シェアリング・エコノミーと社会――就労、生活、人間関係、そして持続可能性

シェアリング・エコノミーを有効に機能させるための思考と実践

 

このような指摘を聞くと、シェアリング・エコノミーのイメージが、ハインリヒスの調査報告の時と180度違って感じられます。では、シェアリング・エコノミーになにを求めるべきなのでしょうか。あるいは、どんなシステムであることが望ましいのでしょうか。

 

「シェアリング・エコノミー」という題名のドキュメンタリー番組を作成したヒッセンは、シェアリング・エコノミーの目標について、「シェアリング・エコノミー事業が行われている地域がそれぞれ、地域的にシェアリング・エコノミーの恩恵を受けられる」ということではないか、と言います(Hissen, 2015)。それは、「持続可能という意味でも、社会的という意味でも、また同時に利益や税収という経済的な意味においても」恩恵を受けるということであり、地域全体に還元される経済・社会活動という位置づけでしょう。

 

ヒッセンのこの指摘は至極真っ当で、将来への指針を示しているように聞こえますが、具体的にはどのようなことでしょう。次に、この点についていくつかヒントになりそうな視点や具体的な動きを取り上げて、考察してみます。

 

 

評価機構で信頼を担保する

 

そもそも、ものをシェアしたり賃借するには、人の好意や善意だけでなく、サービスを提供する側と利用する側がお互いに対して信頼できる基盤があることが前提ですが、信頼を維持するためには、どのようなしくみが必要なのでしょうか。

 

サービス提供者について、独立した評価機構がそれぞれの団体の運営の仕方や活動内容を評価することは、ひとつの有力なしくみでしょう。さまざまな経済活動で取り入れられているような、個々のサービスを受けた個人が評価するだけではみえてこない、あるいは客観的な評価が難しい部分にも目を向けるためです。ただし、その第三者機関自体の知名度や信憑性が低かったり、あるいは機関はしっかりしていても、評価の審査に多大なコストや時間がかかるとなると、敷居が高くなり、シェアリングのサービスの提供者の増加にはつながりません。

 

世界最初に「シェアリング・シティー」と自ら名乗った韓国のソウル市では、このような問題を最小限に減らすため、市が率先して、それぞれの組織の目的や活動内容を審査し、望ましいシェアリング・エコノミーの活動をしているとみなされるものだけを認証することで、市民が安心して利用しやすいように努めています。

 

 

規模や地域を限定する

 

お互いを信頼しやすくするシステムをつくるために、利用者をなんらかの形で限定することも有効かもしれません。シェアリングのさまざまな現象について12回に分けて特集したドイツのラジオ番組では、イギリスの人類学者ダンバー Robin Dunbarの説を紹介しています(Die teilende Gesellschaft (10), 2016.)。

 

ダンバーは、歴史的な村落や世界各地の集落の大きさを調査した結果、世界的に150人程度の規模の集落が多かったことから、人がお互いを認知でき、信頼できるコミュニティーの最大規模は150人程度と考えました。つまり、ひとつのコミュニティーや組織において、これ以下の人数なら特に規則や規制をもうけなくても機能しやすく、それ以上になると、なんらかの規則や規制が必要になる、という目安のラインを150人としました。

 

多くのシェアリング・エコノミーの中核にあるインターネット上のポータルやバーチャルなコミュニティーにも、一概に150人という人数があてはまるのかはわかりませんが、つながってくる人々の規模や地域などをなんらかの形で限定することで、コミュニケーションが円滑になり、お互いの身勝手な行動を抑制し、最終的に信頼が築きやすくなることは十分考えられるでしょう。

 

 

画像3街角

 

 

経済的・社会的に公正に機能させるためには

 

これまで、シェアリング・エコノミーの市場価値を認め、規制に対してはEUでもスイスでも、全般に慎重な姿勢が目立ちました。他方、EUにおいては、営業形態や課税などの詳細な規定や規制は各国に委ねられており、今後は徐々に国や地方自治体レベルで、実際の状況や問題を検証しながら細かなルールができてくると考えられます。目下のところ、ホテル業界やタクシー業界などの分野において、既存の業者との公平な競争のための課税や、サービスの安全確保、また就労者の社会保障の問題が、各地で具体的に議論されており、一部では規制がはじまっています(Rutz, Selbstständig, 2017、穂鷹「民泊ブーム」2016年)。

 

一方、シェアリング・エコノミー専門家の一人トレメルは、「Airbnbやウーバーを使えば、それがなにを引き起こすことになるかは驚くには当たらない。有機農業を買うか、それともディスカウントの食品を買うかをわたしたちが選択することで、わたしたちが経済に影響を与えているのと同じことだ」 (Tremel, 2017, S.24.)といいます。消費者の一人一人が自覚してなにを選択するかによって、就労状況が悪化する社会にもなれば、そうでない社会にもなる。つまり、問われているのはシェアリング・エコノミーを利用する当人たちの判断であり、シェアリング・エコノミーの未来は、利用するわたしたち自身の肩にかかっているという主張です。

 

 

持続可能な社会を目指す一環としてのレンタルショップ

 

