2017.10.06

シェアリング・エコノミーと社会――就労、生活、人間関係、そして持続可能性

穂鷹知美 異文化間コミュニケーション

国際 #シェアリング・エコノミー

はじめに

近年、ドイツ語圏(ドイツ、スイスのドイツ語圏、オーストリア)では、「シェアリング・エコノミー」という言葉が、単なる新しいサービスや取引方法として注目されるだけでなく、デジタル時代のライフスタイルを象徴するキーワードにもなってきました。

他方で、シェアリング・エコノミーについて新たな可能性をみる肯定的な議論が一巡し、就労者や社会全般に及ぼすさまざまな影響を問題視する批判的な指摘も増えてきました。

今後、シェアリング・エコノミーによって社会はどう変わり、何がもたらされるのでしょうか。本稿では、最近のドイツ語圏での議論を追い、提起された問題や新たな視点をまとめながら、シェアリング・エコノミーの将来について若干の考察を加えてみたいと思います。

シェアリング・エコノミーを牽引する若者

最初に、リューネブルク大学教授ハインリヒスらの「シェアリング・エコノミー」という調査報告書(2012)をもとに、ドイツ語圏においてシェアリング・エコノミーがどのような人たちに、どのように支持されているのかを概観してみます(Heinrichs, et al, Sharing Economy)。

この調査は、シェアビジネスの大手企業Airbnbの依頼を受けて、アトランダムに選ばれた1000人以上のドイツ人を対象にして行われたもので、これによって、シェアリング・エコノミーに関わる人たちの意向や社会的背景が、はじめて明らかになりました。報告のなかで、筆者が興味深いと思った点を、以下にまとめてみます。

・調査対象者のうち55%の人は、シェアリング・エコノミーの経験(消費や住宅も含めた賃貸行動)があると回答しています。その内訳をみると、55%がフリーマーケット、52%がインターネットを通じて、個人から個人への物品の売買を経験したことがあり、29%の人は、車や自転車を賃貸したことがありました。民泊を利用あるいは提供したことがある人は全体の28%、庭や日曜大工で使う作業用具など普段はほとんど使わないものを賃借した経験がある人は25%でした。

画像1フリマ

・利用者は、14才から29歳の若い世代が圧倒的に多くなっています。デジタル世代と呼ばれるこの世代は、とりわけインターネットを介した売買や賃借行為に積極的で、25%がインターネットを介したシェアや利用をしたことがあると回答しています。ちなみにインターネットを介した利用者の割合は、40〜49歳の人の間では13%、60歳以上においては1%でした。

・年齢だけでなく、学歴や収入や価値観(世界観)などの社会的背景も、利用頻度と強い相関関係がありました。若者でかつ高学歴、高収入な人ほど、賃貸システムやインターネットでの売買の利用頻度が多く、また創造性や変化に富む生活を高く評価する人ほど、従来の所有や消費のあり方にこだわらず、シェアや賃借を頻繁に行う傾向がみられました。

・民泊を利用あるいは自身が提供する人においても同様の傾向がみられます。高学歴で、変化に富む生活に興味をもつ人ほど、利用頻度が高いという結果です。その人たちは、ほかの人に対して必ずしも社交的というわけではないものの、他人に対しての信頼は比較的高いという結果もでました。

回答者の圧倒的多数が、持続可能性や環境負荷を配慮すると回答もしていることから、ハインリヒス教授らは、シェアリング・エコノミーがもたらした新しい「協力的な消費kollaborativer Konsum」は一過性のものではなく、従来の個人の占有を前提とする経済市場を補充するものとして発達し、一つの流れとして定着するのではないかと推測しています。(Heinrichs, et al, S.19.)

シェアリング・エコノミーに投げかけられた疑問

この調査報告の発表から5年たった現在、シェアリング・エコノミーの市場規模もサービス分野もさらに広がってきましたが、引き起こされる問題や課題もまた鮮明になってきました。ドイツとスイスの主要なメディア報道から、問題点や危惧を以下まとめてみます。

就労に伴う問題

まず、マクロな経済の視点にたてば、既存の企業とシェアリング・エコノミーとの間に競争原理が働けば効率や生産性が一層高まると期待できますが、ホテルやタクシー、室内清掃など、シェアリング・エコノミーの市場が急速に拡大しているサービス業分野では、就労状況が全般に著しく悪化するのではという危惧が指摘されます。サービスが簡単にほかで代替されやすくなることで、際限なくサービスの代価が下がったり、いったん体調を崩すとそのまま切り捨てられるような過酷な就労環境になるのではという不安です。

