職業教育とインテグレーション――スイスとスウェーデンにおける移民の就労環境の比較

スウェーデンのインテグレーション政策

 

次にスウェーデンのインテグレーションの現状についてみてみましょう。

 

スウェーデンでは、現在、外国出身者が全住民の16%を占めています。移民や難民の受け入れが増えていくのに伴い、1970年代からインテグレーション(社会への統合)政策が進められるようになりました。1995年からは、ほかのヨーロッパ諸国に比べ、非常に手厚い移民や難民のための支援プログラムが導入されています。近年、住民一人当たりに換算すると、ほかのEU 諸国よりも多くの割合で難民を受け入れていますが、これらの難民はすべて、職業訓練と実習を組み込んだ2年間の支援プログラムを受けることができ、就労も早くから認められています。

 

早期の段階に語学や就労の支援を行うことが、移住者の社会へのインテグレーションを成功させるという通説からすれば、スウェーデンのインテグレーションがほかのヨーロッパ諸国よりも格段に進んでるはずですが、移民による暴動や就労状況をみると、現状は少し違ってみえます。

 

 

居住空間の分化

 

インテグレーションの問題を端的に示すものとしてよく指摘されるのが、移民の起こす暴動と、暴動が起きる居住環境の問題です。2016年の1月から8月の8ヶ月だけでも、スウェーデンでは全国で2000台以上の車が放火されましたが、それらの暴動のほとんどが、大都市近郊の移民たちが密集する居住地区で起きています。

 

これらの郊外居住区はもともと、1960年代以降にスウェーデンの中間層向けに開発されてきた地区ですが、時代が下るにつれスウェーデン人が去り、代わって外国出身者が集住するようになっていきました。スウェーデンの南部の国内3番目の大都市マルメ近郊に、集合住宅の並ぶ地区ローセンゴードがあり、暴動のためたびたびニュースで報道されますが、ここも典型的な郊外居住区で、地区の外国人の割合は現在90%以上にのぼっています。

 

スウェーデンに限らず、フランスやベルギーでも、大都市近郊に外国からの移住者が密集する場所ができ、同様に暴動が恒常化するいわゆる「ノー・ゴー・エアNo Go Area」が形成されています。このような地域では外部との交流が少なく、仕事の機会も減ります。交流や就労機会が少ないことで、語学習得の遅れや長期の失業などの悪循環をさらに招いていきます。この結果、 様々な不満が、暴動などの暴力的な形で現れているといえます。

 

 

シノドス画像3

 

 

スウェーデンの移民の就労

 

移住者たちの労働市場におけるインテグレーションも大きな問題です。政府の移民調査委員会(Delmi)によると、1997年から99年にスウェーデンに移住してきた人々のうち、2年後に就労したのは30%で、10年後にも65%にとどまります。支援プログラムを受講した後1年後に就業した人の割合も低く、男性で28%、女性では19%です。

 

就労が難しい理由はいくつか指摘されています。まず労働市場に参入しようにも、スウェーデンでは移民や難民がすぐに就業できるような雇用先がきわめて少ないことです。高度な技術産業大国であるスウェーデンの労働市場では、単純労働者の参入できる市場は労働市場全体の5%にすぎず、大方の就労には高度な専門的スキルとスウェーデン語の語学力が不可欠とされます。

 

また、移民に対し語学研修に並行して職業支援プログラムが用意されているとはいえ、ドイツ語圏にあるような労働市場に直結した職業訓練課程はありません。スウェーデンで教育といえば、イギリスやフランス、南欧などヨーロッパの多くの国と同様に、生徒全員を対象にした学力全般の向上を重視したプログラムが特徴です。

 

進学校のエリートを対象にした職業訓練制度を導入している例はいくつかありますが、逆にいえば、進学校にいける成績がなくては、職業訓練の恩恵にもあずかれないということになります。結論として、高度な専門的なスキルと語学力の欠如というないないづくしのダブルパンチで、外国人たちにとっては労働市場への参入が難しい状況になっています。

 

外国人の就労の難しさは、今にはじまったことではなく、長く蓄積されてきた問題です。スウェーデンの南に位置する都市マルメでは、1980年代の産業界の不況で失業率がいっきに高くなりましたが、当時から移民とスウェーデン人の間で就労の機会には大きな差がありました。スウェーデン人は5%にとどまっていたのに対し、外国出身者の失業率は20%以上でした。

 

その後も労働市場に統合されず、外国人の間では生活保護などの公的扶助を受ける生活が、親から子どもに継承されるケースが増加しています 。移民の就労問題は、居住地のゲットー化や暴動のように、センセーショナルな形で社会で表面化することこそ少ないですが、先延ばしにすればするほど調整や解決が難しく、場合によっては何世代にもわたる長期的な影響を及ぼす問題であるといえます。

