独自路線で国際社会を生き抜く――カタール、断交の背景

 広がる断交の影響

 

――断交後2か月が経過しようとしていますが、カタール国内ではどのような反応が起こっているのでしょうか。

 

サウジアラビアやUAE、バハレーン、エジプトの4カ国は、6月5日の断交以降、カタールとの陸・海・空の国境を封鎖しました。これにより、4カ国はカタールに対して経済封鎖を発動したことになります。

 

カタールは食料品や建材など多くの物資を輸入に頼っており、UAEのドバイやサウジアラビアを通じて陸路や海路で入ってきているものも多いのです。たとえば、野菜や鶏肉、乳製品など食料品の90%は輸入品です。そのため、断交直後は消費者の買い占めなどもあり、ドーハ市内のスーパーは一時的な品薄状態になりました。現在、生鮮食料品の多くはイランやトルコ、オマーンから輸入されていますが、輸送コストがかかっているため、従来品に比べてやや割高になっているようです。乳製品を国内での生産に切り替えるべく、ついに乳牛そのものの輸入も行われるようになりました。

 

 

――空の便にも影響を及ぼしていると聞きました。

 

ええ。現在、断交を実施している4カ国は、カタール航空の離発着を認めていません。カタール航空は週に1000便近い定期便をこれらの国との間で運航していたので、かなりの経済的な影響が出ていると言えます。

 

また、断交実施国からカタールを訪れる際には、オマーンやクウェートなど第三国を経由していかなければならず、大変不便な状況が続いています。たとえば企業によっては、ドバイの支社がドーハのビジネスを管轄している場合もあります。ドバイからドーハへ出張する際、これまでは直行便で1時間程度の移動でしたが、オマーンなどの経由地を挟むことによって5時間近くもかかってしまうことになります。この状況はカタールだけに留まらず、断交を実施している4カ国にも経済的影響を与えています。

 

今回の騒動について、カタール国民は当初、比較的冷静に受け止めていました。しかし、時間とともにタミーム首長やカタール政府の立場を支持する声が大きくなってきています。街中には「栄光あるタミーム」と書かれたタミーム首長の肖像画が掲げられており、「大国の横暴には屈しない」とする雰囲気も盛り上がってきています。さらに、カタールで働く多くの外国人のあいだからも、カタールに対して連帯感を示す動きがあり、SNS上ではカタール支援キャンペーンも展開されています。

 

 

――UAEは国内ガス消費量の約3割をカタールに依存していると聞きます。カタールは対抗措置としてガスの供給を止めることもできそうですが、そうしないのは何故なのでしょう。

 

UAEは自らも天然ガスの生産国なのですが、その大半を日本などに輸出しています。そのため、国内の発電需要を賄うために大量の天然ガスをカタールからドルフィン・パイプラインを通じて輸入しています。またドバイはカタールからLNGとしても購入しています。確かにカタールにとって、UAEへの天然ガスの供給を止めることは有効な対抗措置になると言えます。それは、夏場を迎えて日中の電力需要が伸びる時期であるため、必要な天然ガスの数量を簡単にスポット市場で調達することは難しいからです。通常天然ガスは、産ガス国との間で結ばれる20年程度の長期契約にもとづいて購入し、足りない分については市場価格で余っているところから買います。仮にカタールがUAEへの供給を突然止めることがあれば、UAEは3割もの不足分をスポット市場で、しかも短期間のうちに確保することは難しいでしょう。

 

しかしこれまでのところ、カタールはUAEへのガス供給を停止していません。カタールにとってUAEは重要な顧客ですので、恐らく安易な対抗措置を取ることを考えていないのでしょう。仮に対抗措置が取られるとすれば、カタールは隣国のシェアを失うことになります。世界的に天然ガスが余ってきているなかで、大事な売り先を失うわけにはいかないのです。実際、カタール国営石油のトップも、繰り返しUAEへの供給は問題なく行われており、今後も供給停止をすることはないと説明しています。