シェアリング・エコノミーにおいて、サービス提供者は少なくともこれまで、個人事業者(フリーランス)という扱いで、通常の企業に就労する労働者が享受することができる社会保障は一切ありません。自分で働く時間を選べるかわりに、最低賃金の保障もありませんし、同業者が連帯する労働組合のようなものも今のところありません。

シェアリング・エコノミーをこれまでの就労規則に阻まれない自由な働き方や生き方と解釈することもできますが、労働者が150年来戦い勝ち取ってきた労働者の権利や保護する法律をすべて手放し、無力なフリーランスに押し戻されてもいいのか、とニューヨーク大学のショルツTrebor Scholzは疑問を呈しています(Die teilende Gesellschaft (4), 2016)。

画像2掃除風景

持続可能性への疑問

シェアすることは従来型の消費に対して環境負荷が少なく、目指す持続可能な社会に近づくことになるという楽観的な見方にも、疑問の声もあがっています。ヴォルフェルトNikolai Wolfertは、いつでもどこでも簡単な操作で、かつ安価に消費や利用の可能性が広がることで、むしろ、消費への欲望が刺激されるのではないか。つまるところシェアリングは、持続可能性にではなく消費拡大に加担しているのではないか、と批判的な意見です。(Die teilende Gesellschaft (1), 2016)

生活全体が商業化する危機

シェアリングは過剰な資本主義を終焉させ、資本主義は新たな段階に達しつつある、という一時期広がった考え方に対しても異議申し立てがでてきました。シェアリングは過剰な資本主義を終焉させるどころではなく、むしろ生活全体を徹底的に商業化させるという形で、資本主義社会を徹底化させることになるのではないかという指摘です。

プライベートな生活領域の商業化が進むということは、これまで友人どうしでお金をぬきに行われてきた相互のやりとりや交換が商業的なサービスの対象となっていくというものです。哲学者のハンは、「もはや目的をもたない友情はない。お互いに評価し合う社会では、友情もまた商業化される。よりよい評価を保つためにフレンドリーになる」(Han, 2014)、と挑発的な言葉で、警鐘を鳴らします。

シェアリング・エコノミーを有効に機能させるための思考と実践

このような指摘を聞くと、シェアリング・エコノミーのイメージが、ハインリヒスの調査報告の時と180度違って感じられます。では、シェアリング・エコノミーになにを求めるべきなのでしょうか。あるいは、どんなシステムであることが望ましいのでしょうか。

「シェアリング・エコノミー」という題名のドキュメンタリー番組を作成したヒッセンは、シェアリング・エコノミーの目標について、「シェアリング・エコノミー事業が行われている地域がそれぞれ、地域的にシェアリング・エコノミーの恩恵を受けられる」ということではないか、と言います(Hissen, 2015)。それは、「持続可能という意味でも、社会的という意味でも、また同時に利益や税収という経済的な意味においても」恩恵を受けるということであり、地域全体に還元される経済・社会活動という位置づけでしょう。

ヒッセンのこの指摘は至極真っ当で、将来への指針を示しているように聞こえますが、具体的にはどのようなことでしょう。次に、この点についていくつかヒントになりそうな視点や具体的な動きを取り上げて、考察してみます。

評価機構で信頼を担保する

そもそも、ものをシェアしたり賃借するには、人の好意や善意だけでなく、サービスを提供する側と利用する側がお互いに対して信頼できる基盤があることが前提ですが、信頼を維持するためには、どのようなしくみが必要なのでしょうか。

サービス提供者について、独立した評価機構がそれぞれの団体の運営の仕方や活動内容を評価することは、ひとつの有力なしくみでしょう。さまざまな経済活動で取り入れられているような、個々のサービスを受けた個人が評価するだけではみえてこない、あるいは客観的な評価が難しい部分にも目を向けるためです。ただし、その第三者機関自体の知名度や信憑性が低かったり、あるいは機関はしっかりしていても、評価の審査に多大なコストや時間がかかるとなると、敷居が高くなり、シェアリングのサービスの提供者の増加にはつながりません。

