プーチン政権再来とその対外政策の展望

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メドヴェージェフ大統領とプーチン首相。現在、ロシアで双頭体制を維持しているふたりのどちらが、2012年の大統領選挙の候補者になるのかという問題は、長いことロシア国内と世界からの注目を集めてきた。そして両氏は、ふたりできちんと話しあい、時期が来たら発表するという見解を表明してきた(もちろん、他の候補者の可能性があってしかるべきだが、現在のロシアの政治状況においては、実質的にそれは「ない」と言ってよい)。

 

 

プーチン政権、2012年復活へ

 

こうしたなか、9月24日の与党「統一ロシア」の党大会で、メドヴェージェフ大統領が次期大統領候補者としてプーチン首相を推すと発表し、また、プーチンは、自分が次期大統領になった際には、メドヴェージェフを首相に任命すると発表した。2012年からは、大統領と首相が入れ替わるかたちで、現在の双頭体制が維持されるということになる。

 

メドヴェージェフの大統領就任の時点で、4年後はプーチンが復帰するのではないかという見方が多くなされていたことを考えれば、これはまさに既定路線だといえる。ロシアでは大統領職は連続2期までしかできないが、1期でも間をおけば、ふたたび2期、大統領職に就くことができる。プーチンは自身の2期目が終わる際、憲法を変更して、3期以上の大統領就任を可能にすることもできたが、それをしなかったのはやはり、民主的イメージを内外に植え付けたかったからだとみなされている。他方で、メドヴェージェフを指名した理由は、メドヴェージェフがプーチンに対して従順であり、かつ治安機関や軍などに影響力を持っていなかったため、反旗を翻される可能性が少ないと見られたからだとされている。

 

しかも、メドヴェージェフ大統領が就任して一年もたたない2008年11月には、大統領の任期をそれまでの4年から6年に延長することも議会で可決され、それがメドヴェージェフの就任期間には適用されないとされたことも、プーチンをふたたび大統領に迎え入れるための準備と見なされていた。

 

しかし、プーチンの人気は以前ほどではなくなっている。プーチンの大統領返り咲きの発表後に、ロシアの調査機関「世論基金」が9月25日に行った調査によれば、プーチンの支持率は51%で、大統領から首相にポスト替えした2008年から20%も落ち込んだ。メドヴェージェフの45%よりは高いとはいえ、最盛期の勢いはもはやない。

 

ともあれ、プーチンが2012年から2期12年間にわたり、大統領の座につく可能性が高まったことは事実である。ロシア国内では歓迎の声もある一方、リベラル派を中心に、落胆の声も多いようだ。

 

 

「双頭体制」が実現される可能性は?

 

他方、「双頭体制」が実現される可能性は、ふたつの意味で何とも言えない。まず、党大会でのプーチンの発言通り、メドヴェージェフが首相になったところで、メドヴェージェフ首相はお飾りにすぎなくなり、実質は「双頭」ではなく、プーチンの独裁体制となると見られている。少なくとも、プーチンはメドヴェージェフが2009年頃から独自色を見せはじめた諸政策、とくに近代化政策、民営化政策、汚職対策、欧米との協調路線、北コーカサス政策などに加え、ロシア国内の政治や経済分野の有力者や有権者のあいだで支持を拡大できなかったことなどに多く不満を持っていたといわれ、これ以上、双頭体制をつづけるのが耐え難かったことは間違いない。

 

第二に、12月4日の下院選挙で、与党「統一ロシア」が好成績を残せなかった場合、メドヴェージェフ大統領が責任を取らされて、首相の座を他のものに明け渡すということになるのではないかというシナリオも取り沙汰されている。そのシナリオの根拠となっている議論はふたつある。

 

ひとつ目は、最近、「統一ロシア」の支持率が低迷していることである。来る選挙では同党の比例名簿の第一番目にメドヴェージェフの名前が据えられているが、お荷物的な「統一ロシア」の運営はメドヴェージェフに押しつけ、自身は、「統一ロシア」を軸に結成された「全ロシア国民戦線」という政治運動体を基盤に大統領選挙の活動をするのではないかという見解が、ロシア紙で紹介されている。

