国際社会を生き抜くためのPR――国際情報戦の裏側に迫る

PRが変わる?

 

――近年は本当にPRが世界を動かす鍵になっていますよね。政治とPRと言えば、高木さんは『国際メディア情報戦』の中で、アメリカの大統領選挙を「地上で最も熾烈な情報戦」と表現されていますが、大統領選ではどのようなPR戦が行われるのですか。

 

著書の中ではオバマ氏のTV公開討論を紹介しています。彼は本当にPRマインドが高くて、非常に洗練されたPRを行っていました。トランプ氏とは対照的な教科書通りのすばらしいPR戦略でした。

 

例えば写真1枚出すにもとても気を使っています。オバマ氏にはお抱えの専属カメラマンがいて、リリースされる写真は彼の撮影のもと、好感度の上がるイメージを非常に効果的にコーディネートしています。たとえば土曜日にホワイトハウスで海外の首脳と電話会談を行ったなら、リリースされる写真に写るオバマ氏はノーネクタイの少しカジュアルな装いで、電話をとっている姿の画像を出すという具合です。これがまたいいアングルで撮影されたものなんです。

 

そういう写真が出れば当然マスコミはその画像を使いたくなります。テレビでは、さらにその写真を徐々にズームインするなど、より劇的に映像効果を持った動画を放送するということもおきます。自分のイメージを上げる画をメディアに使わせたくさせる手法を心得ていましたね。

 

PRを考える上で、写真や映像の写りはとても重要です。オバマ氏のイメージ向上のためのPR戦略とは逆に、2011年のオサマ・ビンラディン殺害作戦の時、アメリカ政府はしょぼくれたみすぼらしい老人姿のビンラディンの映像を公開し、そのカリスマ性を破壊しました。

 

 

――初めて公開討論がテレビ放映された1960年の大統領選挙では、その映り栄えを考え、ケネディ候補が徹底的に服装やジェスチャーにこだわったという話もありますよね。それだけ見た時の印象がPRに影響するんですね。

 

ええ。見栄えや振る舞いの一つ一つが非常に重要になります。オバマ氏はそうしたパフォーマンスに天性の才能を持っていたと思います。公開討論でもテレビ的な演出を本能的に察知して当意即妙な回答をしましたし、うまく相手がやり込められているような図になるように立ち振る舞うんです。

 

 

――そんなオバマ氏も再選を狙った2012年の大統領選では、第1回目のテレビ討論で芳しくない成果だったとか……

 

第1回目のテレビ討論後の世論調査では72%もの人々が対立候補のロムニー氏を優勢と答えていました。それだけオバマ氏が劣勢に立たされたということです。

 

この時決定的だったのは、発言していない時の態度でした。テレビ討論では発言している時も、していない時も、民主共和党両候補のバストショットが映し出される画面が多用されます。オバマ大統領は相手のロムニー氏が発言中、手元のメモを見て視線が落ちていました。その様子がバストショットでしっかりと国民のもとに届けられてしまったのです。

 

一方でロムニー氏は終始討論に注意を払い、オバマ氏の発言に異議がある際は発言に割って入ってでも反論する姿勢でした。強い語調での反論にオバマ氏が思わず小声で「OK」と認めるような発言も音声マイクを通して伝わり、ロムニー優勢の構図が出来上がったのです。

 

このようにPRでは身振り、発言、声のトーンなど、非常に総合的なパフォーマンス能力が必要になります。オバマ氏は1回目の討論後、続く第2回、3回公開討論に向けてこうしたPRテクニックを徹底的に叩き込みました。泊まり込みで連日あらゆる議論を想定してリハーサルしたそうです。後日のテレビ討論では、その努力を遺憾なく発揮して、危うい質問も効果的に切り返し、逆にロムニー氏をやり込めています。

 

 

――今回の大統領選はいかがでしたか?

