文在寅大統領は「反日」?「親北」?そんな素人議論は聞き飽きた!!――『だまされないための「韓国」』第8章

日本は文在寅政権に対してどう接するべきか

 

――最後に一点、日本政府は韓国の新政権に対してどう対応すべきでしょうか。

 

浅羽 「地球儀を俯瞰する外交を展開するなかに韓国を位置づける」という今の路線でいいんだと思います。要するに、「日韓関係」を独立した変数として考えるのではなくて、「日米」「日中」、「米中」「米朝」などほかのバイ(二国間)の関係や、「日米韓」「日中韓」「G7」「G20」などマルチ(多国間)の関係のなかで動かしていくゲームとして臨むということです。

 

さらに、イシュー・リンケージ(争点間の連関)をどうするのか、という点も重要です。たとえ「最終的かつ不可逆的に解決された」慰安婦問題がまた「蒸し返さる」としても、北朝鮮に対する安保協力だけは切り離して対応するのか。それとも、慰安婦少女像が2体とも撤去されない限り、「戦略的利益の共有」も放棄するのか。

 

もちろん日本としては、「日韓合意が遵守されるかは第三者も注視しているし、少女像は日韓合意だけでなく外交(領事)関係に関するウィーン条約にも違反しているので撤去せよ」といろんなレベルで韓国政府に繰り返し要求するのは当然です。それと同時に、全体を丁寧にマネージメントすることが重要です。1体目の少女像の隣に徴用工像や、済州総領事館の前にも3体目が建った場合、「もう知らん」と、外交チャンネルを全部閉じるような態度をとってしまうと、朴槿恵政権と同じことになってしまう。

 

木村 それは可能性ありますね。

 

浅羽 世論のほうが熱くなりやすいでしょう。安倍首相本人はクールに進めたいと思っていても、世論が沸騰してしまうと、どうしても引きずられてしまうところがある。それは避けたい、というのがひとつです。

 

もうひとつは、さきほどのポジショントークが大切なので2回言いますということなのですが、「地球儀を俯瞰する」「鳥瞰する」というのはもちろん大事なんですけど、「蟻の目でも捉え返す」ことと十分両立するし、むしろシナジー(相乗効果)が出るはずです。

 

ですので、地域ごとの文脈やニュアンスにもう少し耳を傾けてもらいたいな、と。理解が「困難」なロジックや「言語」であればあるほど「通訳・翻訳」の「重み」が増しますし(「ローコンテクスト社会で<通訳する>ということ―新潟県立大学「政治学入門」授業公開」を参照)、そうするほうが、グローバルな国家戦略の実現にもつながりやすいのではないかと思います。

 

別の言い方をすれば、「国際関係論」や「戦略論」と、「地域研究」や「文化人類学」や「第二言語習得論」とのコラボのあり方が問われているのではないでしょうか。

 

木村 基本的には同意します。

 

浅羽 産経新聞(5月20日付に掲載)に広告を打つ『だまされないための「韓国」』は明らかに「誤配」を狙ったタイトルですし、この「第8章」はあくまでも第1章から第7章までの販促のためのスピンオフですので、いろいろと「だまされてほしい」わけですよ(笑)。

 

木村 それなら全面的に同意しましょう(笑)。

 

私のほうからはですね、日本政府や日本人には、まだまだ「日本の力で韓国の態度や方針を変えられる」という幻想があると思うんですね。でもそれは幻想なんだよ、ということは言っておきたい。

 

浅羽 #ほんまそれ それはやっぱり「日韓」という二国間の枠組みだけで考えている人がまだまだ多い、ということでもありますね。

 

木村 そうそう。慰安婦合意に関しても、あれは日本が強硬な態度をとってきたから韓国が折れた、と考えている人がいるけれども、実際にはアメリカが「いい加減にしろ」と韓国に圧力をかけたから、ああいうかたちになったわけです。日韓にかぎらず、今の時代では二国間で解決できる問題などほとんどない。第三者の目を意識してそれを利用して、さまざまなところと絡み合って、プラスとマイナスをやりとりしあって「実」を取る外交をしなくちゃいけない。

 

 

――大事ですね。

 

木村 さらに言えば、日本側にある「韓国は日本のことをとても意識している」という思い込みについても、もう一度考えたほうがいいですね。これは本でも何度か出た話ですが、韓国にとっては、日本の地位は相対的に大きく下がっています。

 

今回の大統領選でも、候補者による6回、12時間以上の討論会があったわけですが、その中で「日本」というフレーズが出たのはせいぜい2〜3回だったかな。

 

浅羽 正確には2回ですね。1回目は「日本はノーベル賞をたくさんとっているのに、それに比べて韓国は……」という文脈。2回目は「米韓FTAについてアメリカのトランプ大統領が再交渉しようとしている。THAADについてもアメリカに金を払えと言ってきている。いちど国家間で合意したことをひっくり返すというのは……」という流れで「日韓慰安婦合意」という用語だけが出てきたので、立場が逆だとわかっているんだな、と妙に感心しましたよ。これだけです。いかに大統領選で「対日政策」が争点にならなかったか、という話です。別に今回に限りませんけどね。

