迫害、避難、不足する支援――ロヒンギャ難民たちの現状とは

長期的な支援の必要性

 

ー―お話を伺うとさまざまな支援が行き届いていないのだと感じますが、現在行われている支援の中で、特に大きな課題はなんでしょうか。

 

現時点では、政府がNGOや国際機関への活動を許可していないこと、そして全体の調整と指揮をとっていないことが一番の問題です。その次に必要なのは、キャンプ地をそれぞれ特定し、世帯者リストをつくり、キャンプごとにリーダーを決め、物資配給の混乱を避けるためのシステムづくりをし、難民弱者にも確実に支援が届くような体制をつくることです。

 

最優先する物資は、食料、水、医薬品となります。そして雨露をしのげるシェルターの建築資材です。その次には、台所用品、バケツ、水おけ、石鹸といった日用品になるかと思います。その後は、衛生上の観点から、トイレや井戸の設置が求められるでしょう。

 

最後に、滞在が長期化する場合は、児童生徒のための学校・図書館、母子保健の充実、医療サービス、職業訓練などの支援が有功と思われます。

 

ビニールシートでなんとか雨露をしのぐ難民たち

ビニールシートでなんとか雨露をしのぐ難民たち

ロヒンギャ難民は年寄り、子ども、中年女性が多く若い男女が少ない

ロヒンギャ難民は年寄り、子ども、中年女性が多く若い男女が少ない

 

――情勢次第では、実際に難民の長期化も考えられますが、こうした現状に国際社会はどのように対応していけばいいのでしょうか。

 

バングラデシュ政府が一番望んでいる解決は、難民のミャンマーへの安全な帰還だと思います。国際社会がすべき1番の対応は、そのための外交交渉をミャンマー側とこれからも続けていくことだと思います。92年の難民流入のときも時間がかかりましたが、約30万人中、約22万の難民が帰還しています。バングラデシュ政府が慎重な態度でミャンマー政府と交渉を続けたことと、UNHCRが帰還作業に立ち会うという条件で、実現したことでした。難民の中には帰還を望まない人もおり、バングラデシュに数万人が残る結果となりました。

 

今後の交渉が長引く可能性は大きいので、国際社会は次のことを見ていく必要があると思います。

 

(1)バングラデシュ政府が的確に難民の支援ができるような資金的援助と長期的視点になった支援計画づくり

 

(2)ミャンマー政府・軍に対して、掃討作戦上での一般市民に対する人道的配慮と人権保護を訴えること。市民団体が出す声明、ミャンマー大使館への要請、マスメディアを通じての発言、SNSでの発信などは、そうした国際世論を強化していくと思います。

 

(3)ミャンマー政府にロヒンギャ帰還難民を受け入れるように促していくこと。あくまでも自主的な帰還が原則で、UNHCRなどの第三者機関の関与が重要だと思います。また帰還を促すためにも、ミャンマー政府はロヒンギャの人々の権利や国籍についても、なんらかの緩和策を提示することも重要だと思います。

 

(4)難民法にもとづく手続きと登録ができるような環境づくりと、登録済みの難民の第三国定住の促進。日本は難民認定、難民の受け入れについては非常に消極的な国といわれています。すでに日本には自力で来日し、日本に居住しているロヒンギャの方々が200名以上います。またその中には難民認定を得た方もおられます。日本がアジアの難民支援のリーダーシップを発揮する意味でも、ロヒンギャ難民の第三国受け入れ国として、積極的な政策を打ち出してほしいと思います。

 

多くのロヒンギャ難民がミャンマーに戻るだけでなく、人間として生活するために必要な選択の自由が与えられることが重要だと思います。

 

 

――日本にできることはなんでしょうか。

 

まずはロヒンギャ難民への緊急支援を政府、NGOをあげて協力して行なうことが重要かと思います。日本政府は対バングラデシュODAにおいては最大のドナーです。この立ち位置をうまく使ってバングラデシュ政府の立場を理解しつつも、ロヒンギャの人々が正規の難民として法的措置、手続きがとられるよう訴えていくことが重要かと思います。

 

片方で、ミャンマー政府への働きかけも重要になると思います。ミャンマー政府は民族浄化ではないと主張していますが、国連の調査団が正式に受け入れられれば、その真偽と実態が事実が明らかになっていくと思います。9月19日、アウンサンスーチー氏が正式な演説を行い、「すべての人権侵害への批判」「難民の帰還」「ロヒンギャの人々への権利拡大の可能性」を訴えました。

 

多くのミャンマー市民は、いまだにロヒンギャを国民として認めない、または異民族としての違和感を強く持っています。こうした状況を私たちはまず理解しておく必要があると思います。その上で、アウンサンスーチー氏の演説は、さらに一歩先を目指すミャンマーの新しい姿を訴えたのだと思います。ミャンマー軍の人権侵害の指摘にだけ集中するのでなく、ロヒンギャの人々がミャンマー国内で国民の地位を得て、安心して共存できるような働きかけを日本政府や日本のNGOができるといいと思います。

 

 

根深い溝、解決に向けて

 

――冒頭でもご説明いただきましたが、改めて、ミャンマー国民がここまでロヒンギャに対して反感感情を抱くのは何故なのでしょうか。これまで両者の関係を改善させるような取り組みは取られてこなかったのですか?

 

ミャンマー国民の多くが、風貌も宗教も大きく異なるロヒンギャに対して、冷淡な感情を持っているといってまちがいないでしょう。また、一部には「ロヒンギャという民族はいない。彼らはバングラデシュからの移民だ」「彼らはテロリストだ」といった考えを持つ人もいます。82年の市民権法で国籍を剥奪されてからは、これらは国民の間で正当化され、今日に至っています。

 

15世紀からイスラム教徒がここに居住していた事実を無視し、1948年のミャンマー独立の動乱の中で英国政府によって動員されたベンガル人が多くいた事実だけで、残りのすべての人を違法な移民ととらえられるのか、議論の余地があります。

 

すでにミャンマー独立から80年が経とうとしており、その間ここにロヒンギャの人々が住み続けた事実があります。そしてバングラデシュに難民化した後もミャンマーへの帰還を実現していること、そして今まさしく難民となっている人の中にもミャンマーに戻りたいとしている人が多いことも事実です。

 

ARSAという武装グループの実態はまだわかりませんが、暴力で主張を通そうとすることには納得はできません。しかし、こうしたグループを生み出し、攻撃の機会を与えてしまった背景には、ミャンマー政府のロヒンギャに対する高圧的な政策が長くあったことも事実です。これからは「歴史」だけではなく、「現実」を見ながら、話し合いによって解決を探る時期にきているのではないでしょうか?

 

路上に座り込むロヒンギャ難民の人たち

路上に座り込むロヒンギャ難民の人たち

 

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