第三世界で地位を築く――北朝鮮外交の姿とは

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「抑止力」としてのミサイル実験

 

――北朝鮮の外交で何か特長的ことはあるのでしょうか。

 

北朝鮮は、普通の外交をしています。それは、儀典を含めた国際交流です。ここであえていえば、北朝鮮は、国連安保理制裁の下にありますが、その制裁破りをするために外交官が活躍しています。もともと、外交官に限らず、多くの北朝鮮人が大使館の中に住んでいます。それはビジネスをしている人も含まれます。北朝鮮では、基本的には大使館員に給料が払われず、現地でのビジネスによって収入を確保しています。そのために、以前から、大使館の建物の一部を賃貸したり、大使館員が違法な外貨稼ぎをすることが問題になっていました。これらはウィーン条約に抵触する部分もあります。国連安保理制裁でも禁止されています。

 

 

――メディアではミサイル発射と政治交渉を関連付ける分析も多くありましたが、実際に北朝鮮はミサイル発射を外交手段として利用しているのでしょうか。

 

かつて、日米韓には、北朝鮮がミサイル実験や核実験で、外国を威嚇して、援助をもらおうとする「瀬戸際外交論」というのが流布していました。もちろん、学術的に検証された学説ではありません。もっとも、北朝鮮政府そのものは、この「瀬戸際外交論」を嫌っており、何度かそれを否定する声明を発表しています。

 

実際にミサイル開発や核開発は、莫大な費用がかかっています。北朝鮮が1990年代に国際社会から支援をもらっていたのは、食糧事情の悪化によるものですので、核実験やミサイル実験によってもらっていたわけではありません。

 

北朝鮮が核兵器やミサイルを開発しているのは、北朝鮮が当初から言っているように、アメリカに対する「抑止力論」が目的です。つまり、アメリカが北朝鮮を攻撃してきたら、それなりの報復攻撃をすると脅迫して、そもそも攻撃させないようにするものです。

 

今、北朝鮮は、ミサイル実験や核実験を以前にもまして数多く行っていますが、それによって援助が増えているわけではありません。それを考えれば、そもそも「瀬戸際外交論」というのは、何も説明していないのです。むしろ何か援助を欲しかったり、政治交渉をしたりしようとするのであれば、核実験やミサイル実験をやめたほうが効果的でしょう。実際に莫大な費用がかかるミサイル実験や核実験によって、北朝鮮は政治交渉や援助をほとんど得ていないのです。「瀬戸際外交論」は、結局、北朝鮮の外交や核実験などを説明できていないといえます。

 

今では、北朝鮮がミサイル発射や核実験で相手を威嚇して、政治交渉を有利にしたり、援助をもらったりしようとしているという「瀬戸際外交論」を考えている人は、あまり見かけません。「瀬戸際外交論」が誤っていたことがむしろ認識され始めているのではないかと思います。

 

 

――北朝鮮はアメリカの軍事力をかなりの脅威と捉えているということでしょうか。

 

ええ。北朝鮮は、以前から米国の軍事力については脅威に感じていました。それは朝鮮戦争での経験が最も重要な原因です。一度は、アメリカ軍によって滅びかけた北朝鮮にとって、アメリカからの軍事的な脅威は、国家存亡の死活的なものになっています。北朝鮮の核兵器開発もアメリカに対抗するために進められているものです。

 

 

――対するアメリカは、韓国との合同軍事演習も行っていますが、北朝鮮の軍事力をどの程度危険視しているのでしょうか。

 

アメリカや韓国に対する北朝鮮の懸念に比べれば、アメリカや韓国にはあまり危機感があるようには思えません。それは日本でも同じでしょう。アメリカの場合には、距離が離れているので、危機意識が希薄なのはある程度は仕方ありません。アメリカが北朝鮮の核やミサイルを自国に対する脅威として危険視し始めたのは、2016年の核実験やミサイル実験からです。

 

それに比べれば、韓国では、いまだに危険視している人々は少ないように見えます。それは学校や家庭教育、報道の効果もあるのでしょう。在韓米軍のTHHAD導入はやっと決まったとはいえ、韓国軍自身のミサイル防衛システムは、ほぼ皆無な状態です。ただし、もともと北朝鮮は、ミサイル実験や核実験を外交手段として使っているわけではありません。北朝鮮のミサイルや核兵器は、戦争を抑止するためのものであり、戦争が勃発すれば相手を攻撃するための道具なのです。

 

 

