ロウハニ政権の功績をたどる

自由化反対の声も

 

――第1期のロウハニ政権に対する国民からの評価は限定的ということでしょうか。

 

イラン国民は、ロウハニ政権が核合意を成立させたことを高く評価しています。核交渉の行き詰っていたアフマディネジャド政権下では経済状況は悪くなるばかりであり、核合意以外に道はない、という見解は、すでに共有されていました。

 

ただし、核合意後も経済が期待どおりには改善していない点につき、ロウハニ政権を批判する国民がいるのも事実です。ほかにも、制裁下で撤退する外国企業に代わり国内のプロジェクトを請け負っていたイラン企業の中には、今日のロウハニ政権の外資「優遇」政策に批判的なところもあります。

 

社会の変化に関しては、ロウハニ政権はSNSへの規制を緩和するなど、文化面での自由の拡大を目指しました。この自由化政策は、都市の中間層には歓迎された一方で、これに不満を募らせた層もありました。宗教的に保守的な層はロウハニ政権の自由化政策を、イスラム教の伝統的な価値観や道徳観に有害なものと受け止めたのです。それらの保守層は、今回の大統領選挙ではロウハニ師の対抗馬となったライシ師を支援しました。

 

 

――ロウハニ師が勝利したとはいえ、ライシ師も4割近い得票でした。接戦となった選挙戦でロウハニ師が勝利した背景には何があるとお考えですか。

 

ロウハニ師は今回の選挙において、外交面では国際協調路線を、経済面では外資参入による経済の立て直しを、社会面では自由の拡大を公約に掲げていました。ロウハニ師が支持された理由は、核合意という実績があったことと、イランを孤立から救った国際協調路線の継続を望む国民が多かったからだと思います。

 

これに対してライシ師は、選挙戦では革命の原理原則をより重視する姿勢を強く打ち出し、外交関係では反米的なスローガンを掲げ、経済面では外資に頼らない「抵抗経済」の必要性を強調し、文化面ではイスラムの伝統的な道徳観を守るべきだと訴えました。ライシ師はまた、アフマディネジャド政権下で開始された現金給付の金額を、現在の3倍に増やすことも約束しました。

 

今回の選挙でライシ師を支持したのは、宗教界の重鎮や革命防衛隊などのいわゆる保守強硬派、および地方の貧困層であったとされています。選挙に敗れたとはいえ4割の得票を確保したライシ師を支持した国民の声も、無視できない重みを持っているのです。

 

 

――結果としてロウハニ政権と保守勢力との対立が起こるのではないかと懸念されていますが、その辺りはいかがでしょうか。

 

ロウハニ大統領も革命防衛隊などの保守強硬派も、「イラン・イスラーム共和国体制を守る」という大目標は共有しています。ただ、そのためにどのような手段とるべきかという点をめぐり、両者の考えは異なっており、イランを取り巻く状況により、どちらが優位に立つかも変わってきます。

 

イランに対して融和的な姿勢を取ったオバマ政権の時代には、協調路線を掲げるロウハニ師が前面に出てきました。しかし今日、米国のトランプ政権は、同盟国のサウジアラビアやイスラエルなどとともに、対イラン圧力を強化しようとしています。この状況は、イラン国内ではロウハニ師に不利に働く可能性があります。

 

2000年代前半に、イランで保守強硬派勢力が力を伸ばし、2005年にアフマディネジャド政権が誕生した時も、その背景には米国のブッシュ大統領による対イラン強硬姿勢がありました。ブッシュ大統領はイランを「悪の枢軸」と呼び、軍事攻撃によるイランの体制転覆、「レジーム・チェンジ」の可能性にたびたび言及し、イラン国内の強硬派を勢いづかせたのです。

 

 

揺れる国際情勢の中で

 

――トランプ大統領は他の中東諸国と連携して、イラン包囲網ともいえるネットワークを築こうとしていると言われています。核合意にも批判的でした。

 

トランプ大統領は確かに、選挙戦中から核合意を強く批判し、これを「破棄する」とまで宣言してきました。しかしイラン側はこの合意を順守しており、米国が核合意を一方的に破棄することは難しい状況になっています。

