「戦争」の裏を支える――「民間軍事会社」は何をしているのか

 政治的制約がある場所に入れる

 

――結果的にイラク戦争では民間軍事会社の役割が大きくなったということですね。一方で、本来国家の権限のもとで執り行われていた軍事行為が民間に委託されることに問題点はないのでしょうか。イラクでは民間軍事会社が民間人を誤射して問題になったという話も聞いています。

 

「戦争」というのは、単に最前線で戦闘行為をするだけではなく、兵士たちが戦地で生活をすることまで含まれます。そしてそうした戦闘行為以外の戦地での生活全般のサポート、後方支援のアウトソーシングは昔から行われたことで、イラク戦争で始まったわけではありません。軍隊が動けばそこに様々なビジネスの機会が生まれるのは、当然と言えば当然なのです。

 

ただ、現代の戦争、特に武装反乱勢力やテロリストとの戦いという状況の中では、明確な戦闘の前線や後方がなくなっています。一般市民に紛れてテロリストが自爆をする、路上に仕掛けた爆弾で車を吹っ飛ばすといった攻撃が主流になり、これまでは比較的安全とみなされてきた後方支援、すなわち食料の輸送をしていたトラックや民間業者の宿営地などが攻撃の対象にされました。そうなると、こうした対象を警備している「民間軍事会社」の武装警備員たちが攻撃を受けて応戦し、テロリストを殺害したり、予防的な措置を取って民間人を誤射するような事件が発生するようになったのです。

 

イラクではブラックウォーターという米国の会社がイラクの民間人を殺害したことが国際的な問題となりました。同社は当時バグダッドの米国大使の護衛を行っていたのですが、大使の乗る車列を警護している最中に、交差点で停まろうとしないイラク人の車に発砲し、無実の市民を多数殺害してしまいました。

 

 

――軍隊による誤射に関しては、軍法会議などで処罰が行われていますが、民間人による誤射はどのように対応されているのですか。

 

特に戦後間もない頃は、イラク政府の法執行機関が機能していなかったため、そうした行為が起きても取り締まることが出来ませんでしたし、民間軍事会社の社員も、米兵と同じく地位協定によってホスト国の法律の適用外の存在だったため、彼らがイラクの法律で裁かれることはありませんでした。

 

ですが、イラク政府の行政機能が回復するにしたがい、イラクでもアフガニスタンでも、「民間軍事会社」に対する規制は強化されるようになりました。現在ではそれぞれ警備事業法の下で厳格に管理されており、外国人の元軍人たちが好き勝手に武器を扱ったり、民間人を射殺したりするようなことは出来なくなっています、というより、そんなことをすればすぐに現地の警察に逮捕されます。

 

 

――先ほど、後方支援の民間委託は以前からあったとありましたが、過去民間はどのように戦争に関わってきたのでしょうか。

 

主に基地での支援業務、掃除、洗濯、給食サービスなどは第二次大戦のころから民間会社が提供しています。ベトナム戦争でも第一次湾岸戦争でも、基本的に基地の設営、運営、生活必需品の補給などは民間が担ってきました。

 

また、政治的な制約があって正規の軍隊を送れない場合に、「民間軍事会社」を送った例もあります。例えば1970年代後半に始まったサウジアラビアの治安部隊の訓練任務や、ユーゴ紛争時にクロアチア軍の近代化支援として軍の機構改革、戦略策定や要員の訓練の任務を担ったのも、米国防総省から委託を受けた「民間軍事会社」でした。

 

それからアフリカでは90年代に本格的な戦争を請け負う会社も出てきました。南アフリカのエグゼクティブ・アウトカムズ(EO)という会社で、同社は93年にアンゴラ政府から委託を受けて反政府武装勢力を掃討する戦闘作戦を行ったり、95年にはシエラレオネ政府からの依頼で反政府ゲリラを鎮圧する軍事作戦を行いました。戦争を請け負う「民間軍事会社」のイメージはこのEO社の活動によるものだと思われます。しかし、同社のこうした活動は国際的にも問題となり、EO社は98年に解散され、以降、この種の「戦闘請負会社」はなくなりました。

 

こうした業務の受託は、一部アフリカでは今でも存在するかもしれませんが、欧米の大手の会社は、戦闘業務を請け負えば国際的な非難=企業イメージ低下につながるので、まず戦闘業務を請け負うことはありません。

 

 

今後の「戦争」と「民間軍事会社」

 

――現在は中東が混迷した状況にありますが、この現状に民間軍事会社はどのように関わっているのでしょうか。

 

基本的にセキュリティのニーズのあるところには、元軍人たちの技能、知識、ノウハウが必要とされますので、「民間軍事会社」のビジネス機会が存在します。ソマリアの海賊が跋扈した2000年の終わり頃は、アデン湾海域を通過する商船向けに、「対海賊セキュリティ・サービス」を提供する会社がいくつもありました。

 

最近の中東・アフリカでは、過激派イスラム国(IS)を始め、アルカイダ系のテロ組織も各地で活動を活発化させていますので、こうしたテロの脅威が高い国々で活動するには、何らかのテロ対策が必要になります。テロや治安情報の分析サービスの提供、サイバーテロ対策、セキュリティ計画の立案や警備・警護サービスの提供、国外退避などの危機対応のアシスタンスサービス、危険地に派遣される民間人向けのセキュリティ訓練など、「民間軍事会社」は様々なサービスを提供しています。多くの人々の予想に反して、こうした業務のほとんどが非武装でのサービスになります。「ライフルを持って警護」というのは彼らの業務のほんの一部に過ぎません。

 

 

――今後、軍隊と民間の関係はどう変わっていくでしょうか。

 

一国の軍隊同士が特定の戦域・戦場で戦闘をするという形態の戦争はますます減り、国家と非国家勢力の戦いが増えています。前線と後方、戦場と平時の世界、軍人と民間人の区別はますます曖昧になり、ロンドンやパリの大都市で、シリアで行われた空爆作戦の報復テロが行われるのが現代の戦争です。

 

これからはサイバー空間をつかった戦争、無人機や人工知能(AI)関連の技術を搭載した兵器システムによる攻撃など、さらに戦争の形態が変わっていくと思われます。そうなれば、そうした新たな脅威に対処する知識や技能を持った人の能力が必要となり、そうした人材が民間にしかいなければ、民間会社が防衛の最前線を担うことになるかもしれません。

 

先にも申し上げた通り、民間による軍事への介入は、昔からあった現象であり、「民間軍事会社」の参入が戦争の在り方を変えるわけではありません。しかし、このように戦争の形態が変わったことや戦争関連技術の変化が、軍隊と民間の関係を変化させ、民間軍事会社の新たな活動の場を形成していると言えるでしょう。

 

 

――軍民要用技術の進歩など、今後の軍と民間の関わり注目していきたいです。菅原さん、お忙しいところありがとうございました。

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

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著者/訳者:菅原 出

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ISBN-13 : 9784480427199


 

 

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