「疑惑の選挙」の顛末――2016年のガボン大統領選を振り返る

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4. 当日の現場のようす

 

筆者は、コンゴ民主共和国で調査を終えたあと、8月31日の午前中にガボンに移動した。開票結果の発表を前にした到着時点では、ふだんよりはだいぶ少ないものの、車はふつうに走っていて、多くの場所が通常営業しているようだった。ただし、選挙結果が出たあとに混乱があることも考えたので、常宿としているホテルにチェックインしたあと(ホテルもいつもよりすいていた)、スーパーで水や食料などを買いこんでおくことにした。スーパーは逆に、ふだんよりだいぶ混んでいて、品薄というほどではなかったが、一部にすでに売り切れているものもあった。スーパーの向かいのパン屋では、バゲットを買い込む人たちで入口付近にまで行列ができていた。

 

この日は、筆者よりあとに研究チームのメンバー2名が到着する予定で、初渡航となる大学院生である二人を筆者が空港まで迎えに行くことになっていた。しかし、パリを出発した飛行機がリーブルヴィルに着く前という悪いタイミングで上述の開票結果が発表され、筆者はホテルで身動きがとれなくなった。デモの混乱が飛び火するのを避けてホテルの入口は施錠されており、従業員からも外出をやめるように助言された。外をみてもタクシーはほとんど走っておらず、ヘリコプターの音や銃声らしきものが聞こえてきた。欝々として待つしかなかったが、しばらくして到着したメンバーから電話があり、さいわい二人は、周囲の人にも助けられてなんとか無事にホテルに到着した。

 

ホテルでは、はじめはインターネットがつながっていたが、8月31日の夕方からSNSだけが使えなくなり、夜にはインターネットがすべてつながらなくなった。テレビをつけてみたが、国内の局では能天気なアフリカ音楽のビデオクリップか、コテコテのメロドラマみたいなものしかやっていないので、フランスのニュース番組で情報収集につとめることにした。もちろん、外出できるような状況ではないため、夜はホテルにこもって買い込んだ食料を食べて過ごした。

 

翌9月1日の朝、ニュースをみて前夜の混乱が予想をはるかに超える規模のものだったと知り、戦慄を覚えた(写真)。画面には、焼け焦げた国会の建物、横倒しにされた車両、襲撃された店舗などが映し出され、死者・負傷者も多数出ていることが報じられていた。外に出てホテル周辺の様子を見てみると、キオスクが横倒しにされていたり、ゴミ箱が焼かれたりした跡があり、路上にも燃えかすが散乱していた。ホテルのすぐ向かいにある小さな商店は、営業はしているものの、襲撃をおそれて入口の鉄格子は閉めたままの状態であった。水、缶詰、ビスケットなどを追加で購入し、鉄格子の隙間から腕を伸ばして商品を受け取った。

 

 

大統領選後の騒乱を報道するテレビ番組(ホテルにて撮影)

大統領選後の騒乱を報道するテレビ番組(ホテルにて撮影)

 

 

騒動がすぐ周辺にまで及んでおり、襲撃の対象も政府関係施設だけにとどまらなかったことがわかり、しばらくホテルから出ないことにした。万一のため、空いたペットボトルに水をためたり、ヘッドランプやすぐ持ち出せる荷物を用意したりもした。電話は通じていたので、ガボンの関係者や日本の研究チームメンバーと連絡を取り合い、このような状態となっては調査地に行くのは困難と判断して、帰国することになった。

 

8月31日の夜以降は大きな混乱はなく、9月3日(土)、4日(日)あたりには、周囲のようすをみても少しずつ日常が戻りつつあった。ホテル入口の施錠も解かれ、従業員や他の宿泊客の話でも、近所への外出くらいなら問題なさそうであった。連日トップで報じていたフランスのニュース番組も、9月3日の午後には別の話題が中心になっていった。とはいえ、初渡航のメンバーもいるので、むやみにリスクを冒して外出するのは控え、ホテルにこもって過ごした。本当は調査地で食べるはずだった、日本から持ってきた保存食もすっかり消費してしまった。

 

週明け9月5日(月)の朝には、SNSを除いてインターネットが使えるようになり、騒動後はじめて外出し、近所の食堂で食事をしてスーパーで買い物をした。車もたくさん走っていて、人々のようすも日常にもどったようにみえるが、街頭のところどころに警官が立っていたり、警察や軍関係の車両がときおり走りすぎたりもする。18時にインターネットが使えなくなり、夜は外出をひかえて部屋で食事をした。研究チームのメンバーの助けで帰国便のチケットを変更して、9月6日(火)の昼に後ろ髪をひかれつつガボンを離れた。

 

 