 

そこでトランプ政権は、イランは核合意を守っているとしながらも、「核合意が米国の安全保障上の関心に見合うか否か」を「検証中」であると発表しています。この検証は、核合意による制裁の解除を受けてイランが周辺諸国への介入を増大させ、地域の不安定化をもたらしていると主張するサウジアラビアなどの訴えにも通じるものです。

 

その一方、イランとの間で核合意を成立させた米国以外の5か国は、今後とも核合意を守る方針です。よってロウハニ大統領は、これからも核合意の枠内で、米国以外の国々との経済関係の拡大により、イラン経済の回復を目指すと考えられます。豊富な資源と大きな市場を持つイランへの接近を試みる国はいまも存在し、ロウハニ政権はそれらの国々との関係を強化することで、イラン孤立化の試みに対抗していくと考えられます。

 

 

――周辺諸国への影響力ということで言うと、イランの保守強硬派が国内での優位を保つため、イラクやシリアなどへ武装人員を派遣して対立を煽っているとの批判がありますが、実際にそのようなことはあるのでしょうか。

 

イランの革命防衛隊は、「ISのイランへの侵入を防ぐため」、イラクやシリアにおいてISと戦っていると主張してきました。「国内での優位を保つために対立を煽っている」というよりは、イラクやシリアに拠点を持つISはイランをも攻撃対象としかねず、それを未然に防ぐためには介入が必要だと言ってきたのです。

 

イランの首都テヘランでは実際に、先日ISによるテロが発生し、20名近くの人々が犠牲になりました。革命防衛隊のシリアにおける戦いは、イランとヒズボラの架け橋であったアサド政権を守る戦いでもありますが、イランの西に隣接するイラクでは、イランは確かにイラクのシーア派民兵を動員し、ISと戦い続けています。

 

ペルシア湾をはさんでイランの対岸に位置するサウジアラビアは、イランの「周辺諸国への介入」を、強く非難しています。サウジアラビアはイランの介入を悪事と糾弾することで、イランの勢力圏拡大を阻止しようとしているといえます。しかし実際は、ISはサウジアラビアにとっても打倒すべき相手です。イランがイラクに「介入」して戦ってきたISは、実はサウジアラビアの敵でもあるのです。

 

 

――先日のテロはイランの首都テヘランでの初めての無差別テロとのことですが、今後どのようにロウハニ政権に影響すると思われますか。

 

ISはシーア派を極端に敵視するスンナ派の過激派組織ですが、イランではISによる大規模なテロ事件はこれまで起こっていませんでした。しかし、イラクとの国境地帯では、過去数年にわたりISメンバーの摘発が相次いでおり、今回のテロの実行犯のなかにも、イラクとの国境地帯に居住するクルド系イラン人が含まれていたとされます。イランの少数民族のひとつであるクルド人は、イラク国境をまたぐ地域に居住しており、そのなかにはスンナ派も含まれています。

 

ISによるテロ攻撃に関しては、革命防衛隊が早々に報復を誓い、すでにシリア国内のISの拠点に対するミサイル攻撃も行っています。すなわち革命防衛隊による、「IS掃討」の名の下のイラクやシリアへの関与は、今後とも続いていくと考えられます。

 

ISによるテロ事件はイラン国内では、治安や安全保障関係者の発言力を高める可能性があります。その場合、ロウハニ大統領の国際協調や自由化といった公約は、治安や安全保障を優先させたい勢力に、阻まれてしまいかねません。

 

ロウハニ大統領の再選は、自由の拡大を求めるイラン国民にとっては素晴らしく前向きなニュースでした。しかし、米国のトランプ政権の反イラン政策やテヘランで発生したISのテロは、開放路線を掲げるロウハニ政権のイラン国内における立場を、弱めていく可能性があるのです。

 

 

――混沌とする中東情勢の中で、ロウハニ大統領のイランがどのような役割を担っていくのか注目したいです。坂梨さん、お忙しいところありがとうございました!

 

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

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