して、包括的な試算であるといえるだろう。

 

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.279 

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