世界最初に「シェアリング・シティー」と自ら名乗った韓国のソウル市では、このような問題を最小限に減らすため、市が率先して、それぞれの組織の目的や活動内容を審査し、望ましいシェアリング・エコノミーの活動をしているとみなされるものだけを認証することで、市民が安心して利用しやすいように努めています。

規模や地域を限定する

お互いを信頼しやすくするシステムをつくるために、利用者をなんらかの形で限定することも有効かもしれません。シェアリングのさまざまな現象について12回に分けて特集したドイツのラジオ番組では、イギリスの人類学者ダンバー Robin Dunbarの説を紹介しています(Die teilende Gesellschaft (10), 2016.)。

ダンバーは、歴史的な村落や世界各地の集落の大きさを調査した結果、世界的に150人程度の規模の集落が多かったことから、人がお互いを認知でき、信頼できるコミュニティーの最大規模は150人程度と考えました。つまり、ひとつのコミュニティーや組織において、これ以下の人数なら特に規則や規制をもうけなくても機能しやすく、それ以上になると、なんらかの規則や規制が必要になる、という目安のラインを150人としました。

多くのシェアリング・エコノミーの中核にあるインターネット上のポータルやバーチャルなコミュニティーにも、一概に150人という人数があてはまるのかはわかりませんが、つながってくる人々の規模や地域などをなんらかの形で限定することで、コミュニケーションが円滑になり、お互いの身勝手な行動を抑制し、最終的に信頼が築きやすくなることは十分考えられるでしょう。

画像3街角

経済的・社会的に公正に機能させるためには

これまで、シェアリング・エコノミーの市場価値を認め、規制に対してはEUでもスイスでも、全般に慎重な姿勢が目立ちました。他方、EUにおいては、営業形態や課税などの詳細な規定や規制は各国に委ねられており、今後は徐々に国や地方自治体レベルで、実際の状況や問題を検証しながら細かなルールができてくると考えられます。目下のところ、ホテル業界やタクシー業界などの分野において、既存の業者との公平な競争のための課税や、サービスの安全確保、また就労者の社会保障の問題が、各地で具体的に議論されており、一部では規制がはじまっています(Rutz, Selbstständig, 2017、穂鷹「民泊ブーム」2016年)。

一方、シェアリング・エコノミー専門家の一人トレメルは、「Airbnbやウーバーを使えば、それがなにを引き起こすことになるかは驚くには当たらない。有機農業を買うか、それともディスカウントの食品を買うかをわたしたちが選択することで、わたしたちが経済に影響を与えているのと同じことだ」 (Tremel, 2017, S.24.)といいます。消費者の一人一人が自覚してなにを選択するかによって、就労状況が悪化する社会にもなれば、そうでない社会にもなる。つまり、問われているのはシェアリング・エコノミーを利用する当人たちの判断であり、シェアリング・エコノミーの未来は、利用するわたしたち自身の肩にかかっているという主張です。

持続可能な社会を目指す一環としてのレンタルショップ

シェアリングがもつ潜在的な拡大消費傾向を批判するヴォルフェルトは、持続可能な消費を実現するために資源やエネルギーの消費を減らしても、生活水準を下げないようにするにはどうすればいいかを問い、ひとつの答えとしてベルリンで「ライラ」というレンタルショップを自ら営んでいます。

「ライラ」は、借りるものに対し対価を支払う通常のレンタルショップとはかなりシステムが違います。今年開店5周年を迎えた店は週に3回夕方、10人前後のボランティアによって営まれています。約900人いると言われる会員は、毎月1から3ユーロの間で、自分が決めた額を支払います。それとは別に会員はおのおの、ほかの人に貸せるものを店に持ち込みます。ひとつ持ち込めば、店のものを最高で3つまで借りられます。

借りられる期間は、その都度店員と話し合って決めますが、ほかの人が借りやすいように、なるべく使い終わったらすぐに返すことを原則としています。会員が支払う会費は、店の賃貸料と運営費にあてられています。店は、貧困層にさまざまな製品を利用できる機会も提供しており、地域的なつながりやお互いのコミュニケーションも活性化にもつながっています 。

店のホームページでは、店の在り方をオープンソースのビジネスモデルと位置づけ、ほかの地域でも同じような店舗が展開されていくことへの協力的な姿勢が示されています。実際、すでに同様の店がドイツ国内に10店舗以上開店しており、開店の動きはイギリスにも広がっているようです。