 

一方、国全体のスケールでみると、スウェーデンは経済成長率4%と、ヨーロッパ諸国のなかでは高い経済成長率を維持しており、国民の大半はその恩恵を多かれ少なかれ受けています。それゆえ、余計、多くの国民にとって、労働市場に統合されず社会からも疎外された人々や郊外の出来事は、自分に関係ない人や遠くの出来事のように感じられ、無視される傾向が強く、事態の収束にはなかなかつながりませんでした。それどころか、近年は、移民の暴動が国内の極右勢力を刺激しており、外国人への反発が今後も強まることも予想され、予断を許さない状況です。

 

 

教育システムと就労システムの間のつながり

 

スイスとスウェーデンの現状の比較では、特有の職業教育システムを持つスイスのほうが、移民の就労が容易であることがわかりました。とはいえ、インテグレーションは数世代をかけて、社会の様々な要素が絡み合って続いていく長期プロジェクトです。短期的な即効性や一元的なものさしでは計りにくい、長期的なメリットや効果にも目を配ることが必要です。こうした観点から、最後にスイスとスウェーデンの比較をしてみましょう。

 

スイスでは、スウェーデンに比べ仕事をみつけやすくても、移住者たちの職業は収入が低い職業に集中しています。低賃金(平均給料の3分の2以下)の職に就く人の割合は、スイスの全就労者の約13%ですが、移民たちだけに限ると、低賃金の仕事についている人の割合はその約1.5 倍で、4人に1人です。外国出身の生徒が進む職業訓練課程にもその傾向が強く、建設業界や車整備士、販売部門、配管工などが多くなっています。

 

ただしスイスでも2000年代以降、職業訓練課程を終えたあとのステップアップや進路変更がしやすいように教育制度が大きく改革されてきており、就業しながらのキャリアアップが「職業訓練は最初の職業教育段階であって、最後ではない」をキーワードに、国をあげて奨励されています。このため、移住者の就業職種や賃金の停滞傾向が、今後変化する可能性も考えられます。

 

 

シノドス画像4

 

 

一方、スウェーデンでは、仕事がみつかりにくく、移民のなかで低収入の仕事につく人の割合がスイスと同様に高いものの、一度資格をとると、外国出身でも当事国のほかの住人とほとんど変わらない地位や収入を得ています。また、移民の第二世代(スウェーデンで生まれた移民の子どもたち)の大学進学率は現在4割近くと、スウェーデン人の進学率(45%)に近い割合に達しており、一世代を経たあとのインテグレーションは、ほかのヨーロッパ諸国よりも大きな進展をとげていると考えられます。

 

これは、スウェーデンの社会はほかのヨーロッパ諸国と比べても外国出身の人を同等と認めるリベラスでマルチカルチャーの社会であり、仕事の世界でも外国出身や同等とみなす姿勢が強いためだと言われています (Herwig,2017,S.200, 201)。

 

国によって教育システムや就労環境が大きく異なるため 、受け入れ国の教育システムが移民の就労状況にどのくらい影響するかを一般化して語ることは難しいですが、西欧の18カ国を対象にしたヘルヴィックの研究では、示唆に富む二つのパターンが提示されています(Herwig,2017,S.11-12.)。

 

・国の教育システムと就労システムの間のつながりが強い場合

教育システムのなかで、特定の職業に必要な能力を重点的に身につけることができるため、就労は比較的容易となる。しかし、それは特殊な能力の取得であるため、職業を変えることは難しくなる。

 

・国の教育システムと就労システムの間のつながりが弱い場合

全生徒が共通の学習をし、職業に直接必要な実業の習得は限定される。この結果、教育課程修了後の就労は難しい。

 

最初のパターンがスイス、後者がスウェーデンのパターンにあてはまると思いますが、スイスの職業教育はその特有性ゆえの問題や限界もあり、少し視点をずらすと、スウェーデンの教育システムが有利となる点もある、ということになると思います。

 

 

おわりに

 

現在、スイスでもっとも多く読者の多い日刊誌であるフリーペーパー『20分(20 Minute)』で、以下のような記事が昨年でました。(以下、内容の抜粋です。)

 