 

 

――12時間で2回ですか……。まあ確かに、日本だって、たとえば総選挙の時に「この政治家の対韓政策はどんなもんかな」と気にすることはまずないし、党首討論で話題になることもほとんどありませんよね。

 

浅羽 そんなものですよね。

 

木村 それと、近々の問題として、韓国側は「左派政権だと思われている警戒を解きたい」と考えているわけですから、日本を筆頭にして、早々にいろんな国と首脳会談を求めている。だから早くも日中韓首脳会談を(2017年7月に)ドイツでやるG20でやりませんか、という話も出てきている。

 

もちろんそれは最初の首脳会談ですから、一種の「儀式」なわけです。具体的に何か込み入った話ができるわけではない。儀式だからこそ安倍首相は「がんばってくださいね」とエールを送るくらいの余裕を見せたほうがいいと思います。

 

さておき、早期に首脳会談をやる場合、話すことはひとつしかない。それは「日韓関係は重要だ」と確認すること。それ以上は中身がないので話しようがない。たとえば第一次安倍政権の時、安倍首相は最初の外遊先に北京とソウルを選んだ。そして安倍首相は各々の首脳会談で中韓両国との友好関係とその重要性を確認した。当然このような首脳の言動はその後の政権の方向性を縛ることになる。結果、当時の「安倍首相はアジア重視だ」と言うことになり、中韓両国との関係改善に大きく寄与することになった。

 

そして今回はこれと同じことがやれる場を文在寅に提供すればよい。早いうちに安倍首相と文在寅が会えば、文は「未来志向でやっていきます」と言うしかないでしょう。それを首脳会談のあとの記者会見でも直接言わせてしまえば、その言葉が彼らの行動を縛ることになる。重要なことは「相手に約束させる」のが外交における定番の手法です。

 

そしてこれは大事なポイントなんですけども、安倍政権はいまや世界でも例外的な長期政権になっています。つまり、交渉相手国の多くがまだ「政権初期の準備ができていない段階」の時に、日本は準備万端で臨むことができる。この状況を有利に使わない手はありませんよ。

 

浅羽 この「首脳に言わせる」、「首脳が言う」というのは重要だし、後々まで重く効いてくるんですよね。たとえば2015年の日韓慰安婦合意は、協定や共同声明などでフォーマルに文章が交わされたわけではありませんが、両外相がメディアの前で「こういう合意を結びました」と高らかと謳い上げて、両首脳も確認し合ったものです。アメリカ政府はただちに、「この合意と完全な履行を支持するし、国際社会は歓迎すべきである。これでこの問題は永続的に解決し、今後は日米韓の安保連携が進むことを期待する」という声明を出しました。形式はどうであれ、国家間の合意であることは間違いなく、当然、拘束力を有します。もしどちらかが誠実に履行しなかったり破棄や再交渉を一方的に求めたりしたら、他の国とのさまざまな合意もカウントされなくなります。

 

木村 慰安婦問題に関していえば、現時点ではよくも悪くも「ボール」は韓国側にあります。合意自体をどうするかも、慰安婦少女像をどうするかも、まずは韓国次第。バーンっとちゃぶ台をひっくり返す可能性は確かにゼロではない。でも韓国側のスタンスはまだ決まっていない。だからこそ今のうちに「縛り」をかけてしまって、その選択肢を制限すればよい。そういう知恵は日本政府側に持っていてほしいですね。

 

浅羽 そういう意味では、文在寅大統領との初めての日韓首脳会談をG20に合わせて行うというのは絶妙です。マルチの場だと双方負担も小さく、7月だと6月の米韓首脳会談のあとですからタイミングもいい。せいぜい1時間くらいしか時間はとれませんから、各論には立ち入らず総論で「大きな絵」だけ示せばいい。

 

木村 この「相手のスタンスが決まってないうちに首脳同士が会っちゃって、相手に『この関係は大事です』と言わせたこと」で、うまくいったいい例がトランプ大統領との関係ですね。安倍首相が早期に会いに行って、日米関係の重要性を確認したことで、日本はずいぶん有利になりましたからね。相手側に関心を持たせ、関係の重要性を確認することは、一般に思われているのよりはるかに重要なんですよ。

 

浅羽 それと、日本側は「入口論」にしないほうがいいですよね。「慰安婦少女像を撤去しない限り、首脳会談にも応じず、安保協力も閉ざすべきだ」となると、むしろ何も動かせなくなってしまう。そうではなく、ドア(くしくも韓国語の「門」は「文」在寅と同じ発音)をオープンにしたうえで、課題の解決(「出口」)に向けて共に進もうと呼びかける姿勢こそが、日本が重視する「未来志向」の真骨頂ですね。

 

 

――なるほど。多くの課題が浮き彫りになりましたし、日本がやるべきこと、やったほうがいいことも明らかになりました。本日はありがとうございました。

 

 

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