人間関係を補充するシェアリング

先ほど、ドイツでは社会学者たちの間で、他人に何かをすることが善意ではなくサービスの対象となってしまうことで、人間関係全体が商業主義的になってしまうのではないかという危惧がでていると述べましたが、このことについてはどう対処すべきでしょう。

社会学者たちの指摘を文面通り理解する前に、整理してみたいのですが、商業主義的な関係、つまりサービスのやりとりは、そもそも善意でつながる友人関係の対極にあるものなのでしょうか。歴史を紐解けば、人がしてくれた行為に見合うお礼をするという風習は、貨幣が登場するずっと以前から、そして世界のどこにでもありました。

このことは、貰いっ放しでもあげっぱなしでもなく、なんらかのギブ・アンド・テイクというある種の「商業的」な形が、健全で信頼関係を築くための安定的で有力な手段であったことを示しているといえるでしょう。友人同士の関係がそれより好意や善意の強い関係だと定義したとしても、お互いの間になんらかの効果や報酬を密かに期待することはありえます。

そう考えると、シェアリング・エコノミーの弊害や危険性に注視していくことはもちろん重要ですが、単なる否定論にとどまらず、「商業的」かいかんによらず、相互に信頼や満足できる関係であるかに重心を置き、「商業化する」未来の人間関係の在り方を新しい関係の一部として認めて取り込むシェアリング・エコノミー容認論も、今後大いに展開できる余地があるのではないかと思います。

画像4人間関係

おわりに

ベルリンの新しい形のレンタルショップ「ライラ」や、世界初の「シェアリング・シティー」と自ら宣言して、時代に合ったシェアリング・エコノミーを形作ろうと模索する韓国のソウル市。

二つの動きに共通しているのは、それぞれのコンセプトを専有し特権的な地位に安住しようというのではなく、みずから積極的にアイデアやノウハウを外部と共有しながら、世界的に広げていこうというオープンな態度です。人や世界を信頼するこのような態度こそ、「シェアリング」の核心部分であり、望ましい展開へと後押しする推進力といえるかもしれません。

参考文献およびサイト

ベルリンのレンタルショップ「ライラLeila」のホームページ 

Haberl, Tobias, Teile und herrsche. In: Heft 27/2015, Süddeutsche Zeitung.

Han, Byung-Chul, Neoliberales Herrschaftssystem Warum heute keine Revolution möglich ist, 3. September 2014, 14:27 Uhr.

Heinrichs, Harald; Grunenberg, Heiko, Sharing Economy: Auf dem Weg in eine neue Konsumkultur? Lüneburg 2012. 

Hissen, Jörg-Daniel, Sharing Economy – der Weg in eine neue Konsumkultur?. In: Arte, 30. September 2015.

Höfler, Barbara, Sharing Economy: Teile und herrsche. In; NZZ am Sonntag, 10.4.2016. URL:

穂鷹知美「民泊ブームがもたらす新しい旅行スタイル? 〜スイスのエアビーアンドビーの展開を例に」日本ネット輸出入協会、2016年7月14日

・Rutz, Eveline, Selbstsätndig oder angestellt?. In: Impact, Nr.38, September 2017, S.34-35.

「共有都市(Sharing City)・ソウル」プロジェクト、SEOUL Seoul Metroplitan Government2017年1月2日

・Scharing Economiy. In: Impact, Nr.38, September 2017, Dossier 38/17, S.24-50.

Die teilende Gesellschaft. 12-teilige Reihe. In: SWR2 Radioakademie, SWR2 Wissen, ab 7. Mai, jeweils samstags ab 8.30 Uhr.

・Tremel, Luise, „Die Welt wird immer käuflicher“. In: Migros Magazin, 4, 23.1.2017, S.22.-6.

プロフィール

穂鷹知美異文化間コミュニケーション

ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥーア市 Winterthur 在住。地域ボランティアとメディア分析をしながら、ヨーロッパ(特にドイツ語圏)をスイスで定点観測中。日本ネット輸出入協会海外コラムニスト。主著『都市と緑:近代ドイツの緑化文化』(2004年、山川出版社)、「ヨーロッパにおけるシェアリングエコノミーのこれまでの展開と今後の展望」『季刊 個人金融』2020年夏号、「「密」回避を目的とするヨーロッパ都市での暫定的なシェアード・ストリートの設定」(ソトノバ sotonoba.place、2020年8月)
メールアドレス: hotaka (at) alpstein.at

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