シェアリングがもつ潜在的な拡大消費傾向を批判するヴォルフェルトは、持続可能な消費を実現するために資源やエネルギーの消費を減らしても、生活水準を下げないようにするにはどうすればいいかを問い、ひとつの答えとしてベルリンで「ライラ」というレンタルショップを自ら営んでいます。

 

「ライラ」は、借りるものに対し対価を支払う通常のレンタルショップとはかなりシステムが違います。今年開店5周年を迎えた店は週に3回夕方、10人前後のボランティアによって営まれています。約900人いると言われる会員は、毎月1から3ユーロの間で、自分が決めた額を支払います。それとは別に会員はおのおの、ほかの人に貸せるものを店に持ち込みます。ひとつ持ち込めば、店のものを最高で3つまで借りられます。

 

借りられる期間は、その都度店員と話し合って決めますが、ほかの人が借りやすいように、なるべく使い終わったらすぐに返すことを原則としています。会員が支払う会費は、店の賃貸料と運営費にあてられています。店は、貧困層にさまざまな製品を利用できる機会も提供しており、地域的なつながりやお互いのコミュニケーションも活性化にもつながっています 。

 

店のホームページでは、店の在り方をオープンソースのビジネスモデルと位置づけ、ほかの地域でも同じような店舗が展開されていくことへの協力的な姿勢が示されています。実際、すでに同様の店がドイツ国内に10店舗以上開店しており、開店の動きはイギリスにも広がっているようです。

 

 

人間関係を補充するシェアリング

 

先ほど、ドイツでは社会学者たちの間で、他人に何かをすることが善意ではなくサービスの対象となってしまうことで、人間関係全体が商業主義的になってしまうのではないかという危惧がでていると述べましたが、このことについてはどう対処すべきでしょう。

 

社会学者たちの指摘を文面通り理解する前に、整理してみたいのですが、商業主義的な関係、つまりサービスのやりとりは、そもそも善意でつながる友人関係の対極にあるものなのでしょうか。歴史を紐解けば、人がしてくれた行為に見合うお礼をするという風習は、貨幣が登場するずっと以前から、そして世界のどこにでもありました。

 

このことは、貰いっ放しでもあげっぱなしでもなく、なんらかのギブ・アンド・テイクというある種の「商業的」な形が、健全で信頼関係を築くための安定的で有力な手段であったことを示しているといえるでしょう。友人同士の関係がそれより好意や善意の強い関係だと定義したとしても、お互いの間になんらかの効果や報酬を密かに期待することはありえます。

 

そう考えると、シェアリング・エコノミーの弊害や危険性に注視していくことはもちろん重要ですが、単なる否定論にとどまらず、「商業的」かいかんによらず、相互に信頼や満足できる関係であるかに重心を置き、「商業化する」未来の人間関係の在り方を新しい関係の一部として認めて取り込むシェアリング・エコノミー容認論も、今後大いに展開できる余地があるのではないかと思います。

 

 

画像4人間関係

 

 

おわりに

 

ベルリンの新しい形のレンタルショップ「ライラ」や、世界初の「シェアリング・シティー」と自ら宣言して、時代に合ったシェアリング・エコノミーを形作ろうと模索する韓国のソウル市。

 

二つの動きに共通しているのは、それぞれのコンセプトを専有し特権的な地位に安住しようというのではなく、みずから積極的にアイデアやノウハウを外部と共有しながら、世界的に広げていこうというオープンな態度です。人や世界を信頼するこのような態度こそ、「シェアリング」の核心部分であり、望ましい展開へと後押しする推進力といえるかもしれません。

 

参考文献およびサイト

 

ベルリンのレンタルショップ「ライラLeila」のホームページ 

Haberl, Tobias, Teile und herrsche. In: Heft 27/2015, Süddeutsche Zeitung.

Han, Byung-Chul, Neoliberales Herrschaftssystem Warum heute keine Revolution möglich ist, 3. September 2014, 14:27 Uhr.

Heinrichs, Harald; Grunenberg, Heiko, Sharing Economy: Auf dem Weg in eine neue Konsumkultur? Lüneburg 2012. 

Hissen, Jörg-Daniel, Sharing Economy – der Weg in eine neue Konsumkultur?. In: Arte, 30. September 2015.

Höfler, Barbara, Sharing Economy: Teile und herrsche. In; NZZ am Sonntag, 10.4.2016. URL:

穂鷹知美「民泊ブームがもたらす新しい旅行スタイル? 〜スイスのエアビーアンドビーの展開を例に」日本ネット輸出入協会、2016年7月14日

・Rutz, Eveline, Selbstsätndig oder angestellt?. In: Impact, Nr.38, September 2017, S.34-35.

「共有都市(Sharing City)・ソウル」プロジェクト、SEOUL Seoul Metroplitan Government2017年1月2日

・Scharing Economiy. In: Impact, Nr.38, September 2017, Dossier 38/17, S.24-50.

Die teilende Gesellschaft. 12-teilige Reihe. In: SWR2 Radioakademie, SWR2 Wissen, ab 7. Mai, jeweils samstags ab 8.30 Uhr.

・Tremel, Luise, „Die Welt wird immer käuflicher“. In: Migros Magazin, 4, 23.1.2017, S.22.-6.

 

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