――北朝鮮のミサイル実験や核実験はあくまでアメリカへの抑止力として行われているということですが、その場合、北朝鮮の恐怖感を減らし、これらの実験やめるよう、国際社会ができる働きかけとはどういったことなのでしょうか。

 

北朝鮮が冷戦後、1990年代から主張してきたのは、アメリカと平和協定を締結することでした。つまり、朝鮮戦争を終わらせることだったのです。2003年から2009年まで北朝鮮の核問題を話し合うために、アメリカと北朝鮮、中国、日本、韓国、ロシアによる六者会合が続けられていましたが、そこでも北朝鮮が核兵器開発放棄の条件として提示したのは、アメリカとの平和協定でした。時折誤解する人がいますが、アメリカとの国交正常化ではありません。国交正常化だけでは安心できないということで、まずは平和協定を求めていました。

 

たとえ、中国や日本、韓国、ロシアが北朝鮮を支援しようと批判しようと、そんなことは北朝鮮にとってはどうでも良い話だったのです。実質的に北朝鮮を滅ぼす可能性があるアメリカと平和協定を締結しなければ、国家の存亡がかかっていたからです。だから、アメリカ以外の国際社会がどう働きかけようと、北朝鮮の恐怖感を減らすことにはならないのです。恐怖感を減らすには、アメリカと平和協定を締結するか、アメリカを抑止できる核兵器を保有するか、というのが、北朝鮮が考える選択肢だったのです。

 

2005年2月に北朝鮮は核兵器の保有宣言をするわけですが、それでも2011年に金正日が死亡するまでは、朝鮮半島の非核化は先代の金日成の遺言であるとして、アメリカと平和協定を締結すれば、核兵器は必要ないと主張しておりました。ところが、最高指導者が金正恩になると、世界が非核化するまでは核兵器を放棄しないという政策に変わりました。もはやアメリカとの平和協定では、莫大な費用と労力をかけた核兵器を放棄する理由にはならないのです。

 

北朝鮮が提示している条件は、アメリカやロシア、中国などの世界の核保有国が核兵器をすべて捨てれば、北朝鮮も核兵器を捨てるというものです。現実としてあり得ません。したがって、北朝鮮が核兵器を放棄することはもうないでしょう。国際社会ができることは、可能な限り制裁によって、北朝鮮の国力を奪い、核兵器開発やミサイル開発を遅らせることでしょう。しかし、すでに北朝鮮は核兵器を保有してしまっているのです。アメリカや日本、韓国、中国、ロシアは、相手国の数十万から数百万人を虐殺できる核兵器を保有した北朝鮮と向き合わなくてはなりません。

 

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宮本悟(みやもと・さとる)

朝鮮半島研究

1970年生まれ。同志社大学法学部卒。ソウル大学政治学科修士課程修了〔政治学修士号〕。神戸大学法学研究科博士後期課程修了〔博士号(政治学)〕。日本国際問題研究所研究員,聖学院大学総合研究所准教授を経て,現在,聖学院大学政治経済学部教授。専攻は国際政治学、政軍関係論,安全保障論,朝鮮半島研究。〔著書〕『北朝鮮ではなぜ軍事クーデターが起きないのか?:政軍関係論で読み解く軍隊統制と対外軍事支援』(潮書房光人社,2013年10月)。〔共著〕「国連安保理制裁と独自制裁」『国際制裁と朝鮮社会主義経済』(アジア経済研究所,2017年8月)pp.9-35,「北朝鮮流の戦争方法-軍事思想と軍事力、テロ方針」川上高史編著『「新しい戦争」とは何か-方法と戦略-』(ミネルヴァ書房,2016年1月)pp.190-209,「北朝鮮の軍事・国防政策」木宮正史編著『朝鮮半島と東アジア』(岩波書店,2015年6月)pp.153-177。〔論文〕「「戦略的忍耐」後と北朝鮮」『海外事情』第65巻第7・8号(2017年7月)pp.60-71,「ストックホルム合意はどうやって可能だったのか?―多元主義モデルから見た対朝政策決定―」『日本空間』第19集(2016年6月)pp.136-170,「千里馬作業班運動と千里馬運動の目的―生産性の向上と外貨不足―」『現代韓国朝鮮研究』13号(2013年11月)pp.3-13,「朴槿恵政権による南北交流政策」『アジ研ワールド・トレンド』第19巻6号(2013年6月)pp.9-13,「中朝関係が朝鮮人民軍創設過程に与えた影響」『韓国現代史研究』第1巻第1号(2013年3月)pp.7-29など。

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.266 

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