アルバニア対スイスのサッカーの国際試合が開催され、スイス側が勝利に終わったあとの夜、チューリッヒの街頭では一切不穏な動きはみられず、あったのはファンたちの平和なお祭りさわぎだけだった。大勢のアルバニア人が難民としてスイスに渡ってきた2000年ごろは、社会や学校になじめず、暴力沙汰になるケースがたびたびあったり、主要な移民たちの出身国とスイスとのサッカーの試合で緊張が走ることもあった。しかしスイスには資格のない外国人にも十分な就労先があったため、スイスのアルバニア人の境遇や心境は大きく改善された。平和なお祭りさわぎの夜は、なにより、「アルバニア人のインテグレーションは成功した」(記事の見出し)ことを物語っている(Pomper, 2016)。

 

この記事では、暴動や事件がなにも起こらなかった夜、という一見新聞の記事に値しないようなことのなかに、スイスのインテグレーションの進展を見いだしています。現在、ヨーロッパの移住者を取り巻く状況は様々な言説に振り回され、不安定で先が見えにくい状況です。しかし、そのような時こそこの記事のように、現在うまくいっていない部分に執着したり、疑心暗鬼になるのではなく、 プラスの実績や成果の方に目を向けて、楽観的なビジョンを失わないようにすべきなのかもしれません。

 

 

主要参考文献およびサイト

 

・Beglinger, Martin, Lob der Mehrheitsgesellschaft. In: NZZ, Kommentar, 26.1.2016.

https://www.nzz.ch/meinung/kommentare/lob-der-mehrheitsgesellschaft-ld.4515

・Bundesministerium für Bildung und Forschung, Berunfsbildungsbericht, 2016.

https://www.bmbf.de/pub/Berufsbildungsbericht_2016.pdf

・Euler, Dieter, Das duale System in Deutschland – Vorbild für einen Transfer ins Ausland? Eine Studie im Auftrag der Bertelsmann Stiftung, Güterslohn 2013.

http://www.ub.unibas.ch/digi/a125/sachdok/2014/BAU_1_6258769.pdf

・Gonon, P., Ist das duale Berufsbildungssystem ein Zukunftsmodell?, 2011 (Originally published at: Gonon, P (2011). Ist das duale Berufsbildungssystem ein Zukunftsmodell? In: Künzli, R; Maag Merki, K. Zukunft Bildung Schweiz : Akten der Fachtagung vom 21. April 2010. Bern: Akademien der Wissenschaften Schweiz, S.109-118)

http://www.zora.uzh.ch/id/eprint/50108/1/Gonon-Ist_das_duale_Berufsbildungssystem_ein_Zukunftsmodell.pdf

・Herwig, Andreas, Arbeitsmarktchancen von Migranten in Europa: Analysen zur Bedeutung von Bildungsherkunft und Bildungssystemen, Wiesbaden 2017.

・穂鷹知美「ヨーロッパにおける難民のインテグレーション 〜ドイツ語圏を例に」一般社団法人日本ネット輸出入協会、2016年4月14日

http://jneia.org/locale/switzerland/160414.html

・OECD/EU-Studie: Zuwanderer in der Schweiz gut integriert, Paris/Berlin, 2.7.2015.

http://www.oecd.org/berlin/presse/zuwanderer-in-der-schweiz-gut-integriert.htm

・OECD EU, Indicators of Immigrant Integration 2015

http://www.oecd.org/berlin/publikationen/indicators-of-immigrant-integration-2015-settling-in.htm

・OECD Working Together: Skills and Labour Market Integration of Immigrants and their Children in Sweden, OECD Publishing Paris 2016.

http://dx.doi.org/10.1787/9789264257382-en

・Parusel, Bernd, Das Asylsystem Schwedens, Gütersloh 2016.

https://www.bertelsmann-stiftung.de/fileadmin/files/Projekte/28_Einwanderung_und_Vielfalt/IB_Studie_Asylverfahren_Schweden_Parusel_2016.pdf

・Parusel, Bernd, Integrationspolitik in Schweden. In: Analysen & Argumente. Perspektiven der Integrationspolitik, Ausgabe 217, Sept. 2016.

http://www.kas.de/wf/doc/kas_46293-544-1-30.pdf?160907131114

・Schweizerische Konferenz der kantonalen Erziehungsdirektoren (EDK)(hg.), Ausbildung und Integration von fremdsprachigen Jugendlichen auf der Sekundarstufe II, Expertenbericht, Bern 2000.

https://edudoc.ch/record/17372/files/D59A.pdf

・Zihler, Angela,  Integration von Migrantinnen und Migranten in die Berufsbildung. In:Pressedienst Travail.Suisse – Nr. 11 – 24. August 2009 – Bildung.

・渡辺博明『スウェーデンの移民暴動に関する報道をどう見るべきか』「シノドス」2013年7月4日

http://synodos.jp/international/4585

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

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