 

ふたつ目は、9月26日のアレクセイ・クドリン副首相兼財務相の、メドヴェージェフ大統領による解任劇である。クドリンは25日に、メドヴェージェフが首相となった場合、経済政策で相違があるため、とくに同の軍拡路線に賛同できないとして、新内閣に参加しないという見解を表明していた(なお、クドリンは首相ポストを狙っていて、それでメドヴェージェフと対決姿勢をとっているという説もある)。それに対して、メドヴェージェフが辞任を迫った。クドリンはプーチン首相と相談して決めると即答を避けたが、大統領は辞表を提出され、事実上の解任に至ったかたちだ。

 

なおクドリンは、2000年以降のロシア経済の急成長を支えた功労者として(最大の原因は石油価格の高騰であるとはいえ)、ロシア国内外から大きな評価を受けてきた人物であり、彼の退任を惜しむ声は国内外できわめて大きい。2008年の世界規模の金融危機からやっと回復の兆しを見せてきたロシア経済への悪影響も懸念されている。

 

しかし、この解任劇もプーチンのシナリオ通りなのではないかという説もある。つまり、上述の下院選挙で「統一ロシア」が大敗し、メドヴェージェフが責任をとることになった暁には、プーチンの腹心であるクドリンが首相に落ち着き、逆に「統一ロシア」の選挙結果が悪くなかった場合は、クドリンはロシア中央銀行総裁か大統領補佐官あたりにおさまるのではないかという噂も流れている。

 

このように首相ポストについては、現状では明確に見えない部分もあるが、プーチンがロシアの最高権力を握ることは確実な情勢だ。ロシアにおいては、大統領は軍最高司令官を兼任するとともに、首相任命や全閣僚解任など絶大な権力を持つだけでなく、外交もその所管となる。プーチンが2012年にウラジオストクで行われるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)、14年にソチで行われる冬季オリンピックでホスト役を務めるという明るい話題の一方、今後、ロシアの外交政策も変わるのではないかと、諸外国はプーチンの外交政策に注目している。

 

 

諸外国の見方

 

米国は、ロシアの大統領が交代しても、対露リセット政策(シノドス・ジャーナルの拙稿「「リセット」後も紆余曲折の米ロ関係(2010/07/13)」、「NATOとロシアの和解? (2010/11/30)」、「NATOとロシアの関係改善の暗雲:「ウィキリークス」問題の余波 (2010/12/14)」などを参照されたい)は変わらないとし、今後も対露関係の再構築を継続していくと述べている。しかし、プーチンは、メドヴェージェフの欧米に媚を売るかのような外交を苦々しく見ていたという。たとえば、メドヴェージェフ大統領がオバマとハンバーガーにかぶりつきながらフランクな関係をアピールし、近代化路線での協力を得ていたことなどに対し反発を感じていたという話も伝えられており、米国もプーチンが大統領ポストに復帰したときに、対米強硬路線が復活する可能性があるとして、動向に注視しているようだ。

 

欧州も天然ガス需要の約4割をロシアに依存していることもあり、プーチンが資源外交を繰り広げないか、さらに彼の勢力圏拡大構想(後述)や人権侵害の深刻化、さらに民主化と近代化路線の後退に警戒を強めているという。

 

またメドヴェージェフ大統領が、アジアよりも欧米をより重視していたのに対し、プーチン首相が中国を重視していることも、欧米諸国にとっては懸念材料となっているようだ。

 

さらにプーチンの保護主義的な経済政策の立場も欧米諸国からは否定的にとらえられている。そのため、メドヴェージェフ大統領の政権のあいだに、ロシアの世界貿易機関(WTO)への加盟プロセスを完了させるべきだと主張する政策担当者も出てきた。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.264 

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