5.その後の展開

 

予測をはるかに上回る騒動であったが、長期化も避けられないという予測とは裏腹に1日で鎮圧され、その後は落ち着いた状態に戻っていった。ただし、この「鎮圧」をジャン=ピン陣営は強く非難している。すなわち、ジャン=ピンの政治本部を爆撃して幹部20数名を拘束(翌日には解放された)、死者も2名出したというのだ。デモの民衆のなかには、逮捕拘束されたあと、行方がわからなくなっている人たちも多数いるという。

 

「明らかに異常な」開票結果を受けては、国連やEUなどが透明性を確保することを強く求め、ジャン=ピンは、票の数え直しを求めて憲法裁判所に訴えた。ボンゴ一族と親族関係にある裁判官を代表とする憲法裁判所は、アフリカ連合やEUの監視団の参加は拒絶し、すでに処分してしまっているために票を数え直すことも不可能だとしたが、集計結果を改めて精査して、9月24日に裁定結果を発表した。疑惑のオート・オグエ州は、投票率が98%、そのうちアリ=ボンゴ票が83.2%に修正されたが、最終結果はアリ=ボンゴが50.66%、ジャン=ピン47.24%で、約11,000票差に広がって結果は覆らず、アリ=ボンゴの再選が承認された。

 

これを受けてアリ=ボンゴは早々に就任を宣言し、新内閣を組閣した。新内閣の人事で注目すべき点は、父の時代から続いてきたポスト配分のやり方が大きく変えられたことである。たとえば、これまでずっと不文律として、多数派であるとともに、政権に対して最も対立的でもある民族集団のFangから選出してきた首相のポストは、Kotaの人物に変わっている。また、報道長官や官房長官として大統領府関係者が入閣した点も、これまでとは変わっている。

 

なお当然ながら、ジャン=ピン陣営から入閣した者はゼロであった。今回の選挙結果について、アリ=ボンゴが再選してこれまでと同様の体制が継続したとだけ理解するのは誤りである。オマール=ボンゴ時代から続いてきたパトロン・クライアント・ネットワークは再編され、ガボンの政治勢力図は大きく描き替えられているのである。

 

ジャン=ピンは、憲法裁判所の裁定結果を認めておらず、自分こそが大統領だと繰り返し主張しているが、2016年10月に憲法裁判所におこなった再度の訴えは棄却された。その後、ガボンを離れてフランス、ベルギー、アメリカなどで、ガボン人ディアスポラや政治関係者らと精力的に面会し、2016年11月末にガボンに戻った。2016年12月には支持者らに対して反対行動を呼びかけ、警察や軍関係にも協力を求めるなど、何としてでも「盗まれた勝利」を奪い返すと主張している。これに対して政権側は、ジャン=ピンが一線を越えるようなら逮捕も辞さないと、脅迫ともとれる声明を出して牽制している。

 

あまりに長く独裁的な体制がつづいてきたことによって、ガボンの多くの民衆は、いわば「平和ボケ」していたかもしれない。筆者でさえも、選挙だからといって大きな混乱は起こらず、結局は現職が再選するに決まっているだろうと高を括っていた。しかしながら、その一方で、民衆のあいだには確実に不満が募っており、独裁的な体制にノーをつきつける機運も高まっていた。今回の投票結果とその後の騒乱は、そのことを如実に物語っている。

 

地方の人々は、道路工事がなかなか進まないこと、物資が十分に流通していないこと、教師や医師・看護師の給料が遅配していることなど、政権に対する不満を日常的に語っていた。いまから振り返れば、政治的な動きやメディアの報道にくわえて、このような民衆の声に耳を傾け、生活実感に敏感になっていれば、そうした萌芽はあちこちに見られたように思う。

 

政権側による徹底した鎮圧によって騒動はすぐに終結し、あの混乱は何だったのかと思えるほど、あっさりと「もとのさや」に収まった感がある。しかしながら、人々の意識は選挙の前とは明らかに変わっており、これからガボンで何が起こり、どのように展開するのかは、ひきつづき注目していかなければならない。

 

謝辞

中部学院大学の竹ノ下祐二先生をはじめとする調査チームの皆様には、現地滞在時に日本から多大なサポートをいただきました。元・在ガボン日本大使館専門調査員の木幡政弘氏は、現地でさまざまな便宜を図ってくださり、本稿に関しても有益な助言と情報提供をいただきました。心より感謝申し上げます。

 

参考文献

・武内進一(2009)『現代アフリカの紛争と国家―ポストコロニアル家産制国家とルワンダ・ジェノサイド』、明石書店.

・World Bank (2014) World Bank Open Data (http://data.worldbank.org/)

 

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vol.266 

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