ISから迫害を受ける少数派「ヤズディ教徒」とは?

ISの拉致から脱出したヤズディ教徒の人々

 

荻上 ISの少年兵としての訓練はどのようなものなのですか。

 

玉本 銃の扱い方を習ったり、クルアーンを読み、ジハード(聖戦)とは何なのかについて教えられる授業があると聞きました。

 

5人ほど取材しましたが、ある子は弟と呼び出され、「兄弟どうしで戦え。戦わなければ殺すぞ」と命令されたそうです。仕方なく素手で戦い、弟の歯を折ってしまったと話していました。彼らはその後脱走し、シリアからトルコに逃げ、クルド自治区までたどり着くことができました。またある子は、ISの宣伝映像を何度も見せられて、人の首の切るときはこうするんだ、と教えられたと言っていました。

 

荻上 最終的にはISの兵士として前線に送られたり、自爆テロの当事者となるなど、捨て駒にされることになるのですか。

 

玉本 はい。実際今年2月に私がイラクに行ったときにも、拉致されたヤズディ教徒の十代前半の男の子らが洗脳されIS戦闘員になり、爆弾を積んだ車に乗って自爆し2人とも亡くなりました。たとえヤズディの生まれであっても、戦闘員としてISのために戦わせることを前提に訓練をしているのだと思います。

 

荻上 ISから逃げてきた元少年兵の子どもたちは今どのような生活をしているのですか。

 

玉本 多くはドイツに移住しています。というのも、数年前にドイツ政府が、ISに拉致され、逃げてきたヤズディの女性や、子どもなど約2000人を庇護し、2年にわたる精神ケアをするというプロジェクトを行ったのです。そのため、私が取材した女性や、子どもたちの多くはドイツへ行きました。これ以上の人数は厳しいということで現在、ドイツは受け入れをストップしてしまいましたが、すでに移住した子たちは一生懸命ドイツ語を勉強したり、学校に通ったりしています。ただ、去年4月に彼らを取材したときは、「いまだに夜はなかなか眠れない」「こわい夢をみる」と話していました。

 

荻上 ヤズディの若い女性たちへの取材はいかがでしたか。

 

玉本 脱出してきた女性たちの取材もしていますが、一言ではとても言い表せないほどの凄まじい現実がありました。ある18歳の女の子は、拉致されたときにはすでにヤズディ教徒の男性と結婚しており、8ヶ月の子どもと、おなかにも赤ちゃんがいたんです。しかし、彼女の夫は村が襲撃された際にISに殺害されてしまいました。そして彼女は他の女性たちと一緒にモスルに連れて行かれ、そこで強制結婚をさせられました。

 

しかし、その2週間後の夜中に子供を抱いて、自力で脱出したのだそうです。そして明け方まで、モスル市内を彷徨っていたときに、たまたま早朝に通りで水を撒いている地元の男性と目があいました。彼女はその場で助けを求めました。すると、彼自身はイスラム教徒だったのですが、ヤズディ教徒だからと言って差別をせずに、彼女を匿い、それどころか彼女の親族に電話をしてクルド自治区に逃げる手配までしてくれたそうです。

 

その後、私はこの男性に連絡を取ることができました。「なぜ彼女を助けてあげたのですか」聞きました。すると、「だって人間ですから」と普通におっしゃったんです。というのも、じつは彼の家の両隣はISの関係者が住んでいたんですね。そのため「これは危ない」と思って家に入れたんだ、と言っていました。

 

荻上 助けを求める先が一軒違っていたり、少しでも時間がずれていれば、彼女は大変な目にあっていたかもしれないですね。

 

玉本 はい。実際に、逃亡した先で市民に密告されたり、ISの関係者に見つかったりして、連れ戻され殴る蹴るの暴行を受けたという話も何人かに聞いています。そうした中で、命懸けでヤズディを助けたイスラム教徒の男性の勇気に心が震えました。

 

 

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「被害者が加害者になる」紛争の現実

 

荻上 玉本さんはISの戦闘員も取材されていますよね。

 

玉本 はい。ISの支配地域に直接行くことはできませんので、クルド自治区の治安当局に許可をもらい、前線で拘束された地元のIS戦闘員に会いに行き、取材をしました。

 

ISと言うと、黒いマスクをかぶり人の首を切ったりする、まるで悪魔のような怖い人たちだ、という印象があると思います。でも、実際に会ってみると、ごく普通の人でした。私にとっては非常に衝撃でした。

 

私が取材した2人はモスル出身の男性でした。彼らになぜISに入ったのかと聞くと、1人は「家族を養わなければいけなかった」と言いました。それまで彼は文具店で働いていたのですが、ISが襲撃し、オーナーが逃げてしまったということでした。仕事を失った彼は行き場もない。それでも家族を養わなければなりませんでした。そんな中、「ISの戦闘員になればお金が貰えるぞ」と誘われて、入ったのだそうです。ただ、戦闘の前線に立つのはすごく怖かったと言っていました。

 

そしてもう1人に話を聞くと、彼の兄たちはアルカイダのメンバーで、イラク軍や米軍に殺され、恨みを持ち、銃を持ったと言います。イラク戦争後、駐留米軍の政策に反対する人びとが武装勢力に関わるなどして、反米武装闘争を繰り広げました。その流れからです。