 

トランプ氏はオバマ氏とは対照的です。全く洗練されていない。PRの基本と真逆のことをやっています。例えばCNNやNew York Timesなどの大手メディア、私はメガメディアと呼んでいますが、本来のPR戦術ではこうした大手報道機関とは友好的な関係を築こうとするものです。しかしご存知の通りトランプ氏はCNNなどを目の敵にして、徹底的に対立しています。

 

 

――にも関わらず大統領に当選しました。PRの常識では考え難いことだったのでしょうか。

 

そうですね。そういう意味ではこれまでのPRテクニックの話が通じなくなっています。トランプ氏の場合、ああした洗練されていない俗っぽいパフォーマンスが一部の人に強く支持されたのだと思います。トランプ氏のメディア経歴としては、アプレンティスというリアリティーショーという分野のバラエティ番組での司会がありますが、他にもプロレス興行などに関わっています。ですからエンターテイメント系の番組の文脈は心得ているわけです。つまり、CNNなどジャーナリズム系とは違った種類のテレビ番組での語り口を心得ているということで、彼の大統領選のパフォーマンスにはそうした背景が色濃くでていると思います。

 

こうした彼のパフォーマンスに喝さいを送る層は、今までの洗練されていたPRが対象としてきたNew York TimesやWashington Postのようなメディアの読者層とは全く異なります。言ってしまえば、あまり知的ではないオーディエンスです。これまでPRは正統的なジャーナリズムと真剣に対峙する人々を相手にしていました。それで世論を形成している気になっていたんです。しかし有権者の中にはNew York Timesなんて読まない人もたくさんいるわけで、トランプ氏のパフォーマンスはそうした層をうまく取り込んだと言えます。

 

 

――これまで取りこぼされていた層に響くプレゼンテーションだったと。

 

そうです。今までのメディア・リレーションズはハイブロー重視な側面があったかもしれません。その潮流から見過ごされていた層は確かに存在していて、そこを突いた。「国際メディア情報戦」的に解釈すると、今回の大統領選はそう分析できると思います。

 

 

テロ組織とPR

 

――近年ではその重要性からテロ組織などの非国家組織も積極的にPR戦略を打っているそうですね。

 

その点で革新的だったのはオサマ・ビンラディンです。彼もまた、メディア情報戦に類まれなる才能を持った人物でした。ビンラディン以降のテロ組織は彼のPR戦術を踏襲しているといっていいでしょう。

 

 

――ビンラディンは具体的にどのようなPR戦略をとったのですか?

 

オサマ・ビンラディンがアルカイダを組織し、グローバルジハードを提唱し始めた当時は、ちょうどアルジャジーラというカタールの衛星放送局が国際メディアの中で存在感を表していたころでした。アルカイダはアルジャジーラのカブール支局の郵便受けに組織のスクープビデオを送りつけたり、ジャーナリストを呼び出して独占でビンラディンと会見させたりしていました。アルジャジーラがスクープを流せば、BBCやCNNなど欧米系のメディアはそれを孫引きする形で取り上げます。こうしてまさにグローバルに彼の思想やリクルートメッセージが送り届けられたのです。

 

また、アルカイダは「アッサハブ」という独自のメディア戦略部隊を持っていました。彼らは我々のようなプロのメディアの人間が制作した映像と遜色のない広報映像を配信していました。1990年代から2000年代初期ですから、まだパソコンの編集ソフトなども今ほど普及していません。それにもかかわらずCGなども使われていて、編集機やちょっとしたスタジオなどの設備がないと作れないようなものが制作されていました。

 

あれは衝撃的でしたね。「アッサハブ・メディアプロダクション」としっかりクレジットも入っている。我々が番組を作る時と同じように、彼らも物づくりをする者としての堂々たる誇りをもっているように感じられてとても印象的でした。今でこそISやその他のイスラム過激派でもPRを重視したメディア専門部隊を持つようになっていますが、当時は本当に画期的なことだったんですよ。

 

 

――アルカイダはマガジンも出していたと聞いています。

 

「アラビア半島のアルカイダ」というアルカイダの分派が「インスパイア」というオンラインマガジンを発刊していました。これはアンワル・アウラキというアメリカ生まれのイエメン人が編集をしたと言われていて、見てみると本当にきれいで洗練された雑誌です。全ページカラーで、ファッション誌のようにハイセンスです。そこに戦闘員のドキュメンタリーとかジハードのレポート、欧米への非難などの特集が組まれている。しかも結構格調高い論文風に書かれているんです。やはりプロの編集経験がある人たちがやっていたと思います。

 

「インスパイア」は英語で執筆され、英語圏の読者を対象としていました。アメリカや欧州に住む仲間を文字通りインスパイアし、テロを起こすように喚起していました。まさにホームグロン型のテロのきっかけとなったマガジンです。

 

 

――現代のテロ活動の原点と言えるPR戦略だったわけですね。

 

現在のイスラム系過激派組織はほぼ確実にビンラディンのPR戦略を模倣しています。ISもインスパイアと同じようにインターネットマガジンを出しています。当初は「ダビーク」という英語版のものでしたが、現在は「ルミア」というものを月刊で出していて、こちらは8か国語で配信されています。