 

また、カタールはドルフィン・パイプラインを通じてオマーンへも天然ガスを供給しています。仮にカタールがUAEへの対抗措置のためだけに天然ガスの供給を止めると、友好国であるオマーンへの天然ガス供給も止まってしまうことになり、二次被害が生じることになります。こうした懸念から、対抗措置がとられていないことは考えられます。

 

もっとも、両国のガス取引契約には「不可抗力条項」が入っています。カタールが契約を履行せず、UAEへの天然ガス供給を止めたとしても、今回のような断交や経済封鎖の場合は契約上免責される可能性もあります。そのため、カタールは「最後の切り札」を握っているとも言えるのです。

 

 

――なるほど。さまざまな思惑があって、パイプラインは止められていないんですね。

 

対立、長期化の可能性

 

――一方で6月22日にはサウジアラビアなどの4か国からカタールに対して断交解除のための要求が送られました。具体的な要求内容はどんなものだったのですか。

 

要求は13項目ありました。この要求はかなり具体的な内容であり、そのなかにはムスリム同胞団などテロ組織との関係を切ることや、イランとの外交関係を縮小すること、カタールにあるトルコ軍基地を閉鎖すること、アルジャジーラを閉鎖することなどが盛り込まれていたのです。

 

当然、カタール側にとっては簡単に飲むことができない要求でした。カタールのムハンマド外相は、13項目の要求は主権を侵害するものであり、「拒否するように作られている」との考えも示しています。

 

4カ国はカタールに対して「内政干渉を止めること」を求めているのにも関わらず、要求そのものはカタールの内政に干渉したり、主権を制約するものなので、国際的にも理不尽な要求であるとの見方があります。ちなみに、4カ国は秘密であったはずの要求内容が一般に報道されたことについて「カタールが意図的にリークした」と批判しており、新たな対立を生み出しています。

 

 

――対するカタールは、どのような返答をしたのでしょうか。

 

7月3日にカタール側から提出された回答は、大方の予想通り要求を拒否するものでした。その後、4か国は7月5日にカイロで外相会議を行い、13項目の要求をやや抽象的に緩和するかたちで新たに「6原則」を発表しています。

 

これは、テロ支援や内政干渉の禁止、2013年に締結されたリヤード合意および2014年に締結されたリヤード補完協定の履行などを求めるものでしたが、他方でアルジャジーラやトルコ軍基地の閉鎖などについては触れられていませんので、態度がやや軟化したとも言えます。

 

しかしながら、その後も双方の間で誹謗中傷合戦は続いており、UAEのガルガーシュ外務担当国務相は「次のステップはカタールの孤立化を進めること」であると明言し、今後も圧力をかけ続けていく方針を打ち出しています。一方でカタール側も、自分たちの方こそ正しい立場にあると主張し続けています。タミーム首長は7月21日に、断交後はじめて国内外向けに演説を行いました。その内容は、問題解決のための対話を行う用意があると述べる一方で、カタールの正当性を改めて主張し、断交や経済封鎖には屈しないとの強い姿勢を示すものでした。双方とも、対話の糸口が見つからない状況にあると言えます。

 

現在、この問題は単なる地域内の「もめごと」の域をはるかに超えてしまい、アメリカやイギリス、フランス、ドイツ、国連なども注視する国際問題に発展してしまいました。日本も安倍総理がタミーム首長やサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマーン皇太子と電話会談を行ったり、外務副大臣がUAEやクウェートを訪問するなど、双方に問題解決に向けた対話を促しています。現在、アメリカのティラーソン国務長官がクウェートに協力するかたちで、当事国の仲介作業にあたっていますが、問題の最終的な解決にはさらに多くの時間がかかると言えるでしょう。

 

 

――変動する情勢を注意深く見守っていきたいですね。堀拔さん、お忙しいところありがとうございました!

 

 

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