 

その後、イスラム教、スンニ派とシーア派との宗派間抗争が激化しました。モスルに多く住むスンニ派の人々は、シーア派が主体であるイラク治安部隊などからさまざまな弾圧を受けていたのです。こうした恨みと、やはり金銭的にも困窮していたので、ISに入るしかないと思ったのだそうです。

 

そう考えると、彼らも以前は被害者だったのだと分かります。拷問を受けたり、家族を殺されていたり、でもそれが次の加害者になってしまうんですね。

 

荻上 その連鎖をどう食い止めるかが難しい課題ですよね。現在のような状況は、もともとの統治に欠陥があったこと、宗教の対立や貧困の問題が根深く存在していたことなども合わせて考えなければいけませんね。

 

玉本 はい。ただ、それだけではなく、やはり国際社会の無関心が大きかったと私は思います。イラク戦争が始まったときは、あれだけ報道で取り上げられ、日本でも反戦デモが起こるなど議論が盛り上がりました。しかし、その後はどうでしょうか。本当に人々の関心は減ってしまいました。私たちの無関心が、彼らを追い込んだという面もあると思います。これはISの地元の戦闘員だけではなく、ヤズディ教徒の人々についても言えることです。

 

荻上 今、モスルの奪還作戦で再び注目を集めている面もありますが、これについてはいかがですか。

 

玉本 実際にモスルからISがいなくなったとしても、それで簡単に解決する状況ではないと感じています。

 

なぜなら、一つは「スリープセル」と呼ばれるISの関係者が地区に潜んでいる可能性があるからです。モスルは大都市ですし、普段は一般市民を装って暮らしながら、いざとなれば隠していた武器などで攻撃することを考えています。実際、今年2月にモスルに行ったときに、ISから解放された東部の地区で、隠れていた女性2人が自爆する事件が起きていました。

 

そしてもう一つは、これまでISの支配下におかれていた人々どうしによる「リベンジ」(報復)です。ISの支配地域では、さきほどの地元の戦闘員のようにISに協力する地元の人たちがいました。彼らは、ISが一般市民に命じていた生活上のさまざまな取り決めに関して、それを破った者を密告したり、捕まえて刑罰を与えたりしていたのです。すると当然、地元の人々は恨みを持ちますよね。ですからISがいなくなると今度は、地元の人々が彼らに対してリベンジする。じつはこれが今、増えていると聞きます。

 

モスルの住民に話を聞くと、ある若者がISに入ったが、大きな事件には関わらなかったので、イラク軍に捕まった後、解放されたそうです。しかし地元に帰ると、その次の日には、彼に密告されて刑罰を受けた人たちに殺されてしまったとのことです。

 

荻上 秩序が変わるということは、それまで抑えていた感情が爆発するということになるわけですね。

 

玉本 はい。やはり、これまでの宗派対立などとは異なり、地元の住民どうしが日々の暮らしの中で折り重なっていった恨みによって対立する。それは私にとって非常にショックでした。

 

荻上 暴力は、それが生じたタイミングでコミュニティを分断させるだけではなく、時限爆弾のように残りつづけ、さらなる断絶に働きかける。こうした点は軽視できないですね。

 

 

「ISがいなくなれば平和」?

 

荻上 さきほどお話にあったように、こうした問題に対して国際社会が積極的に関心を持っていかなければ、衝突の芽は断つことができない。これまで20年近く紛争地帯を取材されてきた玉本さんにとって、「無関心からの脱却」は重要な課題だったのだと感じました。今後、テロや紛争の問題について、メディアにはどういった取り上げ方をしてほしいとお感じですか。

 

玉本 私たちは紛争や戦争について、「加害者」対「被害者」という構図で見がちです。しかし現実には、被害者が加害者になったり、加害者が被害者になることが非常に起きやすいんです。その様子は、私もこの目で散々見てきました。戦争はそういうものなんだと知り、その現状に向き合わなければならない。

 

今後、モスルからISはいなくなるかもしれません。しかし、かつての場所に人々は戻ることができるでしょうか。それは、壊れた家を建て直せばすぐに戻れるのとは違うんですね。これまでのコミュニティは破壊されてしまったのです。例えばヤズディ教徒の人々は、イスラム教徒の人を信用できなくなっています。また、モスルの市民どうしでも信頼し合えない部分ができてしまった。こうした状況で、かつてのコミュニティを取り戻すことは非常に難しいのです。

 

私がいま危惧しているのは、「ISがいなくなったから、もう平和だ」と、再び人々の関心がなくなってしまうのではないかということです。むしろこれからが、モスルの市民にとって非常に厳しい状況なのです。ですから、より多くの人に関心を持ち続けてほしいと思います。

 

荻上 イラクに関しては、単純に他の国が介入すべきかどうかという問題ではなく、こうした現状をまずは知り、向き合っていくことが重要だということですね。玉本さん、ありがとうございました。

 

 

※「アジアプレス・ネットワーク」玉本英子氏・記事一覧

http://www.asiapress.org/apn/category/author-list/tamamotoeiko/

 

 

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