 

ISは映像配信の方も、「アルハヤート・メディアセンター」という英語版の組織と、地域ごとのメディア組織を有しています。一応国土統治をしている建前だから、県のようなものがあるんですよね。そこがそれぞれ報道組織を持っているんです。アルカイダのメディア戦略の進化系です。そうした地方メディアでは拉致したイギリス人ジャーナリストをレポーターに立てて、ISが統治している街でいかに人々が朗らかに楽しく暮らしているのかといったことをレポートさせて、インターネット上で世界中に配信している。ISがイラクやシリアで窮地に追い込まれる一方、フィリピンなどアジアでの浸透が危惧されていることを考えてみると、世界の隅々まで彼らのPR戦略の危険性が浸透している証拠と言えます。

 

 

日本が情報戦で生き残るために

 

テロ組織も含め、国際的にPRやメディア戦略が重要な役割を果たす中、日本はその波に乗り遅れていると言われています。日本の国際PR戦略はどのような現状なんですか。

 

日本は海外発信が弱くて、国際的地位が落ちてきているとよく言われますね。ただ、例えば国家安全保障局や外務省などではメディア戦略に高い意識をもっている人が増えてきました。政府の音頭で国際報道を充実させる動きもとられています。しかし、日本の国際情報戦の現場で、実際に具体的なアイディアや手法として、効果的なPRが行われているようには見えないです。

 

 

――アメリカのように専門のスタッフはいないのですか。

 

日本にもPR会社はあるのですが、最初に指摘したようにアメリカほどには存在感はありません。日本の場合、マインドセットとしてPR、つまりパブリックリレーションという感覚が抜けていると思います。PRというとなんとなくやらせっぽい感じになる。

 

 

――なぜ日本のPRは遅れているのだと思われますか。

 

遅れているという表現が適切かわかりませんが、そもそもPRという考え方自体欧米のものですから、日本が不利になるのはある意味当然のことだと思います。さらに言えば、国際メディア空間というのは、基本的には英語による欧米流の価値観が圧倒的に支配的なので、そもそも土俵が違うんです。結果として国際的に存在感が薄いという話になってしまうのでしょう。

 

こうした欧米式のメディア潮流にはアルジャジーラや中国の国際報道CCTVがオルタナティブを提示することが期待されていますが、まだそこまではいっていません。中国はメディアの検閲が多く、未だ欧米では報道機関として信頼されていないという話も聞いています。この問題は難しくて、否が応でも情報戦に参加する必要性がある一方で、単純に欧米式を追いかけても日本が本家欧米式のPRにかなうことはない気もするし、そもそも欧米に追従することがよいことなのかという疑問もわいてきます。

 

さらに歴史的な観点からは、日本は第二次世界大戦中、枢軸国側としてナチスと同盟して戦いました。日本がナチスほどの「人道に対する罪」を犯したということではありませんが、中国やアジア各地で泥沼の戦いを行い、国家の戦略としてナチスの勝利を前提に政策をとっていたことは事実です。これはPRの観点から言うと非常に重い十字架です。歴史認識の話が出るたびに日本にはそのイメージが付きまとう。この点は意識して情報を発信していかなければならないでしょう。

 

ただ、特別なPRがなくとも、もともと日本が国際的に高い評価を受けていることはあります。例えばCNNではアマンプールという女性司会者が、自身の番組で日本の治安の良さを、アメリカでの銃乱射事件に沿って言及したことがあります。これは日本の評判をよくする情報、PRになるものです。他にも日本はよくオーガナイズされた国だとか時間に正確だとか、評価が高い部分がありますよね。そうした点を足がかりにしていくことはできると思います。

 

この点で、2020年の東京五輪はチャンスだと思っています。前回のリオは工事が間に合わなかったり治安が悪かったり、やはりあまり国際的な評判がよくないんですよ。結果としてブラジルの国際的なレピュテーションが下がったとさえいわれています。海外からの視線で見れば、ここで日本が普通に五輪を開催しただけでも評価はあがる状況です。東京五輪は問題点もいろいろと指摘されていますが、日本の国際的なPRという観点からはまだまだ前向きに捉えることも可能です。五輪の際は各国からジャーナリストも来日しますから、彼らにどのように満足して帰ってもらうかというのはPRの点からは重要な点ですね。

 

 

――包括的な視点で国際情報戦に臨む必要性がありますね。高木さん、お忙しいところありがとうございました。

 

※本稿はαシノドスvol.213からの転載です

 

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